法教育推進協議会傍聴録(第42回)

 2018年7月6日(金)、法務省において第42回法教育推進協議会が開催されました。前回の開催が2016年12月でしたので、期間があいたこともあって委員の交代があり、5名の新委員が紹介されました。議事は、小中学生向け視聴覚教材・高校生向け教材の作成についてと、法教育の更なる普及・充実に向けた今後の取組み等についてでした。そのあらましをお伝えします。

1 小中学生向け視聴覚教材・高校生向け教材の作成について

(1)小中学生向け視聴覚教材について
【報告者】小中学生向け視聴覚教材作成グループ 磯山恭子委員
 教材の骨子や作成方針、具体的構成については、前回の協議会で報告された通りです。小学生向け視聴覚教材はアニメーションにより映像化され、3・4年生向けに「友だち同士のけんかとその解決」「約束をすること、守ること」の2本、5・6年生向けに「もめごとの解決」「情報化社会における表現の自由と知る権利―情報の受け手・送り手として―」「インターネットの便利さと注意事項」の3本が完成しました。法務省ホームページで7月第2週から公開されるほか、今年度末には、DVDに収録して全国の教育委員会等に配布される予定です。各編は約15分間であり、内容は問題提起、展開、解説、発展などのチャプターで構成され、授業の進行に応じて選択的に使用することができるようになっています。教材を使った授業は社会科をはじめ、特別活動を含めた教科横断的に実施されることが想定されています。
 報告の冒頭には5~6分間、「約束をすること、守ること」という視聴覚教材の映像が披露されました。法教育マスコットキャラクターのホウリス君が問題提起や解説に登場し、かわいい声と動きに目を引き付けられました。
 中学生向け視聴覚教材は、法教育研究会注1による「はじめての法教育」をリニューアルする形で発行された中学生向け冊子教材「法やルールって,なぜ必要なんだろう?」の4つの柱「ルールづくり」「私法と消費者保護」「憲法の意義」「司法」ごとに1つずつ題材を選定し、アニメーションにより映像化されます。長さは各編約20分間。小学生向けと同様に、導入や展開、解説のチャプターで構成され、選択的に使用することができます。映像の完成前に試作品を用いた試行授業を実施し、その結果を反映させた上で最終的な内容を確定させます。今年度中の完成を目指しています。

【質疑応答より】
・中学生向け視聴覚教材は、20分間で一連のストーリーが展開されるのではなく、冊子版に即して、必要に応じて切り取って使うイメージです。
・大学の教員(法律専門)も作成委員に加えるといいと思います。
・中学生向け冊子教材の「私法と消費者保護」の解説で、「売り手と買い手の意思の合致」という言葉がありますが、「合致」は先生や生徒にとって、日常耳慣れない言葉なので、「合意」という言葉でいいのではないかと考えます。解説が詳し過ぎる部分もあると思います。
→報告者からは、中学生向け視聴覚教材の作成はまだ始まったばかりなので、いただいた議論を参考に、今後進めていきたいとの発言がありました。

(2)高校生向け教材について
【報告者】高校生向け教材執筆グループ 橋本康弘委員
 高校生向け教材の作成目的などの骨子は、小中学生向け視聴覚教材と同様、前回協議会で報告された通りです。高校生向け教材は、冊子の形で作成・配布するとともに、法務省ホームページ等に掲載されます。教材は、「ルールづくり(ルールの在り方を考える)」「私法と契約」「紛争解決・司法」という3本の柱について題材例が作成されています。
 「ルールづくり(ルールの在り方を考える)」については、関係者間で利害が対立している事例について、生徒がそれぞれの当事者の立場に分かれて意見を主張し、異なった意見の調整(合意形成)や紛争解決のためのルールづくりなどを体験することができる題材を作成し、法やルールの必要性などを考えさせるものとされています。「私法と契約」については、契約は人々の生活を豊かにするものであることを前提に、契約の基本的な考え方と、契約の原則の修正について考えさせるものとされています。「紛争解決・司法」は、第三者の立場で紛争当事者の言い分を公平に理解し、争点を整理し、これに対する自分の意見を形成した上で紛争解決策を考えるという一連の流れを体験させることにより、法的な見方・考え方を養うことが主眼とされています。
 題材例のいくつかでは現職教員による試行授業の結果を踏まえた詳細な指導計画等も記載されています。こちらも、教材は、今年度中の完成を目指しています 。

【質疑応答より】
・高校教材作成にも大学教員が関われるといいと思います。
・新学習指導要領の解説とよく照らし合わせてください。
→報告者からは、育成する資質・能力や目標などについて、新学習指導要領との関係性を明確にして記載するとの発言がありました。

2 法教育の更なる普及・充実に向けた今後の取組み等について

(委員からの発言を項目別に整理してお伝えします。)

【充実した法教育授業の実践のための取組み】
法的な考え方・判断力・問題解決力をつけることは大事だと思います。根本的なこの資質・能力は、小学校中学年の特別活動などで、しっかり考え、判断できる力が育てられるよう、作戦が必要ではないかと思います。
教員向け法教育研修は、現在でも各地の検察庁などで行われていますが、参加者があまり多くない状況です。多くの参加者を集めるには、施設見学や裁判所傍聴などを利用し、その中で法教育を取り入れていくといったことをしたらいいと考えます。上から目線の講義はよくありません。この度作成される教材を実際に見てもらって解説するなどしたらいいと思います。
新しい高校の学習指導要領で設置される「公共」の概念と、法教育で扱っている概念の関係性などについて、勉強会のような形で専門家の方のご意見を伺いたいと思います。

【学校現場における法教育授業の実施状況の把握や今後の課題分析のための取組み】
教材のユーザーは現場の先生なので、実施状況の把握だけでなく、先生からのフィードバックを把握することも重要だと思います。また、生徒からの授業評価もやるといいと思います。

【法教育周知・広報】
作成中の高校生向け教材は、新科目「公共」を視野に入れていますが、中学校の学習指導要領も改訂されているので、中学生向け教材についてもそれに対応する形で改訂することは必要だと考えます。また、現場の先生方は、忙しく、どんな教材があるのかということがよくわかっていないという状況なので、このような教材があるということを文部科学省が積極的に宣伝してくれればよいと思います。
高校生向け教材は、新学習指導要領により求める学力観が変わっていくという非常に良いタイミングなので、新学習指導要領に対応していることを前面に出した法教育の研修会を行い、文部科学省からも協力してもらうといいのではないかと思います。
20分程度の視聴覚教材であれば、残り30分で回答や講評などを行うことができるので、これからの学習にぴったりなものになると思います。現場の先生方は、夏休みは部活動指導、保護者面談、盆休みと補習などで、地域の法教育研究会など研修会への参加が難しい状況ですが、この視聴覚教材の授業実践発表や専門家から授業アドバイスをしてもらえるような研修会があれば、参加者が増えると思います。

【中長期的(3~5年程度)に取り組むべき事項】
いくつかの地域で行われている法教育研究会においては、現場の先生の提案に対して弁護士がアドバイスするという取組みがありますが、それを全国的規模にすることを考えたらいいという提案があります。全国のどこかで年に1回程度実施し、授業の実践報告に対して参加者と意見交換を行うような取組みです。法と教育学会でも同様の取組みが行われていますが、「学会」と名が付くと敷居が高くなるため、敷居を下げた形で実施できればよいと考えます。
日本の国内ばかりでなく、グローバル化の視点で、韓国など諸外国の法教育はどうなっているか、研究したらいいと思います。
水道局の水道教育キャラバンは、都内すべての小学校で実施されています。租税教育も、税務署が実施しています。法教育も、学校に出向いてどんどん草の根的に広めるシステムを作ったらどうかと思います。

〈取材を終えて〉

 およそ1年半ぶりに法教育推進協議会が開かれましたが、その間に小中学校、高校で使われる法教育の教材作りが進行していたことがわかりました。作成委員は現職の学校教員、大学の教育系の教員、最高裁判所・法務省・弁護士という法律専門家で構成されていますが、法律専門の大学教員は総監修として法教育推進協議会の座長が入っているだけでした。そのような状況から、議論の中で法律専門の大学教員が加わるといいという意見が出たと思われます。教材は、小学生向け視聴覚教材から順次公開されていく予定ですので、授業実践を拝見できる日を待ちたいと思います。

 

注1:
法教育推進協議会の前身。『はじめての法教育』(ぎょうせい)を2005年3月に出版。
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