千葉県弁護士会夏休みジュニアロースクール(その2)

〈第3回口頭弁論期日ではまず原告が登場〉

 原告の証言は、原告代理人による主尋問、被告代理人による反対尋問に答える形で行なわれ、およそ次のようなものでした。
「アンケートをきっかけに150万円貸すことになったが、何に使うかは聞かなかった。5月30日の購入時、メイクをしてもらうのに時間がかかり、他のお客さんを怒らせてしまったからと言われた。150万円貸す代わりに被告のキャッシュカードを2枚預かった。お金を貸すときは、被告の車で一緒に銀行へ行き、銀行の出口でお金を渡した。その後、被告が振込みをするという別の銀行へ一緒に行ったが、外で待っていた。借用書は、「もう期日を過ぎたからいらないでしょう。」と言って、破られてしまった。6月11日は熱が出て行かれなくなったと言われ、14日に会ったがお金を借りていないと言われた。16日にはポストにひどい手紙が入っていた。化粧品は6月2日までに2つ開け、10日までにもう一つ開けた。他に預貯金はなく、被告に「秘密にして。」と言われたので、家族にも相談せずにお金を下ろした。被告に借金があることは知らなかった。メモは被告が全部書き、確認もしなかった。」

各裁判体からの質問の一部
・借用書をなぜ簡単に渡し、破られても怒らなかったのですか?
原告:「被告にひったくられました。」

・なぜバッグを今日持ってこなかったのですか?
原告:「弁護士が今日はいらないと言ったからです。」

・なぜ150万円という金額に決まりましたか?
原告:「アンケートの中で、貯金はいくらか聞かれ、150万円と答えました。」

・メモに金額がないのはなぜですか?
原告:「1枚目のには書いてありました。それは2枚目で、被告が急いで封筒に入れていったので見ませんでした。」

・アンケートは化粧品のことではないのですか?
原告:「口頭で、死ぬほど困っている人がいたらどうするかとか、1時間ぐらい聞かれました。」

・破られた借用書はどうしましたか?
原告:「被告が持って帰りました。」

〈次は被告の証言〉

 被告も、被告代理人による主尋問、原告代理人による反対尋問に答えておよそ次のように証言しました。

「原告には5月30日にセールスのため駐車場で声をかけ、自分の事務所でメイクをした。そんなに時間はかからなかったし、他のお客を怒らせたりしていない。6月2日は、返品には応じられないという話の途中で、「銀行に行きたい。」と言われ、話の続きがしたかったので車で送っていった。「サラ金に借金をしているのか。」と聞かれ、なぜ知っているのかと気持ち悪く思った。郵便配達の仕事柄、封筒の表書きなどを通して知ったのだろうかと思う。離婚した夫が借金をしており、その保証人なので今も返済している。原告が銀行内にいる間は隣のコンビニにいたので、何をしていたのか知らない。その後、自分の銀行に行く用事があり時間も迫っていたので、原告を車に乗せたまま銀行へ行った。返品は自分の損になるので嫌だったが受け入れ、代金を返すことになった。6月2日は、私が持っている粗品のバッグがほしいと言われ、借金のことを言いふらされると嫌なので差し上げた。6月10日はやはり返品を諦めてもらおうと思って、代金を用意していかなかったが応じてもらえなかった。11日に支払うことになり、原告の言うままにメモを書いたが、今思えば金額を書けばよかった。少額だったし、翌日返すつもりだったので。11日は熱を出して行かれず、12日に電話して、自宅まで来てくれたらお金を返すと言ったのに来てくれなかった。14日に会ったとき、「6月2日にバッグからお金がなくなったと言われ、その後もお金を返せと言われた。借金のことをほのめかされたりした。借金返済は毎月7万円で、今もしている。本社から化粧品を仕入れたとき代金を払い、お客へ売った差額が自分の利益になる。原価は6割で、代金は月末にまとめて支払う。伝票や領収書を作るのは慣れている。」

各裁判体からの質問の一部
・山本富美子さんと山本弘之さんは誰ですか?
 被告:「おばとおじです。おじには借りていた入院費用を返しました。おばから返してもらった30万円とは別の話です。」

・サラ金からどのぐらい借りていましたか?
 被告:「200万円ぐらいです。」

・メモの「お借りしました」という文は、20,500円を返金することなのに、おかしいと思いませんか?
 被告:「原告に言われるままに書いたし、そうなるのかと思いました。」

〈最終の話し合い〉

 弁護士は「原告が150万円を被告に渡していないなら、そのお金をどうしたんでしょう?落としたか、なくしたの?どちらも怪しいね。」とアドバイスしているグループもあります。また、「銀行へ二人で行ったことは原告の主張を裏付けそうです。6月10日の件は、どちらの言い分が正しそうかな?お金に困っていないと言いながら、10日に払う20,500円はないというのはどうですか?返してしまえばよかったと言われたら?」というアドバイスもありました。
 中学生からは、「被告には新しい夫がいるので、生活費には困っていない。」「原告は定期をおろすのに、軽率なのではないか。」「150万円を貸したという証拠がない。」「被告にはお金を借りる動機がない。」「原告はお金を渡した後に、被告と次の銀行へ行っておきながら、お金がどうされるか見届けないのはおかしい。」という指摘がされていました。

〈判決とその理由〉

第1裁判体
 請求棄却(全員一致)
 理由は、メモに金額がないこと。メモを確認しなかったのはおかしい。お金を下ろした証拠はあるが、渡した証拠がないこと。原告の証言は、時々言葉に詰まったりして信用性が低いこと。アンケートをされたというのも信用できない。仲のよくない人に150万円も貸さない。もっと早く警察に言えばよかった、というものでした。

第2裁判体
 請求棄却(3人)
 理由は、被告にお金を借りる動機がないし、借りた証拠もないことです。
 被告はお金を払いなさい。(1人)
 理由は、被告は「警察を通して話そう。」と言うだけで、自分から訴えを起こそうとしなかったから。

第3裁判体
 被告はお金を払いなさい。(3人)
 理由は、メモの「お借りしました。」という言葉が不自然なこと。原告は150万円を引き出しているという事実がある。被告には借金があり、いまだ20,500円を返していないこと。
 請求棄却(1人)
 理由は、定期をおろしてまでお金を貸すのは不自然なこと。

第4裁判体
 請求棄却(全員一致)
 理由は、アンケートの内容が不自然で無理があり、ポーチを渡す方が自然なこと。最初に銀行に行った点は原告に有利だが、次の銀行で被告が振り込むのを見届けなかったのはおかしい。メモの内容を確認しなかったのも不自然である。

第5裁判体
 被告はお金を払いなさい。(2人)
 理由は、原告が150万円下ろしたことは事実で、用もないのにおろすのは不自然であること。メモは被告がわざと金額だけ書かなかったと考えられる。20,500円払わない理由も不自然である。
 請求棄却(2人)
理由は、150万円を被告に渡した証拠がない。原告の証言には不自然さがあること。

〈おわりに〉

司会:「ちなみに保護者の方々のご意見はいかがですか?」→10人中9人が請求棄却でした。
:「弁護士はどうですか?」→認容13人、棄却5人でした。

:「これはロースクール生のための教材で、今回は中学生用に簡単にしてありますが、どちらかというと棄却が多いです。実務家がすると認容が多くなるようです。ロースクールでは、証拠をどうみるか、どう評価するかということを学びます。お金の出入りの記録は原告の言うとおりで、不完全でも証拠のメモはお金を借りたときに書くものだし、お金を貸したことは事実ではないかと考えられそうです。保護者の方は人を見る目や人生経験の豊かさでお考えになるのでしょう。」

原告役:「信用されないような話し方を練習してきました。普段は信じてもらおうと思って話すので、信用されないように話すのは難しいと思いました。皆さんの判決から、練習の成果があったかなと思います。」

被告役:「この教材を見たとき、これは自分に不利だと思いました。証拠が全部自分で作れるものだからです。「山本さんが夫婦ですか?」という質問が出たときは、負けるかなと思いました。鋭い視点でした。」

〈終了挨拶〉

安川秀穂 千葉県弁護士会法教育委員会委員長
 自分の言いたいことをうまく伝えられない人もいますが、話がうまくできないからといって、すぐにその人に言っていることを信用しないとしてしまうことは、正当な権利を認めない結果になりかねません。話し方だけで判断するのは適切でない場合があるということですが、今回は短時間でしたし、判断するのは難しかったと思います。今後、いろいろな人に会ったり経験をしたりして、成長していっていただきたいと思います。紛争に巻き込まれないように気をつけて、楽しい人生を送りたいですね。
 次回のジュニアロースクールは来年3月26日の予定です。またのご参加をお待ちしています。

〈取材を終えて〉

 このレポートでは紙面の都合上お伝えできませんでしたが、銀行口座の明細など、中学生にとっては見る機会も少ない証拠書類や沢山の証言が出て、整理するだけでも大変でした。参加者は最後までじっくりと取り組み、素晴らしかったと思います。
「自分で地域の新聞に今日の広告が載っているのを見て、参加しました。とても楽しかった。将来は検察官になりたいです。」と目を輝かせて感想を話してくれた女の子もいました。

 「どちらが嘘をついているか見極める」のは本当に難しかったです。こちらが本当なら、と仮定して考えるプロセスを繰り返していくうちに、どちらも信用できないような気がしてきました。今回、証拠書類の重み付けを教えていただき、勉強になりました。喋るのが苦手という人もいれば、大事なことをうっかりしてしまうこともあるのが現実です。そういうときこそ助けてくれる人がいてほしい。弁護士の仕事のありがたさも感じました。

ページトップへ