教科書を見るシリーズ 小学校編(2)3・4年「社会」上 

 2011年度に新学習指導要領に基づいて新版になった教科書について、法教育に関わる内容を見ていくシリーズです。
 このたび、法務省の法教育懸賞論文コンクールで2年連続受賞をされている弁護士の春田久美子先生が、ともに教科書を見てくださることになりました。数々の親しみやすい法教育教材づくりを手がけておられる春田先生は、教科書を見てどんなアイデアを思い浮かべられるでしょうか。どうぞお楽しみに。
なお教科書は、東京都の公立小学校で採択地区の多い順に上位2社のものについて検討します。まず、3・4年「社会」の上巻をとりあげます。

① 身近な地域や市について

【東京書籍『新しい社会』3・4上】
「学校のまわり」
――この章では、自分たちの学校のまわりの様子を調べます。p.11の「ことば」欄は「公共しせつ」についての説明で、「公共しせつは、みんなが使う場所なので、大切にりようするひつようがあります。」と書かれています。この部分は、公共施設の目的から、なぜ大切に利用しなければならないのか考えを深めるために格好の箇所だと考えられます。「公共」について考えることは、「自由で公正な社会の担い手」に必要なことと思われますが、春田先生はいかがお考えになりますか?

春田先生:ここは、「ことば」の登場の仕方をみても、全体としては、「わたしのまち」「みんのまち」ってどうなっているかな、というある意味“地域”“公共”を意識して、俯瞰する視点をもつ、みたいな単元なのかな~と思うと、「公共施設」だけで授業を拡げるのは、意識しないと難しいかもしれませんね。
私なら、ここを手がかりに「私たちの町には、どういう公共施設があったかな~」と調べ学習を宿題にして(町によって、おなじみの公共施設があるでしょうね~)、公共施設と私の施設(各人の自宅)とで、守らないといけない決まりに差があるか、たとえば、図書館(の本も含めて)や公園の遊具などで、静かにする、返却期間を守る、順番を守って遊ぶ、など、それぞれの公共施設毎に想定される決まりを思い出して、見つけてみて、それはどうしてなのか、を発表してもらう、という授業が楽しそうかなと思います。
そのやりとりの中で、公共(パブリック)というもの(=他人とか自分以外の大勢の人などの意味を含む)を意識するきっかけになるかもしれません。

 

――p.16~17には絵地図の整理方法が示されています。絵地図に使う「記号」を「みんなで決める」ことが紹介されており、「きまりをつくる」学習の機会になると考えられます。作業手順を話し合って、地図記号のきまりについて考えを深めるというのはいかがでしょうか?

春田先生:絵地図はおもしろいですね! 共通の言語化というか、コミニュケーションツールを発見し、作り出していく、という作業は、まさに、ルールをみなで、自主的に編み出していく作業につながるので、身近なものとして興味・関心をもてるでしょう!それが、各クラス→各学校→地区を越えた校区→日本全体で共通の何かを編み出すという普遍性をもつところにつながっていく嬉しい予感がします。

 

【教育出版『小学社会3・4上』】
「わたしたちの市の様子」
――この教科書でも、章の終わりp.46~47「広げ深める」のページに、「新しくつくられた地図記号」の説明があります。全国の小中学生から送られた意見を取り入れて、2006年に新しく4つの地図記号がつくられたそうです。「自分たちでも、いろいろな地図記号を考え出してみましょう。」と提案されています。これも、「きまり」を自分たちのこととして考え、新しくつくれることを示す事例でしょう。

② 地域の人々の生産や販売について

【東京書籍『新しい社会3・4上』】
「店ではたらく人」
――この章では、学校の近くの店やスーパーマーケットについて学習します。p.45に、スーパーマーケット見学の計画を立てるコーナーがあり、「気をつけること」の例が挙げられています。校外学習をする際のきまりを自分たちでつくることは、中学校の特別活動の教材例がありますが、「法教育」の絶好の実践になるようです。小学生でも当てはまるといいと思います。

春田先生:p.48「はたらく人にインタビュー」のところ
抽象的かもしれませんが、表舞台で働く人の対として、裏方で働く人が必ずいるという場面をあれこれ想像する(例えば、教科書ではスーパーマーケットが素材になっていますが)、子どもたちに身近な職場(学校でも、給食室一つとっても、作る人、献立を考える人、自校方式でなければ、センターから運んでくれる人など、)(コンビニでも、深夜はたらく人、商品をトラックで運んでくれる人)など、多種多様な職域があることを知って、発見して、役割分担しながら一つのものを創り上げているという意味で、公平などを考える背景につながるかもしれないですね。そして、そういう複数の人で働く職場だからこそ、一つの目標などに向かって、ルールや約束事があり、それをみんなが守ることで、店の信用などが維持されるのだ、など、応用は利きそうですし、調べ学習など、もっといえば、家庭の中で話し合い(お父さんの職場の話、お母さんの職場の話)をすれば、親子で法教育、にもつながる素材といえそうです。p.51~53の作り自体が楽しそうで、イメージが膨らみます。

 

――働く人たちの職場全体について、法的な観点から取り上げるのですね。スケールが大きく、新鮮な見方だと思いました。
スーパーマーケットを調べた後、p.57の「話し合おう!」というコーナーでは、お客さんの願いと店の工夫について教科書の空欄に書き込めるようになっています。例として、「安くて安全なものを買いたい」、「産地がわかるようにする」などが挙げられています。この2つの項目は、生産や販売に関する法やきまりのもとになる考え方だと思われます。さらに、この項目や自分たちの考えたことについて、つながりのあるものを線で結ぶ提案がされています。この作業を通して、目的に沿った法やきまりがつくられることに学習を深めていくことができるのではないでしょうか。次のページからは、リサイクルや盲導犬同伴可のマークなどの紹介があり、きまりについて一層考えを深める機会になると思います。

春田先生:とくにp.57の「話し合おう!」は、つまるところ、ある意味立場が異なる人(対立する人「買う人」「売る人」という意味で)の存在を前提に、それぞれの希望を叶えるためには、結局、相手の望むことや希望を推し量りながら、それを提供しあってこそ、お互いの希望が叶う方向に向かうのだ、ということで、“対立”“合意”という双方の折り合いをつけるという法教育のエッセンスにつながる教材にも使えそうです。
p.59「ことば 地域貢献」のところ
ここも、まさに、“公共”という“私”を越えたパブリックなものをイメージしやすいものですね。主権者として社会に参画していく意欲を“貢献”ということで子どもたちに伝えることにも資する可能性を秘めている切り口かもしれません。

 

「農家のしごと」

春田先生:p.64~79までの、ネギの作り方から売る場面までという、ある程度スパンの長い素材を調べ学習する視点によって、また、ネギをつくるための様々な工夫、の場面も、ルールは必要性と合理性があって存在する、あるいは、時代・世相(科学・文明の発展も含む)が変われば、ルール自体も変わっていくことにつなげようと思えばつながる、と私は楽しく読みました。このあたりは、夏休みの自由研究として、工夫次第で、面白く使えそうです。

 

【教育出版『小学社会3・4上』】
「買い物調べをしよう」
――この教科書も東京書籍と同様に、スーパーマーケットに見学に行く際の計画例がp.57にあります。「気をつけること」の内容もおおよそ同じようです。自分たちできまりをつくる学習ができるでしょう。

「上手な買い物をするために」
――店の見学をした後、p.66~67では家の人たちが買い物の際に気をつけていることが紹介されています。「家族の健康のため」や「安心しておいしく食べる」、「ごみやむだをへらす」という目的のために、原料の表示や賞味期限、リサイクルマークなどがつけられていることが示されます。これも東京書籍と同じく、生産や販売に関する法やきまりのもとになる考え方を示しており、表示やマークといったきまりによって、それを確かめたり考えを深めたりする機会となるでしょう。

③ 地域の人々の生活の変化や人々の願い、先人の働きや苦心について

【東京書籍『新しい社会3・4上』】
「のこしたいもの、つたえたいもの」
――地域に古くから残っている建物、祭り、芸能を調べた後、p.102~103では郷土カルタをつくる提案がされています。カルタ遊びをして「感じたことを話し合おう」という展開になりますが、教科書の記述だけでは淡々としています。
古くから伝わるものには「みんなのもの」という「公共性」があると考えられます。それをおさえた上で、「なぜ古くから伝わるものを残さなければならないか」を問うと、「公共性」についての考えが深められるのではないでしょうか。公共のものについて考えを深める場面があると、この章を「法教育」の趣旨にかなう学習にすることができると思います。
   たとえば、第44回千葉大学教育学部附属小学校公開研究会の3年生社会科において、「公共性を高める学習」として神楽継承についての授業例があります。(当レポート2011年3月24日掲載参照)その授業についての協議では、「伝えられなくてもいい」という意見をとりあげて議論を深めることが重要ではないかという提案がありました。参考になるのではないでしょうか。

春田先生:昔のことを調べるという意味で、私は江戸時代の裁判や聖徳太子のつくった最初の法律のお話などもいいと思いますが、歴史は6年生の上巻で扱うことになっていますね。そのときにお話しすることにしましょう。
残したいものという切り口では、博多でもそうですが、地域地域でおなじみの伝統行事(お祭りなど)があります。そこには結構、脈々と伝わるきまりなども多いので、それを地域の方にインタビューして調べられるかもしれません。さらに、そのきまりはどうして必要なのか、などを調べることで、地域ぐるみで改めてそのことを再認識し、地域ぐるみで法教育!になるかもしれない魅力的な素材です。

 

――伝統行事に関わる「しきたり」や「ならわし」なども、ルールということですね。なぜそのようなしきたりなども伝えていかねばならないか、いろいろ考えられそうです。ぜひ、楽しい授業を開発していただければと思います。
   3・4年「社会」の上巻には、新学習指導要領で「法やきまりについて扱うものとする」に該当する項目がありませんが、春田先生と一緒に教科書を見てきて、こんなに法教育の題材があることに気付かされました。先生の授業方法の1つとしては、まず教科書のテーマに沿った身近な事実の調べ学習をします。その中できまりを見つけたり、きまりの目的を考えたりします。きまりはなぜつくられたのか、自分には何ができるかなどについて、話し合う作業も組み込まれます。まとめとして、考えたことを文章や作品に表現し、発表するという一連の過程がとられていると思いました。そして、視野は広く柔軟に、日常生活から地域・世界にまで向けることができる発想に、楽しい授業づくりのコツを感じました。

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