法教育推進協議会傍聴録(第41回)

 2016年12月16日(金)、法務省第1会議室で第41回法教育推進協議会が開催されました。
冒頭、8月に着任した法務省大臣官房司法法制部小山太士部長から、法教育に関する注目度や、法教育教材に対する期待などについて挨拶があり、新委員のご紹介の後、議事へと進みました。

1 小中学生向け視聴覚教材・高校生向け教材の作成について

(1)小中学生向け視聴覚教材骨子と教材の具体的構成
【報告者】小中学生向け視聴覚教材作成グループ 磯山恭子委員
磯山委員からは冒頭に「4/27のキックオフから計3回の会議において、小中学生向け教材を用いた授業の実施率を高め法教育の普及を進めること、同教材を用いた法教育の学習効果を高めることを目的として視聴覚教材の作成を進めてきました。教材は「授業者が時間的・心理的負担なく利用できる」「小学生向けはアニメーションとする」「教材は導入部分と展開部分、必要に応じて解説部分を映像化し、授業の進行に応じて選択して使用できる」などの点を作成方針として、児童間での話し合いやヒント、解説等を含めることで深く学ぶことができるようなものにしています。また、中学生向けには、アニメか実写かを含め、冊子のどの部分を映像化するかを引き続き協議していきます。」といったお話があり、その後、作成中の教材について以下のような具体的な説明がありました。

<小学3・4年生向け教材の概要>
テーマ1:友だち同士のけんかとその解決
・第三者が介入して紛争を解決する意義と心構えを学ぶ内容
・事情が明らかになるごとに、解決策について児童間で話し合うことで学習をすすめる
テーマ2:約束をすること、守ること
・ゲームの貸し借りを例に契約の基礎を学ぶ
・考えうる結論を児童間で話し合い、発展として契約を守る責任や契約の解除等について現場教員が解説できる教材とする

<小学5・6年生向け教材の概要>

テーマ1:もめごとの解決
・クラスメイトが掃除をさぼったのかどうかについて話し合う内容
・ルールの大切さ、紛争解決のプロセスや難しさを実感し、みんなで考え解決策を見つけ出す意義を理解させる
・裁判員制度について解説し、国民の司法参加の意義を理解させる
テーマ2:情報化社会における表現の自由と知る権利
・架空の国における情報制限について話し合い、情報が制限されることの不都合やプライバシー等の他者の権利に配慮することの重要性を学ぶ内容
テーマ3:インターネットの便利さと注意事項
・インターネットの掲示板における問題について話し合い、インターネットにおける匿名性・拡散性を理解させる

<質疑やコメント>
-すべての映像素材を、授業ですべて使う必要はなく、クラスの実情に照らし、教員がテーマを選択してアレンジできるようなものにする。また社会科等に限らずに利用できるものにしていく。
-教材の完成前にも随時、委員にご協力いただきながら、実験的な授業を行い、その意見を反映する。また、完成後は、全国の研修やモデル授業で使用してもらい、児童の反応をホームページ等で掲示していく。
-ティーチャーズガイドや教材そのもののアップデートについては、ネットを活用するなど、諸外国での先例も参考にしていく。
-映像化に関しては、例えば仲裁役や解説役のキャラクターのイメージによって、子供たちに法や司法に関するある種のバイアスがかかってしまう可能性があるので注意が必要である。

(2)高校生向け教材の骨子
【報告者】高校生向け教材執筆グループ 橋本康弘委員
 橋本委員からは「教材を活用した授業を通じ、高校生が法や司法制度、これらの基礎となる価値を理解し、法的なものの考え方を身に着けることを促すことを目的としている。計5回の会議をおこない、教材の検討を続けてきた。教材の題材は3つのテーマ(下記)を柱に、その下に複数の題材例を盛り込むこととし、今後、更に検討していく。」といった説明がありました。
 まずは現場教員に手に取ってもらうことが重要なので、科目単元を意識していろいろな科目で利用できるように、また、15分程度でも展開可能な教材作成についても検討していくとのことでした。
テーマ1:ルールづくり(ルールの在り方を考える)…小学生教材で扱った内容を発展させたもの
テーマ2:私法と契約
テーマ3:紛争解決・司法

<質疑やコメント>
-多様な考え方を理解して、相手を尊重し解決する力をつけるものとし、小中と同様に学習指導要領に沿った内容とする
-憲法の内容に関しては、今後協議しながら上記3つのテーマの中に生徒が学べる内容を入れていく
-事例には公害紛争などを取り入れて、社会との関わり合いのあるもの、考えさせる内容のものにしていくことも考えられる

2 法教育の更なる普及・充実に向けた今後の取組等について

(1)法務省による出前授業のためのお品書き 
出前授業の具体的な内容を資料化したので、簡単に修正・リニューアルでき手軽に利用できるものとして、今後現場に配布していくということです。

(2)第57回法の日フェスタin赤れんが 

10月1日に法の日週間行事として開催し、昨年(約450人)を大きく上回る約1300人が来場しました。来場者にとって、プロと一緒に模擬裁判を体験できるイベントなどを通じ、法の重要性などについて身近に感じる機会となったようです。

(3)日本女子大学における法教育の講義 
4月27日に将来の法教育の担い手となる学生に対して「子どもと法」というテーマで法務省司法法制部の中保部付検事が講義を行いました。会場にはホウリス君が登場し、多数の写真がSNSにアップされ、多大な広報効果があったということです。

(4)政府・与党の動き 
「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2016」「「法の支配」を基盤とする「日本型司法制度」(自由民主党政務調査会司法制度調査会中間提言)」の中に「法教育」に関する記述が入ったこと等、与党からの力強いサポートの動きが見られたということです。

<その他の質疑・コメント>
・法学部の志願者数が減っているがその原因、対策は? 法教育との関連は?
→法教育の主眼は、あくまで「一般の人」であり、法学部不人気への対策とは直接関係するものではないが、法に関心を持つ人が増えることによって副次的な効果として、法曹や法律に関心を持つ人が増えることが期待できるかもしれない。
・ホウリス君は無料で借りられるのか?効果的に法教育の推進に利用するため、活用ルールを整備することを検討しては?
→ホウリス君が広報活動で果たすインパクトは大きいため、地方を含め、依頼があればイベント等に積極的に協力していきたい。映像利用等一人歩きの危険を考慮し、今後ガイドラインを検討していく。
・これまで私立学校に対するアプローチが不十分だったので、今後、私立学校とも連携しモデル校になってくれるところとタイアップして法教育の普及推進を図っていきたい。

<取材を終えて>
 法教育の普及には現場の先生方の協力が不可欠なので、如何に「使いやすい」教材を提供するかはとても重要です。今回のサンプル教材では、身近なテーマを取りあげて、イラストやアニメ等で小学生にも取り組みやすい内容になっていました。しかし、授業を行うのは法律に関しては素人の先生なので、児童・生徒の話し合いをうまくまとめ、更には法的な解説を加えて分かりやすく説明することは、先生方にとって、とても難しいことだろうと思います。学習指導要領の解説本等はもちろんのこと、まずは、先生方に対する法教育が必要であると改めて感じました。

ページトップへ