高校生模擬裁判選手権への道 その1

 2010年8月7日(土)に、日本弁護士連合会主催第4回高校生模擬裁判選手権が開かれます。関東地区大会には今年も8校が参加しますが、どの高校も優勝を目指して準備を万端に整えることでしょう。
 今年は千葉県の高校として初めて、千葉県立東葛飾高等学校が参加します。そこで、東葛飾高校のご了解を得てその準備の模様をお伝えし、新たな学校が参加を検討するきっかけになればと思います。

高校生模擬裁判選手権へのエントリー

 この大会は、一つの事件を素材に、法律実務家の支援を受けながら、参加各校が検察チーム、弁護チームを組織し、高校生自身の発想で争点を見つけ出し、整理し、模擬法廷で証人尋問・被告人質問を行ない、その構成やわかりやすさ等を競い合うものです。
 参加校は公募で、今年は3月10日(必着)まで応募受付されました。応募に当たっては学校の了解が必要です。応募多数の場合は、学校の地域性を考慮の上、選抜されます。
(参考:日本弁護士連合会ホームページ

千葉県立東葛飾高等学校のプロフィール

大正13年、千葉県立東葛飾中学校開設。
昭和23年、学制改革により千葉県立東葛飾高等学校となり、普通課程男女共学実施。定時制普通課程併置。
平成19年、全日制、進学指導重点校の指定。
平成21年、2学期制導入。

 JR常磐線と東武野田線の柏駅から徒歩10分。都市の一角に深い緑が現われると、東葛飾高校の校舎が見えてきます。大木が歴史の長さを偲ばせますが、生徒の通学服は私服可で、伝統と新しさが共存する校風を感じます。

在籍生徒  (平成22年度学校要覧より)
学級
1年 9 215 151 366
2年 8 179 145 324
3年 8 187 136 323
25 581 432 1013

 

東葛リベラルアーツ講座について

 東葛飾高等学校は、進学指導重点校の指定を受け、「自主自律」の精神を保ちつつ、より心身強健で積極的な人間の育成を目指して、様々な取り組みを行なっています。
「東葛リベラルアーツ講座」はその取り組みの一つで、土曜日や祝日、夏休みなどを利用し、発展的な教養講座を開講しています。平成22年度は28の講座を設けていますが、高校生模擬裁判選手権はその中の一つで、希望する生徒が参加します。
 (東葛飾高校パンフレット「autonomia」より)

参加希望者全員の初顔合わせ

 6月8日(火)午後4時半から、千葉県弁護士会法教育委員会の支援弁護士5名を迎え、参加希望生徒への説明会が東葛飾高校視聴覚室で行われました。
 中心となる生徒は、一昨年の千葉地方検察庁主催、「模擬裁判サマーコンペin千葉」で最優秀賞を受賞した、昨年度自由研究ディベート(総合的な学習の時間)のメンバーの現3年生3人です。3年生5人、1年生9人が集まりました。担当講師は社会科の長束倫夫教諭です。

1 刑事裁判手続きの簡単な説明と実演
 弁護士から、「刑事裁判の手続き」というプリントが配られ、裁判に使われる言葉や「証拠裁判主義」などの説明がありました。「テレビや新聞で知ったことではなく、法廷で出された証拠に基づいて判断することが必要。」ということでした。本当の裁判を傍聴したことのある生徒が、3年生4人、1年生1人いました。
 次に、住居侵入、窃盗事件についての模擬裁判を約20分、弁護士が実演してくれました。
弁護士:「裁判では検察側、弁護側、どちらが説得的かということが重要です。模擬裁判選手権では、検察官と弁護人、両方をしてもらいます。実際にあった事件の記録を使った設定です。有罪・無罪が争点で、量刑は考えません。」

2 昨年度の高校生模擬裁判選手権関西大会DVD(日本弁護士連合会制作)視聴(約20分)
 その後、弁護士から配役の人数などの説明がありました。検察官役・弁護人役各3~6名。(兼務も可。)被告人役・証人役各1名。話し方も採点対象になります。午前・午後に1試合ずつ、検察側と弁護側を一回ずつ担当します。支援法律家は、生徒に対し一般的なルールの説明のみをし、内容についてのアドバイスはしません。高校生らしい視点が重要で、役割や準備計画も生徒が決めます。

3 支援弁護士・生徒の自己紹介
 弁護士 浦崎寛泰先生、村井宏彰先生、安土聡子先生、吉田要介先生、柳原悠介先生

4 役割希望、今後の計画について
 生徒のリーダーに司会がバトンタッチされました。
リーダー:「論点を組むのは6月中の合唱祭までで、7月は細かい部分と練習をしましょう。役割の希望を取ります。3年生が弁護人役、検察官役にそれぞれ一人ずつ入ります。」
→弁護人に4人、検察官に5人の手が挙がりました。参加不明は今のところ3人。

リーダー:(「1年生にわかるように事件の概要を説明したら」、という声に、プリントを配布して)「では事件をちょっとだけ説明します。」
弁護士:「練習日程がわかれば見に来ます。本番の1週間ぐらい前には紅白戦をしましょう。わからないことはどう相談しましょうか?メーリスを作る学校もあります。私にメールをくれれば、お答えします。」
リーダー:「わかりました。」
教諭:「集まる曜日を決めておく?」→生徒の都合の悪い曜日を挙げてもらいました。
リーダー:「日程はこちらで考えて、弁護士さんにご連絡します。」

散会後、3年生の中心メンバー3人との打ち合わせ

生徒:「プリントにある「類型証拠」とは何ですか?」
弁護士:「検察官と弁護人にはあることがわかっている証拠ですが、裁判所には出されていないものです。証人尋問などでは、いきなり出してはいけません。証人尋問のルールの説明のとき、まとめて話しましょう。」

生徒:「人に怪我をさせたり死亡させても、罪にならないのはどういう場合ですか?」
弁護士:「正当防衛、責任能力・判断能力に問題がある場合等です。」

弁護士:「冒頭陳述と弁論の違いはわかりますか?」
生徒:「わかります。」
弁護士:「冒頭陳述の段階ではまだ証拠を見ていないので、これからどういう事実を証明しようとするかを訴えます。論告や弁論では、事実の評価をするのです。あとは、やりながらイメージを作ってください。機材は使えないので、紙やボードに書くなど、いろいろ工夫をしてみて下さい。過去の例を見るよりも、皆さんの頭で考えたほうがいいです。高校生らしい視点が重要です。」

生徒:「証拠を不同意にする理由は何ですか?」
弁護士:「一律な基準はありません。内容が事実と合っていても、書いてあることを法廷で聞くために不同意にする場合もあります。」

  「(ここまでのやり取りから)全般的な細かいルールは、イメージができてからのほうがいいかもしれませんね。何も知らない状態で、まず論告と弁論を考えてみた方が面白いものができるかもしれない。次回の目標は弁論と論告。10分間ずつで作ってみてください。チーム分けをしてね。」

今後の予定

①一度、裁判傍聴に来ることができる生徒は、傍聴をする。
②6月29日(火)17:00~ 都合のつく弁護士を迎えて、打ち合わせ。
  それまでに班分けをし、昼休みや放課後に話し合っておく。
③8月2日(月)14:00~16:00 セミナーハウスで紅白戦。

ここまでの取材から

 東葛飾高校が高校生模擬裁判選手権にエントリーするにあたっては、それまでに「自由研究ディベート」という生徒の活動があって、過去にも千葉県で行なわれた模擬裁判のコンペに出場するなど、積み重ねがあることが基礎となっているようです。この日参加した1年生の中にも、将来法曹の職業に就くことまで視野に入れている生徒がいますし、積極的に参加しようという意気込みにあふれていました。
 弁護士の先生方は、あくまで高校生にはわからない専門的なことを指導するだけ、高校生らしい発想を大切にするという姿勢を強調していました。双方の意欲が一致していて、いいものができることが期待されます。

 このレポートの続編は、8月2日の紅白戦の様子を取材させていただき、「高校生模擬裁判選手権への道(その2)」としてお伝えする予定です。

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