第30回関東ブロック中学校社会科教育研究大会 その1

 2012年11月8日(木)、第30回関東ブロック中学校社会科教育研究大会が千葉県船橋市において開催されました。
大会主題は、「社会参画力を育てる社会科学習のあり方―『中心概念と単元の構造化』『問題解決型学習』『学び合い』を通して―」です。
 レポートその1では、当日のプログラムから基調提案と唐木清志先生(筑波大学)の記念講演の模様をお伝えします。(当日のプリントより適宜引用させていただきます。)

〈プログラム〉

10:00~10:20 基調提案
10:30~11:50 記念講演(ここまでは全体会場:船橋市民文化ホール)
13:30~14:20 公開授業(これ以降:4会場に分かれて開催)
14:40~15:15 研究協議
15:25~16:25 講演

1 基調提案

研究主題:「社会参画力を育てる社会科学習のあり方―『中心概念と単元の構造化』『問題解決型学習』『学び合い』を通して―」について
冨澤眞也 船橋市立大穴中学校教諭 関中社研・千葉社研実行委員会 研究部主任

〈主題設定の理由〉

 社会科の目標や、平成20年中教審答申と改正教育基本法において、「よりよい社会の形成に向けて主体性をもって社会に積極的に参加し課題を解決していく力の育成」が重視されています。また、今日の急速に変化する社会や東日本大震災による新たな課題に対応するためにも、子ども達の社会参画力を育てることが必要とされます。

〈社会参画力とは〉

 社会参画力とは、「よりよい社会の形成に主体的に参画する力」です。「社会」=現在および将来の社会、「参画」=出席と同義である単なる参加以上に、企画や運営にも関与すること、「力」=能力や態度とします。
 社会参画力を育てる社会科学習と授業の3要素(教材、教師、児童・生徒)の関係は、次のようになっています。
教師⇔教材:社会をとらえる力の育成 【教材論】①中心概念と単元の構造化
教材⇔児童・生徒:問題を解決する力の育成 【学習過程論】②問題解決型学習
児童・生徒⇔教師:かかわりながら学ぶ力の育成 【学習指導論】③学び合い

〈社会参画力の育成について〉

 「社会を捉える力」「問題を解決する力」「かかわりながら学ぶ力」という3つの力の育成により、社会参画力の育成を目指します。

① 中心概念と単元の構造化について
 中心概念とは、単元の中心となる概念で、知識・理解事項のこと。単元の構造化とは、中心概念を支える社会的事象を構造的に表すことである。単元のねらいを明確にし、単元構成(学習過程)をダイナミックに組むことができます。
② 問題解決型学習について
 戦後間もなくの「問題解決学習」は、子ども達を社会の問題に取り組ませる面をもつ一方で、系統主義からの「はいまわる社会科」という批判も浴びました。そこで、「問題解決学習」のスタイルに学びながらも、知識・理解の習得を図れるような学習過程を模索し、それを幅広く「問題解決型学習」として研究を進めてきました。中学校においては、「事実把握→課題把握→予想→検証→まとめ」という学習過程によって学習を進め、社会生活における問題とのかかわり方・解決の仕方を身につけさせます。
③ 学び合いについて 
 学び合いとは、学習者同士の学びの交流です。「質問・確認型」=質問や確認中心、「寄せ合い・深化型」=知識や知恵を寄せ合ったりして深化を図る、という2タイプが考えられます。
(以上、『千葉大会紀要』p.9~22より要約)

2 記念講演

「社会科と社会参画」
唐木清志 筑波大学准教授

〈「社会参加」と「社会参画」〉

 昭和22年5月に社会科が定義されたとき、社会科は社会参加を出発点としていました。今では、参加という言葉ではなく、企画や運営に関与する意味を表す「参画」という言葉が使われるようになりましたが、自分はあまりこだわらずにどちらも使っています。

〈中学生の社会参画意識など〉

 2008年に中学生を対象に行われたある質問紙調査によると、日・米・韓・中4か国のうち、「私の参加により変えてほしい社会現象が少し変えられるかもしれない」と考える生徒が最も少ないのが日本でした。「社会のことはとても複雑で、私が関与したくない」と考える生徒は日本が最も多く、政治問題や政府の決定に対しても同様な意識でした。従来の社会科教育では、中学生の社会参画意識は高まっていないように思えます。また、ベネッセの調査では、「教科をどのくらい好きか」尋ねる質問に対し、社会科は最低でした。教科の理解度についても、70%ぐらいまで理解している生徒の割合は、社会科が低くなっています。

〈新教育課程と社会参画〉

 しかし、数学のわかり方と社会科のわかり方は違うはずでしょう。「習得、活用、探究」に際して言語活動は大事ですが、社会科はそのような一方的な授業ばかりではありません。探究から始まり、習得し、活用して、また探究するというような、社会科固有のわかり方もあるはずです。
 社会科の学習指導要領改訂のポイントは、「習得」「言語活動」「社会参画」にあります。社会参画=行動というように狭くとらえるのは誤解で、行動は社会参画の選択肢の一つにすぎません。社会参画には「科学的社会認識」「意思決定・判断力」「実践力」の3つが大事です。この3つの能力観から、社会参画に関する学習を捉えます。

〈社会参画につながる視点から「今」の社会科授業を見る〉

 社会科授業で大切にされるべき3つの視点は、①社会問題を教材化すること、②話し合いを大切にすること、③子どもに自分の意見をもたせること、であり、それが社会参画につながります。
【足で稼ぐ教材研究】
 ①に関して、小学校の授業では、「つかむ」「調べる」「わかる」「深める」というように授業が進みますが、出発点の「つかむ」が大事で、「問題は何か」理解させるとともに、「子どもの意欲を高める」うえでもしっかり時間をかけるべきです。そのためには、先生自身が現地調査をし、足で稼ぐ教材研究をしていただきたいと思います。その方が結果的にはうまくいくでしょう。
【中心単元の構造化とは】
 ②に関して、話し合いを裁くには技術が必要ですが、中心単元の構造化がされていればできます。小学4年生の「山の自然を生かした人々のくらし」の授業では、「なぜ桧原村の人口が減っているのか」という問題について、子ども達は交通・労働・教育の問題があること(中心単元にそうした構造があること)に気づきました。そして、「村に残った人たちはどうやって暮らしていくのだろう?」という問題にたどりつきました。「問題が問題を生む」のが問題解決型学習の最も大切なところで、誘導をしてもかまいません。
【話し合いの構造化と価値判断】
 中学校の事例では、「再生可能エネルギーについて考える」地理の授業において、生徒が情報に流されて価値判断ができないことがありました。「国立公園内に地熱発電所を造る計画に賛成か、反対か」という議論だったのですが、賛成・反対の意見の背後にある事実と価値に目を向けると、価値判断基準がわかります。反対意見には2種類があり、1つは温泉業者の意見で、「温泉が出なくなるおそれがあり、そうすると安定した収入が得られなくなるから。」もう1つは環境保護の立場からの意見で、「絶滅危惧種がいなくなるおそれがあるから。」というものです。前者は個人的な価値、後者は地球環境という普遍的な価値をもとにした意見です。このように社会問題について事実と価値により構造化すると、生徒は自律的な価値判断ができるようになり、話し合いが噛み合います。先生には、話し合いが噛み合っているかどうかを見てほしいと思います。
【書くことの重要性】
 ③子どもに自分の意見をもたせることについては、「書くこと」で、普段は話下手の子どもの意見を見いだせることがあります。過度に話し合いを重視すると、それを見落とすことがありますから、気をつけていただきたいと思います。

〈社会参画の視点を生かした「これから」の社会科授業〉

 小学校の場合は、「自分たちにできること」を考えさせる社会科授業になります。「活かす」=「考えて提案する」ということです。子ども達の提案の質が、評価の対象になり、学習の成果が表れていないような、無責任で根拠のない提案は排除されるべきでしょう。このことは「つかむ」の大切さと呼応しており、話し合いの組織化をする必要があります。話し合いの組織化では、正確な知識を与えているかが重要です。「計画と協力」がキーワードであり、市町村や国の政策づくりとも無縁ではありません。子ども達の意識変容を長期的に見て、積極的にほめていただきたいと思います。
 中学校の場合は、「参加型学習」を取り入れた社会科授業を提案します。「参加型学習」には、ランキング、シミュレーション、ロールプレイング、KJ法などがあります。普段の生活からは遠い政治・経済・社会問題を、切実感をもって捉えられるという意義があります。中学3年生の「ミニ卒論」では、7年間の社会科学習の仕上げとして取り組んでほしいと思います。

〈「社会参画」から考える社会科の使命〉

 「今」の社会は変化する社会ですが、「今」の社会に「対応」できる子どもを育てるのでは不十分です。「これから」の社会を「創造」できる子どもを育てていただきたいと思います。「創造」のための子どもの可能性を引き出すのが、社会参画型の授業であると考えます。

〈ここまでの取材を終えて〉

 「話し合いの組織化」というお話は、大変興味深くお聞きしました。議論に際して、賛成や反対の意見の根拠となる事実と価値に目を向けることにより、生徒自身の自律的な判断ができるということでした。生徒に事実と価値に目を向けさせるには、先生が中心単元の構造化をして、問題となる社会的事象に関する知識・理解事項を把握しておくことが必要であると理解しました。
 このことは、ジュニアロースクールなどでも時々取り上げられていますように注1 、ある主張の正しさを判断するには、その主張の背景にある根拠事実と、理由付けを吟味しなければならないということと共通するように感じます。模擬裁判の際の話し合いと、社会科の問題解決型学習の話し合いの方法は、同様に構造化できるように思いました。
 政治・経済・社会の問題は、事実と価値という面から考えると、法的な価値に見方に関わる部分がきっとあるのではないでしょうか。社会問題を教材化し、話し合いを大切にして、これからの社会をどうしたらいいか考えることが、法的な社会参画につながると感じました。

注1:

 

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