横浜弁護士会 スプリングスクール

 2010年3月27日(土)9:00~16:00、横浜弁護士会による中学生および教職員向けスプリングスクールが横浜弁護士会館で開催されました。午前の部は法教育モデル授業ですが、教職員を対象にするのは今回初の試みということで興味深く見せていただきました。当日配布のプリントから適宜引用させていただきながらお伝えします。(生徒用のワークシートはこちらです。[PDF(125KB)]

当日の流れ

9:00 入学式
9:15 組別の自己紹介・担任紹介・導入授業(35分)
10:00 法教育モデル授業(1)(50分)
11:00 法教育モデル授業(2)(50分)
昼休み       
12:50 模擬裁判
14:20 評議・判決等
15:45 卒業式・ホームルーム

 

入学式

校長 弁護士・飯田先生
 ルールはみんなのことに関するものである場合、自分だけでは決められません。みんなで話し合って決めます。これを社会的判断といいます。そのとき、法律的判断をもって決めることが法教育の一面です。
 午前は、法律的な考え方を使っていろいろなことを話し合います。午後は皆さんに(シナリオを読む)模擬裁判をしてもらいます。
 学校の先生方をお招きするのは初めての企画です。『教室から学ぶ法教育』 という本を教員と弁護士会の先生方で先日出版しました。横浜弁護士会の弁護士も執筆していますので、それもご参考になさってください。

導入授業

生徒 中学生19名(男子6名、女子13名) 教職員 10数名
授業者 中平一義 厚木市立東名中学校教諭、村松 謙 弁護士

中平教諭から
 今日は人々が共生するために必要な法、さらに、一人ひとりが尊重されるために法が存在することについて、その意義と役割を考えます。具体的な事例を通して、まず対立状態にある事実を正確にとらえ、何が問題であるのか見極めます。それが法的に解決できるものなのか考え、その上でどのような法が適用されるのか考えさせます。

村松弁護士から
 今日初めて会った人達と一緒に話し合うことになります。リアクションを大きくとるとコミュニケーションがうまくいきますので、試してみてください。

①自己紹介
 中学生も教職員も3グループずつに分けられており、中学生は1~3組、教職員は4~6組とクラス分けされています。

②相手の考えを思いやるゲーム 
 「しりとり」の一種です。グループ内で順番を決め、与えられた最初の文字から連想するものの絵を、1番目の人が無言でホワイトボードに描きます。それが何の絵か口に出してはいけません。2番目の人は描かれたものが何か推測して、次に来るべきものの絵を描くというゲームです。数を競うものではなく、相手が何を考えているかを考える練習です。
 「は」で始まり、最初の方は中学生の3グループとも「箸」の絵などわかりやすいですが、進むにつれて何だかわからないものが現われ、あちこちで「わからない!」を連発しながら最後の人まで何とかたどり着きます。楽しいひと時に、たちまちグループ内が和やかになり、次の時間の議論が活発になったようです。

モデル授業1時間目―法について知る

事例①
部活動で体育館を使用する際に、これまではいろいろと問題があったので、月曜日と火曜日はバスケットボール部が、水曜日と木曜日はバレーボール部が使用し、金曜日は隔週でそれぞれが使用することとした。

事例②
学校の廊下は何があっても走ってはいけない。

【1】事例①、②のルールは何のためにあるのか考え、グループ毎にまとめホワイトボードに書きましょう。

①について
1組:全員が平等に使うため、喧嘩をしないため、社会的評判(「あの学校は部活同士の仲が悪い」などと噂されること)を悪くしないため
2組:体育館の取り合いという争いをなくすため
3組:争いを防ぐため、同時に使用すると事故が起きやすくなるのを防ぐため

②について
1組:廊下の掲示物を破損しないため、水槽を破損しないため、見苦しいから、汗で臭くなるから
2組:事故防止のため
3組:事故を防ぐため、生徒が時間に余裕を持って行動する癖をつけるため(大人達から「オオ」の声)

村松弁護士のコメント
 ルールというものは窮屈だと思うかもしれませんが、みんなが仲良く暮らせるように調整するということです。立場の違う人の利益=主張を調整し、一緒に仲良く生活していくためにルールはあります。事例①も②も、「みんなの共通の利益」と「みんなの利害の対立を調整する」ためなのです。

【2】こんな法律・条例もあります。
景観条例
 「美しい町並みや良好な景観を保全するために、県や市などが制定している条例。地域によって様々な内容があります。条例とは地域限定の法律のようなものです。」

道路交通法
 「日本では自動車は、左側通行をしなければなりません。また、その道路ごとに定められた速度を守らなければなりません。」

中平先生:「ルールと法律・条令の違いは何でしょう?」
生徒:「罰則があるかどうかと、及ぶ範囲です。」
 景観条例と道路交通法についての中平先生の説明を聞いて、一人の生徒が見事に簡潔なまとめをしてくれました。

【3】もし①、②が法律だったら?グループ毎にまとめましょう。

①について
 1組:バスケ部が休んでも、他の部が使えない。試合前日に練習したくてもできない。卓球部やバドミントン部、演劇部などがある学校は、それらの部が使えない。
 2組:行事のとき使えなくなる。(校内の)雰囲気が悪くなる。
 3組:良い点-規律が守れるようになる。悪い点-臨機応変に使えなくなる。

②について
1組:「走る」という言葉の定義が曖昧。助けを呼ぶとき時間がかかる。見つからなければいいと思って走る人がいて、取締りが追いつかず効果がない。
2組:不審者が入ってきたとき困る。校内に警察ができる。捕まってしまい授業にいない人が増える。早歩きが増える。
3組:良い点-事故が起こらなくなる。悪い点-(空白)

村松弁護士のコメント
 みんなよく考えています。①は適用される範囲、罰則共に困りますね。②について、「走る」という定義が曖昧というのは鋭いです。適用される範囲はいいけれど、罰則に困ります。

【4】まとめ
中平教諭から
ここでいうルールとは道徳や習慣などです。法律は個人がより暮らしやすくなるためのもので、個人を一番大切にしています。「個人の尊重」という価値が大切なのです。

モデル授業2時間目―法について考える

事例:自転車問題
 Aさんは、X社の自転車(新品)を購入しました。その際、「この商品についての責任は、欠陥部品に対する損害賠償のみに限られ、その他の一切の保証・義務・責任は負わない。その代わりに自転車の代金を半額にする。」という契約書にサインしていました。
 その自転車はブレーキに欠陥があり、ある日その影響で、坂道でブレーキが利かず転んでしまいました。自転車は大破し、Aさんも怪我をした影響で1か月間にわたり学校を休むことになりました。
 しかしX社は、契約をタテに取り、欠陥があったブレーキの修理以外の責任を否定しました。自転車は新品であれば通常2万円ほどの商品です。

【1】AさんとX社、それぞれの言い分を考え、ホワイトボードに書きましょう。

1組:Aさん-治療費のことは契約書に書いてないから払ってほしい。新品の自転車がほしい。
X社-契約書にサインがあり、代金を半額にしたのだから文句を言うな。
2組:Aさん-ブレーキだけ修理してもらっても乗れない。勉強も遅れてしまった。(X社の方は1組と同じ。)
3組:Aさん-治療費がほしい。(X社の方は1組と同じ。)

【2】AさんとX社の主張を踏まえ、理由も考えて解決策をホワイトボードに書きましょう。

3組:X社は(商品を売っているから)契約のプロで、契約が悪いと思う。欠陥を知っていたのかもしれない。Aさんは未成年かも知れず、契約に慣れていないと考えられる。学校を休んだ件は自転車と関係ない。結論は、Aさんのような事例はX社のためによくないので、今後契約を見直し買い手にもう少し有利なものにする。
2組:X社が欠陥を知っていて、始めから壊れていたのなら、全額治療費を払う。始めから壊れていても、X社が欠陥を知らなければ治療費を半額払う。Aさんが何回か乗ってから壊れたのなら、Aさんの管理のせいかもしれないので払わない。
1組:X社は治療費とブレーキの修理代を払う。なぜなら、X社は会社でAさんは個人だから、個人を大切にするように。

村松弁護士のコメント
 いい議論でした。した約束は基本的には守らねばならないので、みんな悩んでくれたんでしょう。でもAさんがかわいそう。AさんとX社が同じ土俵で契約していいのだろうかということですね。自転車は安全に乗れないと困るものなので、ブレーキのような重大な部分の欠陥について、売る側は欠陥がないか調べてから売るべきと考えることもできます。

中平教諭から
 結論が出ないときには裁判所に訴えて結論を出してもらうこともあります。いろいろな問題の基準として、「個人が大事にされているか」ということを考えてほしいと思います。問題点を明らかにして考え、法に不具合があれば、法を変えるということまで考えてもらえればと思います。

取材を終えて

 法教育の取材をしていると、「法的な考え方を理解させる」とか「法的な価値を伝える」ということがお馴染みになりますが、それは何なのか具体的になるといま一つわかりにくいことがあります。この授業では、法が「個人の尊重」という価値を大切にしているとはっきり言ってくれており、大変わかりやすかったと感じます。自転車問題の事例では、教職員のグループも弁護士さんのアドバイスの下、議論が弾んでいたようです。中学生に身近な学校の問題や自転車を事例に取り上げ、2時間でできるという点も、実践しやすい授業のお手本として素晴しいのではないでしょうか。
 

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