千葉市立緑町中学校 弁護士会出張授業「野良猫のえさやり」
2010年11月5日(金)13:30~15:20、千葉市立緑町中学校で千葉県弁護士会法教育委員会による出張授業が2年生4クラス同時に行われました。授業は「野良猫のえさやり」についてのルールづくりです。
千葉市立緑町中学校プロフィール
1947年度(昭和22年)、千葉市立第五中学校として開校。
1951年度、千葉市立緑町中学校と改称。
2009年度、電子黒板活用モデル校指定。
2010年度、千葉市教育委員会研究指定校。
千葉市の中央部に位置し、京成みどり台駅から新千葉駅沿線に細長い学区です。周辺には、千葉大学をはじめ高校や私立大学・研究機関など多くの研究機関があります。大部分は閑静な住宅街ですが、JR西千葉駅付近を中心に高層マンションなどが建設され、社会変化が生じています。
学級数・生徒数 (平成22年度 学校要覧より)
学級 | 男 | 女 | 計 | |
1年 | 3 | 61 | 46 | 107 |
2年 | 4 | 67 | 50 | 117 |
3年 | 3 | 55 | 54 | 109 |
小計 | 10 | 183 | 150 | 333 |
相談* | 7 | 6 | 13 | |
合計 | 190 | 156 | 346 |
(*相談=教育相談指導教室)
学校と弁護士会の関わり
昨年度の本校PTAの副会長が千葉県弁護士会の方でした。そのご縁で、PTA行事として行っている「地域交流会」として、昨年度は法教育「サーキットがやってきた」を実施しました。土曜日の午後に体育館を使って、希望生徒26名と地域の方の参加をいただき、大変に有意義な会でした。そこで、本年度はもっと多くの生徒に体験してもらいたいと考え、平日の授業(総合的な学習の時間)を使って、第2学年全員を学級単位で実施していただいた次第です。
今後は、もし可能でしたら3年生の公民の授業として模擬裁判をお願いしたいと思っていますが、今のところ弁護士会のご厚意だけで行っていただいている状況です。
(教頭のお話より)
授業
11月5日 第5・6校時
2年B組 29名(男子17名、女子12名)
教科:総合的な学習の時間 授業者:担任教諭、千葉県弁護士会弁護士3名
〈導入〉
弁護士:「今日は法の考え方を皆さんに身につけてほしいと思い、ここに来ました。法律は身近にあるものです。いろいろな考え方の人が一緒に、自由に豊かに暮らすにはどうしたらいいか考えると、一定の秩序のためにルールが必要になります。今日は、地域社会の中で野良猫にえさをやることについて考えてもらいます。5つの立場を設けましたので、役の設定を読んで、役になりきって、どうしたらいいか皆で話し合ってルールを考えてください。」
5つの役 | Aさん:毎日野良猫にえさをやる人 |
Bさん:自宅で猫を飼っている人 | |
Cさん:近所で小鳥を飼っている人 | |
Dさん:近所で家庭菜園をしている人 | |
Eさん:自治会長 |
弁護士:「家で猫を飼っている人はいますか?」→生徒、1人挙手。
弁護士:「昔、飼っていたという人は?」→生徒、3人挙手。
弁護士:「5人一班になってもらいます。全部で29名なので、1つだけ4名の班は、C・D役を一人でしてください。班の中で役を決めてもらいますが、希望がなければ役割の紙をくじ引きのように引いて決めてもいいです。討論したら自治会長が取りまとめ、ワークシートにルールを書いて発表してください。途中で、役割ごとに集まって作戦会議をします。弁護士が廻りますから、聞きたいことがあったら聞いてください。」
先生:「ではいつもの班で。班長が自治会長をしてください。」
机、移動。弁護士が役割の紙・地図1枚・ワークシート「班で決めたルール」を配布。
〈役の設定のあらまし〉
A:20年前からここに住んでいますが、10年前に交通事故に遭い、障害者になりました。障害者年金で一人暮らしをし、近所づきあいもありません。借家で猫を飼うことができず、家に来る5匹ほどの野良猫にえさをやるのが唯一の心の慰めです。
B:5年前からここに住んでいます。猫を3匹飼っていますが、全て去勢してあり、外にも出しません。
C:5年前からここに住んでいます。小鳥を飼っていますが、少し前に鳥かごを外に出していたらピーちゃんを殺されてしまいました。たぶん、猫のしわざだと思います。ゴミ捨て場の掃除が当番で2か月に1回ぐらいまわってきますが、そのときもごみが荒らされています。
D:15年前からここに住んでいます。家庭菜園をしていますが、猫に土を掘られたり、糞尿をされたりして困っています。においも嫌です。
E:60年以上ここに住んでいます。近年、都心から来た人が増え、近所の会話が少なくなったと感じています。自治会では年1,200円の会費で、お祭りなどを運営しています。知り合いには、去勢手術は通常2万円しますが、自治会が地域ネコ対策をする場合は5千円で行なってくれる獣医さんがいます。自治会費を少し値上げして、対策をしてもいいと考えています。
〈ある班の話し合いの様子〉
自治会長:「まず、自分はどうしたいか言ってください。」
A:「野良猫にえさをやり続けたいです。障害があって他に楽しみもなく、癒されたいので。」
B:「猫の被害の問題は理解できますが、Aさんに賛成です。」
C:「野良猫にえさをやるのは反対です。小鳥が殺されてしまったので。」
D:「庭の土は掘り返されるし、猫の発情期にはすごい鳴き声と尿のにおいで迷惑しています。」
自治会長:「このあと、どうするの?」
弁護士:「みんなで納得できるルールをつくってください。もしルールを破ったら、守れるようにするにはどうしたらいいかも考えていいですよ。今から15分ぐらい話し合えます。」
B:「菜園をネットで囲んだらどう?」
自治会長:「においは避妊手術をすればなくなると紙に書いてあります。自治会費を値上げして、対策をしたらいいのではないですか?」
A:「障害者年金は少ないよ。」
他の班では、自治会長が「Aさんは近所づきあいをつくればいい。野良猫を飼うといい。」と言うのに対し、「野良猫はえさをやってもなつかず、飼い猫にならないって紙に書いてある。去勢手術をすれば、野良猫はだんだん減る。」という意見が出ます。自治会長が「減るまではどうするの?」と突っ込むと、「待てばいい。自然が一番。」という答えでした。
また他の班は、「ゴミ捨て場にはネットをつければいい。手術もしよう。」ということになり、仮に10万円の費用なら、50世帯で分担するとして計算をしていました。自治会長が年金生活者への配慮を尋ねると、「その人だけ除こう。その分を、自治会費値上げ分に上乗せする。」という案が出ていました。
〈休憩後、役割毎の話し合い〉
自治会長役の話し合いは、3班から「BさんがAさんの家に猫を連れて遊びに行けばいい。首輪をつけて。」という意見が出て、他の自治会長達が「すごい(名案)!」と感心していました。さらに3班は、「えさはやらない。ゴミはカラスかもしれないから、ネットをかける。野良猫には去勢手術をする。」という意見でした。他の班からは、「ゴミ捨て場は箱型にする。」「菜園のネット張りは自腹で、小鳥は自衛する。糞尿は当番制で掃除をし、Aさんへのケアも当番制にする。」などの意見が出ていました。「猫にえさをやらなくなったら、よそへ逃げていかないか?」と聞いている人もいました。
Aさん役グループは、話し合いが沈滞気味です。「難しくない?」という声が聞かれました。10分ほどでみんな元の班に戻り、いよいよルールの仕上げの話し合いです。約15分かけて、できたルールをワークシートにペンで書きます。
〈障害者を思いやるルールに〉
ルールの発表は、ワークシートを電子黒板に映し出しながら行なわれました。猫の避妊手術については、全ての班で「行う」というルールになりました。
1班:「えさは1日1回、Aさんがやる。公園に猫パークを作る。野良猫にリードをつけて、飼い猫にする。」→みんな、最後のルールを聞くと、ざわめきました。
弁護士:「誰がリードをつけるの?」
1班:答えがありませんでした。
2班:「自治会費を2千円に値上げして、菜園を覆うネットやゴミボックスに使う。余ったらお金は各戸に還元する。」(えさやりはどうするか、特にルールに示されていません。)
弁護士:「小鳥はどうしますか?」
2班:「忘れてました。」
3班:「えさはあげない。ゴミ捨て場にはネットを張り、糞は掃除当番を決める。自治会費を値上げして、手術をする。猫嫌いの人は、各自対応する。BさんがAさんの家に猫を連れて遊びにいく。」
4班:「猫にえさをやるのは公園のみで、他の場所では罰則を設ける。猫嫌いの人は、各自対応する。」
口々に:「Aさんは?」
5班:「えさは与えない。BさんがAさんの家に猫を連れて遊びにいく。自治会費値上げで手術をするための計算も示す。小鳥は2階で飼い、菜園のネットは自腹で設置する。ルールを改善するときは直近の自治会で話し合う。」
弁護士:「なぜルール改正は話し合いで?」
5班:「罰金はよくないと思ったからです。」
6班:「えさは与えない。猫嫌いの人は各自対応する。BさんはAさんの家に猫を連れて遊びにいく。Dさんは菜園の野菜をAさんに届けたりする。自治会費を値上げして手術代金やゴミ捨て場のネット代に当てるが、元気な人は負担を大きく、年金生活者はネット代のみにする。」
弁護士:「皆さん、時間内にルールができてよかったです。住民の権利がフォローできていました。AさんからEさんまでが話し合って、みんなでルールを決められたのが民主主義ということです。自治会内のルールを5人だけで決めていいのか、ということはありますが、今日は自分と相手の意見の、どのあたりを取り入れればいいかを考えるということが重要でした。」
〈弁護士への質問タイム〉
弁護士:「最後に、何でも聞きたいことを質問してください。」
生徒:「弁護士は罪に問われている人を弁護しないといけませんが、何か感じるものはありますか?」
弁護士:「罪を犯した人には、その人なりの事情・経緯・生い立ちなどがあるでしょう。そういう部分をみんなが考慮して、刑罰が下されることがいいのではないかと思います。単に「悪いことをした」というだけではない見方をするということです。」
「どうしたら犯罪をなくせるか、ということの参考にもなります。」
「本当に罪を犯したのではない人を守れるということもあります。」
生徒:「今まで、どのぐらい重い罪の人を弁護したことがありますか?」
弁護士:「強盗致傷です。殺人未遂もあります。覚せい剤密輸は懲役10年以上になる場合もありますから、結構重いですよ。」
生徒:「議員とか、立候補できたら、しようと思いませんか?」
弁護士:「私は思いません。知り合いには、国会議員を目指してまず弁護士から始め、議員秘書をするという人もいます。」
取材を終えて
最後の質問タイムにどんどんいい質問が出て、生徒達が本物の弁護士の来校に、感動していることが伝わってきました。授業が終わった後も、男子数人が弁護士を取り囲むように熱心に質問をしていました。法教育は学校の先生だけでできるようになることを目ざすという考えも言われますが、やはりプロが学校に来てくれることの意味は大きいものがあると感じました。
テーマのルールづくりの結果は、クラスによって様々だったようです。他のクラスでは、えさやりに賛成:反対は4:2だったそうです。障害者を思いやる気持ちが旺盛で素晴らしかった、という感想を漏らす弁護士もいました。
教材は千葉県弁護士会の弁護士のオリジナルです。今回の授業についての弁護士の研修は特になく、当日の本番前に学校に集合して、猫の生態などについて詳しいことを打ち合わせた程度です。緑町中学校は前年弁護士の出張授業を受け入れてきた経緯があり、班分けなど学校側の準備が、生徒の普段の様子を考慮して行なわれていたことも、スムーズな授業展開に結びついていたようです。
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