法教育に関心のある法科大学院生等の意見交流会

 2016年9月3日(土)14:00~17:00、第7回法と教育学会学術大会プレ・イベントとして、「法教育に関心のある法科大学院生等の意見交流会」が商事法務研究会会議室で開かれました。
 本セッションは、法科大学院生や学部学生がこれまで行ってきた法教育実践について、その成果と課題を共有することを目的としています。当日は50名近い法科大学院生、大学院生、学部学生が参加し、意見発表と交流を行いました。

〈参加者の所属校〉

金沢大学法学類・金沢法友会 東京大学法科大学院出張教室
慶応義塾大学法科大学院法教育サークル 一橋大学大学院社会学研究科
國學院大學法科大学院 一橋大学法科大学院法教育サークル
中央大学法科大学院法教育サークル 早稲田大学法科大学院法教育サークル

 

〈プログラム〉

14:00~14:40 挨拶、趣旨説明
14:50~16:40 グループワーク(10班に分かれ、意見交換)
16:50~17:30 全体発表

1 挨拶、趣旨説明

今井秀智先生(一般社団法人リーガルパーク代表理事、國學院大學法科大学院教授、弁護士)

 

 2009年に裁判員裁判制度が始まるまで、法律はある特定の人しか扱えないものという社会状況がありました。裁判員制度は、いわば野球を見たこともプレイしたこともない人にいきなり主審をさせるようなものといえました。そこで、やはり法教育が必要だという機運が高まりました。
 私はそれより前から、とにかく学校へ行って法の教育をさせてほしいとお願いして授業をしていました。学校で法の教育をすることに意義を感じていたとともに、自分自身も楽しかったことが活動の原動力でした。しかしある時、自分が楽しんでいるだけではだめだとわかりました。自分は法律の専門家だけれど、教育についてまったく無知だったからです。
 現場は学習指導要領に基づいて動いています。ある学校で「自転車の乗り方教室」を見学したときに、学校というところを知らないと、法教育は危険なことさえあると気づきました。スタントマンの実演や交通事故のビデオを見せる、迫力ある教室でした。現物を見せる教育の大切さは、法教育に似ていると感じました。その実践では、子どもにショッキングな場面を見せるので、事前に家庭にアンケートをとっていました。実際に事故で身内などを亡くしている子どもへの配慮のためです。現場での実践には、そうしたことが欠かせません。
 法教育の担い手は、法律関係者か教育関係者のどちらが主になるべきかという議論がありましたが、法律関係者は教育をよく学んでから実践をしなければといけないと思っています。國學院大學法科大学院では、法教育で2単位が取れる全国初の講座を作りました。法科大学院生を法教育に有効活用しないのはもったいないと考えています。

福本知行先生(金沢大学法学系准教授)
 本日の議論のために、論点整理のための質問項目を事前に配布し、皆さんに考えてきていただいていると思いますが、その趣旨をお話しします。法教育活動のコアの部分は、教材作りと授業実践に関することになります。教材を作って、出かけていけば終わりではなく、その周辺のことと振り返りをすることが必要です。

〔1〕教材作りについて
 教材を作るにあたっては、まずテーマを設定し、どういう素材でそれを伝えるかを考えます。皆さんが法学学習を通じて感じたことがベースになると思いますが、「法学教育」ではなく「法教育」をするのですから、法学の授業や教科書で学んだことを水で薄めたりするだけではだめです。法教育のシーズをどう発掘するか、発掘したシーズを学校現場のニーズにどのようにマッチングさせるかを考えねばなりません。

〔2〕授業実践について
 皆さんはアウェーで実践をするので、学校の先生や子どもたちとどうすれば良好なコミュニケーションをとれるかを考える必要があります。また、授業実践は数人でグループになって行う場合が多いと思います。それが院生・学生等による法教育の特徴の1つとなりますが、チームによる授業実践を効果的なものにするため、どんな工夫ができるかという点に着目してほしいと思います。授業後には振り返りの機会があると思いますが、その際はどんなことを考えればよいでしょうか。

〔3〕法教育活動の前提条件、派生的問題について
 作った教材の発表の場・授業の提供先の開拓は、学生による法教育の裾野を広げるために避けて通れない問題です。授業実践の相手先の開拓について、工夫してほしいと思います。
 法教育の充実のために、学生はどんな役割を果たすことができるかという視点も有用です。自分たちに何ができるか、学生以外のアクターによる授業ではどんな役に立てるか、という点も考えてもらいたいと思います。
 また、学生間の協力、成果の公開・共有などのための横方向のつながり、さらに活動のためのノウハウ承継や新しいメンバーの募集・育成のための縦方向のつながりについても検討してください。それから、法教育活動を行ったことにより、皆さんが法学を学ぶ上で「ご利益」があったかどうかも大切です。

2 グループワーク

 参加者は4~5名ずつ10班に分かれ、1の趣旨説明に沿った論点について、各自の報告をしました。各班にはそれぞれ教育系大学教員等がアドバイザーとして付き、議論を行いました。

3 全体発表から

〔1〕教材作りについて
・生徒の視点に立つことが一番重要。(複数の班から出ていました。)相手の状態は不十分な状態であり、何を高めるのか、という考え方をすることが大事。授業の目標、内容、方法を相手に合わせて変える必要がある。
・ゼロから教材作りをするのは時間と手間がかかるので、題材から作るのがいいかもしれない。10数名のグループで作るなら、誰かが叩き台を作って議論するといいかもしれない。教材の共有ができるといいと思う。

〔2〕授業実践について
・相手との事前の打ち合わせが大切。
・授業の台本に合わせつつ、臨機応変に対応することが大切になる。期待する回答と違う回答があった場合、思考のプロセスを聞く、モヤモヤを残す、もう一度考えるなどの対応をする。
・授業時間の制約の中、ファシリテーターの役割を事前に打ち合わせることが大切。

〔3〕法教育活動の前提条件、派生的問題について
・授業の相手先の開拓には苦労している。(複数の班)自分の出身校でも難しい。信用という点で、お墨付きのようなものがあるといいのではないかと思う。
・金沢大学では、毎年同じ中学校・高校で授業をしている。現場との信頼関係ができ、事前課題を出したり、相談したりもしやすい。法科大学院生の活動にも、継続的受入れ先が必要だと思う。
・法科大学院間の情報共有、交流は大事だと思う。大学に教育学部があるところは、教育学部生に授業リハーサルを見てもらえるといいのではないか。
・学生同士の情報共有には、ドロップ・ボックスを利用している。先輩の授業は映像を残している。
・リハーサルを仲間の前ですることにより、ノウハウが伝達される。(複数の班)グーグル・ドライブなどを利用している。
・法科大学院生は時間の制約がきつく、体験を後輩に引き継ぐのが難しい。学部生は時間的余裕がある。書記を設け、活動記録を作り、教材のブラッシュアップもできる。
・法教育活動の「ご利益」は、教えねばならない法概念を簡略に説明するスキルアップができること。自分が理解していなければ人に説明はできないので、普段から勉強する。
・法教育の魅力そのものをアピールすることが、新メンバーの募集に必要。

〈取材を終えて〉

 50名近くの法科大学院生、学生が集まるとは、主催者側も期待以上だったようです。これだけの学生が法教育実践に携わろうとしているので、このパワーを何とか継続的な取組みとして活かしていきたいと、主催者は話していました。
 班内の意見交換からは、学生たちがSNSやネットを巧みに活用して、限られた時間ながらも法教育活動をしている様子がうかがえました。同じサークル内ではその方法でつながれるのでしょうが、他の大学や法科大学院のサークルとの継続的つながりとなると、サークルリーダーやとりまとめ機関(現状はない)の役割が重要になるのかなと感じました。本日の企画は、そういったことを話し合う第一歩という意義があったのではないかと思いました。

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