第一東京弁護士会平成23年度ジュニアロースクール  「体育館のルールをつくろう」

 2012年3月28日(水)、第一東京弁護士会によるジュニアロースクールが弁護士会館12階講義室で行われました。午前の部は9:45~12:00の「体育館のルールをつくろう」、午後の部は刑事模擬裁判(強盗傷害事件)でした。
 午前のルールづくりでは、中学校の部活動の練習のために体育館を使える曜日や時間・スペースの割振りについて話し合います。多くの中学生にとって身近な部活動について取り上げた午前の部の模様をお伝えします。

参加者

28名(男子10名、女子18名)

進行方法

9:45   集合。所属する部を割り振られ、部のテーブルに着席して自分の設定に目を通す。(他の部の設定は配布されていない。)
10:00  開会挨拶。スケジュールとルールづくりの説明。
10:10  第1回部会議:各部の主張をまとめる。
第1回代表者会議:席を移動し、各部の主張を聞き、質疑応答する。
第2回部会議:他の部の主張を踏まえ、提案するルールを考える。
第2回代表者会議:各部の提案を聞いた後、最終案を考える。
11:50  各代表者会議よりルール発表
12:05  講評

 

状況設定

 5つのテーブルの上にそれぞれ、バスケットボール部、バドミントン部、柔道部、剣道部、卓球部という表示が置かれ、生徒は受付で割り振られた部へ着席します。各テーブルには弁護士が1~2名ずつ加わり、話し合いの進行を助けます。

【各部共通の情報】
 ある中学校には体育館と武道場がありました。ところが、武道場は老朽化のため建て替えることになり、これまで武道場で放課後練習をしていた柔道部と剣道部の練習ができなくなります。そこで、新武道場が完成するまでの2年間、これまで体育館を練習場所としてきたバスケットボール部、バドミントン部、卓球部とともに体育館を使用できるよう、曜日・時間・スペースについて新しいルールをつくることになりました。
 放課後の練習時間は、校則で毎週月曜日~金曜日の夕方4時~6時と決められています。部員数は、バスケットボール部60人、バドミントン部40人、柔道部30人、剣道部30人、卓球部25人です。体育館では、バスケットコートは1面、バドミントンコートは4面、卓球台は6台とれます。畳は半面に50畳敷くことができます。体育館を半分に仕切る可動式の防球ネット設備があります。(当日のプリントより要約しています。以下の事情も同様)

【バスケットボール部の事情】
 バスケットボール部は5つの部の中で生徒の人気が最も高いのですが、文化系の部と兼任部員も多いため、火曜・水曜・金曜は参加率があまりよくありません。兼任でない部員は非常に練習熱心で、都大会では昨年ベスト8まで進出しました。今年はこの成績を上回るよう、練習を強化しています。練習は体育館の半分のスペースでもできますが、練習試合は体育館全体を使う公式コートの広さで本番さながらにしたい希望です。特に、8月の都大会前の数カ月間は練習試合の時間を2倍にしたいという意見もあります。

【バドミントン部の事情】
 バドミントン部は8月の都大会で何度も優勝してきた伝統ある部です。ここ5年間は成績が低迷していますが、部員の出席率はほぼ100%です。これまでに何度か、同時に体育館で活動している卓球部の球がコートに入ってきて、部員が踏んでケガをしたことがあります。卓球部と同時に使用するときは防球ネットを引きますが、できれば一緒に練習したくないと考えています。コート4面すべてを使えない場合は、練習時間よりも待ち時間が長くなり効率が悪いので、活動日には全面使用したと考えています。

【卓球部の事情】
 卓球部の出席率もほぼ100%です。1年生のエース2人は都大会で好成績でしたが、団体戦ではいまだ良い成績を残せていません。1年生エース2人は部員全員から期待されており、卓球台1台を独占してハイレベルな練習をします。他の部員は基礎練習を長くしていますが、8月の都大会前は練習試合を多くしたいと考えています。体育館半分だと3台しか卓球台を確保できないので、順番が回ってこない部員も出てしまいます。なお、他の部と同時に使用する場合は、部員が交代で球拾いをしようかと考えています。

【柔道部の事情】
 柔道部は稽古が厳しいせいか、参加率は7割ぐらいです。都大会では準優勝したので、さらに上位を目指して練習に励みたいと思っています。合宿では長距離のランニングをしますが、毎日の練習ではめったにありません。部員30人が練習するのに必要な広さは50畳ほどで、体育館の半分のスペースで十分です。試合形式の場合も同じです。畳の設置と片付けには15分ほどかかるので、練習時間は2時間をしっかり確保したいという意見が出ています。

【剣道部の事情】
 剣道部は、剣道で受賞歴のある体育の先生を顧問として3年前にできたばかりですが、部員の増加率は随一で、今後もこの傾向が続くとみられます。顧問の先生が毎日指導をしてくれるほか、月曜・木曜・金曜は顧問の先生の後輩のコーチも加わるので、練習参加率はほぼ100%です。8月の都大会前には、2人ずつ組んで行う稽古と試合形式の練習を増やします。これから部員が増えることも考えると、体育館半分のスペースでは手狭で心配です。練習に畳は使いません。

〈第1回部会議は静かな印象〉

 生徒には他の部活動の事情はわからないようになっており、自分の部の事情と主張を確認して部員が共有します。

〈第1回代表者会議〉

 席を移動して5班に分かれ、いよいよ代表者会議が始まりました。バスケットボール部の代表者は月曜・木曜どちらか全面を主張しています。剣道部も、月曜・木曜・金曜を全面と主張し、各班でバスケットボール部と剣道部の対立が目立ちます。8月に都大会があるという事情は、各部共通であることがわかりました。
 質問があまり出ない班では、弁護士が主張の理由を聞くことを促していました。希望日以外ならどうか、時間やスペースで譲れないかなどの質問が出るようになりました。

〈第2回部会議〉

 考え方が具体的になってきました。曜日の表を作って、各部の希望日と自分の部の主張について検討し始める部が3つありました。8月の都大会はすべての部に共通であることがわかり、大方の部がその点は考慮に入れないことにしていました。月曜日はバスケット部を優先してあげようという部では、弁護士が最初から折れてあげなくてもいいとアドバイス。時間で分けてあげるという提案が出てきました。全体的に主張が強くなく、作業は時間がかかっていました。

〈第2回代表者会議〉

 1日の体育館利用を1時間ずつ、半面ずつに分けた4コマとして、月曜~金曜合計20コマを5つの部で分け合うという考え方が大勢を占めるようになりました。20コマを平等に分ける班もあれば、主張の強いバスケット部が優勢になる班、バドミントン部が優勢になる班もありました。曜日を特定して主張した部の意見が通りやすかったそうです。できたルールを模造紙に書いて発表者を決めるところまで行うと、予定時間が超過していました。他の班が発表を始めてもまだ話し合いが続いた班もありましたが、最後までみんな粘り強く取り組みました。

〈5通りのルール発表〉

 比較的早くルールができた5班と、じっくり時間をかけた4班の発表を紹介します。
5班:「原則は、全面使用なら1時間、半面なら2時間です。」

時間
4~5時 バスケット 柔道 バド 柔道 卓球 剣道 卓球 卓球
5~6時 剣道 バド 剣道 バドミントン

(バド=バドミントンの略)

4班:「時間がかかったら、譲歩する部が出ました。時間をかけた分、よい結果になったと思います。」

時間
4~5時 バスケ 柔道 柔道 卓球 バドミントン バスケット 柔道 剣道
5~6時 剣道 卓球 バドミントン

(バスケ=バスケットの略)

〈講評〉

 短時間に複雑な要素が絡まっているルールをよくまとめたことが、素晴らしいと思います。1つのテーマだけでもいろいろな意見や考え方があることを知ることは大事です。それが法律をつくる第一歩となります。ルールが時間をかけてつくられていくことを実感してもらえたと思います。
 ルールをつくる上でのポイントは4つあります。① 目的の合理性と手段の相当性。② 明確性。みんなにはっきりわかりやすいことです。③ 公平性。どの班もバランスを考えたと思います。④ 手続きにみんなが参加すること。法律とはルールのことであり、今日は法律をつくることを体験してもらったことになります。

取材を終えて

 当初の予定では、第1回の部会議と代表者会議は10分ずつ、第2回の部会議と代表者会議に20分ずつがあてられていました。しかし、第2回目の代表者会議では話し合いにかなり時間が必要だったようです。体育館の使用可能な時間とスペースを20コマに分けて、平等に割り振るルールもできましたが、バスケット部やバドミントン部が部員の多さや優勝を狙える強豪であることを考慮にいれたルールもできました。公正さを平等と考えたのか、各部の事情も考慮に入れて全員が納得することが公正と考えたのか。どちらでも、全員が納得したということが大事だったと理解してもらえたのではないでしょうか。5通りのルール、いずれもよく考えた結果が目に見える表になって表され、楽しい授業だったのではないかと思います。

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