静岡大学教育学部附属島田中学校研究発表会③(講演会等編)

静岡大学教育学部附属島田中学校研究発表会②(教科協議会編)からの続き

 教科協議会に引き続き、14:10~16:00には講演会・ワークショップが教科別に開かれました。
社会科では立教大学准教授の上條直美先生の講演及びワークショップが行なわれました。

講演会

「持続可能な社会を創造するための学び
              ~学びへの参加と社会への参加~」
講師 上條直美准教授(立教大学異文化コミュニケーション研究科)

〈開発教育とは〉

 開発教育は、かつての植民地宗主国が元被植民国の貧困の現状を知り、伝えねばならないとする取り組みで、イギリス・オランダ・ベルギーなどの欧米諸国で始まりました。当初は南北問題を主としましたが、最近は開発をめぐる様々な問題を理解し、望ましい開発のあり方を考え、共に生きることができる公正な地球社会づくりに参加することをねらいとした教育活動です。  
 問題に目を向ける課題解決型の教育が、途上国だけでなく振り返って日本を見る方向にも向いたのが1990年代で、「グローバルからローカルへ」というアプローチになりました。2002年ヨハネスブルグサミットを機に「持続可能な開発のための教育」が謳われて以降、「ローカルからグローバルへ」というアプローチに変化し、身近な題材から始まり、構造的に理解し、世界の問題へつなげていくものです。

〈持続可能な開発のための教育(ESD)とは〉

 1992年の地球サミット(環境と開発に関する国連会議)で「アジェンダ21」(持続可能な開発のための行動計画)が採択されました。これは意思決定への市民参加を呼びかけるものでしたが、10年経っても成果がありませんでした。そこで2002年ヨハネスブルグサミット(持続可能な開発に関する世界首脳会議)が開かれ、日本政府がNGOと協働し「持続可能な開発のための教育(ESD)」を提案し、国連総会で決議されました。身近なレベルの取り組みにするために、NPO法人開発教育協会(DEAR)などが活動しています。

〈「わたしのまち」を考える作業〉

 参加者にワークシートが配られ、自分が今暮らしているところや実家、これまで住んだ中で1番印象深いところなどを自分で選び、①よいところ(7つ)②改善点(3つ)③5年後の夢(いくつでも。まちがこうなっていたらいいということ)④③から1つ選び、その夢に向かって具体的に何をしていったらよいかを、ブレインストーミング式に書き出すという作業をしました。
 この後休憩を挟んで、上條先生のワークショップが始まりました。

ワークショップ

「よりよい島田市をつくるために話そう」

〈グループ作り〉

 参加者が5人で一組になり、8グループを作りました。さらになるべく知らない人同士でグループを作るように入れ替えをし、先ほど書いたワークシートも念頭に置きながら、グループ毎に簡単な自己紹介をしました。ちなみに参加者は静岡大学の学部生、大学院生、現職教員の大学院生、県内の教員の方々などです。
グループ内で司会者を決めた後、1人ずつ役割が書いてあるカードが配られました。

〈ロールプレイ〉

 まず、カードの人物に自分がなったつもりで自己紹介し合います。
次に、まちの課題・その人の持つ課題を話し、まちをどうしたらいいかグループで話し合います。会場全体は島田市で、1つずつのグループがまち(地域)です。市をよくするために話し合いをします。筆者のグループは4人でしたので、それぞれA~Dの役割になりました。

A:中学3年男子
 両親と祖母の4人で暮らしている。交通の便が悪いので、大学生の姉は大学の近くに住んでいる。近所はごみが散らかっているのが問題だと思う。最近、痴呆が出始めた祖母が人に会うのを嫌がって家から出たがらなくなっている。

B:中学1年男子
 中学校は2つの小学校から生徒が来ているので、まだ友達がよくわからない。もっと町の人が仲良くなればいいと思っている。森や空き地など、もっと思い切り遊べる場所があればいいと思う。この頃、子どもに会うと「牛乳を飲みなさい」と言うおじさんが出没している。別に何かするわけではないけれど。

C:ベトナム人男子留学生22歳
 静かで勉強するのによいまちだが、家が駅から遠いので遊ぶところがない。パトカーのサイレンが増えて、うるさくなった。近所づきあいが全くなくて寂しい。日本のホームレスを心配している。将来外交官になりたいので、勉強したい。

D:小学校教諭男性50歳
 家からこの町の小学校へ車で30分かけて通う。総合学習で学校に老人を招いたこともあり親しみを持っているが、住んでいないのでまちのことはよくわからない。高層マンションやスーパーもできたが、地価が上がり、まちを離れる人もいる。企業に体育館を貸すなど、学校を地域の人の交流の核にしようとしている。問題は地域に昔から住んでいた人たちが離れていって、つながりが薄れていることである。

〈まちをどうしたらいいかアイデアを話す〉

A:学校を含めた地域の自治会などでごみゼロ運動をして、ごみ拾いの日を作るといいと思います。
B:ボランティアをするといいでしょう。授業をつぶしたいから授業中がいいな。
C:地域で清掃週間などして、地域の人とも仲良くなりたい。学校も含めるといいと思います。
D:小学校・中学校・高校に呼びかけ、ボランティアで掃除をしたらどうでしょう。土日などに。

〈施策アイデアのランキング〉

 次に、ロールプレイの役割に沿って出された施策アイデアを、市の予算の優先順位を考えて、まず個人でランク付けをします。それからグループで話し合い、1つの施策にまとめます。それを発表して、参加者全体で島田市のとるべき施策を検討します。

取材を終えて

 「持続可能な開発のための教育」では、このように小集団でロールプレイや意見の出し合い、ランキングなど「参加型学習」の手法を使って学習を進めると理解しました。ロールプレイは実際に自分が体験してみると、少しでも自分だけの立場を離れ他人の立場に立てて、面白さを感じます。時間の都合でどうまとまるかまではわかりませんでしたが、このようなワークショップに多くの教員や教員志望の学生さんが参加されることは意義あることと思います。

ページトップへ