第4回B級法教育フェスタ ~ザ・MOGISAI~
2016年11月3日(木・祝)10:00~17:30、龍谷大学社会科学研究所主催の第4回B級法教育フェスタが飯田橋のTKC軽子坂ビルを会場に開催されました。今回は模擬裁判をテーマに、日本弁護士連合会主催高校生模擬裁判選手権の強豪校3校が選手権同様に対決を行います。また、ランチョンタイムには、NHK『昔話法廷』注1の第2弾(2016年制作)を参加者が裁判員役となって体験します。ここでは、『昔話法廷』から第5話「舌切りすずめ」裁判の体験をお伝えします。(当日の配布資料より適宜引用させていただきます。)
〈ランチョンタイム・プログラム〉
12:30~14:00 ライブ“昔話法廷”
「アリとキリギリス」裁判、「舌切りすずめ」裁判、「浦島太郎」裁判を3室に分かれ同時開催
〈「舌切りすずめ」裁判の様子〉
まず、NHK『昔話法廷』第5話「舌切りすずめ」裁判のVTR(約15分間)が上映されました。VTRは誰もが知っている昔話「舌切りすずめ」を元にした裁判で、検察官・弁護人が最終意見を述べたところで終わっています。各自には、『昔話法廷』の「判決用紙」というワークシート注2が配布されています。VTRを視聴しながら、そこにメモを書き込みます。次に、参加者がくじ引きで4グループに分かれ、評議を行います。
【「舌切りすずめ」裁判のあらまし】
被告人:舌を切られた雀
検察側証人:おばあさん
弁護側証人:おじいさん
罪名:殺人未遂
法廷でのやり取りから、以下のような状況がわかりました。ある日、雀は山で瀕死の状態でいたところをおじいさんに助けられ、おじいさんの家でおじいさんから手厚い看護を受け、1か月ほどして元気になりました。雀はおじいさんを命の恩人と慕い、きれいな声で素晴らしい歌を歌って、一緒に暮らしていました。しかし、おばあさんは雀にとって怖い存在でした。
雀がおばあさんの洗濯のりを食べてしまったとき、おばあさんは怒って雀の舌を切って、追い出してしまいました。雀は痛さと恐怖におののき、山へ帰りました。おじいさんが雀を訪ねて山へ行くと、雀は喜んでおじいさんに大小2つのつづらを見せ、どちらかをお礼に差し上げるというのです。大きい方のつづらの中には、小判がぎっしり詰まっているのがちらっと見えたそうです。おじいさんは腰が痛いので、比較的重くなさそうな小さいつづらを貰って家に帰りました。雀は、おじいさんの腰が悪いのを知っていました。おばあさんにくれぐれもよろしく伝えてほしいとおじいさんに言いました。おじいさんからその話を聞いたおばあさんは強欲で、自分が大きいつづらを貰おうと雀のところへ行きました。雀はおばあさんに、大きいつづらを渡しました。
おばあさんが山道の途中で、一目つづらの中を見ようとふたを開けると、中からは山のような毒蛇や毒虫が出てきて、おばあさんの足に嚙みついてきたそうです。法廷で、おばあさんがふくらはぎを見せると、蛇に噛まれた跡が一か所あり、赤く腫れあがっていました。おばあさんは蛇や虫を無我夢中で追い払い、家に帰って手当をして何とか助かったと言っています。おばあさんは雀を、世話になった恩があるのに自分を殺そうとしたと非難しました。
おじいさんは、「雀を我が子同然に思っている。歌声で心を癒してくれた。人を殺そうなんてするはずがない。」といって、雀を信じている様子でした。
実は、雀は歌がうまかったので、歌手デビューする予定が決まっていました。法廷で、雀のデビュー予告ポスターが披露されました。ところが舌を切られたので、歌がうまく歌えなくなり、デビューは立ち消えになりました。雀には人生を狂わされたという落胆の思いがありました。
ところで、大きなつづらの底からは、小判を束ねる帯封の切られたものが1つ見つかっていました。帯封には雀の指紋がついていました。雀は、大きいつづらの中身は小判だった、自分はおばあさんを殺そうとしていないと主張しました。おばあさんにつづらを渡したら、大好きなおじいさんも幸せになると考えたそうです。
<検察官の主張>
雀は舌を切られたことを恨み、おばあさんに殺意を抱きました。人生を狂わされたという動機があります。雀はおばあさんが強欲なのを知っていたので、おじいさんを利用しておばあさんを自分の家へおびき寄せました。おばあさんが小判を独り占めしようとして、帰る途中でつづらのふたを開けるだろうと予測し、大きなつづらの中に毒蛇や毒虫を大量に入れたのです。雀は殺人未遂罪です。
<弁護人の主張>
おばあさんが帰ってからの行動は、雀の制御の範囲を超えています。おばあさんの足の傷は一か所だけなので、山のような毒蛇や毒虫が入っていたという証言は信用できないし、傷は偶然かもしれません。雀がつづらに入れたのは小判で、雀は無罪です。
〈あるグループの評議の様子〉
くじ引きにより、緑・白・青・赤の4グループができました。白グループのメンバーは、本日のフェスタの高校生模擬裁判に出場している女子高校生3名にレポーターを加えた4名でした。このグループは、まずジャンケンで司会者(裁判長)を決めました。(評議:約30分間)
裁判長(高校生1):「では、雀は有罪と思うか無罪と思うか、言ってください。」
全員(裁判長含め):「無罪。」
裁判長:「1人ずつ無罪と思う理由をお願いします。」
高校生2:「小判の帯封に雀の指紋がついていたことです。雀が小判を準備していたと考えられます。おばあさんの証言に一貫性がないことも理由です。大量の毒蛇などに襲われたのに、かまれた傷が一か所だけなのは、証言と食い違うといえます。」
高校生3:「私も帯封については同じです。あと、雀のおじいさんへの気持ちです。」
裁判長:「私も帯封の指紋のことは同じです。」
レポーター:「おばあさんがつづらを開けるタイミングは、雀にはわからないことが一番大きいと思いました。」
裁判長:「それを文章に書くとすると、どうしましょうか?」
→高校生3名が、その理由を口々に文章化して提案しました。それを裁判長が書き取ります。
裁判長:「いくら雀がおばあさんの強欲さを知っていたとはいえ、おじいさんを殺す危険を冒してまで、そのような行動をするとは考えられません、でいいかな?」
このようにして、他の理由についても評議時間いっぱいまで、高校生3名が文章を推敲していました。さらに、各グループが順次結果を発表していく最中にも、無罪の理由を1つ考え、追加しました。それは、「おばあさんを殺すつもりなら、確実に殺傷能力のある蛇を用意すると考えられるが雀はそうはしていない。つまり、殺すつもりはなかったと考えられる。」でした。
〈各グループの結果発表〉
各グループの裁判長が、評議結果を発表しました。緑・白・青の3グループは、参加者全員一致で無罪でした。理由は「小判を毒蛇などに入れ替えたとすると、重さが違うからわかるはずではないか。」「大きなつづらの底に帯封が1つだけ残っているのは不自然で、普通は小判の帯をとらずに持ち帰るはず。(おばあさんがうっかり切ってしまい、1つだけつづらの底に落ちたのに気づかなかったので、あとから雀の策略ということにしたのではないかと考えるもの。)」というものの他、ここまでに出された意見と同様でした。おばあさんの証言には疑問があり、雀の証言の方が信用しやすいということでした。
赤グループは有罪・無罪が2対2と、意見が分かれました。有罪の理由は、「雀の行動に計画性があったと考えると非常に筋が通っていて、動機もはっきりしているから。」ということでした。「物証はなくても状況証拠により、ストーリー的に考えて有罪と感じた。」そうです。また、「つづらを大小用意していたことは、おばあさんが来るという読みがあるからではないかと考えられます。以前、雀は怖い思いをしたのに、何の企みもなくおばあさんが来るような状況を作るでしょうか? 計画性があると思います。」ということでした。以上の発表を聞き、無罪から有罪に意見が変わった人はいませんでした。
〈取材を終えて〉
本フェスタの模擬裁判に参加した高校は、第10回高校生模擬裁判選手権関東大会優勝校の湘南白百合学園高等学校、準優勝校の山梨学院高等学校、関西大会優勝校の京都教育大学附属高等学校でした。ランチョンタイム・プログラムの中でお伝えした女子高校生は、このうちの2校の生徒3名でした。3名は偶然くじ引きで同じグループになったとは思えないように息がぴったりと合って、限られた評議時間の中でテキパキと判決文を仕上げていました。さすが、選手権に向けての日頃の訓練の成果だと感じました。
今回のランチョンタイムでは、各グループに主催者側のファシリテーターがいない状況でした。ご紹介したグループは最初から全員無罪という意見で、途中でも変わりませんでしたが、グループ毎にファシリテーターがいたら、違った議論になったかもしれないと思いました。事実から、何が証明できるかということをもう少し深められたかもしれないと思います。
NHK『昔話法廷』は、脚注でもご紹介しましたように、NHKホームページにVTRの他、先生向け授業プラン、指導用資料、ワークシートなどが揃っており、ダウンロードして使うことができます。この法律監修を担当された今井秀智弁護士がランチョンタイムにも登場されました。今井先生は法教育に関心のある法学部生・法科大学院生の活動も支援されており注3、今回のフェスタでは一橋大学法科大学院の法教育サークルの学生が司会を担当したりしていました。フェスタが高校生や法学部生・法科大学院生の活動とつながり、より広がりをもつようになるといいと思います。
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