教科書を見るシリーズ 小学校編 国語(1)

 教科書を見るシリーズの小学校国語の部をお届けします。一緒に教科書を見て下さるのは、2012年度の法務省法教育懸賞論文コンクールで奨励賞を受賞された塩川泰子弁護士です。
 まず、国語の学習指導要領を確認してから、多くの学校で使われている光村図書と教育出版の教科書について、法教育の視点から見ていくことにします。第1回は、学習指導要領について、塩川先生との対話形式で進めます。

〈小学校学習指導要領より第2章 各教科 第1節 国語〉

【目標】
 国語を適切に表現し正確に理解する能力を育成し、伝え合う力を高めるとともに、思考力や想像力および言語感覚を養い、国語に対する関心を深め国語を尊重する態度を育てる。

――この目標に向けて行われる実践は、あらゆる教育の土台であり、法教育も例外ではないと思いますが、国語と法教育はどのように関わっていくのでしょうか?

塩川先生:そうですね、「国語と法教育?」と思われるかもしれませんから、そもそもどう関わっているのかを考えてみましょう。
このサイトでもいろいろと説明がなされていますが、ざっくりいうと、法教育は、法の基礎にある考え方を理解して、社会で起こるいろんな問題を主体的に解決していくためのものです。何か問題が生じたとき、「きちんと決まりは守ろうよ」とか「じゃあ、今度からこうしよう」というふうに問題を解決していきますよね。ここでいう「決まり」「こうしよう」というものは、法律かもしれないし、友だちとの約束かもしれませんが、いずれも広い意味での「法」に含まれます。これを上手に行う力を養うのが法教育だと考えると、国語との関係が少し見えてくるのではないでしょうか?

 

――確かに「適切に表現し正確に理解する能力」や「伝え合う力」は、何か問題が生じたときにそれを解決していくために役立ちそうですね。では、発達段階を追って見ていきましょう。

〈第3・4学年の目標及び内容から〉

【目標】
(1)相手や目的に応じ、調べたことなどについて、筋道を立てて話す能力、話の中心に気をつけて聞く能力、進行に沿って話し合う能力を身に付けさせるとともに、工夫をしながら話したり聞いたりしようとする態度を育てる。
↓     (アルファベット・片仮名や( )付の番号は、学習指導要領のまま。)
――この目標には、話す・聞く・話し合うことに関して身に付けてほしい能力が示されています。法教育では、授業に話し合いをする場面が取り入れられることが多いので、いろいろな法教育のテーマを国語で扱うことが考えられそうに思います。

塩川先生:法教育では、ある問題について、話す・聞く・話し合うという過程を通じ、解決方法を生徒自らに考えさせます。解決方法を考える過程では、必然的に「目的」を意識して話す・聞く・話し合うことが必要になりますから、「目的に応じて」話す・聞く・話し合う能力を身につけるのに役立つでしょう。筋道を立てて話す能力なども同様ですね。」

 

――では、取り扱うべき内容を見てみましょう。

【内容】
A話すこと・聞くこと(1)
イ 相手や目的に応じて、理由や事例などを挙げながら筋道を立て、丁寧な言葉を用いるなど適切な言葉遣いで話すこと。
オ 互いの考えの共通点や相違点を考え、司会や提案などの役割を果たしながら、進行に沿って話し合うこと。
(2)(1)に示す事項の言語活動
イ 学級全体で話し合って考えをまとめたり、意見を述べ合ったりすること。

――法教育授業では、理由を説明することや筋道を立てて話すことが重要です。

塩川先生:そうですね。理由を考えるということでいうと、あるルールや法律がなんのためにあるのかということを考えてもらうタイプの授業もあります。また、ある事例を念頭に解決方法を考えさせるという授業でも、話し合いの中できちんと理由を話してもらうことになります。筋道を立てて話すこともそうですね。

 

――対立する意見を調整するために、互いの考えの共通点や相違点を考えたり、進行に沿って話し合ったりすることも必要になりそうですね。こうやってみていくと、第3・4学年の国語の聞くこと・話すことに関する学習内容は、法教育の内容と共通する面が十分あるといえるでしょう。そのような点は、書くこと、読むことの内容の中にも次のように示されています。

B書くこと(1)
ウ 書こうとすることの中心を明確にし、目的や必要に応じて理由や事例を挙げて書くこと。
C読むこと(1)
イ 目的に応じて、中心となる語や文をとらえて段落相互の関係や事実と意見との関係を考え、文章を読むこと。

塩川先生:法教育では、解決方法を考える過程で「事実」と「意見をわけて考えるように促して、議論を整理することが多くあります。特にもめごとがある事例をロールプレイするタイプの授業では、お互い自分の意見を言いっぱなしでは、もめごとを解決できませんから、「事実」と「意見」をわけて考える訓練をしますね。

 

――では、第5・6学年の目標及び内容も見ていきましょう。

〈第5・6学年の目標及び内容から〉

【目標】
(1)目的や意図に応じ、考えたことや伝えたいことなどについて、的確に話す能力、相手の意図をつかみながら聞く能力、計画的に話す合う能力を身につけさせるとともに、適切に話したり聞いたりしようとする態度を育てる。

塩川先生:「第5・6学年は、「目的や意図に応じ」話す・聞く・話し合うという目標が設定され、能力の内容もより高度に、より具体的になっていますね。」

 

【内容】
A話すこと・聞くこと(1)
ア 考えたことや伝えたいことなどから話題を決め、収集した知識や情報を関係づけること。
イ 目的や意図に応じて、事柄が明確に伝わるように話の構成を工夫しながら、場に応じた適切な言葉遣いで話すこと。
エ 話し手の意図をとらえながら聞き、自分の意見と比べるなどして考えをまとめること。
オ 互いの立場や意図をはっきりさせながら、計画的に話し合うこと。
(2)(1)に示す事項についての言語活動の例
ア 資料を提示しながら説明や報告をしたり、それらを聞いて助言や提案をしたりすること。
イ 調べたことやまとめたことについて、討論などをすること。
ウ 事物や人物を推薦したり、それを聞いたりすること。

B 書くこと(1)
ウ 事実と感想、意見などとを区別するとともに、目的や意図に応じて簡単に書いたり詳しく書いたりすること。

〈指導計画の作成と内容の取扱い 3教材について(2)より〉

ウ 公正かつ適切に判断する能力や態度を育てるのに役立つこと。
エ 科学的、論理的な見方や考え方をする態度を育て、視野を広げるのに役立つこと。
オ 生活を明るくし、強く正しく生きる意志を育てるのに役立つこと。
カ 生命を尊重し、他人を思いやる心を育てるのに役立つこと。

――これらの観点に配慮して教材を取り上げるとすると、法教育の教材としても意義あるものになりそうです。

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