法教育推進協議会傍聴録(第31回)

 2013年2月8日(金)10:00~12:00、法務省において第31回法教育推進協議会が開かれました。議事は、岐阜法教育推進プロジェクト参加校の報告、小学校における法教育の実践状況に関する調査報告と、法教育懸賞論文コンクール受賞作品の決定についてでした。このうち、懸賞論文コンクールについては規定により非公開となりますので、はじめの2項目についてお伝えします。(当日の資料より適宜引用させていただきます。)

1 岐阜市立木之元小学校における法教育の取組み状況の報告

〈教育活動関連表と年間計画に特徴〉

「道徳における「法教育」カリキュラムの構築」
吉村希至 岐阜市立木之元小学校校長

 

(1)各学年の教育活動における「法教育」に関する内容の明示
 学年毎に、1年間の教育活動の内容を表にし、その中で「法教育」に関する内容を赤字で明示した“「法教育」に関する内容についての教育活動関連表”を作成しました。どの教科・領域で、何月に、どのような法教育に関する内容を指導するのかを明確にし、意図的・計画的に各領域との関連を図りながら、指導がなされることを目的としています。

(2)道徳における「法教育」指導カリキュラムの内容構成の考え方と作成手順
第6学年を例にしますと、(1)の“「法教育」に関する内容についての教育活動関連表”の道徳の欄を見れば、道徳における1年間の「法教育」に関わる内容が把握できます。そして、学習のねらいや指導内容、資料、「こころのノート」関連ページを明示した年間指導計画表を作成します。

(3)まとめ
 本校は特別な研究校などではない普通の小学校で、当初、職員には「法教育」は特別なことをしなければならないという意識がありました。しかし、私は「学習指導要領に基づいて、目標・内容を踏まえて、その中で法教育に関係する部分にスポットライトを当てるだけ」と考え、これらの表を作成しました。全国どこの学校でもできる当たり前にやるようなことの材料を作成したと考えています。

〈質疑応答より〉

 吉村校長の応答によれば、「全体計画の作成を進めるに当たっては、校内研究推進委員会が中心となって職員の共通理解を図りつつ、基本的なフォーマットや書式を作ることとしました。その過程では、ある教材会社の道徳の中身を活用しながら作成を進め、特に法教育に関連する内容に赤字を入れていきました。教員には、4月に研修会を行ったほか、その後も定期的に研修会や授業研究を行いました。
 法教育により、子どもたちの心は育ったと思います。学校や学級のきまりを守り、秩序ある落ち着いた生活をすることは学校や学級の運営上の一番の基盤であるので、きまりを守る態度をしっかり身につけさせることが第一と考えます。法教育は教育の基盤になるものであることを職員間に浸透させる一方で、保護者や地域にも法教育を子どもたちに教えることを大切にしていることを伝えて応援をお願いしました。
 法律実務家との連携については、公開授業のたびに朝日大学に連絡し、弁護士に参観に来ていただきました。大杉昭英先生、その他の専門家にもアドバイスを受けました。
既存の道徳に法教育の視点を加えることにより道徳授業と法教育を関連付けた指導ができるメリットがあると思います。今回の計画は全くスタンダードなものなので、各学校・各先生の工夫によりいろいろな発展性が考えられてくると思います。」とのことでした。
 大杉委員(岐阜大学〔当時〕)からは、「従来の法教育推進プロジェクトは、授業や教材の開発をどのように行うかという立場でしたが、今回の木之元小学校の取組みは、校長の立場で教育課程をどうするかという、マネジメントの視点からの報告だったと思います。法教育の教育プログラムの作成手続や学校全体で取り組むときの手続はどうあるべきかということを説明いただいたと思います。また、“「法教育」に関する内容についての教育活動関連表”は学年における各時期のすべての教育活動が一覧できることが特徴であり、新しい法教育の進め方を示していただいたと思います。」という補足がありました。

2 「小学校における法教育の実践状況に関する調査研究」

①調査結果の報告

三浦朋子 千葉大学教育学部非常勤講師(当時)

(1)調査の趣旨等
本調査の目的は、平成23年度より完全実施された新学習指導要領に基づく小学校での法教育の実践状況について確認し、実務的な問題点等を含めて、現在の状況を把握するために実施したものです。
調査時期は2012年8~9月。調査票送付数は10,000校(無作為抽出)。回答数は1,911校で回収率19.11%でした。都道府県別の回収率が高かったのは、福井県、栃木県、福島県でした。

(2)調査項目ごとの結果より
【各教科の法教育に関する学習指導の状況】
 年間指導計画において法教育に関する内容をどの程度充実させたかを質問した結果、社会科では、「とても充実させた」「いくらか充実させた」を合わせると36.4%となりました。これは、従来から学習内容に政治や日本国憲法に関することを扱ってきた経緯によるものと考えられます。 
 道徳の時間について、「とても・いくらか」充実させた割合は他の教科等と比べて最も高く、学習内容では「人権教育」「規範意識の向上」「いじめ、差別」が多くみられました。

【法律家や関係各機関との連携の状況】
 連携状況は2割程度です。学校や教員によっては、社会科見学や外部講師活用が積極的に行われています。社会科で連携する機会が多く、裁判傍聴、法律家による出前授業の利用が高くなっています。教育の意義や重要性を理解はしているものの、時間の確保や、人材、連携方法の分かりにくさに関する回答が見受けられました。専門家が行う教員研修で取り上げてほしい内容としては、「法教育に関すること」と「学校が抱える問題の法的な対処法」についての要望が多くありました。

【法務省が推進する法教育に関すること】
 法務省作成の教材「情報化社会を生きる」は、利用率が圧倒的に高く、その理由は、指導要領上の位置づけが明確なこと、関心の高い内容、授業で扱いやすいこと等が考えられます。
 教材への要望では、「模擬裁判のシナリオがあるといい」という回答が非常に多かったほか、DVDなどの視聴覚教材を求める声が多数でした。自由記述の意見からは、「小学生でもわかる~」といった子どもの目線に即した教材、学年に応じた教材が求められているといえます。

【法教育推進に向けた取組みへの意見・要望】
 自由記述の回答は、「学習内容や教材に関すること」も多くある一方で、「推進体制に関すること」が意外と多いと感じ、特に、「文部科学省と連携・協力した実態に即した推進体制」を求める声が印象的でした。

(3)本調査を振り返って
今回、調査を担当して、小学校の現場が実際にどのような状況にあるのかを垣間見ることができ、現場の声を生かした教材を作っていくことはとても大切なことだと改めて思いました。また、ある面においては、法教育というのは、やればやるほど簡単には答えの出せない問題や難しさが含まれており、子どもも大人も、生徒も教師も、ともに考えることの意味や深さに気付く、そういうものが法教育なのではないかと感じました。
 

②調査を振り返って

加納隆徳 東京学芸大学附属高等学校教諭

 自由記述には現場の生の声が多く寄せられたと思います。法教育の認知は非常に多様で、教員の間ではまだ法教育は定着していないという印象です。
法教育というものの認識、認知というものが非常に多様であるということをとても感じました。
授業時数の確保など、現場の切実な要望に耳を傾けていただきたいと思いました。

〈質疑応答より〉

 何名かの委員から、「この調査は宝の山であり、さまざまな角度から分析することによりさらに貴重な知見が得られるものと思います。」「今後、2項目間の相関関係を調べると、新たな視点がでると思われます。誰が回答を記入したかということと活動の相関、教科と道徳の間で仮説的に相関をとることなどが考えられるでしょう。」という示唆がありました。事務局からは、これから法教育の体系的位置づけなどに取り組んでいきたいとのことでした。
 「いじめについて専門家が取り組んでくれると、学校の関心も高まると考えられますか?」という質問に対しては、報告者は「学校が抱える問題についての法的な対応を教えてほしいというのは、先生方が切実に知りたいと思われている内容であり、具体的な話をしていく中で、法への理解や法との関わり方を深められる法教育の存在をアピールできれば、法教育が広がるきっかけになると思います。また、法を難しいという先生は多いので、きっかけとしていいと思います。」ということでした。
 それについて村松委員(日弁連)から、「学校問題についての研修会をしてほしいという声が(弁護士会に)寄せられています。法律家が学校教育に役に立つんだというところのコンセンサスまで築いていかないと、草の根で法教育が広まることはなかなか難しいと感じています。」とのことでした。

取材を終えて

 小学校における法教育実践状況調査報告からは、授業時数の確保が要望されていることがわかります。その問題を考えるときに、岐阜法教育プロジェクトの木之元小学校が作成した法教育年間計画が、すぐにも役立つのではないかと思いました。1年間のうちどの教科でどのくらいの法教育の時間を確保することができるか、一目で参考になると考えられます。他の教科、教科以外の時間との連携や関連も考えやすくなり、大変意義ある取組みだと感じました。
 法教育実践状況調査の結果は、これからさらに分析が深められていき、法教育普及に役立つことが期待されます。

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