2016年度第一東京弁護士会夏休み子ども法律学校(民事編)

 2016年8月22日(月)13:00~17:00、第一東京弁護士会主催の2016年夏休み子ども法律学校が弁護士会館で開催されました。夏休み子ども法律学校は刑事編(刑事模擬裁判員裁判)と民事編に分かれており、民事編の様子をお伝えします。テーマは「シュークリームを公平に分けるには?」物を分けるときに、どうやって分けるのが公平かを考えます。屋外は台風9号が通過する中、小学校5・6年生の子どもたちが5つの班に分かれて真剣に話し合いました。(当日の配布資料より、適宜引用させていただきます。)

〈プログラム〉
13:00~14:10 挨拶
        1.練習問題
14:20~15:50 2.「シュークリーム」分配問題
16:00~16:50 発表
        講評、修了証書授与

1 練習問題

司会:「今日のプログラムは、物を分けるときにどうやって分けるのが公平かということを考えてもらいます。最初に4つの約束をしてください。
【4つの約束】
〔1〕 自分の意見をきちんと言おう。意見には理由をつけよう。
〔2〕 他の人の意見をきちんと聞こう。
〔3〕 他の人の意見を聞いて、それに対して自分の反対意見を言ってもいい。ただし、反対意見は人に対して言うのではなく、意見に対して言おう。
〔4〕 自分の意見を言って、人の意見を聞いたとき、考えを変えるのは遠慮しないで変えていい。
  では、まず練習問題をしましょう。」

【問1】生卵を4個もらいました。5人で公平に分けるには、どうしたらいいですか?
女子1:「いらない人には分けない。」
司会:「みんなが欲しいと言ったら?」
女子1:「1つを半分にする。」
司会:「生卵だよ。」
女子2:「卵を割ってかき混ぜて、5等分にする。」
司会:「素晴らしい。たとえば、全部使って卵焼きを作って、それを5等分するというように、工夫すると上手に分けることができますね。」

【問2】苺のショートケーキ1個を友達と2人で分けるには?
男子1:「苺も含めて縦半分に割る。」
司会:「なるほど。」
男子2:「下のスポンジと上のスポンジに分ける。」
司会:「それで公平ですか?」
男子2:「苺が好きな人もいれば、クリームが好きな人もいるから。」
司会:「君は?」→男子2:「苺です。」
司会:「友達も苺だったら?」
男子2:「2人で話し合って決める。」
司会:「話し合う。それも1つの決め方だね。」
女子3:「苺があって小さい方と、苺がなくて大きい方に分ける。」
司会:「友達と同じ方がよかったらどうするの?」
女子3:「違う方でいい。」
司会:「どっちでもいいけれど、友達がいい方を譲るんですね。」
女子4:「2人で食べずに、他の人に譲る。」
司会:「それも1つの考え方ですね。他にアイデアは? 苺を半分に切るのも、難しいよね。どうしてもピッタリ同じに分けるのは。」
男子3:「ケーキを切る人と選ぶ人を作って、切る人は先に選べないことにする。」
司会:「そうするとどうして公平ですか?」
男子3:「切る人は大きさを公平になるように切る。選ぶ人は、同じように切れているからいいはず。」
司会:「もし大きさが違ったら、切った人がちゃんと切らなかったということだから、小さい方になっても仕方ない。自業自得ということですね。さっきまでの話とどう違うかというと、さっきは同じように分けることに着目していました。今のは、分け方の手順に着目して公平を考えています。」

【問3】苺が3個のったショートケーキを3人で分けるには?
司会:「今の考え方をもとにすると、まず1人が3等分になるように切る。残りの2人が自分の分を選び、切った人が最後に選ぶことになります。最後の1個が小さくても自分で切ったから、仕方ない。」

【問4】苺が6個のった大きなケーキを5人で分けるには?
司会:「グループで、分け方を話し合ってください。5分間です。」(A~E班まで5つの班に子どもが3~4名ずつと、サポート役の弁護士が2名ずつ着席しています。)
A班:1人切る人を決めて、その人が6等分する。切った人以外の人が選び、残りの2つを切った人がもらう。理由は、切る人は2つ貰えるなら、ズルをしようと思わないから。
B班:最初に苺を外してスポンジだけを5等分し、苺はジャンケンで決める。他の考えとして、6等分して、残る1個もさらに5つに分けるという案もあった。
C班:6等分して、誰かが1個多くもらう。誕生日とか、何か理由のある人。誰も何もなかったら、近くにいる人にあげる。
D班:苺を1つ抜いてケーキを5つに分ける。1個の苺はジャンケンで決めるか、残しておく。
E班:6等分して、切った人が最後に選び、残りの1個も5等分する。または、最後の1個を誰か他の人にあげる。
司会:「あえて1つ余らせるとか、順番に着目する提案も出ました。」

【問5】苺が8個、チョコレートのプレート、ろうそくの付いた誕生ケーキを妹の誕生日に買いました。このケーキを選んだのは僕(兄)です。祖母と父、母、妹、僕の5人で分けるには?
司会:「【問4】と違うのは?さっきは5人が対等の立場でした。今度は妹の誕生日のためのケーキです。さっき誕生日のことをいったC班、どうしますか?」
C班:「チョコは妹にあげて、8等分し、5人が1切れずつ取った後、妹がもう2つもらう。ケーキを選んだお兄ちゃんももらう。」
司会:「どうして子どもにあげるの?」
C班:「子どもは食べ盛りだから。」(笑)

【問6】【問5】の状況に、さらに祖母は苺が嫌い、ケーキは兄のお小遣いで買った、妹はまだ3歳、という事情が加わると、どう分けたらいいですか?
【結果】A班は、兄が考えてみんなに分けたらいいという意見でした。理由は、自分のお金で買ったし、みんなのことを考えて分けられるからということでした。その他の班は、苺を祖母以外の人で分けるようにし、妹がケーキを多めに貰うという方向が共通でした。
司会:「いろいろな案が出ました。みんなで話し合うと、様々な意見の中からいい案が選べるかもしれません。みんなで話し合うことは大事です。」

【問7】「筍を採りに行こう!」まみさんのおじいさんは竹林を持っています。春に、まみさんは友達のゆうた君とたかし君の3人で、おじいさんの竹林の筍を掘りに出かけました。特大の筍が1個、大きいのが2個、小さいのが7個採れました。ゆうた君は10本の筍のほとんどを掘りました。重い鍬もずっと持ち、大変だったと言っています。まみさんは、筍を見つけました。一番大きい筍はまさんみが見つけたものです。おじいさんが筍を楽しみに待っているそうです。たかし君は遊んでばかりいたといわれていますが、ほとんどの筍を見つけて、鍬を持っているゆうた君に教えてあげたのだと主張しています。(班で5分間話し合い)

〈結果〉
A班:まみ=特大1個、小5個
   ゆうた、たかし=それぞれ、大1個、小1個
B班:まみ=特大1個、大2個、小1個
   ゆうた、たかし=それぞれ、小3個
C班:その場で調理して、おじいさんも呼んでみんなで食べる。
D班:まみ=特大1個、小3個、理由=もともとおじいさんの山だから。
   ゆうた、たかし=それぞれ、大1個、小2個
E班:D班と同様の意見や、大きいのは3人で分けて小さいのは全部ゆうたの物とする、または筍ご飯にして3人で分けるといった意見が出ました。

 A班、B班、D班のように、まみさんに多く分けるとする意見では、まみさんがおじいさんと別居しているという前提らしく、まみさんがおじいさんに筍をあげられるようにという配慮からでした。どの班も、「おじいさんの竹林だから、おじいさんにお礼をするために筍をあげる」という理由が出ていました。
司会:「ただ同じように分けるのが公平なのではなく、分け方のプロセスの順番や、人の事情に着目した方が、みんなが納得する分け方になることを考えました。」

2「シュークリーム」分配問題

【問】ひまわり町は大地震と大津波で大きな被害に遭いました。避難所では最低限度の食糧は確保できていますが、非常食などばかり食べています。そこへシュークリームの差し入れが300個ありました。ところが、避難所には500人の人がいます。あなたは被災者の1人で、この避難所のリーダーを務めています。このシュークリームをどのように配ったらよいでしょうか?(当日資料より要約)
【ここで避難所の人たち登場】
 (上述の資料が読み上げられた後、弁護士扮する避難所の人たち5名が登場しました。)
高木さんは避難所から往復4kmの道のりを歩いてシュークリームを受け取りに行ったそうです。5歳の子の母親である吉田さんは、自身の子どもがシュークリームを好きであると話しました。今朝隣町から移ってきた古川さんは、この避難所で朝食の配給を受けておらず、おなかがすいているそうです。高齢の祖父を抱える星さんは、「シュークリームをおじいさんにあげたいけれど、おじいさんは糖尿病があり食べられません。」と言っていました。高橋さんは東京からボランティアに来てくれた大学生でした。
【現在ある情報】
・避難所には0歳から97歳まで500人の被災者がいる。
・そのうちの20人は、今朝他の場所から移ってきたばかりで、朝食の配給を受けられなかった。
・1個のシュークリームを小さく分けることはとてもむずかしい 。
・避難所の近くで物を買えるお店はない。シュークリームの追加はできない。
・シュークリームを積んだ車は、道路事情が悪かったため、避難所から2km離れた場所までしか来られなかった。避難所で生活している人のうち10人が、車からシュークリームを徒歩で運ぶのを手伝った。
・東京からボランティアで来た大学生5人が、避難所で働いている。
【ワーク】
(1)どんなことに着目して分けようと思いますか? それはどうしてですか?
(2)(1)を踏まえ、シュークリームをどのように配りますか?
 〔1〕最初にどんな人に配りますか?どうしてですか? ②次にどんな人に配りますか? どうしてですか? 以下、配る順番を考えましょう。
(ワークシート2枚(個人用と班の話し合い用)が各自配布されています。班全体の意見共有のためには、画用紙とペンが配られています。まず1人で5分間考えた後、班で1時間話し合いました。)

〈話し合いの様子〉
 班により進め方は様々でした。まず画用紙に意見を書く人を決める班もあれば、子どもがどんどん意見をいう班もありました。1人ずつ着目点を挙げていく班が多いようでした。
班で一通り着目点が出た後、「ひまわり町避難所の年齢層別の人数」というグラフと表も検討しました。弁護士が着目点の細部について質問し、より具体的にイメージを共有しているようでした。例えば、「幼児」とは何歳から何歳までか? 子どもは何歳まで、何人いるか? ボランティアに対する感謝の気持ちはどう考えるか? という具合でした。

〈シュークリームの分け方発表〉
 シュークリームをどんな人に配るか、配る順番とその理由を子どもが発表した後、その班のサポート弁護士がコメントをしました。配る対象を、上位3番目(〔1〕~〔3〕)まで、理由と共にご紹介します。
A班:〔1〕子どもとお年寄り。子どもは1~15歳。お年寄りは、60歳が定年なので60歳以上。これらの人にとって、避難生活は身体的精神的に負担が大きいから、シュークリームを食べてもらいたい。0歳の子の分は、大人(保護者)が食べてもいい。病気で食べられない人は自主的に辞退してもらい、じゃんけん大会にシュークリームをまわしてもらう。
 〔2〕他の場所から移ってきた人。朝食抜きだから。
 〔3〕シュークリームを運ぶのを手伝った人。シュークリーム1個が100gとすると、1人3kgも運んだことになるから。
 弁護士:「ボランティアを優先するかどうかが論点になりました。最初は優先しようという人が3人いたけれど、話し合ううちに自分がボランティアなら辞退することに納得した結果、優先しないことになりました。(4番目は、じゃんけん大会をして、勝った人にあげるという案でした。優先されなかった人に公平で、他の人も楽しめるからという理由です。)ボランティアは、じゃんけん大会に参加していいけれど、勝ってもシュークリームを譲っていいことになりました。」
B班:前提=食べない人や食べられない人を除く。
 〔1〕他の場所から移ってきた人。朝食抜きであり、食べることは大切だから。
 〔2〕1案=0歳~小学3年生の子ども。育ち盛りだから。
  2案=2歳~小学生の子ども。0歳~小学生未満の子どものいる母親にもあげ、母親が判断する。理由は1案に同じ。
 〔3〕80歳以上の人と障害のある人。避難所生活の負担が大きいと思うから。
(4番目からは、優先しない人を決めました。シュークリームを運んだといっても、普段は避難所で何も働いていない場合は不公平になるから優先しない。避難所で普段から働いているということも、いつも働いているかどうかわからない。)
 弁護士:「基準を明確化しようという姿勢が見られました。不明確な基準を採用するよりは、それらを除外することにしました。」
C班:〔1〕他の場所から移ってきて朝食抜きの人とシュークリームを運ぶのを手伝ってくれた人。運んでくれた人には感謝の気持ちを表したいから。
 〔2〕18歳以下の子どもと70歳以上で食べられる人。これらの人には避難所生活が負担な上、子どもは育ち盛りだから。
 〔3〕19~69歳であみだくじをし、当たった人。公平だから。
 弁護士:「シュークリームは被災者で分けることにし、日頃の感謝を伝えるには手紙が適切ということになりました。(ボランティアには、感謝の気持ちを手紙に書くことになりました。)〔2〕は、感覚的にはわかっていても、言葉にしようとすると難しかったようです。」
D班:〔1〕避難所リーダーとボランティア、シュークリームを運ぶのを手伝った人。みんなのために苦労して頑張っているから。
 〔2〕病気やケガの人。辛くて大変な思いをしているから。
 〔3〕18歳以下の子ども。慣れない生活で我慢するのも難しいから。
 弁護士:「他の班と違うのは、働いた人に食べてほしいということです。4番目は、子育て中のお母さんで、そういう人にこそ食べてほしいという気持ちが表われました。リーダーが自分から手を挙げるのは難しいと思い、周りから声を掛けてあげるのがいいということになりました。他の場所から移ってきた人は、空腹とはいっても昼ご飯がすぐ食べられるから、それだけで優先される必要はないのではないか。朝食抜きの人は他の人と同様の扱いでいい、ということになりました。」
E班:事前リサーチで、アレルギー、嫌いな人、0~1歳の子ども、病気で食べられない人を除く。
 〔1〕シュークリームを運ぶのを手伝った人。どうしても必要という人。
 〔2〕他の場所から移ってきた人のうち、どうしても欲しい人。
 〔3〕2~12歳の子ども。甘いものが好きだから喜んで、リラックスしてくれるから。
 弁護士:「どうしても欲しい人を優先することにしました。(9番目がボランティアで、ボランティアに感謝の気持ちを表すべきという理由でした。)シュークリームが余ったら、ボランティアへということでした。子どもと高齢者は常にセットで提案されましたが、年齢を具体的にしました。」

〈講評〉
吉田幸加 第一東京弁護士会法教育委員会委員長
 誰を優先するか、結論もその理由も班により様々でした。公平に分けるということは、案外、難しいことです。100人の人がいれば100通りの事情があります。それぞれの事情をどう考えるかということであり、正解があるわけではありません。公平に分けるために、どんなことに着目したら良いか、分けるための基準を考えることは、考える助けになります。多くの班では、「必要性」・「能力」・「ふさわしいかふさわしくないかということ、適格性」の基準を用いて考えていました。「明確かどうか」という基準に着目した班もありました。
 今日やったことが、法律やルールと関係があるのか疑問に思った人もいるかもしれませんが、関係があります。憲法14条には「すべて国民は、平等であって」と定められています。憲法は国家権力を縛る規定なのですが、たとえば国家権力が法律を作るときも、平等・公平ということを考えて作らなければならないのです。国の法律でなくとも、何かルールを作るときに、みんなにとって平等か、公平かと考えることが必要であり重要です。今回は物の分け方についてのルールを考えましたが、負担の分け方、誰が負担をするかを決めるときも、同じように公平かどうかを考える必要があります。税金を誰がいくら支払うのか、といった問題です。
 今日の問題は、東日本大震災の避難所で実際にあったことをもとにしています。(当時の新聞記事を配布。)責任者1人で考えるのでなく、みんなで意見を出し合えば、いい考えが出たかもしれませんね。何が公平かということは難しい問題だけど、難しい問題でも、今日話し合ったように、みんなで意見を出し合って決めていくことが大切なんだ、ということを覚えておいてほしいと思います。

〈取材を終えて〉
 物を公平に分ける問題について、子どもたちが本当にいろいろな考えを出してくれたと思います。いろいろな考えの背後には、サポート弁護士が子どもたちに問題を深く考えるよう、さりげなくリードしていたのが感じられました。たとえば、ボランティアに来るような人は、シュークリームは被災者で分けたらいいと思うだろうから、配らないという意見に落ち着いたとき、「でも、ボランティアの人に感謝の気持ちを表さなくていいの?」というように、問題をもう一度考え直すきっかけを投げかけていました。手紙を書くことになったのは、その成果でしょうか。B班の、基準の明確化という考えも素晴らしいと思いました。みんなで話し合うといろいろな意見が出ることの意義を、実感しました。

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