東京弁護士会法教育センター運営委員会 小学校のカリキュラムづくり その1

 東京弁護士会法教育センター運営委員会では、このたび小学校1年生から6年生までの法教育について、体系的なカリキュラムの開発をめざすことになりました。その第1歩として、2010年10月28日(木)15:00~16:00、委員会のメンバーが東京大学法学部の大村敦志教授をお訪ねし、初会合を行ないました。

東京弁護士会法教育センター運営委員会のこれまでの活動概略

 東京弁護士会ではかつて、広報委員会の裁判傍聴引率と出張模擬裁判という2本立てで法教育に携わっていました。その活動が法教育センター運営委員会へ昇格となり、企画を増やしています。法務省の「ルールづくり」授業をアレンジしながら出張授業をしたり、模擬裁判授業も自分たちでシナリオを作って尋問を見せ裁判員役の中・高生に評議してもらったり、弁護人・検察官役の中・高生に尋問のアレンジを指導したりしています。
 一昨年からは、小学生向けに名探偵コナンを題材とした模擬裁判の企画をしています。これらの企画は学校単位で実施していますが、夏休みには個人を対象にジュニアロースクールを行っています。
 また、「法教育だより」を作り、都内の中・高等学校に配布して学校との関係を築いています。

今回の取り組みについて

 これまでの活動に加えて、さらに法教育という観点から活動を広げていきたいと考えています。新学習指導要領にもとづく授業が、いよいよ来年度から小学校で実施になるにあたり、「法教育とは何か」をあらためて考え、理念をもたないと、小学校における法教育の体系的なカリキュラムはできないのではないかと考えています。
 このたびは関係者の縁で中央区の小学校が協力してくれることになり、1年生から6年生まで6年間を貫くカリキュラムの構築を考えています。1年生で授業を受けた子ども達が、2年生では~、という具合に。
 大村教授にはより広い見地から、授業づくりを進めていく上での基本的な指針などを伺いたいと思います。

〈授業時間数・間隔〉

大村教授:「全体としての時間数と、授業の間隔はどのくらいですか?」
弁護士:「私達が行けるのは年1回かもしれません。」
大村教授:「積み上げるなら、テーマの連続性と方法の発展性があるといいです。ただ、最初から完成形を目指さないで、ゆったりと構えたほうがいいかもしれません。」

〈最も重要なこと〉

大村教授:「最も重要なのは、先生方に「法ってそういうものなの」と思っていただくことです。教員養成の法学は覚えるだけになりがちなので。そのためには、先生方との打ち合わせが重要でしょう。先生のイメージとつながるように、日頃のクラス運営に法が入っていることに気づいてもらうように。学校で日頃教えていることを意識化すると、法教育になるということです。」

〈基本的なスタンス〉

弁護士:「表現の自由とプライバシーの相克は、題材は一般の人にも親しみやすいように見えて、法的には難しいと思いますがいかがですか?」
大村教授:「そうですね。ロースクール生はこのテーマが好きです。彼らは価値の考量が好きですので。先端的ケースは、単発でわかった気になりますが、何を目指すのかということが重要でしょう。スタンスをどうするのか。私は基礎的なことをやるのがいいかな、という感じがあります。その先でより進んだ話へ展開できるし。ケース1つだけでも、相当のことができます。『図書館ライオン』も初歩から始まり、展開すると高度なところまで行けます。1つの教材でも、どこに重点を置くかで、難易度が違います。1年生でやり、また2年生でもできるということです。題材はいろいろあります。」
弁護士:「題材のひとつとして、日弁連のつくった『ルールって何だろう』5冊セットを参考にすることも考えています。」
大村教授:「最初から活動の記録をとるといいでしょう。次の学校に働きかけるときに示せます。学校もどのぐらいのコミットメントが必要かわかります。あらかじめそれを伝えた方が、やりやすいでしょう。」

〈議論の仕方を伝える〉

弁護士:「日本では、自分の意見を人に伝えたり、人の意見を聞いたうえで人と議論をするという姿勢が少ないと思います。授業を通じ、その訓練の場にもなればよいと思います。」
大村教授:「これこそが法ですというところに意識を集中させる必要はなくて、話し合いの仕方から始めるのもいいと思います。挨拶とは、「あなたとコミュニケーションの回路を開こうと思っている」という合図です。たとえばフランスでは、そういう関係を維持するという前提のもとで、論争をしますので、争っても基本的な関係はこわれません。社会生活を営む上ではそれが大事です。日本で挨拶を教えることは「法教育」と言わないですが、実は学校の先生はみんな法教育をしているのです。「なんのために」を意識することに意味があります。」

〈ルールづくりについて〉

弁護士:「小学校のカリキュラムのどこに法教育を入れる余地があるかということについては、学校とは6年生の憲法学習のところと、ルールづくりの部分と話しています。「ルール」は1年生から積み上げられると思っています。」
大村教授:「授業は情報量が少ない方が難しいです。「当然と思っていることを意識化する」という連鎖が、大事な気がします。たとえば私は学生たちに709条がないとどうなる?と考えてもらうことがあります。いろいろな不便が生じることが想像できれば、次は709条がないなりに事前にみんなで約束をして何とかできないかという話に進むこともできます。ルールの存在意義と機能は、いろいろな授業ができるでしょう。授業のテクニックは小学校の先生に出していただくのがいいと思います。1回ためしに授業をしてみて、それを踏まえてどうしようと考えるのがいいと思います。」
弁護士:「今回は、6年生の憲法授業を2コマ、学校の先生が実施した後、弁護士が出張授業を2コマする予定です。」

取材を終えて

 この取り組みについては、今後も継続してお伝えしていく予定です。次回は小学校の先生方との打ち合わせにお邪魔させていただきます。

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