「法学教育」をひらく―専門的法学教育と法教育の間で
◆法学教育と法教育の関係
これまで「法教育フォーラム」では、「法教育」に関する様々な情報を提供し、種々の試みを紹介してきた。その際に「法教育」という言葉は、大学などの高等教育機関における専門教育としての「法学教育」以外のものを指すものとして用いられていた。しかし、「法の教育」という広い理解に立つならば、「法学教育」もまた「法教育」に含まれることになる。このように(広義の)「法教育」を想定して、その中で「法学教育」と(狭義の)「法教育」とを併置し、両者の関係(特にその連続性)について考えを巡らすことは、双方にとって有益なことであるように思われる。
◆法学教育の再検討の必要性
一方で、今日の日本においては、「法学教育」のあり方を再検討に付すことが急務となっている。法学教育の目的は何か、法学部は何のためにあるのか。こうした問いそのものは古くから存在するが、法科大学院時代において、それらはより切実さを帯びる。法科大学院の法学教育とは区別される法学部に固有の法学教育のあり方を構想することが求められるからである。また、近年では、法教育が推進されるのにともなって、法学部での法学教育と法教育の関係いかんという問題も浮上してきている。
それだけではない。発足以来10年を経て、その性質を変えつつある(あるいは、その性質が明らかになりつつある)日本の法科大学院では、どのような法学教育を目指すべきなのか。これまで同様、法曹養成のための専門的(専門職養成的)な法学教育と言っていればよいのか。ここにも大きな問題がある。この問題を検討するにあたっては、法学部での法学教育、さらにはそれ以前の導入教育としての法学教育との関連も考慮に入れなければならない。
◆法教育・社会科教育への示唆
他方、これまで法教育を推進してきたのは社会科教育の研究者や法律実務家、そして小中高等学校の教員たちであり、法学研究者の発言は必ずしも多くはなかった。最近でこそ、法学の観点から見た法教育について語られることが増えてきているが、法学と法学教育が法教育から何を学ぶことができるかという観点はなお希薄であるように思われる。しかし、法学者が既存の法学・法学教育の枠を越えて、法教育をも念頭に置きつつ、これからの法学教育のあり方について語るならば、その発言の中には、法教育に携わる人々にとっても有益な多くのヒントが見出されることになるのではないか。
さらに言えば、社会科教育の専門家たちの中には、既存の社会科教育の中に法教育を位置づけるのにととまらず、法教育を手がかりに社会科教育自体の見直しをはかるという構想も伏在しているように思う。こうした意欲を持つ人々にとっては、高校から大学への移行期における法学教育との連携は不可欠であろう。
◆著者へのインタビューによって
もっとも、「法学教育」の見直し、と口にするのは簡単であるが、いったい何を手がかりに考えたらよいのだろうか。もちろん、その入口は一様ではないが、具体的な素材をもとに考える、というのが、一つのアプローチの仕方であろう。そこで、私が「法学教育」について考える上で興味を覚えた何冊かの本(いずれも比較的新しいもの)を取り上げて、私自身がそれらの著者の方々にインタビューをすることを企画した。書物をめぐる対話という形をとりながら、「法学教育」のあり方について考えてみようというわけである。
取り上げるのは、まず第一に、導入(初年次)教育用の教科書、いわゆる法学入門というジャンルに属す教科書のうち特徴的なものである。第二に、基礎法学(さらには隣接諸学)の研究者の著書のうち、(必ずしも専門的ではない)法学教育とかかわるだろうと思われるものである。インタビューを始めるにあたって何冊かの本をリストアップしてみたが、分類にはこだわらず、アポイントメントがとれた順に取り上げていこうと思う。
◆議論の「共通の場」を
法学入門を筆頭とする導入(初年次)教育としての法学教育、すなわち従来の法学部教育も含めて多少とも専門的な法学教育を直接には目指さない様々な「法学教育」の試みの中には、これからの法学教育(そして法教育)のあり方を考える上で興味深いものが少なからず含まれている。ところが、これまでは、この種の法学教育について、あるいは、それにかかわる一群の著書について、議論をするための「共通の場」が欠落していた。今回のインタビューは、この「共通の場」を設定するための試みの一つでもある。「法教育フォーラム」はこの試みにとっての最適の「場」なのではないかと考えて、この「場」をお借りしたという次第である。
大村敦志(東京大学法学部)
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