2018年度高校生ジュニアロースクール(第二東京弁護士会)

2019年3月29日(土)10:00~16:00、弁護士会館にて高校生ジュニアロースクールが開催されました。高校生が法的な考え方を学び、「高等教育無償化」の政策立法をする様子をお伝えします(レポート作成にあたり、当日の配布資料より適宜引用させていただきます)。

<プログラム>

10:00 法律とは何か、法的な考え方の説明
12:00 昼休憩(弁護士と一緒に昼食)
13:00 高等教育無償化の政策立法
15:00 発表・講評

<実施方法>
・会場設定
 生徒たちは5~6名ずつ8つの班に分かれて着席し、各班に2名のサポート役のTA(弁護士および法科大学院の学生)が配置されました。
・活性化への工夫
 「法とは何か?」の部では、法律に関するクイズが数問出題され、積極的に発言したり良い解答をした生徒にはTAからお手玉が渡されました。また、進行の途中で現役の国会議員が登場し、生徒との交流を行うといった場面もありました。

<開会>

藤原崇議員:昔は弁護士をやっていました。その後、6年間衆議院議員をしてきて、主に法務委員会の仕事をしています。今日、みなさんの議論の中で出たご意見を持ち帰り、法律づくりに生かしいきたいと思っています。

 

 

 

1.「法とは何か?」

司会弁護士:みなさんは、法律に関わったことはあるでしょうか?どんなことで関わりましたか?
生徒A:日常生活では、道路交通法。
司会弁護士:そうですね。人生で法律に関わったことのない人はいません。法律というと難しそうなイメージがあるかもしれませんが、実は身近なものなんです。たとえば、お店で物を買うのも、民法第555条の定める売買契約という法律行為です。

 実は、法律に守られていること
・未成年→民法(法律行為の取消)
・労働者→労働法(解雇制限)
・消費者→消費者契約法(クーリングオフ)
法律のおかげでもらえるもの
・児童手当→児童手当法
・教科書→義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律
・BCGなどの予防接種→予防接種法
・医療サービス→健康保険法、高齢者の医療の確保に関する法律
法律が抑制してくれていること
・万引き、殺人、強盗→刑法
・20歳未満の飲酒・喫煙→未成年者飲酒禁止法・未成年者喫煙禁止法
・信号無視→道路交通法

司会弁護士:これほど法律は,社会と密接にかかわっているのです。どのくらい法律がたくさんあるかを感じてもらうため,現在の法律を収録した現行法規総覧を用意しましたので,みんなで持ってみましょう。この重さの本が103冊あるんですよ。これで,「法律ってすごい,完璧だ」って思った人ももしかしたらいるかもしれません。ここで,衆議院のHPから、2018年にできた法律一覧を見てみましょう。1年でたくさんの法律ができていることがわかります。また、前にできた法律が変更されることもあります。昨年は、60の法律が改正されました。
 つまり、法律は身近なもので、今でも新しくできたり変わったりしているのです。現在の法律が絶対的ではないということです。

〇ルールについて考える~家庭内の問題を題材に~
 ある家庭で、お父さんが突然海外赴任になりました。
ここで一つ問題が…。お父さんは健康のために毎日2回愛犬のロッポー君(仮)の散歩に行っていました。
ロッポー君は朝夜どちらかでも散歩をしてもらえないと、不機嫌になって近所迷惑になります。
残された家族はお母さんと長男、次男。誰かが朝夜の散歩を担当しなければなりません。
みんなロッポー君とは一緒に暮らしたいけど…
母:ママはもう手いっぱいよ!兄弟で何とかしなさい!
兄:塾があるからムリ。弟が行けよ。
弟:部活あるから無理だよ!お兄ちゃんが行って。

司会弁護士:誰が散歩に行くべきでしょうか?考えてみましょう。
生徒1:朝は、塾がない兄が行くべき。
生徒2:夜は母がなんとか時間をつくって行くべき。兄と弟は塾と部活で手いっぱいだから。
生徒3:母は家事で大変だし、兄は塾があるから、弟が部活で活動しない時間に行くべきだと思う。
司会弁護士:ありがとうございます。ここでは、母・兄・弟それぞれがもっともらしい理由で行けないと言っていて、誰が行くべきかなかなか決められません。そこで、3人の1日のスケジュールを見てみましょう。

〇家族の一日のスケジュール

司会弁護士:朝に散歩に行くべきなのは誰でしょうか?
⇒「兄」と答えた人が大半。理由は、「テレビを見ている時間があるから」。
司会弁護士:それでは、夜は誰が行くべきでしょうか?
「母」と答えた生徒:「休憩時間に気分転換がてら行ける」「休むと逆に疲れちゃうから」
「兄」と答えた生徒:「どうせ夜は勉強しないだろうから」
「弟」と答えた生徒:「比較的遅くない時間に、漫画・テレビを見ている時間があるから」
その他の意見:「夜は母と弟が交替で行く」
藤原議員:いろんな意見が出て,それぞれなるほどなと思わされます。私に案を聞かれたら,母が買い物に行くついでに散歩するというのも考えられると思います。
司会弁護士:いろんなアイディアが出て,それぞれに理由がありましたが,朝は兄が、夜は弟が行くべきだという人が多いようですね。ちなみに、準備段階で弁護士からは「寝る時間を削る」という意見も出ました(笑)

〇まとめ
 「結論」が説得力をもつには、基づく「事実」と「理由付け」が大事です。理由付けは、合理的であれば良いです。上の例でいうと、空いている時間があるのに、誰かが睡眠時間を削るのは合理的ではないので、みなさんからそのような意見が出なかったのだと思います。
 また,どういった「事実」があるかも大事です。上の例でいうと,最初はみんなが「時間がない」といっていましたが,具体的な事実を見ていくと,朝にはお兄さんに,夜には弟に空き時間があることがわかりましたね。だから,朝にお兄さんが行って,夜は弟が行くべきだという意見が説得力を持ったのです。

~ルールや法律のつくり方のコツ~
(1)問題発見と原因分析
(2)正確な情報に基づいて、判断、議論、分析する
(3)多角的な観点から議論をする
⇒この3つをうまく回すには…事実(~である)と主張(~べき)を峻別すること、事象の一部のみを切り取らない。

2.「高等教育無償化」の政策立法をしてみよう

高等教育無償化をすべき?
司会弁護士:立法にあたり、問題があるという「事実」となぜ立法するのかという「理由付け」が必要になります。
 ⇒日本の少子高齢化、学歴による格差の問題を配布資料から確認しました。
積極説の理由 消極説の理由
格差の固定化・少子化への対策
・経済状態が困難な家庭の子供ほど大学等への進学率が低い
・最終学歴によって平均賃金に歴然とした差がある
・我が国の教育費は、国際的にみても家計の負担の割合が高い
・欲しい人数だけ子供を持たない理由の1位は、「子育て教育にお金がかかりすぎる」 高等教育は自己投資である
・経済状態が困難であっても奨学金や教育ローンを利用して進学できる
・進学により将来の賃金上昇という利益を受ける本人が学費を負担すべき
・我が国の教育費の家計の負担割合は高いが、税・社会保障の負担が少ない
限られた財源のなかで優先順位は高くない
・少子化対策には、幼児教育無償化の方が優先

司会弁護士:今回は、高等教育無償化は必要だとして話を進めます。高等教育無償化が必要だとしても、政策の 実現にはお金が必要です。そこで、次に財源をどう確保するか考える必要がありますので、この点も踏まえた上で、有権者を説得できるような政策立法をしてみましょう。

グループワーク(50分間)
 各班ワークシートを使いながら、「高等教育無償化の範囲と方法」「財源の選択」について議論・政策立法をしました。

〇高等教育無償化の範囲と方法
(1)全世帯を対象とし、一律に無償化する
(2)全世帯を対象都市、段階的に無償化する
(3)一部の所得層を対象とし、一律に無償化する
(4)一部の所得層を対象とし、段階的に無償化する
◆(1)以外を選択した場合、無償化する対象世帯and/or どのような段階で(○○の世帯は〇%無償、○○の世帯は全額無償…など)
 無償化に必要な金額 合計____円

〇財源の選択
(1)消費税の増税 (____%増税する)
(2)社会保障費(介護・医療費)の削減
 (介護費を____円削減する)
 (医療費を____円削減する)
(3) 新規国債の発行
 (____円の新規国債を発行する)
 
 上記ワークにおいては、対象世帯と無償化割合に応じてどれくらいの金額が必要かを概算し、必要な金額について、どうやって財源を確保するかを議論しました。
 たとえば、消費税の増税は、高等教育無償化の主対象である低所得者層の負担も増やしてしまうこと、社会保障費の削減は、主として高齢者の負担を増やし、高齢者が貧困する可能性があること、新規国債を発行すると、借金を将来の若い世代に負担させてしまうことなど、あちらを立てればこちらが立たないという状況の中で、財源を確保することの大変さを体感してもらいました。

 ワークの途中では、階猛衆議院議員も登場し各班の様子を見て回り、生徒たちの意見に耳を傾けていました。

退場時に生徒とハイタッチをする階議員

立法案発表(各班2分)・質疑応答
 各班の代表者が会場前方に出て、立法案を根拠となる配布資料を示しながら説明しました。2分間の演説の後、質疑応答もなされました。

投票
 7班(イースト党)が最も多くの票を集め、優勝しました。

7班の立法案
 機会平等のため、全世帯を段階的に無償化する
~300万円の世帯は全額無償
 300~350万円の世帯は80%無償
 350~400万円の世帯は70%無償
 400~450万円の世帯は60%無償
 450~500万円の世帯は50%無償
 500~600万円の世帯は40%無償
 600~700万円の世帯は30%無償
 700~800万円の世帯は20%無償
 800~900万円の世帯は10%無償
 900~1000万円の世帯は5%無償
1000万円~の世帯は1%無償

必要な財源1.2兆円
 ⇒消費税0.25%増税による0.6兆円増収(敢えて細かな割合としたのは、端数が切り捨てられるとすれば、安いものの値段への影響が小さくなり、実質的に低所得者層への負担が軽減されるから)、医療費0.6兆円削減

司会弁護士:今日は、事実に基づいて説得的に問題を解決する練習をみなさんとしたいと思っていました。社会にはいろいろな問題が存在していて、その解決にはその課題がどのようなものかなど,事実をよく調べて仮説を立て,いろんな仮説の中から議論して結論を導き出すことが必要です。そして,一回結論が出たら,それで問題のない社会が来るということではありません。だからこそ,多くの人が関心を持ち続けることが大切なのです。今回の政策立法でも、われわれが想定していなかった回答がみなさんから出てきました。難しい課題だったとは思いますが、みなさんよくできていました。今後も、社会課題に常に気を配って勉強していってほしいと思います。

 最後に、各班のTAから班MVPの表彰(「あなたならどこでもやっていけるで賞」「最初から最後までがんばったで賞」など)と、委員長から参加者全体のMVPの表彰が行われました。

<取材を終えて>

 全体を通して、高校生が主体的に議論に参加し真剣に課題に取り組んでいる様子が印象的でした。発表間際になると、議論が白熱し時間が足りないといった表情の生徒も多数見受けられました。また、プログラムの最後では他の班と自分の班の立法案を比較することで、結論に至るまでの理由付けの仕方を見直し考えが変わったという生徒もいました。
普段法律に関わる仕事をしている国会議員や弁護士から話を聴く機会もあり、法律をつくるとはどういうことかイメージがしやすくなったのではないでしょうか。とても充実した6時間でした。

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