千葉市「明るい選挙出前授業」 千葉市立新宿小学校

 2012年2月1日(水)10:25~12:00、千葉市選挙管理委員会と千葉県弁護士会法教育委員会による「明るい選挙出前授業」が千葉市立新宿小学校を会場に行われました。体育館に6年生全員が集まり、市長選挙候補者に扮した弁護士の選挙演説・質疑応答が行われた後、選挙管理委員会の本格的な投票用器材を使った模擬投票が行われました。投票結果には大人も驚き、予想外の展開に!
 選挙管理委員会・弁護士会・教育委員会という3つの機関の連携による画期的な取組みをご紹介します。

〈千葉市選挙管理委員会と千葉県弁護士会法教育委員会の協働〉

 千葉市選挙管理委員会では、従来から選挙啓発のために学校生徒会などに選挙器材の貸出しを行ってきました。今年度は選挙管理委員会委員長を千葉県弁護士会法教育委員会の山本宏行弁護士が務めていたことから、初めて選挙管理委員会と弁護士会共催の選挙啓発授業が企画されました。
 授業づくりは2011年夏頃から弁護士会法教育委員会で始められました。法教育委員会の安川秀穂委員長はつぎのように話しています。
「授業のコンセプトは、選挙に親しみをもってもらうということです。どの候補がいいかを考えるという点では法教育も大きく関わっています。時間の都合で生徒からの質問の時間が十分取れないかもしれませんが、選挙に親しむ、考えるという2つの要素をうまく融合させたいと考えています。初回は新宿小学校と鶴沢小学校の6年生を対象にして行います。出前授業という形なので、学校の先生とは、学校に関する情報提供や生徒のレベルとの兼ね合いなどで相談しています。」

〈千葉市立新宿小学校のプロフィール〉

1873(明治6)年、妙見寺に開校。その後、池田小学校と呼称。
翌年、千葉師範学校附属小学校と合併し、道場小学校と改称。
1941(昭和16)年、千葉市立富士見国民学校と改称。
1947(昭和22)年、新学制により千葉市立新宿小学校と改称。
千葉市のほぼ中心に位置し、学区および周辺はデパート等の大型店舗が軒を並べる市内有数の商業地域であると同時に、市役所・県庁などを有する官庁街でもあります。JR線、京成線、千葉都市モノレール線の千葉駅から徒歩約5分。

学級数・児童数        (本校ホームページより 2011年4月7日現在)

1年 2年 3年 4年 5年 6年 杉の子・
たんぽぽ
合計
学級数 5 5 4 4 4 3 5 30
児童数 160 142 125 154 122 109 23 835

 

授業

明るい選挙出前授業「新宿市(架空)の市長選挙をしよう」
6年生3学級  10:25~12:00  場所:体育館
教科:社会科  大単元:「わたしたちの生活と政治」
小単元:「わたしたちの願いを実現する政治」
授業者:千葉市選挙管理委員会、千葉県弁護士会法教育委員会
 体育館の前面中央に投票記載台、右側に受付・名簿対照係・投票用紙交付係、左側には立会人の席が設置されています。市長候補役の弁護士3名が、候補者名を書いたたすきをかけ胸にリボンをつけて、児童の席の右側に並んで座っています。児童の席には、空き地の見取り図と3名の候補者の主張をひとことで書いたチラシ、「選挙の流れ」という資料2つが配られています。

導入(10分)
  挨拶、選挙のイメージ
展開(休憩10分を含め55分)
選挙管理委員会から「選挙の流れ」説明(5分)
候補者の主張(5分×3名)、質疑応答(休憩を除き15分)
投票(10分)
まとめ(20分)
開票作業、結果発表、候補者の感想、児童の投票理由発表、講評、挨拶

 

1 導入

〈挨拶〉

教務主任:「今日は実際の選挙や、政治、民主主義のことを考える貴重な機会です。県弁護士会と千葉市選挙管理委員会の先生方が指導においでくださいましたので、しっかり学習しましょう。」
山本先生:「私は千葉市選挙管理委員会の委員長です。本来の仕事は弁護士で、両方をしています。紫の腕章は選管のしるし。弁護士のしるしは胸にひまわりのバッジをつけています。皆さんは今12歳ですね。今日は8年間ワープしもらって、この2時間だけ20歳になりきってください。20歳になると何ができますか?選挙をしてもらいます。お父さんやお母さんがしている選挙と同じ、全部本物の道具を使います。ここは新宿市で、皆さんは新宿市の20歳の市民です。これから3名の市長選挙候補者の演説を聞いてから、考えます。答えがあるわけではありません。正解があるのではなく、自分で自由に考え、みんなが考えたことが答えになります。教科書の13ページでも国会議員の選挙について勉強しましたね。ではよろしく。」

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〈選挙のイメージは〉

安川先生:「皆さんは選挙というと、どういうイメージをもっていますか?」
児童1:「最近、投票率が低いから心配です。」
安川先生:「ありがとう。ポスターを貼ったり、車で名前を連呼する。投票日はテレビが特別番組になる、という感じかな。でも、皆さんも普段から選挙をしています。放送委員を選ぶとか。それも選挙です。みんなに認められた人が、校内放送をどうするかなどを考えます。クラスの単位、学校の単位を大きくしたものが、(大人のする)選挙です。まず、選挙管理委員会の人から器材などの説明をしてもらいます。」

2 展開

〈「選挙の流れ」説明〉

選管委員:「投票用紙は実は紙ではなくて、樹脂でできています。開票が早くできるよう、折っても自動的に開くようにできています。(投票所と開票所の説明の後)投票の前に必ずする大事なことは何でしょう?」
児童2:「投票箱の中身を確認することです。」
選管委員:「はい、そうです。最初に投票する人に、箱の中が空なのを確認してもらいます。投票用紙の管理はとても厳重です。(プリントで、受付から投票までの流れを説明した後)投票が終了時刻になったら、すぐ開票し、計数機で数えます。実際は千葉市の区ごとに開票します。(千葉市の人口と票数の説明)」

〈市長候補者の主張〉
2012041204 空地の見取り図には、鉄道の駅と商店街、小学校、空き地が示されています。「空地に何を作ろうかな?」という言葉だけが書き込んであります。(チラシはこちらをご覧ください。)
安川先生:「この空き地にどういった施設をつくるかが問題になっています。市長候補の鈴木さん、田中さん、山田さんが主張をし、当選した人のつくりたいものがつくられます。早速、自己PRをしてもらいましょう。」

① 鈴木いちろう候補
スローガン:ゆとりを感じる市に!!家族でゆったりと過ごせる「総合公園」を作りましょう!
 新宿市をゆとりがあって、安心して生活できる街にしたいと思います。ゆとりということで、全部芝生の公園をつくり、寝転がったりお弁当を食べたりできます。子どものためには安心して遊べる遊具を作り、季節を感じられる工夫もします。春は桜、秋は銀杏や柿、栗を楽しめて、栗拾いもできる。無料でいつでも誰でも使える。それが町の中心になって存在することが大切と感じます。

② 田中ひろし候補
スローガン:スポーツ健康都市宣言!!「総合スポーツ施設」で心も体もリフレッシュ!病気に負けない体になろう!
 市民が楽しく健康に過ごせる街になるよう「総合スポーツ施設」を作ります。プール、屋内スキー、フットサル、ゲートボールなどができる施設はどうですか?スポーツが得意でない人や、疲れたら休めるように、温泉スパリゾートのような施設も中につくるといいですね。大人も子どもも楽しめる施設を、具体的には市民にアンケートをとって、決めていきたい。料金は利用しやすくするため、できる限り安くしたいと思います。ロンドンオリンピックの今年、この市にもスポーツ施設をつくって、スポーツを通じて健康になり、市民がふれ合うことで街の活性化にもなります。

③ 山田はなこ候補
スローガン:生活しやすい便利な街に!!「ショッピングセンター」で毎日の買い物を楽しく!街が活性化します!
子どもからおじいさんまで、家族みんなが行きたくなるようなショッピングセンターをつくります。お父さんお母さんと買い物に行き、長い時間になると疲れませんか?子どもが遊べるスペースを作り、雨の日も体を動かしたり、マンガも読めて、季節ごとの一日体験教室などもできるのはどうでしょう。お年寄りが休める椅子や机をたくさん用意し、子どもスペースの隣にはお年寄りの憩える場所を作ります。レストランもいっぱい。1つ考えてほしいことは、お金のことです。公園やスポーツ施設をつくるには何億円というお金が必要です。木を枯らさないように肥料をやったり、プールの水を入れ替えるにも、毎年何百万というお金が出ていきます。税金から出ていってしまいます。この点、ショッピングセンターは、建物の建設費は入居する企業が払ってくれます。土地は市のものだから、賃料が入って市の財布が潤います。お金に余裕ができたら、公園などをつくればいいでしょう。

〈質疑応答〉

 まず1組から順に1~2名ずつ、候補者への質問を受け、回答してもらいました。10分間の休憩の後、自由に質問を受け付けました。質問・回答を候補者ごとにまとめてお伝えします。
① 鈴木候補への質問・回答
「公園で出るごみが問題になったら、どうしますか?」
回答:「管理人を置いて、ごみ捨てのルールがわかるように看板も置き、皆さんの協力を呼び掛けます。それでも問題な場合は、管理人が片付けます。」
「公園の安全はどう考えますか?」
回答:「広くていろいろな遊具がありますから、管理人は何人か常駐させます。夜間は明るくし、警備員も何人か配置します。」

② 田中候補への質問・回答
「屋内スキー場の広さや高さは大丈夫ですか?」
回答:「全ての施設を平面上につくるわけではありません。ビルの何階をスキー場になどと割り振り、面積を最大限有効に使えるようにしたいと考えます。」
「ビルを高くすると、地震の対策はどうしますか?」
回答:「免震構造にします。避難訓練も行います。」
「利用料金はどのくらいですか?」
回答:「1施設1日利用で500円ぐらい。フットサルなら1コート1回何千円とか。なるべく安くしたいと思います。」(児童がざわめきました。)
「震災復興に税金が必要と言われていますが、その点はいかがですか?」
回答:「震災復興には別財源があり、こちらは市の活性化のための別の財源ですから、両方しっかりやっていきます。」
「高いビルにすると、周りの人が日陰になって困りませんか?」
回答:「周りの人とミーティングをして、困らないようにしたいと思います。5階建てくらいを考えています。」

③ 山田候補への質問・回答
「近くの商店街がショッピングセンターにお客をとられて栄えなくなったら、街全体の活性化がしないと思いますが、どうですか?」
回答:「一時的にはそうなるかもしれませんが、駅の利用者が増えて商店街へも人が行くから、だんだん栄えると思います。」
「ショッピングセンターの中に小さい店舗を並べたらどうですか?」
回答:「いいアイデアだと思います。中に市民のためのスペースを作って、商店街の店の支店を入れたらいいと思います。」
「ショッピングセンターという性質上、犯罪やエスカレーターの事故などがあると思います。そうすると、市民の信用を失いますが、どうですか?」
回答:「いい質問です。ゲームセンターはいれません。浪費になるし、学校の勉強の妨げにもなりますから。監視員を置いて、問題が起こらないようにします。」
「駐車場は造りますか?造ると駅の利用がされないので、商店街がさびれるでしょう。」
回答:「駐車場は造りますが、遠くからも電車で人が来られるでしょう。」

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〈投票〉

 質疑応答の後、どの候補を選ぶか実際に投票をしました。児童には担任の先生から投票整理券が配られており、1組1番の児童から名簿対照係の前に並んで、投票用紙と引き換えます。1番の児童は、投票箱にあらかじめ何も入っていないことを確認しました。

 

3 まとめ

〈開票〉

選管委員:「投票終了時刻になりました。投票箱に鍵をかけて、開票所に持っていきます。では、開票作業を行いますので、しばらくお待ちください。6年生児童は現在、全員で108名。今日投票してくれた人は93名。投票率は86.1%でした。では、皆さん近くまで来てください。」(児童は席を立って、計数機の周りに集まりました。)
 選挙管理委員の大人たちが児童の見ている前で票を仕分けし、計数機にかけました。
選管委員:「田中候補、40票。山田候補、こちらも40票です。鈴木候補、13票。本来、こういう場合はくじを引くことになります。今回は想定していなかったので、くじを用意してありません。ジャンケンでいいですか?」
児童みんな:「ええーっ!」(田中候補と山田候補がジャンケンをしに出てきました。)
選管委員:「最初はグー。ジャンケンポン!」
 山田候補が勝ち、山田候補の当選と決まりました。
選管委員:「くじの方法は、まず田中候補と山田候補がくじを引く順番を決めるためのくじを引きます。1番を引いた人が先にひくことになります。次に、当選者を書いたくじを引いて、引き当てた人が当選です。今まで、くじ引きになったことはありません。」

〈候補者の感想〉

山田候補役:「商店街に対する厳しい質問が来て、考えさせられました。正解のない問題に対応するとき、頼りになるのは自分で考える力です。たくさんの経験をして、自分の頭で考える力をつけてください。」
田中候補役:「3人の候補者からどういう基準で選ぶか、皆さん一人ひとりが判断する価値観があったと思います。人の意見も聞いて、自分の価値観をより高めてもらいたいと思います。」
鈴木候補役:「20歳になったら、実際の政治に自分の意見を反映させてください。」

〈児童の投票理由発表〉

山田候補を選んだ理由:「街に人が増えて、いろいろな店にお客が増えると思いました。」「市の財政が潤ってから、スポーツ施設などをつくればいいと思いました。」
田中候補を選んだ理由:「安いお金で楽しいスポーツができたり、健康になれていいと思いました。」
鈴木候補を選んだ理由:「最近環境問題が深刻化しているので、木を植えてCO2を吸収できるのがいいと思いました。」

〈「公平・公正に」市のことを考える意義〉

山本先生:「皆さんは今日、自分だけのことでなく、市民として市全体のことを考えて誰を選ぶか決めました。公平・公正に、いろいろな価値を考えて行動することは、20歳になったら一番求められることです。もし山田候補が嘘をついてショッピングセンターをつくらなかったら、どうしますか?リコール?次の選挙で票を入れない。今の紙一枚で変えることができます。皆さんはそういう強い権利を持っています。それなのに、20歳になったのに投票に行かない人が多いです。自分たちの社会を自分たちで変えられる選挙は、大事な機会であることを理解してもらえればいいと思います。」

取材を終えて

 今回、初めて模擬選挙の授業を取材しましたが、子ども達は候補者の主張についてよく考えていると感じました。ごみの問題や公共施設の安全性、商店街の経営状況、地震対策や震災復興、財政負担、環境問題といった、身近な問題から国家・地球規模の問題まで、これまで6年間に学習してきたことが網羅的に質問されていました。弁護士の先生も感心する良い質問やアイデアも出されていました。もっと時間があったら、より深まったことでしょう。そして実際に投票行動をし、結果がすぐに公表されるというプロセスを体験することにより、民主政治への参加を身をもって感じられたと思います。
 前日に行われた鶴沢小学校の授業では、候補者役を別の弁護士が演じ、得票の多い順に鈴木候補、田中候補、山田候補となったそうです。主張内容については、スローガン以外はそれぞれの役者に任されていたそうで、教材づくりも興味深いと思いました。

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