法教育推進協議会傍聴録(第39回)

 2015年12月25日(金)10:00~12:00、第39回法教育推進協議会が法務省において開かれました。今回は、法教育に関する法務省の取組み4つが報告された後、高等学校向け教材作成と視聴覚教材作成、今後の取組みなどについて議論が交わされました。
それらについて、かいつまんでお伝えします。

1 報告事項

(1)車座ふるさとトーク実施
 法務大臣が地域を訪れ、人々と車座になって話し合い、その成果を政策に生かすという趣旨で実施されています。法務省でも、全国各地で車座ふるさとトークを実施しており、今回のテーマは、「法教育の推進に向けた地域のネットワークづくり~群馬県の取組を参考に~」でした。(法務省ホームページ参照http://www.moj.go.jp/KANBOU/KOHOSHI/no51/3.html#report03
 群馬県では、全国で初めて、法教育に携わる関係機関などが連携して都道府県単位の恒常的な組織として「群馬県法教育推進協議会」が設立され、活発な活動を展開しているとのことです。9月12日(土)に行われた車座ふるさとトークでは、上川法務大臣(当時)が、トークに先立ち高崎市立佐野中学校の3年6組で模擬裁判授業を見学しました。トークの参加者からは、率直で有意義な意見がたくさん寄せられたそうです。

(2)第56回「法の日」週間記念行事「法教育in赤れんが」実施
 10月3日(土)に今年も「法の日」週間記念行事「法教育in赤れんが」が実施されました。司法法制部は小・中学生向けプログラムの「ルール作り体験!~不思議な森でホウリス君とルールを作ろう~」と、高校生・一般向けプログラム(2)「プロと一緒に模擬裁判」を担当しました。当日は、前年を大きく上回る450名超の参加者があったそうです。

(3)法教育マスコットキャラクター「ホウリス君」の活用
 ホウリス君のクリアファイル3万枚が作成され、早速、車座ふるさとトーク、「法の日」週間記念イベントなどの参加者に配布されました。今後も、出前授業、学校外の各種イベント等にも活用し、法教育の認知度向上に貢献したいとのことでした。ホウリス君と同時に入賞したLaw則くんなどのキャラクターの活用も、今後考えるそうです。
 ホウリス君に関連し、法務省以外の関連団体に既存のキャラクターがあれば、連携することも考えられるのではないかという意見が出ました。ホウリス君の女子版や中性化、スマホにおける活用なども忘れずに、との要望もありました。

(4)専門学科及び総合学科高等学校における法教育の実践状況に関する調査研究の進捗状況
 法教育の実践状況に関する調査研究は、法教育の実践状況や当該学校からの意見や要望を把握するという趣旨で行われています。今回の調査は、今のところ回収率約30%だそうです。2016年1~2月頃に集計・分析が行われ、3月の当協議会で報告が行われる予定とのことです。
 委員からは、調査の意義として2つの点があげられました。1つは、この調査は基礎データとしての意義があり、研究の出発点としての必要を満たしていること。もう1つは、法教育を実際に行っているのに法教育であることを認識していない教員に対し、教育内容を法教育という視点で捉えてもらう機会になっていることです。今後は、調査の使い方として、まず、当協議会が調査から何を知りたいのか、目的を話し合うといいという提案がされました。目的を明確にし、それに沿ってデータを再構築することが考えられるそうです。

2 協議事項

(1)各種教材の作成について
〈広報部会での意見報告〉
 高校生向け法教育教材と視聴覚教材等の作成について、12月に行われた広報部会での意見が報告されました。それによると、視聴覚教材等については、ブレンド型学習、反転授業の提案があったそうです。事前に講義部分を視聴覚教材で自宅学習し、授業では対面型指導とコンピューターを介した指導をする方法です。小中学校向け教材の導入やまとめで活用することも考えられるそうです。高校生向け教材については、学習指導要領上重要な部分に厚みを持たせて作成するのが、現場での使い勝手が良いのではないかとのことでした。

〈各種教材のコンセプトについて〉
 次のような意見が出されました。
・現行教科に合わせた教材を作成するのか、それとも学習指導要領が改訂される時期が近いものについては温めておくのか、はっきりするといい。
・1つ教材を作ればいいのではなく、いろいろな分野においてバリエーションがあるのがいいと思う。教材集のページをめくって、目にとめてもらえるものが望ましい。
・教員をターゲットにすることを考えるといい。どんなことを、どんなふうに教えたら法教育になるか、広報活動が必要と思う。
・検索する場合は、「法教育」という言葉は使われないと思うので、違うトピックがいいと思う。
・視聴覚教材は学校でどのくらい使われているのかも調べたらいい。教室で見せるのか、家で見てくるのか、使い方も考慮しないといけない。子どもが見て、楽しいことも重要である。
・高校の教材については、知識を広げる方向よりも、中学までの知識を実例の中で活用し、理解を深める方向がいいと思う。ディスカッションの中で法的考え方を深めることができるのか、考慮する必要がある。中学の法教育内容から深められる内容を取捨選択するのがいいと思う。
・『はじめての法教育』が出た時はまだモデルを作る段階だったが、その後、いろいろな教材が出ていると思うので、それらも調べるといい。
・小中学校は教科単位で動くが、高校は科目で動くので、時間配当が限られている。現実を踏まえることが大切。12年間でしっかり身についてほしいことを重点化するのがいいと思う。 

〈作成の体制について〉
 教職員、教育研究者、法学研究者、法曹関係者の方々に入ってもらうことが検討されています。各教材作成部会は法教育推進協議会の下に置くことで、統一的方針に基づいた作成ができると考えられています。高校生向け教材作成については、各テーマごとに3~4名で作成チームを作る予定です。視聴覚教材・モデル授業の作成については、どのような教材や授業が有益かということから協議してほしいとのことでした。今後は、3月の協議会で作成体制等を決めることになるそうです。

〈テーマ等について〉
 視聴覚教材について、小・中・高校向けに関し、内容やどういうものなら普及に効果的かなど、まだこれから検討するとのことです。学習指導要領の改訂は、来年度中に小中学校について告示が出るのではないかとのことです。高校に関してはその後になるので、だいぶ先になるようです。学習指導要領の改訂を見越して作成していくのが適当だろうという意見が出ました。作成作業に関しては、文科省や現場の先生の意見を聞いたり、有意義な教材をピックアップしたりするのがいいという意見が複数ありました。

(2)法教育の更なる普及・充実に向けた今後の取組み等について
〈公職選挙法改正による選挙年齢引き下げを踏まえた法教育として目指すべき方向性〉
 先の広報部会では、この件に関し、選挙年齢引き下げは法教育にとって追い風にはなっているけれど、あくまで政治と法の教育の分野の話題であるという意見の一方、この機会に積極的にアピールすればいいのではないかという意見も出たそうです。委員からは次のような意見がありました。
・すべての都道府県にとって重要な事柄。東京都では、高校向けに指導資料を作成して配布した。主権者教育・租税教育・法教育と様々なものがあって現場には負担感があるので、先生にとって使いやすいものを開発しようと計画している。
・公共ということを考えるとき、主権者教育が柱になる。政治と法の関係もあり、法教育的に主権者教育を捉えたらどのような教材ができるか提案していくことが重要だと思う。
・法教育の視点から主権者教育の教材を作ることは大切。投票行動に矮小化せず、何をもって主権者教育とするのかが重要だ。自由で公正な民主主義社会の担い手を作ることが、主権者教育だと思う。広い意味できちんと捉えたうえで、だからこそ法教育が必要であると提案することが広報になる。
・主権者教育と法教育は対立する概念ではなく、一体化してやるといいと思う。

〈今後行うべき取組みや調査〉
 広報部会からは、法教育関係機関のネットワークの可視化をしてほしいという要望があったとのことです。具体的には、現場が連携先を求める際のアクセスをホームページなどで公開すること。ワンストップ・サービス。教材のネットワークが遅れているのではないか。官庁間の連携をしてほしい、といったことでした。

〈中長期での法教育の普及・推進を評価する測定指標の在り方〉
 法教育の普及政策をPDCAサイクルで測定できるといいのではないかとの考えから、この議案が取り上げられました。広報部会では新聞のデータベースのヒット件数、法教育が先生向けのメディアに取り上げられている頻度などの案が出たそうです。委員からは次のような意見がありました。
・サプライサイドの調査だけでは不十分だ。教育の普及ということは、児童生徒がどれだけ理解して主権者らしくなったかを測定しなければならない。大学入試センター試験の問いの結果などが利用できないかと思う。
・国立教育政策研究所の学習指導要領実施状況調査で、小中高校の結果が順次公表される。法教育に関する設問がいくつか入っているので、参考になるかもしれない。

(3)今後の法教育広報部会の在り方について
 広報部会は、平成22年度から4年間実施された法教育論文コンクールを審査するための法教育普及検討部会として発足したという経緯があります。平成26年度からは広報部会と名称を変更して現在に至っています。このほど新たに教材作成部会が作られるので、人的資源の面からも、広報部会は協議会本体に吸収される方向となりました。

〈取材を終えて〉

 各種教材作成については、活発な議論が交わされました。法教育の教材はすでにネット上や各県の教育センターの指導案集に掲載されていたり、学会等で発表されていたりします。これらを参考にしようとするには、データベース化することが考えられるとのことですが、その際には著作権や加工が可能かどうかなど、考慮しなければならないことがいろいろあるようです。教材のバラエティーは現場から一番要望のあるところです。教材作成部会が新たに作られることで作成が具体化し、法教育の更なる普及につながるといいと思います。

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