法教育推進協議会傍聴録(第27回)

 2011年12月26日(月)16:00~18:20、第27回法教育推進協議会が法務省会議室で開かれました。岐阜県における法教育の取組みについての報告と、第2回法教育懸賞論文の受賞決定が行われました。
 岐阜県では、朝日大学・岐阜大学・県弁護士会と学校現場が連携し、数々の興味深い取組みを行っています。懸賞論文についてはこちらをご覧ください。

「岐阜県における法教育の取組みについて」

1 大野正弘 朝日大学法学部教授 報告

〈岐阜法教育研究会の発足〉

 岐阜法教育研究会発足のきっかけは、2005年、岐阜県立可児工業高等学校から裁判員について説明してほしいという出張講義の依頼があったことでした。工業高校では卒業するとすぐに社会人になる生徒も多いので、裁判員裁判制度が始まるにあたり、在学中に裁判員についての学習をさせたかったのです。
 その後、上記の出張講義を契機に、岐阜県でも法教育研究会を立ち上げてほしいという依頼がありました。岐阜県内で法学部があるのは朝日大学だけという事情からでした。そこで、福井大学の橋本康弘先生に研究会設立の準備や気をつけるべき点について助言を貰い、岐阜大学の大杉昭英先生に連絡をしました。偶然同じ頃に、岐阜県弁護士会も大杉先生に連絡を取っていたので、2009年、岐阜大学・朝日大学・岐阜県弁護士会・教員が共同で岐阜法教育研究会を立ち上げました。

〈岐阜法教育研究会の取組み〉

① 法教育公開シンポジウム
 岐阜大学・朝日大学関係者、岐阜県立岐阜東高等学校校長、岐阜放送報道部長を招いてシンポジウムを開催しました。そのときは、高校の先生から「法教育とは何か?」と質問され、早急に行動する必要を感じました。

② 岐阜県弁護士会による夏休みジュニアロースクール
 朝日大学が共催し、中学生への告知、大学の模擬法廷とゼミ室を貸しました。

③ 法教育教材コンクール
 小・中学校・高等学校教諭と教育学部学生を対象に、現在作っている教材を対象とした教材コンクールを行いました。年末締切、年明けに表彰式をし、基調講演と受賞作のプレゼンを行いました

④ 2011年度、初の法教育作文コンクール
 実際に法教育の授業を受けた児童・生徒を対象に、初めて作文コンクールを行いました。

⑤ 岐阜県弁護士会と朝日大学が連携協定を締結
 学長交替にともない、法学部を有する県内唯一の大学として、新学長が弁護士会に挨拶に行き、連携協定を結びました。児童・生徒だけでなく、広く市民を対象としてリーガルマインドを育成しようとするものです。弁護士会のジュニアロースクールや市民講座における連携、シティFM番組「朝日大学“法”送局」へ弁護士がゲスト出演、司法修習生の模擬裁判研修に学生も参加、などの連携が実現しています。

〈朝日大学の法教育の取組み〉

 法学部の学生にとっても法学教育だけでなく、法的なものの考え方を身につける法教育が必要と考えています。刑事法に関して、研究室で最低限のことを学び、現場へ出て、その成果を再び研究室に持ち帰り、議論するという方法をとっています。
① 刑事法のスタートからゴールまでをたどる施設参観
 刑務所は社会の鏡と言われ、社会のありさまを反映しています。学生にとって一番印象深いのが刑務所のようです。

② フィールドワーク
 学生が自主的に調べます。たとえば、犯罪のデータと実際の聞取り調査を比較し、マップにします。データにない犯罪が多いことがわかったりします。その他、薬物依存の問題や交通事故の分析など、学生の関心からテーマを決めて調査します。

③ 地域安全安心見守り活動
 ②のフィールドワークの成果をマップにすると、落書きや死角が多いことがわかり、パトロールをしたいという学生が現れ、見守り活動につながりました。これがさらに学部単位として発展し、防犯ボランティア団体「めぐる」がつくられています。「めぐる」の活動は、防犯教室・青色回転灯パトロール・散歩レンジャー・啓発活動・危険体験アンケート・振り込め詐欺防止・防災など、多岐にわたっています。

④ 出張模擬裁判劇団「劇団朝日」
 弁護士会のジュニアロースクールを見ていた学生が、被告人などの役を中学生でなく自分たちがやることを提案し、劇団をつくりました。模擬裁判劇をまるごと出前する活動をしています。

⑤ 岐阜型法教育
 高校を対象に、5回1コースの出張講義をしています。1回目は、学校側に設例の検討をしてもらいます。次の週、2回目の授業が出張講義で、法学入門をします。3回目は、「劇団朝日」を使った模擬裁判です。4回目は岐阜地方裁判所・岐阜地方検察庁の参観で、大学から高校生のためにバスを出します。5回目は、再び学校側に設例の検討をしてもらいます。すると、1回目と比べて生徒が議論できるようになっており、生徒の考え方が著しく変わるということがわかります。
 大学生にとっても、法教育に関与することで学生自身が成長するというメリットがあります。1つは、学生が自分で考えるようになること。もう1つは、よりわかりやすく説明するには自分自身が知識をしっかりつけることが大事であるとわかることです。

〈今後の岐阜県の法教育について〉

・さまざまな機関が連携して、社会人にもリーガルマインドを身につけてもらうこと。
・更生保護機関なども法教育に関与する必要。
・実際に実務に触れ、実感することが必要。それにより、自分事として考えられるようになります。
・芥川龍之介の「桃太郎」は鬼の立場から考える教材で、桃太郎の立場と鬼の立場など多角的に考える素材となる。このような多角的なものの見方を育む教材開発の必要性。

〈質疑応答〉

質問:「教育委員会はどういう形で関わっていますか?」
回答:「県の協力を得るのは難しいです。市教委は危険アンケートの協力に応じてもらえました。なかなか教育委員会自体が『法教育と言われても』という状況で、今後、実績を積み、さらに交渉していくことが課題です。」

質問:「模擬裁判授業の広報はどのようにしていますか?」
回答:「出張講義一覧の広報に含まれているので、それで見た高校や、口コミで広がっています。ジュニアロースクールに参加した先生からの申込みもあります。」

質問:「小学生への取組みはどのようなものがありますか?」
回答:「劇団朝日が小学生対象の模擬裁判を検討中です。もう少し身近で起きるようなものを素材にしたいので、裁判員裁判の対象外ですが、窃盗や暴行などを素材にしたもので、小中学生向けにどう広めるか考えています。」

質問:「生徒が卒業してすぐ社会人になる高校と進学者の多い高校では、法教育の受け止め方は違いますか?」
回答:「工業高校は消費者問題や契約について知りたいと言われます。また、法教育実践後は、就職だけ考えていた生徒が大学進学も考えたいと言い出す例もあります。定時制高校だとより緊張感が高いというか、法律を知らないといけないという実感が強いです。普通の高校は余裕があります。」

質問:「弁護士会と提携している大学は全国で朝日大学だけだと思います。メリットは何ですか?」
回答:「これまでは公開講座の実施等での連携でしたが、今後は、インターンシップやより実務的な話をしてくれる講師の派遣をしてもらう予定です。大学と弁護士会が協力して法律相談を実施したり、可能な範囲で学生を参加させることもできるかもしれません。」

質問:「出張講義は社会科公民科の時間ですか?」
回答:「可児高校では「総合的な学習の時間」の枠だったらしく、家庭科室でした。それ以外の高校は社会科が多いです。今後、国語教諭との連携を検討中です。判決文を書き換えるなどの授業を中学校と連携して考えたいと考えています。」

質問:「大学の先生も学生と密にコミュニケーションを取っていますか?」
回答:「かなり時間を割いています。学生との間に信頼関係を築くには相当時間がかかります。学生自身に目標を掲げさせ、それを実現する喜びを感じてもらうことを意識しています。」

質問:「岐阜県は消費者教育が盛んということですが。」
回答:「消費者教育は、充実したものを行うには相当の技能が必要です。現在は、教員免許状更新講習で関与している程度です。」

2 小森正悟 岐阜県弁護士会法教育委員長 報告

〈岐阜県弁護士会法教育委員会について〉

① 2007年に法教育委員会が設置されました。新しい会務のため、若手会員が中心で、ベテラン会員をどう巻き込むかが課題です。

② ジュニアロースクール
法教育は「あまねく」普及することが大事だと思います。ジュニアロースクールは年1回数十人を対象にするだけですので、きっかけのイベントという位置づけです。そこからどうつなげていけるか、が大事と考えています。教員にも参加を呼びかけ、午前中に法教育授業、午後は参加してくれた教員との懇談会を実施しています。この取組みは朝日大学からのアドバイスのおかげです。ジュニアロースクールは、弁護士会内で法教育を担ってくれる弁護士を増やすために、まず弁護士に法教育を周知するという意義もあります。

③ アクセスポイントとしての大学の機能
 個々の教員と弁護士会をつなぐことは大変です。弁護士は教員にとってアクセスしにくいようなので、広報に強みのある大学がアクセスポイントになってくれることは大変効果があります。

④ 大学には戦略がある
 弁護士会の取組みはイベント単発的でしたが、朝日大学や岐阜法教育研究会から全体のねらいの中でのイベントの意義や、次へつなげていくことについて示唆をいただいています。広報に関しても大学はマスコミとの関係に強みがあり、弁護士会は大学に広報をお願いすることで、イベントに集中できるというメリットを受けています。

⑤ 予算の問題
 弁護士会の予算には限りがありますので、朝日大学の施設を借りられることで、イベントの質が高まりました。

⑥ なぜ朝日大学と提携できたか
 人とタイミングが合致したおかげです。岐阜県内で法学部がある大学は朝日大学だけだったという特殊性があります。もし大学が2つあったら、どちらにするか、どちらとも提携しないという可能性もあったと思います。

〈質疑応答〉

意見:「ユニバーシティ・ベイスド法教育」の理想的な形で、地域の1つのモデルだと思います。もう少し活動を広げるために、東京地区の大学ともつながっていくといいでしょう。」

問:「あまねくという目で見たとき、今の活動を県内全域に拡大するとか、集約するとか、課題はありますか?」
回答:「今は岐阜市と瑞穂市という都市部での活動が中心です。弁護士会のマンパワーや予算的な問題もあります。岐阜県の中でも地域に出ていきたいと、広がる可能性を模索しています。大学との提携もその1つです。」
大野先生:「三重県からも大学へ打診があります。要望があれば県外へ出ることも学長は考えています。朝日大学は沖縄県の学生の受け入れに力を入れているので、沖縄県での実施もあるかもしれません。」

座長:「岐阜法教育推進プロジェクトには県教委・市教委も参加しています。これから教育委員会も協力して取り組んでくれると思います。」

取材を終えて

 法教育の先進的な取組みは東京や京都といった大都市がリードしている印象でしたが、岐阜県が大学と弁護士会の提携という、全国に先駆けた取組みをしていることが報告されました。そこに学校の先生方も加わった法教育研究会がつくられ、大学がアイデアを次々と生み出して、学生が活発に活動しているようです。大学に根差した法教育の取組みのモデルとして、委員からも称賛を受けていました。地方都市でのこの取組みが、他の多くの地域の参考になれば素晴らしいと思いました。

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