法教育推進協議会傍聴録(第24回)

 2011年5月13日(金)10:00~12:00、法務省20階会議室において第24回法教育推進協議会が開かれました。日本司法書士会連合会、法テラス、東京都教育委員会の取組み報告、および新年度の法教育懸賞論文コンクールについての協議が行われました(当日配布の資料より適宜引用しています)。

1 日本司法書士会連合会、司法書士会が取り組む法教育事業

 司法書士は昭和50年代から、個人として消費者教育に取り組んできました。1999年、司法制度改革審議会の設置に呼応して、日本司法書士会連合会(以下、日司連)では「初等中等教育推進委員会」を設置し、消費者教育の必要性・重要性、司法書士の講師派遣推進を働きかけ、特に高等学校における取組みを一層広めるとともに、他機関との連携を積極的に進めてきました。
その後、全国各地で展開されている法律教室事業に、これまでの対症療法的な消費者教育からの脱却、子どもたちが主体的に法律を社会事象と関連付けながら学べるような方法の取入れ方について、検討を行ってきました。2006年度には委員会の名称を「法教育推進委員会」に変更しました。最近の活動は次のようなものがあります。

〈最近の活動〉

① 高校生等への法律教室事業の実施
 2009年度は全国で、高等学校542校、中学校8校、専門学校17校、4年制大学7校、短期大学5校、養護学校13校、その他4校に法律教室を行いました。養護学校への取組みには力を入れており、親子教室のように、保護者にも来てもらって話をしています。
② 法教育教材開発
法律教室用の法教育の統一教材を作成し、司法書士会に提供しました。(パワーポイント教材「青少年のための法律講座」)
③ 大阪教育大学との共同研究事業
 2010年度より3年間の期間を定め、大阪教育大学および近畿司法書士会連合会と共同で、消費者教育・法教育に関する研究事業を進めています。研究協力校および教員を増やして研究授業を行う予定です。
④ 「第2回親子法律教室」の開催
小学校低学年に対する法教育の一環として、2011年3月27日に広島司法書士会との共催で「第2回親子法律教室」を広島司法書士会館で開催しました。法やルールの基となる「公平・公正」の考え方や「正義」の重要性について、親子で体験的に学んでもらい、子どもたちの法的リテラシーを高めることをねらいとしました。

〈第2回親子法律教室についての概要〉

テーマ:「ええがに分けてみんさい!~何が公平か、いっしょに考えよう~」
日時:2011年3月27日(日)14:00~16:00
対象:小学3・4・5年生とその保護者(20組40名予定)
申込者:207組459名→学年毎に抽選
参加者:23組49名(3年生:11名、4年生:8名、5年生:7名、保護者23名)
教材:デーモンの発達段階6段階を念頭に、シナリオを作成。段階5「個人の尊重」を目標にしました。
第1部は貢献度に応じた公平さの理解(クリスマス会のケーキの分け方)
第2部は必要度に応じた公平さの理解(少なくなった水を分ける)

〈親子法律教室で工夫した点〉

1)定員の10倍という多数の申込みがあり、驚きました。理由は、広島県内の小学3~5年生全員の手元に1枚ずつ、カラーのチラシが行き渡るようにしたことだと思います。第1回の時は、予算の関係で学年毎にチラシ1枚をコピーして配ってくださいと頼みましたが、申込みはさっぱりでした。
2)「短時間で、楽しく、緊張をほぐすように」というコンセプトのもと、よしもと広島の芸人「ボールボーイ」に進行役をお願いしました。
3)教材作成では、学校の先生のアドバイス「子どもはやることが複合すると混乱するので、単純にするように」を受け、ケーキは最初から8等分してあることにしました。
4)最初にアイスブレーキングとして、「はじめましてカード」を使い、初めて会う友達に自己紹介をしました。

〈報告についての質疑応答〉

質問:「普通科以外の高校での法教育の反応はいかがでしたか?」
日司連:「当初は3学期に3年生全員を対象として実施したので、騒がしかったです。そこで、社会科と家庭科で実施することにしましたが、それでも1年に1回でした。次第に、3ヶ月に1回というように移行しつつあります。私立高校は1回呼んでくれると、次年度からずっと続きますが、公立高校は異動があるので、担当の先生が変わると続かないという課題があります。」

質問:「大阪教育大学との共同研究事業では、教員養成で法教育を取り上げるのですか?」
日司連:「附属学校がありますので、教員養成も含めてということですが、まだ1年しか経っていませんから。」
質問:「事業の申し出はどちらからですか?」
日司連:「こちらからですが、大学側にもニーズがありました。近畿では法教育が進んでおり、司法書士会とのつながりも深いという経緯があります。」
意見:「関東でも、もしできればいいと思います。パイロット校1校だけでは残念なので。」

2 法テラスにおける法教育への取組みについて

 法テラスでは、業務を開始した2006年度以来、毎年法に関する教育を実施しています。対象は成人向けが多く、法的なものの見方・考え方の教育より、法テラスの業務説明の方が多くなっています。この3年間は、学校30~40件、学校以外200件前後実施しています。

〈地方事務所における具体的取組み例〉

① ホームページ等を通じて、地域の団体・学校等に出前講座開催をお知らせし、以来を受けて「出張法テラス」として、弁護士や司法書士等の職員を講師として派遣しています。
② 地方自治体の「市民講座」などに、「暮らしに役立つ法律講座」「裁判員制度について」などの講演を実施。
③ 地域の老人会などの集まりにおいて、高齢者を対象とした法律講座を実施。
④ 小学生を対象とした模擬裁判を実施。

〈法テラスが取り組む法教育とは〉

 法的なものの考え方を身に付けるとともに、特に社会人にとっては実生活で必要となる法的知識を身に付けることも必要であり、これらを併せて取組みを進めます。
 基本的な活動方針は、関係各機関・団体等と協同しつつ、法教育の普及・発展を後方からサポートしていくような役割を果たしていきたいと考えています。全国組織であること、事務スタッフの存在、公的機関としての信頼性、関係機関が多数あり協力できることといった強みを活かし、地域の事務局的役割を担当するといった役割を考えています。
 今後も、社会人を主な対象としつつ、地域毎にネットワークの違いもあるので、ユーザーのニーズに応じた法教育に取り組みたいと思います。

〈報告についての質疑応答〉

意見:「法テラスのスタッフ弁護士と、単位会弁護士会の関係は素晴らしいと思います。地方スタッフ赴任前研修でも、法教育の研修に時間を割いていただいています。これからも協同していきたいと思います。弁護士会では学校向けの法教育が主で、社会人向けまでは十分に手がまわっていないので、法テラスの活動はありがたく思っています。弁護士会としてはどうお役に立てるか、話をさせてもらいたいと考えています。」
座長:「私も社会人教育は大事だと思っています。各県の講座などが、法テラスのホームページを見るとわかるとか、講師派遣の要請のコーディネーターになってもらえたりするといいと思います。」
意見:「他大学も、大阪教育大学のように法律家と連携するといいので、法テラスにコーディネーターになってほしいと思います。」
法テラス:「京都では連携の事務局をしています。法テラスの弱点は、法教育に熱心なスタッフがいる事務所は盛り上がるのですが、スタッフが異動すると下火になってしまうことです。そこを継続的にしていく体制を作り上げないといけないのが課題です。」

3 東京都における法教育への取組みについて

 東京都教育委員会は2008年度の東京都教育ビジョン(第2次)の策定において、「法」に関する教育の推進を計画し、法教育推進協議会を設置しました。「自由で公正な社会の担い手としての資質・能力の基礎を学校段階から育成するため」、広域行政の立場から2009年度より「法」に関する教育シンポジウムを開催しています。
 さらに、2010年度末には、『「法」に関する教育カリキュラム』を作成し、全ての公立小・中学校・高等学校に配布するとともに、ホームページでも公開しています。
 アンケートでは、「シンポジウムよりも小さい単位で考える場がほしい」という声が多いので、公開授業等で浸透するように考えていきたいと思っています。

〈報告についての質疑応答〉

意見:「『「法」に関する教育カリキュラム』は、セオリーどおりのカリキュラム構成なので、他の団体と協働で授業を行なったりする場合に汎用性が高いと思います。小・中・高校による発達段階の違いがポイントになりますが、模擬裁判はどの段階に、どのように配列するのがいいか、と考えています。」
意見:「神奈川県は東京都のホームページを参考にさせてもらっています。学校の先生にわかりやすい形になっているので、価値があると思います。お願いが2つあります。東京都教育委員会では、平成18年か19年頃、毎年夏に教員向け研修の形で法教育の枠がありました。参加者がどんどん増えて、3年目は70~80人ぐらいになり、法教育への関心の高まりを肌で感じていました。せっかくですので、研修会をまた再開していただきたいと思います。
  もう1つは、第一東京弁護士会が杉並区と協力して法教育の授業作りをしています。東京都中学校社会科研究会とも連携しているようです。そのような個別の取組みが、より活性化するようにバックアップしていただけると、ありがたいと思います。よろしくお願い致します。」
意見:「この『「法」に関する教育カリキュラム』はみんなが共有できるように、全国に頒布していただきたいと思います。」
質問:「他の教育委員会からお尋ねや、ほしいという声がありますか?」
都教委:「公開してから2~3件、取材などがあります。実際の授業とセットで使うことが必要だと思っています。」

4 法教育懸賞論文コンクールについて

 昨年度のコンクールについての振返りと、今年度の方向について検討されました。それについては法務省のホームページを御覧下さい。

5 次期の法教育推進協議会への引継ぎについて

 2008年からの4年間、第2期の法教育推進協議会の座長を務められた大村敦志教授(東京大学)が、今回で退任されます。最近の2年間では、教材つくりと地域に根ざした法教育の普及に取り組みました。今後は、各学校の法教育の普及状況を実態調査して、先進事例集を作るという提案がありました。これまでの調査も参考にしたらいいということでした。さらに、実態調査をする場合は、時期を選ぶことが重要な要素であり、研究指定校制という考え方もある、という提案もされました。教材の需要は多いので、今後も取り組みたい。各機関との情報共有・発信も大切にしたい、とのことです。

取材を終えて

 日本司法書士会連合会が従来の消費者教育の枠を超えた法教育に取り組んでいることがよくわかりました。広島県で行われた春休み中のイベントに、予定の10倍を超える応募があったことは目を見張るものがあります。小学生向けには、インターネットよりもチラシ1枚ずつの方が募集効果が高いということでしょうか。広報の仕方に学ぶべきことがあると思いました。
 東京都教育委員会の冊子『「法」に関する教育カリキュラム』は、生活科・体育科・家庭科なども指導計画や「本時の展開」が示されており、現場の先生に使いやすそうな事例が取り上げられています。実際に授業をされたら、どのような様子になるか、お伝えできる日が来ることを楽しみにしています。夏休み期間中の教員向け法教育研修も、要望する声を時々耳にしますので、実現が期待されます。

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