千葉家裁「法の日」週間広報行事 「少年非行から子育てを考える」

 2010年10月20日(水)13:30~15:45、千葉家庭裁判所で今年も「法の日」週間広報行事が行われました。「少年非行から子育てを考える」というテーマで、千葉家庭裁判所、千葉少年鑑別所、千葉保護観察所の先生方とともに子育てについて考える企画です。民間団体の関係者・付添人・大学生など28名が参加しました。人間の存在の原点、自尊感情といった、法教育の根本に連なると思われる大切なことを考えさせられる取り組みです。

プログラム

13:30 千葉家庭裁判所長挨拶
13:35 少年審判の実際(ビデオ上映)
  「少年審判 少年の健全な育成のために」
質疑応答
14:20 休憩
14:30 パネルディスカッション
パネリスト
  佐藤卓代
総括主任家庭裁判所調査官
  中村英雄 千葉保護観察所統括保護観察官
  西岡潔子 千葉少年鑑別所首席専門官
  原   啓 家庭裁判所少年部部総括裁判官
司会
  金子隆男
次席家庭裁判所調査官
15:45 審判廷見学(希望者のみ)

 

挨拶

西島幸夫 千葉家庭裁判所長

 今日は少年審判が実際にどのように行なわれるか、ビデオを見てから、最近の事件の傾向と子育ての関係を保護観察所、少年鑑別所とともに考えたいと思います。家庭裁判所では、少年に事件の責任を問うだけでなく、その原因を考え、適切な処遇によって再非行を防ぐ努力をしています。保護者の中には、日頃子どもへの接し方に悩んでいる人も多くいます。家庭裁判所も調査などを通じてアドバイスに取り組んでいます。その改善のためにも、今日のご感想をうかがえればと思います。

ビデオ上映

 ある日の昼間、とある公園にたむろしている3人の少年が、本を読みながらやってきた中学1年生の男子から、6千円を脅し取りました。少年らは中学3年生で、警察に逮捕された実行犯の少年1人が、観護措置を受けて少年鑑別所に入ります。家庭裁判所の調査官との面接、保護者と調査官の面接、少年鑑別所で生活しながらの心理テストや行動観察を通じ、少年の非行の原因が考えられ、少年の心や保護者の態度も変化していきます。家庭裁判所での第1回の審判を経て観護措置が解かれ、自宅から中学校へ通う普通の生活の試験観察が行なわれます。改善が見られるということで、第2回の審判では保護観察が決定し、毎月保護司と面会し、立直りを見守られることになります。

〈少年審判手続きについての解説と質疑応答〉

 まず、少年事件の手続きにおける家庭裁判所と保護者(親)との関わりについて、解説がありました。少年の身柄拘束が解かれる場合は、逮捕後や勾留後など、いくつかの場合がありますが、その場合は保護者(親)が身柄引受を行い、その後の出頭を確約することになります。さらに家庭裁判所の調査では、保護者も調査の対象になり、少年の非行の原因と今後どうしたらよいかを一緒に考えます。試験観察中には、少年を指導するとともに、少年の更生のための環境作りに努力することになります。

 次に、参加者からの質問に裁判所が回答します。
質問1:「試験観察期間はどのくらいですか?」
回答:「約4ヶ月です。第1回審判では、第2回審判の期日を指定しません。」

質問2:「少年鑑別所には必ず入ることになりますか?」
回答:「在宅事件もあります。書類が家庭裁判所に来るだけです。逮捕されても家に帰されることもあり、後日呼び出されることになります。」

質問3:「ビデオのように加害者が複数の場合、加害者が連絡を取り合うことはありますか?」
回答:「家庭裁判所の手続きは、個々の少年に対し最適な処遇を考えるという配慮から、一人ひとり別々に行なわれます。」

パネルディスカッション

〈子どもの非行を招く親の態度〉

佐藤先生:「少年非行は昔も今も万引き、自転車盗、占有離脱物横領が多いですが、これらは書類だけの手続きになります。面接調査になる例で最近の面接から気になることは、「罪の意識が軽くなった」ということです。誰に迷惑をかけましたか?と聞くと、「親」が多い。「被害者」が出てきません。何が迷惑なのですか?と聞くと、具体的に出てこないのです。原因は、少年については社会体験が少なく、想像力に乏しいためではないかと思われます。親については、ことの重大性や責任をきちんと教えていない。裁判所に来る前に時間はあったのに、親の考え方や対応が不十分と思えることが多くなりました。親がルールについて、些細なことだからとおろそかにしていると、子どもは許されると思って、少しずつルールを無視する範囲を広げても大丈夫という感じになります。親が子どもに対し、不適切な遠慮をしているともいえます。子どもの気持ちや考えを十分に確かめないまま、注意せずに終わってしまう。事件を起されると親がびっくりしてしまって言えない、どうしていいかわからない、タイミングを逃す、子どもの行動を割り引いて軽く考えてしまう、ということもあります。また、親が子どもの行動を周囲の影響のせいにしたり、お金を払ったのに事件にされたなどという態度をとると、子どもはより軽く受け止めて、自分を正当化します。」

〈望ましい親の態度〉

佐藤先生:「望ましい親の態度は、1つは、事件を起すといろいろな責任を負わなければならなくなることを親が知っていること。2つめは、親が子どもと一緒に責任を果たしていこうとすること。3つめは、親が子どもと話し合うこと。きちんと注意できること。4つめは、親が子どもを連れて一緒に被害者へ謝りに行くことです。これが難しいです。親が謝っている姿を見て、子どもは「悪いことをした」と身にしみてわかります。「人への謝り方」も親から学べます。親も、我が子が謝る態度を見守ることが大事です。被害者から言われることなどの体験を、親子で共有することも大事です。」

〈思春期の子どもへの向き合い方・コミュニケーションの仕方〉

佐藤先生:「思春期の子どもの特性は、すぐ態度が変わったり、親子や師弟といった縦の関係より友達との関係を重視し、気持ちの揺れも激しいです。叱るにも頭ごなしや親の面子ではダメで、場や状況を考えて工夫する必要があります。交友関係や友人のみを責めるのは逆効果です。「あなたの行動が友人に迷惑をかける」と言うほうが、効果があることもあります。正解はありませんが。親子のコミュニケーションは、感情的にならず聞き上手になってください。子どもの非行は親にとって衝撃的なことですが、親が子に何か伝える絶好の機会とも言え、コミュニケーションを変えていく工夫をするチャンスです。」

〈レジリエンス―たくましさ・逆境を克服していく力〉

西岡先生:「少年鑑別所では、主として家庭裁判所で観護措置が取られた少年達が生活しています。千葉少年鑑別所は千葉市天台にあり、定員90名です。審判を控えている少年を24時間収容し観察する状況で、性格・非行の原因・どうすれば立ち直れるかなどを明らかにし、レポートを作り家庭裁判所に提出します。家庭裁判所の調査は学校や保護者などを広く対象としますが、少年鑑別所では軸足が少年にある点が違います。少年のいいところ、特に、困難な状況を補えるようなところを意識して捉えるようにしています。レジリエンス(たくましさ、逆境を克服していく力)という概念を参考にして、少年達の特徴を把握するようにしています。少年鑑別所の面会は、親子のやり取りからレジリエンスの過程を見ることができます。例えば、初回の面接のとき少年が嬉しそうにする、親もそれを見て笑ったり涙を流すなど、感情が相互に出るときです。逆に少年が黙り込み、親は睨みつけるだけだったり怒鳴る場合は、レジリエンスの過程を認めにくいといえます。やり取りの際も、子どもの言うことに耳を傾ける親、子どもの気持ちに寄り添う親の姿勢は望ましいといえます。逆に、親が先走ったりして、テンポが合っていない場合は、レジリエンスの過程を認めにくいといえます。」

〈愛情の飢えには、日常の些細なコミュニケーションを大切に〉

中村先生:「少年らに対して保護観察は、審判が終わってからが始まりと説明します。少年に遵守事項を説明し、これに違反すると少年院に行くことがあるとして、誓約書に署名押印をもらいます。18歳未満は20歳まで、18歳以上は2年間が保護観察期間で、一般事件では1年後に解除を検討します。もう継続しなくても確実に改善更生すると認められるとき、具体的には遵守事項を守っている・仕事や学校にきちんと通っている・保護司のもとを定期的に訪問しているとき、解除します。仕事をしない人は、している人に比べ5倍も再犯・再非行の率が高いので、協力雇用主を確保することに努力しています。少年院を出た後や刑務所を仮釈放中、執行猶予中なども保護観察になります。少年の心の飢えを解決することが、非行の予防・解決になります。「心の飢え」とは、「親に見捨てられた」という愛情の飢えです。事例をお話しすると、母子家庭で母親をののしり、特に「飯も作らない」と強調するのが気になった少年がいます。そこで母親に、「炊飯器でご飯を炊くだけでいいから。」と指導しました。おかずは買ったものでも、母親が毎日ご飯だけは炊くようにしたところ、少年に良い影響を与え真面目になりました。生理的に空腹を満たすということは、特に朝食が暴力的行動を防ぎます。親の愛情表現方法としても、食事の支度をするというのはわかりやすいです。旅行など特別なことをするよりも、日常の些細なこと、食事を作る・走り書きを置くなどのほうが、愛情飢餓感をやわらげられます。特に「書くこと・手紙」がコミュニケーションであり、効果があります。」

〈非行から子育てを考える〉

原先生:「人間の存在の原点に関わることになると思いますが、私は以下の点を強調しておきたいと思います。それは人は誰でも身近の人から愛されている、構ってもらっているという安心感がなければ、不安となって、非行などの問題を起こしやすいということです。「人は、周りの人から愛されていることで、はじめて自分を大切にすることができるようになり 、自尊心を持つことができ、他人をも愛することができるようになります。」私は、このことは子育ての原点でもあると思います。
 人が幼いとき、身近の人から愛されなかったり構ってもらえなかったりすると、自分自身に自信が持てないようになり、自己イメージが悪くなり、自尊心が低くなります。その結果、そのときが楽しければよいという刹那的な生き方、考え方に陥り、他人との人間関係が希薄になります。これは、少年院に入所する近ごろの若者の性質、行動傾向として、指摘されることと共通します。すなわち、①疎外感、愛情欲求不満、②自己イメージの低さ(自尊心が低い)、③刹那的な生き方、考え方、④人間関係の希薄さ、などがそのまま当てはまります。少年院ではこれに対処する方法として、(1)人との絆を認識させる(愛されているという実感を持てるようにする)、(2)自尊心を高める(自己イメージを高める、自信を付ける)、(3)具体的な目標(将来の夢)を自分で設定させる(遠い将来、近い将来、目前の各目標設定。このときカウンセリングの手法をとり、目標は本人自身に設定させなければならない。決して他の人が設定してはならない。)、(4)コミュニケーション能力を向上させる、などを実行しているようです。
 現今は、保護者層の規範意識・道徳観の脆弱化(善悪の判断基準が弱まっている)、家庭及び学校の保護・教育機能の低下(家庭や学校で子どもを保護したり教育したりする機能が低下している)等の影響によって、規範意識(ルールを守らなければいけないという意識)の希薄化が社会全体に一般化している(蔓延している)。このようなモラルの著しい崩壊に象徴される社会全体の道徳観・規範意識の希薄化が、成長期にある少年らに甚大な悪影響を及ぼしていることは容易に理解できます。
 そこで、幼児期からの、家庭の躾、公教育の改善充実が最も重要であると思います。我々裁判所などの関係者が行う保護処分・刑罰は対処療法にすぎず、それがどんなに優れていても、非行・犯罪対策としては自ずから限界があります。それは、病気に罹ってから治療するよりも、病気に罹らないように予防する方がいいに決まっていることから考えても明らかです。警察などに検挙された非行少年に健全な規範意識や基本的生活習慣・生活態度を再教育するよりも、幼児期から、家庭、学校等でこれらを身に付けさせる方がはるかに容易かつ効果的であります。 
  「子育てを考える」については、非行という病理現象から学ぶことは多いが、単に非行を犯さないというだけの消極的な生き方ではなく、積極的に、その子ども自身が生きる意義を見つけて、自ら社会の中で生き抜いていく力を身に付けていくことが必要であります。保護者は子どもに寄り添い応援してほしいと思います。」

質疑応答

質問1:「不登校の子どもの訪問をしていますが、生活保護も愛情飢餓も2世代にわたる事例が多いと感じます。いろいろな面で二極化していると思いますが、そういう親御さんにどう対応すればいいでしょうか?」
佐藤先生:「格差が広がっていると思います。親を責めてもしようがないので、親を力づけ、学校の先生とのつながりを保つとか、できること1つだけでも続けてほしいと思います。」
西岡先生:「問いかけや提案を、すぐには(解決に)結びつかなくても続けることが大事だと思います。」

質問2:「子どもに無関心な親を持つ虞犯の子ども達を、どうすれば支えられるでしょうか?」
中村先生:「親に対し親自身が幸せになりたければ、子どもが非行をしないように努力してあげてほしいと言ってあげてはどうでしょう。相談をしてほしいと思います。」

質問3:「就労支援は保護観察所でもしていますか?」
中村先生:「はい。トライアル雇用などをハローワークと協働して実施しています。また、本人が雇用主に業務上の損害を与えたときに見舞金が出る身元保証制度があります。このようにして、保護観察では協力雇用主の拡充に努めています。」

質問4:「親のない子で、親権が児童相談所などの場合、処遇が違いますか?」
原先生:「裁判所は少年の処遇を決めるにあたって、非行の内容はもちろん、少年の性格・能力・家庭環境・交友関係など様々な事情を見て、その少年が将来再非行を犯すかどうかということを考えます。少年をきちんと指導教育できる親がいれば、少年が再非行を犯すリスクが低くなると考えられます。それでは、親のない子はどうかというと、親がなくても親に代わってその少年を指導教育できる人や機関があれば、親がいるのと同じと考えられます。」
西岡先生:「不遇の中でも、頼りになる大人を見つけて頑張る子もいます。」
中村先生:「親のない子は更生保護施設(民間。職員は保護司。)に入ってもらって、保護観察をします。地域定着支援センターをつくり、福祉でネットワークをつくる取り組みが始まったばかりです。」

質問5:「少年鑑別所から戻ってくる子を受け入れる側の注意点は何ですか?」
西岡先生:「少年鑑別所では中学生が今多いです。学校の先生はご苦労が多いと思います。少年鑑別所で生活しているうちに、子ども達はだいぶ表情が変わってきて、次第に勉強したいと言い出します。勉強が分かって喜ぶような素直な面を、学校の中でも見せられる機会が少しずつでも増えると、身の丈にあった生活ができる気がします。」
中村先生:「少年との信頼関係や守秘義務から、保護司は全てを学校に話せるわけではありませんが、情報交換して指導に役立てたいと思います。箔がついたとかでなく、「以前の少年と違う」という目で見てあげてほしいです。学校から追い出してしまったら、再非行に走るだけだと思います。」

取材を終えて

 参加者から二極化という話が出ましたが、少年非行にもその傾向があるように感じられました。一つは親の愛情に恵まれながら、親が善悪の価値観をきちんと示さない、ルールについて甘い態度を取る、周囲のせいにするなどのために、子ども自身も社会規範から逸脱する自己を正当化するようになる場合。もう一つは、生理的・心理的に親の愛情に飢えている場合です。それも2世代にわたる例が多いということで、関係者のご苦労が推し量られます。どちらの場合も、まず親子のコミュニケーションが最も重要な要素と考えられます。忙しい親でも「書いて伝える」という方法なら実行しやすいでしょうし、辛抱強く続けるという気持ちも大切と思われました。いろいろ子育てのヒントが得られたのではないでしょうか。学校関係者の方にも参考になる意義深い企画だったと思います。
 法教育の観点からは、「自分で自分を大切にすること」ができて初めて、「他人をも大切にすることができる」という点が重要でしょう。『法教育のめざすもの』にもありますように、人々が共生するための相互尊重のルール(法)に関わるための基礎的な資質・能力を支えるものが、この自尊感情と他者を尊重する気持ちです 。子ども達の中にその気持ちを育むためには、第一に親の愛情が必要であることを再確認させられます。それが不十分な場合、学校の取り組みが困難に直面することも考えられます。
 また、親の態度一つで、子どもはルールを守らなくていいと考える範囲を少しずつ広げていくというお話も興味深い点でした。「ルールづくり」と「ルールを守る」ことの間には、さまざまな要素があることが示唆されると思います。

ページトップへ