法教育推進協議会傍聴録(第23回)

 2010年12月22日(水)13:00~15:20、第23回法教育推進協議会が法曹会館で開かれました。法曹三者における法教育普及の取り組み、教員免許更新講習での法教育講習事例、法教育懸賞論文が議題になりました。

1 法曹三者における法教育普及の取り組み報告

〈法務省から〉

 京都法教育推進プロジェクトの一環として、京都地方裁判所、京都地方検察庁や京都地方法務局・京都刑務所・京都保護観察所による出前教室・移動教室が実施されています。「法の日」週間の記念行事として10月2日に法務省赤れんが棟にて「法の日フェスタ」を開催し、法教育授業を行いました。10月29日には「法教育シンポジウムin京都」を行いました。
 民事局では、身の回りに法律事象があることに気づいてもらうことを目的として法教育授業を行っています。今年度は11月末までに64件実施済み、12月以降は21件実施予定です。中学校からの申し込みが約7割近く、高校が2割強で、支援学校や専門学校からの申し込みもあります。中学校は2年生対象が多いです。担任の先生と話し合いつつ教材を用意しており、栃木県の盲学校では学校の御協力を得て点字テキストを作成しています。申し込み方法は様々で、法務省への申し込みを通して法務局におりてくるものあり、法務局へ直接学校から申し込みもあり、同等に対応しています。

〈最高裁判所から〉

 裁判所は次の4本柱で法教育に取り組んでいます。「裁判官の講師派遣(出前講義)」「模擬裁判・模擬調停」「ガイド付き裁判傍聴・裁判所見学」「裁判員制度の紹介」です。特に法廷を持つ強みを生かせるのが模擬裁判や裁判傍聴です。講義の内容は「わかりやすく」をコンセプトにしています。工夫している点は3つで、「身近な話題」で日常生活とのつながりを感じられるように、「視覚的に理解」できるように、講師の「体験談」を取り入れて、ということを心がけます。裁判傍聴では、裁判を終わった直後の裁判官が傍聴者の質問に答えてくれることもあり、それが好評なこともあります。最高裁判所の庁舎見学会は、予約開始日の午前中には定員に達するほど好評です。
委員:「子どもの質問に対する想定問答は作りますか?」
回答:「画一的な答えを用意するより、各人の体験等で答えるほうが面白いのではないかということで、作成していないし、今後も作るつもりはありません。」

〈日本弁護士連合会から〉

 2010年度から「市民のための法教育委員会」委員数を38名から68名に増やしました。これで全国全ての弁護士会から委員を迎えたので、地方との意思疎通が一層円滑になるでしょう。
 新たな取り組みとして、①法教育教材集の作成に着手しました。まず小学校向けから、順次中学・高校向けに取り組みます。②2011年夏季セミナーの開催に向けて、準備を開始しました。
 近年のトピックスとしては、日弁連基本政策集において法教育拡充に貢献する宣言、2010年版弁護士白書における法教育特集、各地の弁護士会連合会の法教育シンポジウム開催があります。
 今後の課題は、①委員会のパイプを使って、各地の取り組みを根付かせることです。まだまだ法教育専門委員会を作っていない単位会もあるので、きちんと学校からの要望にこたえられる体制を整えたいと思います。②小学校3・4年生向けの教材を作りたいのですが、授業例も教えた経験のある先生も少ない状態です。③「市民のための法教育」と言いつつ、大人のための法教育にはまだ手がついていません。少しでも市民のニーズに応えていきたいと考えています。

2 教員免許更新講習における法教育講習について

〈筑波大学の講師から〉

 吉田俊弘筑波大学附属駒場中高等学校教諭と鈴木啓文弁護士から、8月21日(土)に行われた東京地区キャンパス(筑波大学附属駒場中・高等学校)の教員免許更新講習における「法教育入門」を事例とした報告がありました。
1講座は6時間からなり、2人で3時間ずつ分担する場合もありますが、事例では2人でQ&Aをしつつ6時間行われました。講習内容は、「法教育入門―契約から裁判員制度まで―」で、第1部では、契約や事故など、私たちの生活に直接関わる身近な事例をもとに、法の基本的な考え方について学びます。第2部では、弁護士の指導のもと、裁判員裁判を念頭に、模擬裁判を実際に体験します。最後に筆記の認定試験があります。
参加者は定員40名一杯になり、高校の先生が21名で、小・中・特別支援・その他にわたりました。受講者の担当教科は社会・地歴・公民が多いですが、国語・数学・保体・芸術等様々な教科がありました。
講師:「現場の教師は、授業方法についてよりも「法の知識」を求めがちなのですが、自分は教育の視点を重視した講習にしたいと考えました。」

〈福井大学の講師から〉

 橋本康弘福井大学教育地域科学部准教授と野坂佳生金沢大学大学院法務研究科教授・弁護士の教員免許更新講習は「『法教育』とその教材開発」についてです。本講習の目的は、①「法教育」の定義と新学習指導要領における「法教育」の位置づけについて理解すること、②「法教育」を実施する上で必要になる「法的素養」を身につけること、③指導案を作成することができるようになること、です。法的素養については、議論の前提になる「法益」とそれが傷つけられる危険性について考えます。教材作りでは、参加者に「学校や地域社会で遭遇するトラブルについて、いくつか例示する」という宿題を出しておき、5人1グループで利害判断・調整を話し合うワークショップをしました。評価は、学んだ内容を踏まえ、受講者が指導案を作成することで行いました。
 参加者は10名で、小・中・高校から、社会科が中心でしたが、様々な専門を持つ先生方の参加がありました。
講師:「利害の対立に関する事実をきちんと認識することが結構大事であると感じました。例えば自転車通学のルールの例では、「自転車小屋が足りない」という現場の先生の声で、議論の方向性がガラッと変わってしまうことがありました。弁護士は、机の上で教材を作るのではなく、「生の声」を聞いて事実をきちんと認識する、当事者の声を聞くことの大切さを認識する必要があると思いました。」

〈委員からの質問〉

質問:「選択講座ということですが、他にはどんな講座がありますか?」
講師:「教科ごとの講習、教育相談(不登校などについて)です。」
質問:「参加者の母数はわかりますか?」
大杉昭英岐阜大学教授:「岐阜では受講生約2000名、教科は240科目ぐらいあります。そのうち法教育は1桁だと思います。県により、それぞれしくみは違うと思います」
江口勇治筑波大学教授:「筑波大学では受講生は5000名を超えます。法教育は200人ぐらいでしょう。」

3 懸賞論文について

 法教育普及のための懸賞論文の受賞者の選定が行われました。結果につきましては、こちらのページをご覧ください。

〈取材を終えて〉

 教員免許更新講習の報告は興味深いものでした。受講した参加者の感想には、「とても面白かった」、「有意義だった」、「憲法は権力を制約するためにあるという視点が抜け落ちがちなことを認識した」というような、様々なコメントがありました。どちらの会場にも英語・音楽・体育などの専門の先生方が参加されており、社会科以外の教科で法教育の指導がされることもあるかもしれないと期待が膨らみます。

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