「パリ20区、僕たちのクラス」~法教育素材の紹介4

 今回は、法教育素材の紹介シリーズ第4弾です。フランスの映画を紹介します。

 「パリ20区、僕たちのクラス」は2008年の第61回カンヌ国際映画祭でパルムドール(最高賞)を受賞した映画です。日本では2010年6月12日から岩波ホールで上映されました。

  「パリ20区、僕たちのクラス」
       ローラン・カンテ監督  2008年フランス映画
       原作 フランソワ・ベゴドー『教室へ』(早川書房)

〈どんな映画?〉

 『エキプ・ド・シネマ №176』岩波ホール発行(2010年)より適宜引用させていただきます。

 舞台はパリ20区にある公立中学校の教室。パリ20区は移民が多い地域で、アフリカやアジアなど様々な国から来た生徒がいます。
 主な登場人物は、1人の国語教師と24人の生徒たち。カメラが追いかけるのは1年間の国語の授業です。出演者は全く演技経験のない24人の生徒と教師たちです。

 フランスの中学校は4年間で、卒業する生徒の多くは15歳。学年の数え方は6年生から始まり、学年が上がる毎に数字が下がっていくので、映画の中の生徒は卒業まであと1年の4年生です。1年にわたるワークショップで培った彼らの演技と、即興で起こる出来事を3台のカメラでとらえたというもので、あたかもドキュメンタリーかと思うほどの迫力ですが、緻密に構成された演技による作品です。

〈物語〉

 国語教師フランソワは、自分のクラス24人の生徒たちに、この国で生きていくために正しく美しいフランス語を教えようとしています。スラングに慣れた生徒たちから反発を受けたり、「先生はゲイですか?」という質問を受けたりするという授業ですが、先生はそれらに丁寧に応答していきます。

 「自己紹介文を書く」という課題が与えられ、主な生徒が観客に紹介されていきます。紹介文を書かなかったスレイマンは、写真に解説文を添えることで自己紹介を果たし、先生から賞賛を受けます。
 けれど、スレイマンは行きがかりから先生に失礼な言葉を使ったことにより、退学処分という結果を招きます。先生は彼の処分を避けたいと思いますが、既に様々な先生に暴言を吐いているということで、退学は決定してしまいます。退学になった生徒は、他の公立中学校を斡旋されるようです。最近このクラスに転入して来た生徒カルルも、他の中学校を退学になってきたようです。

〈排除と再統合〉

 スレイマンは先生への失礼な態度から退学になってしまいます。フランスの事情に詳しい東京大学法学部の大村敦志教授にお伺いしたところ、この映画がカンヌ国際映画祭で最高賞を受賞した背後には、排除の問題がフランスで重要な問題になっているという事情があるといわれます。フランスでは、学校は「社会の原図」であると言われ、学校における「処罰」である退学は、実社会では「犯罪に対する刑罰をどう考えるか」ということに通じているということです。生徒を退学させることで、学校は規律を保つことになるでしょう。退学になった生徒は新たな転校先で受け入れられ、再統合されるのでしょうか。そこまで映画は追っていませんが、カルルという転入生の存在がそれを示唆しているようです。日本の公立中学校では、退学の問題は実感が湧かないだけに、映画を素材にして客観的に考えることができそうです。また、小さな排除と再統合なら身近に起こっていることかもしれません。そこから社会のことを考えていくこともできるのではないでしょうか。

〈規律と恥〉

 授業風景の中から一つのエピソードを取り上げ、討論の素材とすることも考えられます。
筆者の印象に残ったのは、中国系の生徒が、授業中にも仲間を揶揄する生徒達を「恥知らずだ」と話すシーンです。日本人である筆者には自然に受け入れられる感覚ですが、先生は「それは恥と規律を混同している。」と言うのです。フランス人にとっては、授業中に仲間を馬鹿にする私語を発することは、単に授業の(あるいは社会の)規律を乱すだけのことなのでしょうか。中学生にもなって授業中に発すべきでない言葉を言う生徒を「恥ずかしいと思わないのか」という感覚は、東洋的なのでしょうか。
 規律と恥は関係あるのかなどのテーマで取り上げたら、日本の中学生はどう考えてくれるでしょうか。それがルールの根底にあるものを考えることにつながるのではないか、と思われますがいかがでしょうか。

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