第5回高校生模擬裁判選手権に出場した公立3高校比較

 高校生模擬裁判選手権については一昨年から当レポートでお伝えしていますが、2011年8月6日(土)に第5回高校生模擬裁判選手権が開催されました。今回は東京都立高校が2校、千葉県立高校が1校出場しましたので、それぞれの学校が選手権出場のために、公立高校のできる範囲内でどのような工夫をしているのか、担当の先生と生徒にお尋ねしました。本番の迫る夏休みの各校にお邪魔しました。

出場する公立3高校とは

東京都立西高等学校
(7月27日(水)17:00~18:30、社会科教室にお伺いしました。)
 1937年(昭和12年)東京府立第十中学校が青山に開校。2年後、新校舎完成とともに杉並区宮前の現在地に移転。1946年、玉泉中学校を統合。1948年、学制改革により東京都立第十高等学校になり、1950年、都立西高等学校と名称を変えました。「授業で勝負」「文武二道」の校風で、生徒の希望に添った「進路実現」を支援します。京王井の頭線久我山駅より徒歩約10分。落ち着いた住宅街の中に広い校地をもっています。
 各学年8学級 1学級40名定員 生徒数1012名(4月1日現在)

(平成24年度入学生用スクールガイドより)

千葉県立東葛飾高等学校
(8月1日(月)13:30~16:30、セミナーハウス内の同窓会室にお伺いしました。)
 1924年(大正13年)千葉県立東葛飾中学校開設。1948年(昭和23年)、学制改革により千葉県立東葛飾高等学校となり、普通課程男女共学実施。「自主自律」を尊重し、質の高い、魅力ある学びの場づくりを目指しています。県の進学指導重点校。JR常磐線と東武野田線の柏駅から徒歩約10分。
 1年8学級、2年9学級、3年8学級 1学級定員40名 生徒数995名

(学校公式ホームページなどより)

東京都立小石川中等教育学校
(8月3日(水)10:00~12:20、パソコン室にお伺いしました。)
 1918年(大正7年)東京府立第五中学校として小石川駕籠町に創立。1948年(昭和23年)、東京都立第五高等学校と改称。翌年、男女共学制実施。1950年、都立小石川高等学校と名称を変えました。2006年(平成18年)、小石川高等学校の伝統と実績を継承し、中高一貫制の都立小石川中等教育学校開校。後期課程からの入学はありません。「立志・開拓・創作」「自主自立」を重んじます。45分7時間授業により、月曜から金曜まで週34時間の授業時数を確保。都営地下鉄三田線千石駅から徒歩2分。JR山手線巣鴨駅からは徒歩約10分。六義園や文京区の施設が近くにあります。
 各学年4学級 1学級40名定員 生徒数956名

(平成23年度学校要覧などより)

  

お尋ねした項目

1 学校授業との関係・参加者募集方法
2 担当する教員の役割
3 生徒の役割分担の決め方

〈1 学校授業との関係・参加者募集方法〉

西高校
 第2回選手権から連続出場4回目。課外の活動であり、参加は個人の自由。有志の生徒が、昼休みや放課後、夏休みを利用して活動します。
参加者の募集は、1年生「現代社会」の授業で、4月に、西高での学びは質の高い授業は当然ながら、授業以外のさまざまな取組みに参加することであると生徒に呼びかけるところから始まります。法教育に関心のある人は高校生模擬裁判選手権に、金融経済教育に関心のある人は「日経ストックリーグ」(中・高・大学生を対象にした「自主テーマによるポートフォリオ学習」および「レポートコンテスト」。日本経済新聞社主催、野村グループ特別協賛)や「金融と経済の明日」高校生小論文コンクールに、財政に関心のある人は「税に関する高校生の作文」に、あるいは静かに勉強したい人は本を読んで論評するなど、全員が何か1つに参加するよう呼びかけます。
授業そのものでも生徒と授業者の双方向性を大切に「3分間スピーチ」を実施し、生徒からの質問を大切にしています。生徒は気軽に社会科準備室を訪ね教員と雑談をしていきます。話題は授業に関する質問もあれば日々の出来事、読んだ本の感想などさまざまです。西高は双方向性を大切に生徒のインテリジェンスを涵養していく学校なのです。さまざまな仕掛けをとおして、生徒の社会科学への関心が高まり、生徒同士刺激し合って学びが深まっていくのです。
具体的には6月ごろ、参加希望者の初回集合日時・場所のチラシを授業時に1年生全員に配布。今年度は1年生30数名の参加です。2年生以上の参加者は例年ほとんどいません。前年経験者も、参加したい気持ちはやまやまですが、他にもやりたいことがいろいろあるので物理的に参加できないということです。ふだんから生徒1人が複数の部活動をかねています。今年度の参加者も、部活動と掛け持ちの生徒が多いそうです。

東葛飾高校 
 昨年度選手権に初参加し、今回が2回目。参加者は、「東葛リベラルアーツ講座」という学校開設課外講座(全校生徒対象、土曜日や夏休み開催、毎年20数講座)の中の1講座「高校生模擬裁判選手権」を受講希望した生徒。1年生3名、2年生8名が参加。
 「東葛リベラルアーツ講座」の実施計画書によれば、「高校生模擬裁判選手権」講座の開催日は8月6日で、「意欲的な生徒」が対象、「事前指導あり」という条件が付いていました。事前指導の第1回は6月13日。その後は、昨年参加した4名の2年生が中心となって連絡を取り合い、休み時間や夏休みを利用して活動しています。部活動と掛け持ちの生徒も多いようです。

小石川中等教育学校
  今年度初参加です。高校2年生にあたる中等5年生の選択必修科目「課題研究授業」のうちの1コース「政治・経済in action」という授業の一環として行われます。カリキュラム上の位置づけは「総合的な学習の時間」で、毎週木曜日、2コマ続きの授業が1年間行われます。5段階評価の成績もつきます。本校では4年生で「政治・経済」が必修とされており、このコースは既修者のための授業になります。17名の生徒が登録しています。
1学期は高校生模擬裁判選手権準備、2学期が日経ストックリーグ参加、3学期にまとめと発表会というプログラムで進んでいます。1学期は支援弁護士・検察官による講義、裁判傍聴などを行いました。裁判傍聴だけは授業時間内にはできないので、課外で行いました。夏休みになってからは課外活動の扱いで、出席は取りません。参加できる生徒が参加しています。

〈2 担当する教員の役割〉

西高校
 社会科担当の篠田健一郎教諭(「現代社会」)が1年生への声かけをしています。「自主・自律」の態度を養うという校風のもと、先生の役割は、参加申込みを前年度(3月頃)にすることと、初回の集まりのチラシ作成、5月末ごろ行われる日本弁護士連合会主催説明会に参加すること、日弁連から出場校に差し向けられる支援弁護士や検察官との最初の連絡が主です。連絡係の生徒を決めるように指示した後は、生徒が自主的に活動を進めています。レポーターがお邪魔した日も、先生は最初の挨拶をしてから退席し、支援弁護士の見守る中で生徒の話合いが進みました。

東葛飾高校
 社会科担当の長束倫夫教諭が講座を担当します。昨年度参加者の4名が、また出場したいと言っていたので、講座開設を決めたそうです。出場申込みは前年度末なので、年度替わりにもし教諭が異動になった場合は、他の先生に頼むつもりだったということです。
5月の日弁連の説明会には、昨年は生徒と同行しましたが、今年は教諭だけが参加。6月の第1回目の講座の後は、生徒の自主的な集まりに任せています。レポーターが伺った8月1日は紅白戦で、先生も終始同席し、支援弁護士や検察官に質問していましたが、生徒にアドバイスすることはありませんでした。

小石川中等教育学校
 政治・経済の新井明非常勤教員が担当します。新井先生は一昨年度まで都立西高校で教諭をされ、高校生模擬裁判選手権にも2回参加されました。西高校時代は課外での取組みのため、選手権出場に必要な最低限の8名の生徒を集めるのに苦労されたそうです。今年度、小石川中等教育学校で課題研究担当を命じられたこともあり、その中でできることを考え、プログラムの1つとしてかつて出場した高校生模擬裁判選手権に出場申込みをされたそうです。
 「総合的な学習の時間」という位置づけにより、生徒集め、授業時間の確保などの点で、条件に恵まれていますが、教材を渡されてから(5月)の時間が短く、その間試験などで授業がつぶれることもあり、思ったより準備に苦労しているとのことです。
 レポーターが伺った8月3日は最終リハーサルの日で、先生が進行役となり、裁判官役を行いました。本番に出場の無い生徒(この日は3人出席していました。)には、ワークシートを配り、リハーサルの感想を提出させました。先生はいわば交通整理役に徹し、内容の検討や決定は生徒に任せているということです。このリハーサルの後は、生徒の自主的活動のみの予定になっており、先生は8月6日の集合時刻・場所・注意事項などの確認をしていました。

〈3 生徒の役割分担の決め方〉

西高校
 選手権に出場するのは限られた人数です。30数名からどのように選んだのでしょうか。方法は簡単。8月6日の本番に行かれる人が11名だったので、その11名に決まったそうです。配役は7月27日現在、まだ決まっていませんでした。出場しない生徒も含め、全員でどんな内容にするか考えています。27日は支援弁護士の声掛けで、生徒の希望により検察側と弁護側の2グループに分かれました。

東葛飾高校
 講座参加者11名のうち、1名が8月6日に来られないので、残る10名全員が出場します。昨年経験者は、弁護側だった人は検察側、検察側だった人が弁護側に分かれ、未経験者は希望によって配役を決めたそうです。経験者の男子3名が、それぞれのグループをリードしています。本番に出場しない1名も、準備には参加しています。

小石川中等教育学校
 本番に出場する人は、生徒がオーディションで決めることにしました。3グループに分かれ、各グループで検察官・弁護人役を決めて、全員の前で演技をしたそうです。ルールブックを参考に、「ゆっくり大きな声で話す」などの条件を考慮し、勝てそうな人を全員の投票で選んだということです。その投票では誰が出場者するかだけ決まり、配役は出場者の中で話し合って決めたそうです。選外になった生徒も、毎回の授業・課外活動に参加し、ワークシートに感想を書いて提出します。本番も傍聴します。

各校の特色が鮮明に

 公立3校を訪問順に見てきましたが、偶然、選手権出場回数が多い順(西高校[4回目]、東葛飾高校[2回目]、小石川中等教育学校[初出場])となり、学校の授業との関係は薄い方から次第に濃くなることになりました。
 西高校は、ひとことで言えば1年生中心の「自主参加方式」とでも呼べましょうか。毎年1年生のみの参加なので、選手権への応募や生徒集め、日弁連の説明会参加、支援弁護士・検察官との最初の連絡といった必要最小限のことは、学校教諭の役割となります。必要最小限といいましたが、年度初めに「現代社会」の授業で生徒への動機づけをすることは非常に重要なポイントです。放課後・土曜日や夏休みに行われる生徒の活動を見守ることも、先生にとっては負担があると思われます。生徒集めが順調にいく年ばかりではなく、参加生徒全員がそろう機会が取りにくかったりして、準備が十分にできるかどうかが課題なようです。
 東葛飾高校では、選手権は「学志・知的好奇心の喚起を目指して」実施される東葛リベラルアーツ講座の1講座として位置付けられます。東葛リベラルアーツ講座は課外活動ですが、教科主体、職員主体、進路指導部関連、他機関の公開講座などに区分され、多数の教諭がコーディネーターとなっています。学校が力を入れている取組みであり、高校生模擬裁判選手権の準備についても西高校と小石川中等教育学校の中間とでもいえる方式ではないかと思います。教諭が必要最小限の手配をし、生徒が自主的に活動する点は西高校と共通ですが、全学年から生徒が集まる可能性が開かれています。
 小石川中等教育学校は「授業方式」と呼べます。担当の新井先生に西高校での経験があったこともあり、必修選択の1コースの中のプログラムとして取り入れられました。授業なので、5年生のみの参加です。授業とはいえ、授業時間内だけでは時間が足りないので、時間外には生徒が主体的に自主的活動をしなければなりません。
 こうして3校をみると、東葛飾高校は複数学年が参加し、前年経験者の体験が受け継がれることが特徴となっています。レポーターがお邪魔していた間も、2年生の経験者が仲間にアドバイスしている姿が見られました。西高校にもその可能性がないわけではないのですが、1年生だけの参加が慣例となりつつあるようです。小石川中等教育学校では、来年度の課題研究のことは今のところ全く未知数ということでした。

取材を終えて

 昨年度、「高校生模擬裁判への道」シリーズとしてお伝えした東葛飾高校に、高校生模擬裁判出場という若い伝統の芽が育っていたことは嬉しいことです。それがまた来年へと続くのかが気になるところです。西高校は、1年生が出場するということが学校の伝統となりつつあるようです。いずれにせよ、選手権への出場は、生徒の活動を陰で日向で支える学校の先生の努力が鍵となっていると思いました。
その先生方の取組みを支えるのは、3校ともに生徒に質の高い学習環境を用意し、自主的な学習態度を養おうとする校風であると感じます。しかしまた、校風によらず、さまざまな学校が広く模擬裁判選手権の意義を理解し、参加していくことが大事ではないかと西高校の篠田先生はおっしゃっています。「選手権当日に向けて、生徒が自分たちなりに考えていくこと」、「支援法律家の助言に基づいて、法的な考え方に親しんでいく過程」に大事な意味があるということです。負担感や勝敗に目が向きがちになることもあるかと思いますが、選手権出場を通して生徒が得難い体験をすること、社会に出てから力となる多くのことを身につける機会であることを、より多くの関係者の方々に知っていただきたいというご趣旨に、共感いたします。

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