法教育インタビューシリーズ(2)鈴木啓文先生(弁護士)

 2010年9月4日(土)および12月13日(月)、日本弁護士連合会「市民のための法教育委員会」委員の鈴木啓文弁護士にお話を伺いました。鈴木先生は早くから法教育に携わられ、既に多くのインタビューなどでお話をされています。ご多忙な先生のお時間を拝借するため、取材が2日間になりました。

法教育研究会ができるまで

 2001(平成13)年の6月に司法制度改革審議会意見書が出て、翌年、司法制度改革推進計画が閣議決定されました。それを受けて推進本部がつくられ、テーマごとに部会のようなものができました。司法制度改革の中で教育面は法科大学院制度の創設が大きな改革で、司法制度を支える国民的基盤を確立するための教育は、司法教育と呼ばれ、必要性は訴えられていましたが、手が付けられていない状態でした。裁判員制度が始まることを前提に、国民に司法教育が必要であるとの声は学識経験者から出ていましたが、司法教育は担当省庁が明確でなかったこともあると思います。
 日弁連では1993年の定期総会で「司法に関する教育の充実を求める決議」、1998年の「司法改革ビジョン―市民に身近で信頼できる司法を目指して」などのように、司法および人権についての教育の充実を訴えてきました。2000年の7月には、江口勇治教授(筑波大学)や当時の日弁連の広報室嘱託弁護士などで「全国法教育ネットワーク」をつくって研究会をしていました。2002年9月には、関東弁護士会連合会の「子どものための法教育」をテーマにしたシンポジウムがあり、その1年前からシンポジウム実行委員会が組織され、精力的に調査・研究が行われました。それをきっかけに、日弁連に「市民のための法教育対策検討ワーキンググループ」が立ち上げられ、私が事務局長をしました。2003年4月に、日弁連「市民のための法教育委員会」ができ、すぐ6月に「市民のための法教育シンポジウム2003」が開かれます。
 その頃、法務省司法法制部の西山卓爾氏が訪ねてこられ、「法教育」の話を聞いて、法務省に研究会を作ることになりました。弁護士会としては研究会の名前が「司法教育」ではなく、最初から「法教育」だったので、やりやすかったですね。法教育研究会で何をするかは、第1回の会議(2003(平成15)年9月)で各々、今どういうことをしているかプレゼンをするところから始まりました。アメリカで試みられているような法教育を日本でやりたいという発想が基底になっています。

現在の活動

 現在、弁護士会の法教育活動としてはジュニアロースクールや出張授業と並んで、夏休みの「高校生模擬裁判選手権」が大きなものになっています。以前は、「日弁連夏季教員セミナー」という教員向けの法教育研修もしていました。「高校生模擬裁判選手権」の規模が拡大するにつれ、そちらへ人手が取られるということがあり、再開できずにいます。本当は再開したいのですが。
 私自身は第一東京弁護士会に所属しており、弁護士会の法教育委員会で受け付けた出張授業を担当する活動もしています。世田谷区立の小学校6年生に、「ルールのない社会」という教材を使って討論する授業をしたりしています。

2011年度の関東弁護士会連合会シンポジウムに向けて

 今、来年度の関東弁護士会連合会定期大会・シンポジウム(9月予定)に向けて、準備を進めているところです。大まかに2つのことを考えています。1つには「法教育」の意義は、2002年関弁連定期大会で採択された「子どものための法教育」に関する宣言にあるように、「法律専門家でない人々を対象に、法についての知識の習得にとどまらず、法の基礎にある原理や価値を教えるとともに、その知識等を応用して使いこなす技能と、それを踏まえて主体的に行動しようとする意欲と態度を育む教育」ということですが、その意義が関係者の共通理解になっているのか再確認することです。もう1つは、学校現場との連携のあり方です。シンポジウム委員会内に3つの部会を設け、海外調査・授業実践研究・国内調査を進めています。

法教育授業の魅力

 法の世界の背景にはいろいろな価値があります。トラブルや問題状況が生じたとき、さまざまな価値を考えると、1つの正解があるということではありません。どの考えがどういいのか、考える必要が生じます。「わざと不適切なことをするのはまずいでしょう」とか、「不注意から起こしてしまったことでも責任は取らないといけない」などということが基本の考え方といえるでしょう。けっして法律専門家でなければ教えられないようなことではなく、適切な教材があれば学校の先生が教えるのに難しいということはないと思います。「ルール作り」教材は、ともすると「きまりを守りましょう」という教育になりがちな面もあるので、『はじめての法教育Q&A』 を作って、そうならないように提案しています。学校の先生方と一緒に授業をつくっていければいいと思います。
 知識的なものは社会科に該当する部分が多いかと思いますが、国語の能力が大事だと思っています。現場の先生からは、自分の意見を言わない子どもが多いという声が聞かれます。法教育を生き生きとしたものにするのは「意見を言い合う」ことです。先生には「子どもの意見を引き出す力」が求められるでしょう。それは教科書や文字にならない難しさといえますが、「子どもを元気にする源」になると考えられます。

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