教科書を見るシリーズ 小学校編「国語」(5)第6学年 後半

第6学年前半に引き続き、光村図書の教科書後半と教育出版社の下巻を塩川泰子先生とともに見ていきます。

〈『国語 六 』光村図書(2015年)後半(p.108~)より〉

【自然に学ぶ暮らし】(p.180~188)
 地球の資源が少なくなってきているので、資源の利用の仕方を一から見直すと同時に、新しい暮らし方を一から考えていかなければならないという意見が述べられています。その根拠として、自然の仕組みに学ぼうとする事例がいくつか挙げられています。

――この教材は、「自然」という理科系のトピックではありますが、「新しい暮らし方」の在り方を考えようと呼びかけていて、社会の在り方を考えさせる側面もあるかと思います。
第6学年前半の【未来がよりよくあるために】(p.92~104)「未来の社会がどうなっていてほしいかを考え、意見文を書く」では、「社会をよりよくするために自分にできることを考える活動は、社会参画の一部であり、法教育に求められていること」と確認しましたが、この教材はどうでしょうか?

塩川先生:そうですね、「よりよい社会にするためには?」という視点でみること自体が法教育の目的の一つだと思います。これまた、「法教育をやるぞ!」と意気込まなくてもよいと思うのですが、この教材を通じて「地球の未来」ですとか、「人と自然との関わり」、「人と人との関わり」、「生活の便利さ、不便さ」のような壮大なテーマを小学生なりに考えてもらうというのはとても大事なことです。

 

――そうですよね。一方で、この教材は、理科系といいますか、シロアリの巣に学んだ空気調節の仕組みなど、小学生が「自分にできることを考える」といった中身ではないようにも思えます。

塩川先生:いえいえ、シロアリの巣に学んだ空気調節の仕組みなどを開発した今の研究者も、元は小学生だったんです。先生方の前にいる小学生の誰かが研究者になることだってあります。
この教材の冒頭で、省エネに取り組んだことがあるだろうけれども、それだけでは追いつかないほど、地球の資源は少なくなってきていると筆者は言っていますよね。これに対して、「うわー、やべー」くらいの感想でもいいんです、そんなふうに言ってくれた子がいたら、「やばいよね。シロアリの巣に学んだ空気調節の仕組みみたいなものを考える研究者になってみる?」というようなことを返してあげたらいいんです。「うわー、やべー」というのは、「地球の資源問題」のような小難しそうな問題が「自分のこと」と感じたサインです。これを逃さず、「じゃあ、あなたはそれにどうアプローチする?」というアシストをしてあげればいいんです。もちろん、「えー、理科苦手だから、研究者はやだー」とか、乗り気じゃない返事が返ってくることもあると思いますが、「自分のこと」として考えるというクセをつけてあげること自体が大切です。「えー、大人がちゃんとやってよー」とか言われたら「大人も頑張ってるけど、みんなの方が先生よりも後に死ぬだろうから、やばいかもよ?」って突き放してあげてもいいかもしれません(笑)あと、当たり前のことですが、「みんなも大人になるんだよ?」というのもアリですね。
こうやって、小難しそうなことを自分なりにアプローチするという思考訓練をすること自体、大げさな言い方をすれば、「社会参画の一部」です。「研究者はいやだったら、どうする?」「研究者を応援する?」「とりあえず、今やってる省エネをもっとちゃんと頑張る?」「今、いきなりはわかんないけど、他にどういう取組みがあるか、関心をもって調べてみる?」そういった思考訓練から、社会への興味がつながっていくはずです。
著者もそういう気持ちで、「私たち」は、「新しい暮らし方」を考えていかなければいけないんだって投げかけているわけですよね。

 

〈『ひろがる言葉 小学国語6下』教育出版(2015年)より〉

【意見文を書こう】(p.52~57)
 「説得力のある文章を書こう」という趣旨のもと、冒頭に「根拠をはっきりさせ、構成を考えて書きましょう。」と示されています。そして、序論・本論・結論という構成の例に沿って文章を書く方法が示されます。序論では、自分自身の体験やマスコミなどの資料や話し合いの中から、日々の生活の中で疑問に思ったことやこうした方がよいと思ったことを探して課題にします。その課題について、自分の意見を明確にし、意見の根拠となる情報を集めます。取材メモをもとに、本論で意見とその根拠、具体例などを書きます。結論では、まとめの主張を書く、という例が挙げられています。さらに「減らそう食べ物のごみ」という文例では、予想される反対意見を示して、それに対する反論も書くことが紹介されています。資料の引用の仕方への注意も掲げられています。

――この教材も、上記の光村図書の【未来がよりよくあるために】と似たテーマですね。【未来がよりよくあるために】でも、意見の根拠として資料を調べることが示されていました。「日々の生活の中」における課題を探すというところが、身近な感じでしょうか。

塩川先生:そうですね、どの教科書も、意見の根拠として資料を調べてまとめさせるという訓練をさせる教材が入っているのですね。

 

――これまで繰り返し述べられてきましたが、根拠をあげて事実を示し、自分の考えをまとめることが法教育の基礎として大事ということが思い起こされます。第6学年はその集大成として、より社会へ視野を広げるよう促されているように感じました。

塩川先生:まさしくそのとおりだと思います。感情に訴えかけるだけではなく、どういう資料に基づいて、どういう事実があって、その事実から何をいえるかを分析的に考えるということは、どの職業に就くにしてもとても大切な力です。上でとりあげた【自然に学ぶ暮らし】(p.180~188)が主に「社会参画」の発想を鍛えるものとするなら、こちらは主に「社会参画」する上での基礎トレーニングのようなものですね。

 

――「日々の生活の中」における課題を探すにあたって、何か注意すべき点はあるでしょうか。

塩川先生:基本的には何でもいいと思います。どんな課題であったとしても、調べる、分析する、構成するという基礎トレーニングはできますから。もちろん、時事ネタだと「社会参画」の発想を鍛えつつ、基礎トレーニングをすることができます。あと、前回もコメントしましたが、社会科の授業と連動するのも一つの手だと思います。

 

――これまで、小学校第3学年から第6学年までの国語教科書を3年間かけて見てきましたが、ご感想などありましたらお聞かせください。

塩川先生:大人になって、改めて小学校の教科書をじっくりと見てみて、「こんなに丁寧に作られていたんだ!」と思いました。教科書出版に関わる方々から学校の先生まで、みんな、小学生を社会に送り出すために一生懸命支えてくださっていたんだと感謝しきりです。それほどまでに、「社会参画」のために必要なものを鍛える教材がつまっていると感じました。

 

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