第55回「法の日」週間記念行事「法教育in赤れんが」

 2014年10月4日(土)、第55回「法の日」週間記念行事の法務省イベント「法教育in赤れんが~法を身近に感じてみよう~」が法務省において開催されました。子ども向けから大人向けまで4種類のメイン・イベントのうち、小中学生向けイベント「ルールつくり体験」、および法教育マスコットキャラクターの投票の模様をお伝えします。

〈ルールつくり体験~グラウンドは誰のもの?~〉


13:50~14:35
参加者:10名
(小学2年生~小学6年生 男子6名、女子4名)
場所:法務省赤れんが棟会議室
講師:法務省職員

〈導入は「ここは妖怪の世界」〉
 会議室には3か所に椅子が円を描くように並べられており、それぞれ「ドッジボール」「サッカー」「野球」というグループ名が貼られています。そのすぐ周りが保護者席になっており、同伴の保護者も参観できるようになっています。スクリーンには、開始前から「ここは妖怪の世界」という文字が映し出されていました。漢字が読めない子どもがいたかもしれませんが、各グループに配置されている討論のためのファシリテーター(職員)に尋ねることも可能でした。子どもたちは、「妖怪の世界」ってどんなだろう、と考えているのではないでしょうか。(欠席者があったため、開始時は「ドッジボール」グループがなくなり、2グループだけになりました。)

講師:「ここは妖怪の世界です。妖怪の世界では、最近争いが起こっています。どのような争いが起こっているのか見てみましょう。では、VTRスタート!(被り物などをかぶった職員扮する妖怪が3名、次々と映し出され、子どもたちが嬉しそうな様子になりました。)
 妖怪の世界で人気のスポーツはドッジボールで、国民的スポーツになっています。ところが近年、人間界から伝わった野球とサッカーが大人気。おかげで妖怪の学校でも、スポーツをしたい時に、グラウンドをめぐって妖怪同士が争いをするようになりました。そこで、妖怪政治家「のっぺらんぼう」が、争いを防ぐための3か条を提案しました。」

〈「のっぺらんぼうの3か条」とは?〉

第1条:グラウンドは使用禁止。勝手に使用したものは、学校をやめないといけない。
第2条:体育でドッジボールをするときはグラウンドを使ってよい。ドッジボールは全員参加。参加しないものは学校をやめないといけない。
第3条:グラウンドの使用について意見を言うことは禁止する。

〈第1条について、グループ討論〉
講師:「第1条にはいいところはありますか?第1条に賛成する人がいるとすると、どうして賛成するのでしょうか。グラウンドをみんなが勝手に使わないと、どんないいことがありますか?グループで話し合ってみて下さい。」(2~3分間)
子ども1:「争いがなくなる。」
子ども2:「けんかをしなくなる。」
子ども3:「全員いい子になる。」
(ホワイトボードには「良いところ  大切なこと  悪いところ」という項目が書いてあり、子どもたちの意見は次々に「良いところ」に書き加えられました。)

講師:「では、1条の悪いところは?」
(「いいところ」のときよりもはるかにすごい勢いで、みんながグループ内で意見を言い始めました。)
子ども4:「このきまりを決めた人の悪口を言うようになる。」
子ども5:「ストレスが溜まる。」
子ども6:「運動不足になる。」
子ども7:「学校に行くよりもグラウンドを使いたい人が出て、学校をやめる人が多くなる。」
子ども8:「スポーツへの関心がなくなる。」

【「争いやけんかを防ぐこと」vs「みんなが学校で学べること」、どちらが大切?】
講師:「たくさん悪いところが出ましたね。たとえば「学校に行きたい人が学校に行けなくなる」という悪いところがあります。では、「争いやけんかを防ぐこと」と「みんなが学校で学べること」、どちらが大切でしょうか? どちらが大切か、もう1度考えてください。」
子ども9:「学校へ行かないと就職できない。」
子ども10:「学校へ行かないと勉強できない。」
子ども11:「学校の方が大事。」
講師:「どちらも大事という意見や、学校が大事という意見が出ました。事情によって違うかもしれませんが、学校で基本的なことを学ぶことは、人としてとても重要なことです。学校では、大きくなって仕事や生活をしていくために必要なことを学びます。学校で学ぶことは、生徒にとって、とても大切なことですので、簡単に禁止してはいけません。争いは他の方法でも防げるでしょう。」

〈お化けのガリバー登場〉
講師:「ガリバーは、お化けの世界の学校から妖怪の世界の学校に去年転校してきました。お化けの世界では、物を投げてはいけないという習慣がありました。ドッジボールはボールを投げるので、ガリバーはドッジボールをやりたくないと思っています。第2条は、「ドッジボールはみんなが好きなスポーツだから、ドッジボールを国民的スポーツにすべき。」という理由で提案されています。2条の良いところは?話し合って下さい。」

〈第2条について、グループ討論〉
【2条のいいところ】
子どもたち:「仲よくなれる。」「連帯感が出る。」
講師:「では、2条の悪いところは何でしょう? ガリバーは、妖怪の世界に来てもお化けの世界の習慣に従って暮らしているんでしょうね。」
【2条の悪いところ】
子どもたち:「将来の夢がサッカー選手や野球選手の人は、夢がなくなる。」「決めつけられると嫌になる。」「決めつけられるドッジボールが好きな人も嫌になる。自由がいい。」「ガリバーは、ドッジボールをやりたくない。」「ドッジボールをする人が嫌われるようになる。」「学校に行きたくなくなる。」「仕事が減って先生の給料が減る。」「サッカーや野球をやりたい人と争いになる。」

【「国民的スポーツのドッジボールをみんなが行い、連帯感を高めること」vs「ドッジボールをやりたくないというガリバーの考えを大切にすること」、どちらが大切?】
講師:「2条にもいいところと悪いところがありました。では、「国民的スポーツであるドッジボールをみんなが行い、連帯感を高めること」と「ドッジボールをやりたくないというガリバーの考えを大切にすること」は、どちらが大切でしょうか? また、みんなで考えてください。」
子どもたち:「ガリバー(やりたくない人)の考えが大切。」「やりたくない人もやらなくてはいけないときもある。」「ちゃんと考えた方が友情よりも大切な時もある」「一人ひとりが考えたことは大切だ」

〈第3条について、考える〉
講師:「自分なりの考え方をもつことができることは、人が生きていくうえでとても大切なことですよね。ガリバーも自分なりの考え方をもって生活できればいいですね。
 次に、第3条を考えてみましょう。自分の意見を言えないなんて、ひどいですよね。自分の気持ちを伝えることや意見を言うことは、人として当たり前でとても重要なことです。自分の気持ちを伝えることは、自分がやりたいことを実現することに役立ちます。また意見をいうことで、より良い社会をつくれることにもなります。
 「のっぺらんぼうの3か条」にはいいところと悪いところがありました。では、法律が良い法律か悪い法律か、どうやって考えればいいでしょうか? それには、「人が人として生きていくうえでとても大切なものは傷つけてはいけない」という考え方が大事です。今日は、それをみんなで考えましたね。妖怪の世界だけでなく、人間の世界にも人が人として生きていくうえでとても大切なものを傷つけないように工夫がされています。みなさん、国会って知っていますか?(知らない子どもが多数。)選挙で選ばれた国民の代表者が国会で法律をつくります。そして法律は多数決でつくるかどうかを決めます。つまり、法律は、できるだけたくさんの人を幸せにすることを目指します。一方、憲法には、人が人として生きていくうえでとても大切なもの(基本的人権といいます)が書いてあります。そしてたった一人にとっての「とても大切なもの」を傷つけるときは、いくら多数決でより多くの人が幸せになる法律をつくろうとしても、つくれません。「のっぺらんぼうの3か条」は基本的人権を傷つけ、憲法に違反する可能性があるので、法律にすることをやめました。」

〈応用問題:塾の日と野球の練習日が重なる“涙の3人衆”は?〉
講師:「でもこのままだとまた争いになります。そこで妖怪の世界のグラウンドの使い方について、みんなでルールを考えてみましょう。先生もルールを考えてみました。ドッジボール=月・火、サッカー=水・木、野球=金・土と割り振るルールです。ところが、野球がやりたい妖怪のうち3名は、金曜と土曜に塾があってできません。この3名を“涙の3人衆”といいますが、どう思いますか?」

【グラウンドを曜日で割り振るルールのいいところ】
講師:「このルールのいいところは何ですか? 意見を言って下さい。」
子どもたち:「争いがなくなる。」「やりたいスポーツを曜日によってできる。」「公平になる。」「平等である。」

【このルールの悪いところ】
子どもたち:「雨が降ったらどうしよう。」「祝日があると差が出る。」「試合の都合を考えてほしい。」「涙の3人衆はかわいそう。」

【「大多数がグラウンドを使えるようにすること」vs「使えない曜日がある人のことを考えてあげること」、どちらが大切?】
講師:「公平なルールだと思いますが、涙の3人衆がかわいそうですね。「大多数がグラウンドを使えるようにすること」と「使えない曜日がある人のことを考えてあげること」は、どちらが大切ですか?」
子どもたち:「一人のために曜日をずらすと、きまりが不公平になる。」「都合を聞いているときりがなくなる。」「曜日をずらす。」「多数決で決めればいい。」「ガリバーの考えを大切にすることが大事なのだから、どんなに大人数でも3人のことを考えてあげるのがよい。」
講師:「ルールづくりで大切なこと」は、次のことです。
〔1〕相手の意見の理由(良いところと悪いところ)を考えよう。
〔2〕どちらの(どの)意見がよいだろうか?これを考えるときに、2つの観点が必要です。
  ・よりたくさんの人の幸せ(多数決で決める)
  ・人が人として生きていくうえでとても大切なものを傷つけていないか
〔3〕人が人として生きていくうえでとても大切なものを傷つける場合は、多数決を使えません。

 グラウンドについてはどのようなルールがいいか考えたかったのですが、残念ながら今日はもう時間がありません。先ほど曜日をずらすという案が、2つのグループそれぞれで出ていましたね。みんなで話し合って、みんなが使える曜日を考えると、1つルールがつくれると思います。
 たとえば「学校の給食は、残してはいけない」というルール。みんなの健康を考えるといいルールかもしれませんが、アレルギーで食べられないものがある子がいたらどうですか? その子にとっては、健康をおびやかすルールになります。ルールを作る上でたくさんの人の意見を取り入れるということも大事ですが、誰かの人として生きていくうえでとても大切なものを傷つけていないか、ということを考えることも大事です。妖怪の世界ではみんなが考えてくれたようなルールができて、争いがなくなったそうです。今日はありがとうございました。」

〈授業後に、法教育マスコットキャラクター人気投票〉

 授業が終わると、その場で法教育マスコットキャラクターの投票が呼びかけられました。投票箱の1つが会議室の出口の横に設置されていました。今夏に応募された426点の作品の中から、特別審査員の審査を受けて選出された10点のキャラクター候補がポスターになって貼られています。子どもたちやいっしょに訪れた大人も、思い思いにお気に入りのキャラクターに投票していました。どの作品が人気ナンバー1になるでしょうか?!投票は郵送やメールでも可能で、11月28日まで受け付けられました。

〈取材を終えて〉

 授業を受けた子どもたちからは、「学校では、このように考えて意見を言う授業は受けたことがない。」という声が聞かれました。小学2年生から6年生までと、年齢の幅があるにもかかわらず、みんなから積極的に意見が出ていたのが印象的でした。VTRの最初に妖怪キャラクターが登場し、子どもたちの気持ちをぐっと授業に引きつけたおかげではないでしょうか。3つの法律案も切実感のある内容で、特に「悪い点」がたくさん挙げられていました。子どもたちは、考えて意見を言うことを楽しめたのではないかと思います。
 「グラウンドは誰のもの?」という副題から、グラウンド使用を曜日や時間・場所などによって割り振るきまりをつくるのかな?と予想していましたが、授業はまず「どんなきまりがいいか、悪いか」について、実際にきまりのいいところと悪いところを見つけるところから始まりました。そして、「きまりにとって大切なこと」をみんなで共有してから、グラウンドのきまりをもう一度考えました。グループ討論の時間を取りながらもスピーディーな展開により、45分間でこれだけ討論できたのは素晴らしいと思います。
 法教育マスコットキャラクターについては、大人からも「○番がかわいい。」といった声が聞かれていました。キャラクター募集と人気投票を通じ、法と法教育への関心が広まることを期待したいと思います。

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