法教育推進協議会傍聴録(第40回)

 2016年3月23日(水)10:00~12:00、法務省において第40回法教育推進協議会が開かれました。主な議事は、平成27年度に実施された高等学校等(専門学科・総合学科)における法教育実践状況調査の結果報告、高校生向け教材・小中学生向け視聴覚教材作成についてなどでした。(当日の配布資料より適宜引用させていただきます。)

1 専門学科及び総合学科高等学校における法教育の実践状況に関する調査研究の報告

               報告者:株式会社リベルタス・コンサルティング担当者

【調査の目的、概要】
目的は、法教育の更なる充実・発展に役立てるために、全国の高等学校等(専門学科・総合学科)を対象に、法教育の実践状況等を把握すること。対象は2,275校。調査時期は、平成27年11月16日~12月18日。回答数795校(回収率34.9%)。うち、国立0、公立614、私立88。

【調査結果報告のあらまし】
〔1〕法律家や関係各機関との連携
 連携の有無が「ある」は28.7%、連携意向が「ある」は32.5%で、連携の有無別にみると経験校の69.3%が意向が「ある」と回答しているのに対し未経験校では17.3%に留まっており、一度は経験すると連携意向が高い傾向がみられます。連携意向がない理由で最も多い回答は「時間的な余裕がないから」50.0%でした。情報提供について法務省に期待することで多い回答は「どのような連携が可能なのか」「他校の実践例」などでした。
〔2〕教職員向け研修会等の状況
 学校内で研修会等を開催した学校の割合は8.1%で、連携先(複数回答)としては「ない」23.4%が最も多く、ついで弁護士会15.6%、警察署15.6%、大学教員9.4%などでした。学校外で開催された研修会等へ教職員を派遣した学校の割合は8.3%で、未派遣の理由で最も多い回答は「時間的な余裕がないから」57.6%、ついで「どのような研修会等があるかよくわからないから」45.0%でした。法務省の支援として期待することには、スケジュール面で2月~3月は次年度の研修予定を立てるのでそれまでに調整できるよう支援してほしいといった要望がありました。
〔3〕個別科目における取組状況
 「農業」において、取組みの多い「農業情報処理」に着目してみると、法教育関連事項を「たいへん重視した」「やや重視した」が合わせて69.1%と7割近くにのぼりました。同科目における教科書以外の教材の使用状況では「教科書に即した副教材」が33.9%と最も多い回答でした。「農業」全体における連携先は「ない」が66.4%と最も多い回答でした。取り組んだ工夫には「造園技術」で自然公園法・都市緑地法・景観法・文化財保護法や身近な条例をあげて説明したというものがありました。
 「工業」において、取組みの多い「情報技術基礎」に着目してみると、法教育関連事項を「たいへん重視した」「やや重視した」が合わせて71.8%と7割を超えました。同科目における教科書以外の教材の使用状況では「教科書に即した副教材」が56.7%と最も多い回答でした。「工業」全体における連携先は「ない」が69.2%と最も多い回答でした。取り組んだ工夫には「建築法規」で建築基準法法令集を活用した、グループワークにより建築基準法の改正案を考えさせたというものがありました。
 「商業」において、「ビジネス基礎」についで取組みの多い「経済活動と法」に着目してみると、法教育関連事項を「たいへん重視した」「やや重視した」が合わせて81.1%と8割を超えました。同科目における教科書以外の教材の使用状況では「教科書に即した副教材」が72.4%と最も多く、ついで多いものが「新聞記事等」58.0%でした。商業における法教育でどのような教材があるとよいかには、日常生活・消費生活に関する法律等に関するもの(契約、クレジット・サラ金問題、悪質商法等含む)、商事法に関するもの(会社法、手形小切手法、金融取引法、特定商取引法、電子商取引法等)といった回答が寄せられました。「商業」全体における連携先は「ない」が50.0%と最も多い回答でした。
 「経済活動と法」の授業を行う苦労は「法に関する知識が多く求められる」が50.8%と最も多く、ついで「生徒の学習意欲及び理解度の向上」が47.7%でした。前者の理由は「他教科と重なる部分の整理調整が困難」「教員自身が専門教育を受けておらず知識不足」などで、後者の理由は「3年次配当のためモチベーション維持が困難」「進学希望者は実感がなく意欲が低い」などでした。「経済活動と法」を担当するのに更に必要なものとしては「具体的な事例」に回答が集中しました。「経済活動と法」を担当する教員の学歴では95.7%が法学の高等教育を受けていないという回答でした。

【今後の方策等に関する考察】
 法教育に関する情報発信については、具体的な事例のより一層の充実が必要です。教職員研修は、教育委員会等とより連携することを含め、教職員研修を充実させることの検討が必要だと言えます。教材の開発・提供は、教科書に即した副教材を利用しながら、ロールプレイングやディスカッション等を行えるような生徒参加型の教材を開発・提供する必要があると考えられます。

〈質疑応答・今後の課題〉
質問:「視聴覚教材作成の観点から尋ねるが、報告書にある『ビデオやDVD等の視聴覚教材』と『その他』と『ニュース素材(TV、ネット等)』の区別はどうなっているのか。」
回答:「『その他』というのは回答者が手書きで回答したもの。明らかに『新聞記事等』であればそちらに振り分けるが、不明であれば『その他』のまま。『ビデオやDVD等の視聴覚教材』とはパッケージに入ったものを想定しており、YouTubeなどのインターネット動画の類とは区別している。」(リベルタス・コンサルティング担当者)

質問:「普通科の高等学校の調査もしたわけだが、普通科と専門学科・総合学科との傾向の違いは。」
回答:「普通科の調査をしたのは別の事業者なのだが、現在のところ普通科と専門学科・総合学科で大きな傾向に差はないと分析している。」(法務省担当者)

質問:「アンケート先の学校の生徒数は調査していないのか。」
回答:「今回の調査では調べていない。」(リベルタス・コンサルティング担当者)

質問:「これで小中高と調査が一巡したわけだが、結果をまとめてPRするとかはどうだろうか。」
→意見:「現状のサーベイとして、調査ベースの研究は今まで無く、とくに専門学科などは面白いので、ニーズがあるのは間違いない。」(大学教員の委員)

質問:「一通り調査が終わったが、法務省として何か大きなプロジェクトをやる予定は。」
回答:「調査は教材作成のためだけではなく、情報を分析して法教育の普及に活かしたい。新たに何を調べる必要があるのかにつき、引き続き委員の方々にお知恵を拝借したい。」(法務省担当者)

2 高校生向け教材・小中学生向け視聴覚教材の作成について

 法教育推進協議会に「教材作成部会」を置き、高校生向け教材及び小中学生を対象とした視聴覚教材を作成することが了承されました。遅くとも平成30年3月までに教材を配布することを目標としています。高校生向け教材、小中学生向け視聴覚教材のそれぞれにつき、「目的」と「内容」を具体的に記載した座長試案のたたき台が示され、それにつき質疑応答がなされました。

〈質疑応答より〉
 たたき台の「2作成する教材例の内容」のうち「(1)高校生向け教材例」の「ア『目的』」に関連して多くの議論がなされました。目的は何か、どう記載するかという点では、法やルールにおいては普遍性・一般性・公平性・公正さといったものが大事だという意見、「法的なものの考え方」は教育の的をしぼって身につけるべき資質を明確にしたうえではっきりさせる必要があるのではないかという意見、「法的なものの考え方」は確かに解釈の自由度が高いがこれまでも先生方の工夫でやってきているのでこのままでよいという意見、法律の重要な機能として対立利益の調整がありそれを基本として徹底すべきではという意見、先生方に受け入れてもらいやすいように現在の教育カリキュラムのどれと対応させられるかを示すとよいという意見などがありました。
 また、具体的な教材作成にあたってはどのようなテーマを設定するかが重要になるところ、事務局からはテーマの議論の準備として参考になる教材の収集を進めている旨の報告がなされ、委員からはテーマのアイディアとして法教育の大前提となる「立憲主義」がよいのではないかという意見が出されました。

3 法教育の更なる普及・充実に向けた今後の取組等について

 事務局より以下4点の報告がなされました。①3月9日に司法法制部も協力して自民党政調司法制度調査会による法教育現場視察を実施した、②法教育マスコットキャラクター「ホウリス君」の着ぐるみの作成経過(3月30日に納品予定)、③法教育の更なる普及のために「法教育授業のご案内」として出張授業のメニューの案を作成した、④法務省が支援してきた法科大学院生による法教育授業につき次回以降に法科大学院生に報告を行ってもらうことを検討している。

〈取材を終えて〉

 学校における法教育の実践状況調査研究が締めくくりを迎え、今後は法教育の普及に向けてどのように調査結果を活かしていくのかが課題となるようです。教材作成部会を設置して高校生向けにも教材を作成するにあたり、法教育の「目的」とは何なのか、あらためて熱い議論がなされました。今後の取組等では「ホウリス君」の着ぐるみの写真(頭部のみ)が披露され、なごやかな雰囲気が生まれました。今後の法教育の普及に大いに活躍してくれるものと期待されます。

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