第2回 法教育教材コンクール記念講演会・表彰式

 2011年2月26日(土)、朝日大学および岐阜法教育研究会主催の第2回法教育教材コンクール記念講演会・表彰式が朝日大学で行われました。記念講演は、法教育授業について「法と教育」学会で実践報告されるなどご活躍中の窪直樹先生(練馬区立大泉第六小学校)が、小学校における法教育の授業づくりについて話されました。朝日大学のご厚意により、記念講演会・表彰式の記録映像から窪先生の授業づくりの方法などをお伝えします。

1 記念講演会

「法教育はおもしろい」
  ―授業づくりから実践まで―
            窪 直樹 練馬区立大泉第六小学校教諭

〈法教育への関心〉

 「法教育」というと、難しいとかわからない、ややこしいと思われるかもしれません。私は法学部で法を学んで、「法は役に立つ」「ものごとを法的に見ることが大切」と感じていました。『ライフステージと法(第3版)』(副田隆重ほか著 有斐閣アルマ 2000年)という本には、私たちの生活はいろいろなライフステージで法と関わりがあることがわかりやすく書かれています。自分は法に関わることを教育の分野でやっていきたいと考えるようになりました。
その後、東京学芸大学の大学院で法教育について学びました。『法教育の可能性』(全国法教育ネットワーク編 現代人文社 2001年)という本では、江口勇治先生が学校教育における法教育の理論と実践を書いておられ、「法教育とは何だろう」と考えるときの原点ではないか、と思っています。

〈小学生に法教育で何を伝えるか〉

 ①私たちの身近に法やきまりがあること
 ②法やきまりを使って考えること
 ③みんなが幸せに暮らせる社会をつくるために、自分達でルールをつくること
小学校における法教育については、2011年度から実施される新学習指導要領に示されています。大杉昭英先生の『法教育実践の指導テキスト』(明治図書 2006年)には、社会科、道徳、生活科、体育、特別活動、といった教科・教科外の法教育の方法が示されています。教師に心構えがあると、次のような体育の授業の一場面で起こったことを受けて、特別活動としての「ルール作り」の授業に挑戦することができると考えています。

〈キックベースの事例から法教育へ〉

 たとえば、ある日の体育の授業でキックベースをしていた時のことです。1人の女の子がふと、「ボールが速くて蹴れない。」と言いました。男の子は、「それはチームの作戦なんだよ。」と言います。女の子は、「それじゃつまらないよ。」と言い返しましたが、それを耳にした私は、特別活動で「みんなが楽しくキックベースをするためには?」という話し合いをすることにしました。
話し合いは、「ルールとして決めるかどうか」というところから始めました。男子は「ルールとしてボールを遅くしたら、みんなが蹴れて面白くない。」という意見が多かったのですが、「得点がたくさん入って面白くなる」という意見も出て、話すうちに、ルールとして決めて強制力を持たせる方向が多数を占めるようになりました。この例などは、何か特別な準備をして行ったものではありません。教師に心構えさえあれば、目の前で起きる子どもの事象を法教育的にとらえ、授業にすることができるのです。

〈社会科における法教育〉

 千葉大学教育学部附属学校の『社会が見えてくる“法”教材の開発』(千葉大学教育学部・附属連携研究社会科部編 明治図書 2008年)という本は、社会科としての「法教材」とはどのようなものかを考える上で大変、参考になりました。

 次に示す2つは私が実際に小学校6年生を対象に行った社会科の授業です。
(1)「裁判員制度、君はどうかかわる」
  社会科の「問題解決的な学習」において小単元の展開は、教材とのかかわりを「つかむ」→「調べる」→「まとめる」という流れになります。例えば全部で10時間位の単元の場合、「つかむ」に1~2時間、「調べる」に6時間、「まとめる」に2時間ぐらい当てることになります。
これを6年生で実践した授業の例を示しましょう。2009年度の東京都「法に関する教育シンポジウム」や、今年度の「法と教育学会」の実践報告で報告した授業です。「私たちのくらしと政治」のところで、まず税金の使われ方を調べました。区役所へ行って、税金が使われているものについてのパンフレットなどをたくさん集めてきました。そして、「税金の使い方をどのように決めているのか」ということから、「国のしくみ」、「三権と国民」へと進みます。最後に、「裁判員制度」について調べ、「自分は将来裁判員になったら、やってみたいかどうか、裁判員制度をどのようにとらえていくか」考えました。

(2)「あなたは弁護士です、どちらを弁護する?」
 これは憲法についての討論形式の授業です。平成22年度に使用している光村図書の国語の教科書(6年)に「学級討論会をしよう」というものがあります。この学習で「コンビニエンスストアの24時間営業は中止すべきである」というテーマを設定し、肯定側・否定側に分かれてディベートする活動を行いました。これをした時、子どもたちは「話してみるのは面白い」と感じている様子でした。そこで社会科でも、裁判形式の討論をしてみたいと考えました。NHKで「生活笑百科」という番組が放送されていますが、あの形式を取り入れたいと思いました。題材選びのポイントは、
①法的な論点を含む
②2つ(以上)の立場
③結論が分かれる
です。
法律の専門家(この実践をこれまで二度行いました。一度目は弁護士、二度目は裁判官。)にもご協力をお願いしました。「事例を選ぶ際の法律的な監修」、「法的な視点からのアドバイス」、「子ども達の意見の価値づけ」を行っていただきました。「価値づけ」が一番ありがたいところで、子ども達は法律家の先生に認めてもらえると、とても喜びます。
単元は憲法についての学習のところで、まず歴史学習の振り返りとして「平和主義」を学習します。次に、「身近な生活と憲法のつながり」→「国民主権とその内容」→「基本的人権とその内容」と学習してきて、この裁判形式の討論をしました。実際にあった事件を題材にした「アイドルグループVSさかえ出版社」という架空の事件で、人気アイドルグループが、暴露本を出版しようとする出版社と出版差し止めをめぐって争う題材です。
1)事例を読む→2)どちらの弁護をするか決める→3)主張を考える
という展開になります。裁判所からは法服を貸していただけるなど、親切に対応していただきました。子どもたちからは、「緊張した」「真剣に考えた」という感想が聞かれました。『日本国憲法』(童話屋編集部編 童話屋 2001年)という、子ども向けに憲法を書いた本を自分で買って持ってきた子どももいました。

〈法教育のこれから〉

小学校における法教育の普及について考えると、まず、「おもしろそう」と感じられる教材が必要だと思います。指導案・資料・板書計画が揃っていて、「やれそう」と思える教材であることも大事です。また、教材が普及してくると、「教材の発展」(開発→共有→改善)ということも必要でしょう。やってみて、まねしてみて、改善していくといいと思います。

2 表彰式、受賞教材プレゼンテーション

 表彰式では、岐阜県教育委員会賞(「部活動における人間関係のトラブル」を題材とした模擬裁判)、岐阜県弁護士会会長賞(「永仁の徳政令」を題材とした「正義と公平納得度グラフ」)、新聞各社の賞などの発表と、受賞した教材の披露がありました。その中から、NHK岐阜放送局長賞を受賞した「ストロー飛行機とルールを結びつける教材」(岐阜大学)をご紹介しましょう。
 これは生活科で制作した「ストロー飛行機」を、教室や廊下などの狭い空間で飛ばすにはどうしたらよいかを考える教材です。当初は、体育館で飛ばす予定でしたが、他の授業の都合で使えなかったため、さらに厳しい条件で考えることになりました。児童には、「自発的に考えるよう」声掛けをするといった工夫をしたそうです。みんなが安全に、楽しくストロー飛行機を飛ばせるようなルールをつくり、最後に全員で飛行機を飛ばすことで、ルールの重要性を身をもって体験できる授業になったようです。

取材を終えて

 今回はDVDに記録された映像からレポートさせていただくという、初の試みでした。 小学校現場での経験に裏打ちされた法教育授業づくりを窪先生がわかりやすくお話されたご講演を、十分にお伝えできましたでしょうか。岐阜大学の学生のつくられた生活科の「ストロー飛行機」をめぐる法教育教材も興味深いと思いました。いろいろな教科における法教育教材の開発が期待されます。

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