『ズッコケ中年三人組age43』~法教育素材の紹介3
ポプラ社の児童文学「ズッコケ三人組」シリーズは、1978年の第1作発表から2004年の完結に至るまで多くの少年少女ファンの心を掴んだ作品です。
「ズッコケ中年三人組」はその続編といえるシリーズで、2005年から毎年1巻ずつ現在も発表されています。花山第二小学校の同級生だった三人が、40歳になったところから毎年一つずつ歳をとっていく設定で、小学校時代に「ズッコケ三人組」シリーズに親しんだ方もそうでない方も楽しく読める読み物です。
『ズッコケ中年三人組age43』
那須正幹著 ポプラ社(2008年)
登場人物
2008年に発行されたこの巻の帯によれば、「あのハチベエが裁判員に選出された!!国民の義務?裁判員になっても困らないために」とありますように、2009年から実施された裁判員制度について、作品を楽しむうちに自然に学習ができるよう考えられています。
まず登場するのは「ハカセ」という43歳の中学校社会科教師。三人組の一人で、いまだ独身なのは子ども時代から女性と付き合うことが苦手だからです。ハカセの住むアパートの近所で起きた殺人事件が、裁判員裁判で扱われることになります。
次は「モーちゃん」で、妻と中学生の娘、老母の4人家族です。のんびり、おっとりした性格の優しいお父さんで、室内装飾の小さな会社に勤めています。
三人目が「ハチベエ」で、コンビニの店主をしており、小学校の同級生だった妻と高校生の男の子2人の4人家族です。小学校時代は体育だけが得意だった、元気なおっちょこちょいのようです。彼がその殺人事件の裁判の裁判員に選ばれたことから、三人組および同級生の女性達がいろいろ頭を悩ませます。
推理小説のような展開
裁判の話のどこが面白いのと思われるかもしれませんが、ちゃんと仕掛けがしてあります。冒頭は殺人事件の遺体発見というところから始まります。続いて主要な登場人物がお目見えし、裁判員裁判にかけられることになった容疑者が犯行を否認していることから、有罪か無罪かが争点になります。ところがまだ裁判が始まる前に、ハカセは同級生であるスナックのママから、容疑者の犯行を疑問に思わせるような話を聞いてしまうのです(76ページ参照)。読み手は、「もし容疑者が犯人でないなら、真犯人はいったい誰だろう?」と知りたくなります。
そのため、いよいよ裁判が始まると、次々と登場する証人や証拠の説明を注意深く読み取って、無意識のうちにも犯人を割り出そうとしてしまいます。でも作者はなかなか決定的な証拠を出してくれません。気を抜けないまま読み進むうちに、最後まで行き着けるという仕組みです。シャーロック・ホームズが読めるぐらいの歳になれば、小学生でも楽しめる展開ではないでしょうか。
はたしてハカセに彼女はできるのか?
犯人探しだけでは物足りないという読者もおられるかと思います。そういう方には、ハカセの微妙な女性関係が興味深いところではないでしょうか。8ページでは既に意味ありげな同級生のマドンナが登場。この二人はこの巻の終わりまでに進展するのかしらと。
あとがきから
作者はあとがきで、「我われは、いつなんどき裁判所から呼び出され、裁判員の一人として重大刑事事件の裁判に立ちあわなくてはならなくなる」と書いています。「裁判所から通知を受けてあわてることのないよう、本書でも読んで、いざというときに備えていただければ幸いである。」という言葉に、作者の意図が言い尽くされています。「ただ、なにぶん門外漢のため、現実とかけはなれた設定や法律用語の誤記などがあるかも知れない」という懸念も記されていますが、それがわかるぐらい読者が法律等に詳しいなら、素晴らしいことでしょう。
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