2017年度第二東京弁護士会ジュニアロースクール 中学生の部

 2017年8月8日(火)10:30~16:30第二東京弁護士会ジュニアロースクールが弁護士会館会議室で開催され、前回は、小学生の部「ロールプレイ形式で学ぶルール作り」についてお伝えしました。
 今回は、中学生の部についてお伝えします。(当日の配布資料より適宜引用させていただきます。)

〈進行〉

10:30 午前の部「なぜ憲法が必要なのか」
 ≪大統領が止まらない≫ 
   ひまわり国(架空) シュバルツ大統領の立法・行政・司法について考える
12:00 昼休憩(弁護士と一緒に昼食)
13:00 午後の部「立法を体験する」
 ≪少年法における実名報道に関する法律(改正)を考える≫
 ≪自分たちの作った法律を実例に当てはめて考える≫
16:30 ポイント上位者の発表、修了証書授与

〈実施方法〉

・会場の設定
生徒たちは、名札を首にかけ4~6名ずつ8つの班に分かれて着席し、各班に2名のサポート役のTA(弁護士および法科大学院の学生)が配置されました。
・進行方法
 進行役が、生徒たちに挙手による意見を求め、できるだけ多くの生徒に発言する機会を与えていました。発言内容の良し悪しよりも “積極性”や工夫点など生徒が自ら“考えたこと”を褒めるようにしていました。
 グループ内で出た良い意見は、TAから進行役にアピールし消極的な生徒にも発言の機会を与えたり、進行役とTAとが連携しながら進めていました。
・活性化への工夫
 TAは、生徒の考えが深まるよう「なぜそう思うのか?」「こういう場合はどうか?」といった質問を投げかけ、それによってグループ内の議論が活性化していきました。
 また、今年は「ポイント(お手玉)」の制度を導入し、発言したり、積極的な行動を起こした生徒にはポイントを付与しました。生徒はゲーム感覚で緊張から解放されていきました。最後にポイント上位者、グループにお菓子をプレゼントしました。

〈開会挨拶〉

第二東京弁護士会  法教育の普及・推進に関する委員会
委員長 池田 誠 弁護士

 

 今日は、是非楽しんでください。楽しんで役になりきることで、真剣に考えることができると思います。考え方を学ぶのが目的ですから、楽しく真剣に学んでいきましょう。

1 午前の部「なぜ憲法が必要なのか」

≪大統領が止まらない≫(寸劇を交えたストーリー)

 ここは、できたばかりの架空の国「ひまわり国」。選挙で圧倒的な支持を得てリーダーに選ばれた「シュバルツ大統領」は、まず法律を作りました。

1. 他人の物を盗んだり、壊してはいけない。他人に暴力をふるってはいけない。
2. 法律に違反した人がいた場合、パトロール隊が逮捕し、大統領は逮捕した人を処罰する。パトロール隊は、大統領が国民から選ぶ。
3. 国民は、全員収入の10%を税金として納めなければならない。
4. 国民みんなにとって必要な、公園・学校・道路等の設備、施設は、大統領がどこに何を作るかを決め、国民に指示して作らせる。

 良い国ができましたが、さらに良い国にするため、大統領が他の国に意見を聞いたところ「芸術性が足りない」と指摘があり、大統領は劇場や美術館をたくさん作りました。ところが国民から「水道管を直してほしい」「ゴミ問題を解決してほしい」と苦情が上がってしまい、今度はそれらに着手しようとしましたが、お金が無いため税金を50%に増税しました。すると国民から「増税反対!」「大統領が悪い」と不満の声があがり、大統領は仕方なく「大統領のやることに反対することを禁止する法律」を作りました。

進行役:「良い国を作るためにシュバルツ大統領がやってきたことですが、国民には不満があるようですね。みなさんはどう思いましたか?」

【設問1】シュバルツ大統領の行動で酷いと思ったところは?
生徒1:国民の負担が重すぎる
生徒2:国民が何も言えない
生徒3:処罰する人を大統領が選んでいる

【設問2】なぜ、こんなことが起きてしまったのか
生徒1:大統領は国民に気持ちを考えていない
生徒2:国民の意見を聞かずに、他国の意見を鵜呑みにして進めたから
生徒3:大統領の権限が大きすぎるから暴走した

【設問3】どのような仕組みやルールを作っておけばよかったのでしょう?
(グループディスカッションのあと発表)
グループ1:アメリカのように任期を決めればよかった
グループ2:法律も選挙で決めたらどうか
グループ3:大統領に助言する役の人をたくさん置いたらどうか
⇒(意見を聞いた後、進行役が以下の3つにまとめ)
(1) 国民の意見を聞く       ・・・議会を作る
(2) チェックする仕組みを作る   ・・・権力を分散する
(3) 支持率が下がったら選挙しなおす・・・辞めさせる方法を決めておく

【設問4】設問1のような問題が起きないようにするための国の基本となるルールを定めたものとは何でしょう? ⇒「憲法」

【設問5】設問4のルールの特徴は?
(進行役より、憲法ができる前の絶対王政から近代立憲主義での政治について解説)
進行役:「権力とは何でしょうか?」
生徒1:公共物を作るかどうかを決めること
生徒2:法律を作ること
生徒3:裁判で裁くこと
進行役:「これらの権力は、それぞれ「行政」「立法」「司法」といいますね。人権を守る目的で、権力を分散し相互にチェックさせる。これを三権分立といいます。」
⇒(進行役が【設問5】ワークシートの解答をまとめ)
「権力を分散させ、相互にチェックさせる。これを三権分立という。人権を守る目的。」
進行役:「では、今度は少しシュバルツ大統領の言い分も聞いてみましょう」
大統領:「国民のためにやってきたのにどうして文句ばかり言うのだ」
進行役:「では、シュバルツ大統領に言いたいことがある人は?」
生徒1:文化よりも生活の方が大事です。お金が余ったらコンサートホールに使ってもいいけど、先に生活のためのものを直してください。
生徒2:税金50%は高すぎる。大統領のお給料を減らせばいい。
生徒3:お金の使い道や権力を制限する法律を作ってはどうか。
大統領:「じゃあ君たちだったら、どうするんだ?」
進行役:「シュバルツ大統領は、ああいっていますね。では、わが国ではどうしているのか、皆さんは知っていますか?」

【設問6】日本ではどうなっているか?
進行役:「日本では、憲法によって皆さんの権利や人権が守られています。しかし、憲法がいくら優れていても、国民の一人ひとりに、よりよい社会にしようとする意識が無いと良い社会はできないのです。」
⇒(進行役が【設問6】ワークシートの解答をまとめ)
・基本的人権の尊重。
・権力を分散、相互チェックさせる。三権分立になっている。
・憲法に反する法律はダメ。
・法律より改正が難しい など

【設問7】国民ができることは?
生徒1:投票に参加する
生徒2:自分の考えを実現してくれる代表者をちゃんと選ぶ
生徒3:世論調査にちゃんと答えるとか、世論を伝えていく
進行役:「よりよい社会にするために、国民として“選挙権”“憲法改正”“国民審査”“表現の自由”こういった大切な権利を使っていきましょう。」

2 午後の部「立法を体験し、実際に法律を使ってみる」

≪少年法における実名報道に関する法律を考える≫
進行役:「午後は、皆さんに実際に法律を作ってもらい、それを使ってみようと思います。初めからつくるのは大変ですから“少年法”を基に考えてもらいます。」
【ワークシート1】少年法に関するクイズ
<質問1>「少年は、悪いことしても逮捕されない」
⇒大半の生徒が「逮捕される」に挙手(進行役から未成年者の逮捕について解説)
<質問2>「少年法の裁判では、生活環境や学校生活等についても調査する」
⇒半数程度の生徒が「調査される」に挙手(進行役から家庭裁判所が、少年がなぜ犯罪に及んだのか、また立ち直るために必要な情報について調査することを解説)
<質問3>「少年院とは別に少年刑務所が存在している」
⇒「存在している」に挙手した生徒は1/4程度(進行役から保護観察、少年院収容、少年刑務所への収監等などの“教育的措置”“刑罰”について解説)

【ワークシート2】少年法の理念
⇒(進行役が【設問2】ワークシートの解答をまとめ)
少年法の理念「保護主義」(“人格矯正”“環境調整”による健全な育成)

【ワークシート3】実名報道
進行役:「皆さんに「少年犯罪における実名報道」について考えてもらおうと思います。」

<質問1>実名報道を規制する理由は?
生徒1:犯罪者と家族の人権を守る
生徒2:復帰したときの周囲の目があるから
生徒3:プライバシーを守る
進行役:「実名報道には、周囲からの目によって立ち直りを阻害されてしまうリスクや、将来に渡って差別を受けるリスクがあります。こうしたことから、十分な判断能力を持たない未成年の犯罪に対し少年法では“保護主義”の観点から実名報道を規制しています。」

<質問2>(実名報道を)厳しく規制しすぎると?
生徒1:名前が公表されないからいいやと考える人が出て、犯罪の抑止にならない
生徒2:報道・表現の自由や知る権利を阻害する
生徒3:罪を犯したという意識が薄くなる
進行役:「社会に大きな影響を与える犯罪に関しては、報道する自由や知る権利も認める必要がありそうですね」

【ワークシート4】ベスト立法を決めよう!
進行役:「皆さんに“実名報道”に関する法律を作ってもらいます。3つのヒントを参考に、(1)~(5)のポイントについて考えてもらいます。」
(個人で考えた後、TAがヒントを与えながら、生徒同士に積極的に議論させ、班でまとめた法律を模造紙に書いて発表しました。) 

ポイント(1) 誰の?「誰に適用するか」
ポイント(2) どんな行為?「どんな行為を規制するか(新聞報道・SNS投稿等)」
ポイント(3) どんな内容?「どのような内容を規制するか」(氏名・住所等)
ポイント(4) 罰則は?「必要か?必要ならばどんな罰則を科すか」(罰金・懲役等)
ポイント(5) 例外は?「例外を認める必要はあるか?」

ヒント1:少年法第61条の要点を紹介
出版物に載せることを制限している。名前・年齢・容姿等が対象。罰則・例外なし。
ヒント2:旧少年法と新聞協会の意見の紹介と比較
旧少年法は罰則あり。新聞協会は、社会的利益を守ることが強く優先される特殊な場合、例外を認めるべきとの意見。
ヒント3:社会の変化
インターネットによる情報の拡散。(スピード、匿名による無責任な投稿)
被害者の権利を保護しようという動き。

<立法発表>
【1班】:
(1)誰の   ・・・ 全国民
(2)どんな行為・・・ 報道・SNSの書き込み
(3)どんな内容・・・ 個人を特定できる情報
(4)罰則   ・・・ 罰として氏名のみを公開
(5)例外   ・・・ 重大な犯罪に関しての実名報道はOK

進行役:「重大な犯罪とは、具体的にどんなもの?」
1班:「殺人、強盗、放火などです。」

(以下、各班の発表内容について1班と違う点を中心に記述します)
【2班】:
(2)LINEのグループトーク内ならば対象外
(4)懲役または罰金(会社の場合は、罰金)
(5)逃げている場合は、実名報道OK
進行役:「容疑者の段階では、犯人かどうかわからないけど、実名報道してもいいの?」
2班:「容疑者の場合は除きます。」

【3班】:
(2)個人のやり取りなので、LINEのトークは含まない
(3)生い立ちに関する情報は含まない
(4)会社と個人では罰を分ける
(5)被害が広がる可能性のある犯罪は実名報道OK。本人の同意があれば実名を出してもよい
進行役:「LINEの内容を誰かが勝手に週刊誌に公表した場合は、トークしてた人も罪になるの?」
3班:「公表した人は罪になるが、個人のやりとりという認識でトークしていたならば、トークしていた人は罪になりません。」

【4班】:
(2)多数の人に情報を与える行為
(4)懲役または罰金
(5)緊急性のある場合は、実名報道OK
進行役:「やったのが企業でも、個人と同じ罰則になるの?」
4班:「そうです。」

【5班】:
(2)誰でも見られる情報発信
(4)罰金(法人の罰金は売上の20%)
(5)危険な人物は実名報道OK
進行役:「たとえば、壁に落書きしても対象になるの?」
5班:「そこまで考えていませんでした。」

【6班】:
(2)不特定多数が見れる情報発信
(4)1000万円以下の罰金(企業は高め)
(5)有罪が確定した人は実名報道OK。危険を呼びかける場合はOK
進行役:「例えば、壁に落書きしても対象になるの?」
6班:「対象になります。」

【7班】:
(4)罰金(個人50万、会社500万を上限)
進行役:「LINEでの個人同士のやりとりでも罪になるの?」
7班:「そこは議論になりましたが、結論としては罪になるということになりました。」

【8班】:
(2)第三者の目に触れるものすべて
(4)1年以下の懲役また1万円以下の罰金
進行役:「1万円以下の罰金とは、軽いように思うけど?」
8班:「罪になるということが重要だと考えました。国は罰金が欲しい訳ではないし、個人同士で損害賠償請求をすればよいから、罰金は軽くしました。」

【ワークシート5】事例に当てはめてみると?(少年犯罪の実例プリント配布)
進行役:「皆さんの法律を事例に当てはめると、どうなるか考えてみてください。」
(1) 自分の直感で考えてみる
(2) 班の法律に当てはめて考えてみる
(3) 他の班の法律に当てはめて考えてみる

事例
少年B(高校生)が傷害の容疑により逮捕された。クラスメイトである少年Cが、SNSに少年Bの写真と、事件のあらすじをあわせて投稿した。

進行役:「この事例について、意見を聞いてみましょう。」
7班:少年Cは有罪だと思うが、高校生ということを考えると、罰金50万を払うのは厳しいから金額は考慮すべき。
4班:少年Cは有罪だが、彼も少年法が適用されるので、保護主義で罰則はなし。
1班:少年Bの傷害罪の程度にもよると思う。悪質な犯罪だったら少年Cは無罪。

進行役:「罰金は、いくらが妥当だろう?悪質とはどんなレベルだろう?法律の定め方によっては、判断に迷うケースが出てくることを実感できましたね」

【ワークシート6】ベスト・立法・オブ・ザ・イヤー
進行役:「いろんな事例に対応できる法律、なるほどと思った法律をBEST立法とします。一番いいと思ったものに挙手してください。」
 2班がBEST立法に決定(生徒は、自分の班以外に積極的に挙手しました。)

進行役:「実社会ではいろんな問題が起きるので、みんなで議論してルールを決める必要があります。そのために、みんなで議論する力を身に付けていきましょう」

〈閉会挨拶〉

第二東京弁護士会 法教育の普及・推進に関する委員会
委員長 池田 誠 弁護士

 

 立法では、いろいろな社会の事実に対して、スキがない法律を作る必要があります。そして、また新しい事例が起きた時、みんなで意見を交わし、繰り返し改良を続けていきます。こうした取り組みは、最終的には世界を変えることにも繋がります。皆さんの力は、世界を変えることもできるのです。是非、今日学んだことに自信をもって、今後に活かしていってください。

〈取材を終えて〉

 中学生の部では、基礎知識を持ち、自ら希望して参加したという生徒が多くみられました。生徒たちは、はじめ緊張していましたが、寸劇を交えた楽しい設定や、ポイント欲しさに、いつの間にか夢中になり、楽しそうに一生懸命に手を挙げていました。
 また、グループディスカッションでは、TAの方々の適切な質問によって、どんどん議論が活性化し、生徒たちは、いつの間にか自分の意見を主張し、他人の意見を聞き、それによって更に考えて発言するといった、驚くほど高度な議論を展開していました。
 修了時の生徒たちの明るい笑顔が「よい一日を過ごした」こと証明していました。

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