平成23年度全国公民科・社会科教育研究会全国研究大会 講演

 2011年11月1日(火)・2日(水)、全国公民科・社会科教育研究会全国研究大会がホテルポートプラザちばを会場に開催されました。千葉県や東京都を中心とした全国の高等学校・中等教育学校・中学校の教員約100名強が参加し、3つの分科会と講演会などが行われました。その中から、学習指導要領についての文部科学省教科調査官の講演の模様をお伝えします。

1 学習指導要領についての講演 (11:00~11:45)

「学習指導要領『公民科』について」
   樋口雅夫 文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官

〈学習指導要領改訂の基本的な考え方〉

 新学習指導要領が小学校から順次実施され、高等学校は平成25年度から年次進行で実施になります。公民科の先生は、新しい内容をどう教えたらいいか、2単位という限られた時間でどう新しい内容を盛り込むかお考えのことと思います。学習指導要領改訂の基本的な考え方は次の3点です。
① 「生きる力」の育成
② 「基礎的・基本的な知識・技能の習得」と「思考力・判断力・表現力等の育成」のバランス
③ 豊かな心と健やかな体の育成
特に②で、習得した知識・技能をいかに活用してこれからの社会を生きていくかが重要です。

〈「公民科」についての改訂の趣旨〉

 中央教育審議会答申による公民科についての改訂の趣旨も3つあります。
1)上述の②について、公民科にとっての基礎的・基本的知識とは、「概念」として習得させることが大きなウェイトを占めています。個別の知識から概念化を促し、さらにその概念をいかに活用させていくかが求められます。社会のグローバル化と規制緩和の中で、法やきまり・伝統や文化、宗教に関する学習をさらに充実させていかねばなりません。社会的事象に関心をもち、社会的な見方や考え方を成長させるための手立てとして、習得した概念を用いることが重視されています。
概念は、現象が「なぜそうなのか」、「どのように判断すればいいのか」を考える手立てとなります。例えば「現代社会」では、現代社会の諸課題をとらえる枠組みとして「幸福・正義・公正」を理解させることとしました。これを使って、大項目(2)の学習において活用していくことが求められています。大項目(3)「共に生きる社会を目指して」では、概念・知識を総動員して、これからのよりよい社会をつくっていくためにどうしたらいいかを考えさせる、という構造をつくっています。ぜひ、概念を活用させる授業を目指していただきたいと思います。

2)言語活動の充実については、全ての教育活動を通じて行われるべきものです。とりわけ公民科においては、「必要な情報を読み取ること」、「事象の意味、意義を解釈すること」、「事象の特色や事象間の関連を説明すること」、「自分の考えを論述すること」という4つが、言語活動の中身です。内実は、日々の学習活動でしていることそのものです。日々の取り組みをさらに発展させていくことが重要です。
 言語活動を充実させるために「思考力・判断力・表現力等」を育む活動例は6項目挙げられており、そのうち公民科・社会科に関係が深いものは次の3つです。「概念・法則・意図などを解釈し、説明したり、活用したりする。」、「情報を分析・評価し、論述する。」、「互いの考えを伝え合い、自分や集団の考えを発展させる。」
教師と生徒1対1の関係も大事ですが、生徒同士の考えを互いに理解し、他者の考えから学び生かし、自分の考えを深め、集団としての考えを発展させていくことが求められます。例えばディベートや討論などがあるでしょう。答えのない現代社会の課題について、どう捉え、何が本質かを考えさせる。対立する考えもいくつかあるかもしれません。それらを提示し合い、何が正しいかを考えさせる。利害関係者の意見を取り入れた「公正」な考えになっているか、という考え方を取り入れてほしいと思います。中項目毎やまとめとして設けるなど、工夫していただけたらと思います。

3)3点目は、卒業して社会へ出ること、「社会参画」と公民科はどのように関わればよいかについてです。中教審答申では、「公共的な事柄に自ら参画していく資質や能力を育成すること」が求められています。難しいことを生徒に求めているようですが、社会のあり方を考察させるということは、一人ひとりの生き方を考察させることです。「現代社会」・「倫理」をはじめとして、従前から指導していました。それを「社会参画」の視点を加えて捉え直してみるということです。どのような社会をつくり、どのように参画していけばいいか、考えさせてください。例えば、「地域の中で私はどうすればいいか」、「この地域をどうすればいいか」考えさせます。「政治・経済」の大項目(3)の選択課題「地域社会の変貌と住民生活」にも関係します。国際社会についても関係し、全てを含んだ社会参画を考えることになります。
 従前学習させていたこともさらに充実させていただきたいと思います。例えば「選挙、政治参加」を学習する際に関連してくる「個人の尊重」、「法の支配」などの概念は「法教育」のもとになっている考え方そのものです。しっかり理解させ、どのような法や社会をつくっていけばいいかを考えさせてください。

〈まとめ〉

 1点目の社会についての見方や考え方と、2点目の言語活動、3点目の社会参画は切っても切れない関係であり、基礎的・基本的な知識を活用していかにこれからの社会を生きていくかということに全てはつながっています。教材研究を進めていくなかで、様々な概念・事象を結び付けて生徒に学ばせることが重要です。すると新学習指導要領公民科の目標が生きてくるでしょう。「公民としての資質の育成」という点は従前と変わりません。それを念頭に、新しい内容については積極的に取り入れていただきたいと思います。

〈取材を終えて〉

 公民科の学習指導要領についての講演を聞いて、「概念」としての知識・「言語活動の充実」・「社会参画」のいずれも「法教育」に共通するものという感を深くしました。従前から指導されてきた内容をより深めるとともに、知識の活用や生徒同士の討論などの方法が新しく取り入れられ、一層魅力的な実践がされると素晴らしいと思いました。

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