法教育シンポジウム―未来を拓く法教育in京都― その1

 2010年10月29日(金)13:30~17:00、龍谷大学アバンティ響都ホールで法務省、文部科学省、最高裁判所、日本弁護士連合会主催による法教育シンポジウムが開催されました。会場は京都駅直結の便利な場所です。京都では地域との連携を特色とした「京都法教育推進プロジェクト」が進行しつつあります。

プログラム

13:35 基調講演
14:15 法教育実践報告(VTR)
14:55 公開授業
15:45 パネルディスカッション

1 基調講演

「京都法教育推進プロジェクトの取組みとその意義」

笠井正俊 京都大学教授

 法教育は制度的基盤・環境が着実に整いつつあり、こういった環境を生かして実践と普及に移っていく段階にあるといえます。よい教材がたくさん作られるよう、地域との連携が望まれます。関係機関・実務家・大学の役割は大きいと思います。学校と専門家がアクセスしやすい環境づくりを期待しています。教育機関との分担も重要な課題となるでしょう。
 京都法教育推進プロジェクトの意義は、全国に先駆けた、学校と地域社会の専門家との体系的・計画的な連携・協力の具体的な実践であることです。全国各地での展開のモデルとしてふさわしいものといえるでしょう。

2 法教育実践報告

「私たちの町のルールを考えよう」
立命館中学校 1年1組 28名(男子14名、女子14名)
9月27日(月) 第2,3校時
教科:地理  単元:私たちの町のルールを考えよう(2時間扱い)
場所:1年1組教室  授業者:加賀山万理子 教諭
(当日の参考資料から適宜引用させていただきます。)

〈授業の趣旨等〉

 法教育授業は中学3年生の公民や高校でおこなわれることが多いですが、今回は1年生で行なうにあたり、地理で学んだことを活かせる授業をしたいと思いました。学んだ地域の特性、それに関わる条例、それについての生活者の視点を活かしたいと思います。学級全員が立命館小学校(京都市北区)から進学した生徒達であり、生活の中で京都市の町の様子を自然に観察していると考えられます。6月には「伏見巡検」という学校周辺の町を散策し、レポートを作成する行事に取り組んでおり、自分達が生活している地域の地理的・歴史的事象を発見する力を養っています。

〈授業VTRより〉

①導入
先生:「伏見巡検をしましたね。京都はどのような都市でしょうか?」
男子1:「もと首都。平安京がありました。」
男子2:「京都タワー。」
口々に:「御所、お寺、神社が多い。」などの声が上がります。
女子1:「うちの近くに大徳寺があります。」
先生:「お寺が多いだけでなく、近くにありますね。今日はそういう京都の町ならではの問題を考えてほしいと思います。架空の事例として、私たちの町のルールを考えてみます。では、ワークシートを読んでください。」

事例の概略
 京都市立命町は有名な寺の門前町です。建物の多くは2階建てか3階建てで、遠くに大文字の送り火を見ることができます。10年ほど前から寺の参拝客が減り、参道の商店街は閉店する店もありにぎわいがだんだん失われていました。ひと月ほど前には寺の参拝客用の駐車場が売りに出されたようでした。
 この駐車場跡を買った不動産会社アール社は、地上30階(約120m)建ての高層マンションの本館と別館の2棟を建設する予定であることがわかりました。外観は白い壁と青い屋根で、1室1億円を超える超高級マンションです。本館1階にはスーパーマーケット、別館にはスポーツジム、展望ラウンジの設置が予定されています。アール社は最近の不景気で経営状態があまり良くなく、何としても計画通りマンションを建設したいと考えています。
 まいこさんはこの駐車場跡に隣接する古い家に住む中学1年生です。マンション本館が町の南側に建つと日当たりは悪くなり、大文字の送り火も別館の陰になってしまいます。まいこさんをはじめとする立命町の住民達は、環境悪化を理由に建設に反対しています。
 まいこさんの中学の友人つとむ君の家は、古くから参道の商店街で八百屋を営んでいます。近年、人口減少や参拝客の減少で売り上げが悪化しています。ここの商店街の人たちは、今のところマンション建設に賛成でも反対でもありません。自治会長を務めているまいこさんの父親は、住民とアール社との話し合いに取り組むことになりました。

 

②展開Ⅰ クラスを建設反対住民・不動産会社・中立派の3グループに分ける
先生:「まいこさんの意見に賛成の人?」→10人ぐらい挙手
先生:「アール社に賛成の人は?」→14人挙手
先生:「では、この多数決の通りに決めましょうと言ったら?」
女子2:「えー。」
男子3:「自分が入居しないなら反対だけど、入居するなら賛成。」
先生:「多数決で決めても不満が出そうなので、いろいろな立場から意見を聞きたいと思います。」
 先生がクラスを座席2列ずつ、建設反対住民・不動産会社・中立派(商店街の人たち)の3グループに分けました。弁護士に指導・助言してもらいながら、各グループでそれぞれの立場の意見を考え、発表します。発表できたグループは「秘密情報カード」がもらえる仕掛けがあります。「秘密情報カード」には、事例に書かれていない人の意見が書かれ、グループの考えが行き詰ったときに幅を広げることができます。

 発表 
住民:「伝統や町並みを壊さないでほしい。マンションの配色を落ち着いたものに変え、別館を別の場所にしてほしい。」
不動産会社:「土地は買ったのだから自由に使えるし、町おこしにもなる。」
中立派:「賛成の人は、商店街のお客が増えると考える。反対の人は、スーパーにお客を取られると考える。」

③展開Ⅱ 各グループをさらに3つに分け、3つの立場の人が3名ずつ含まれる班を作る
先生:「それぞれの立場の人が納得できるような案を作ってほしいと思います。この地域にどういうルールをつくったらいいか、話し合って発表してください。もめたことも発表してください。」

 発表
A班:「日当たりのことでもめました。マンションにスーパーをつくるのはやめて、別館はなくします。本館の屋根を斜めにして日当たりをよくし、色も変えます。」
B班:「日が当たるようにマンションをH型にします。展望ラウンジは一般に開放し、配色も変えます。スーパーは地元から商品を仕入れます。」
C班:「スーパーは商店街から商品を仕入れます。概観を京都らしくします。」

④まとめ
 教科書「もっと知りたい日本と世界のすがた」、景観保全のための条例を読み、まとめます。ワークシートの生徒の感想には、「2回目の討論が面白かった。」「公平を考えるのに苦労した。」「いろいろな条例があることがわかった。」「京都は条例があるので、発展のスピードが東京や大阪より遅くなるのではないか。」などがあったそうです。

〈先生のコメント〉

 1年生は8クラスあり、全てのクラスでこの授業をしました。全ての授業に弁護士の先生に入っていただくわけにいかなかったのですが、教材さえしっかりしていたら学校の先生だけでも十分にできると思いました。生徒を5~6人の小グループにしたり、空いている先生とチームティーチングをするなどの工夫で、ある程度ねらいが達成できたと思います。ルール作りから離れ、合意の形成ばかり重視される懸念もあります。自分たちの主張を考える時間を多く取ることで、そのような課題をある程度克服できたと思います。「ルール」などの用語も曖昧でしたが、中学生の発達段階ではよかったのではないかと思います。

公開授業、パネルディスカッションは報告その2でお伝えします

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