千葉司法書士会 消費者教育高校講座

 2011年12月1日(木)13:35~14:40、千葉県立白井高等学校において千葉司法書士会所属の司法書士による消費者教育講座が開かれました。体育館に第3学年の生徒全員が集まり、DVDを視聴した後、悪質商法や借金について学習しました。また、授業後に千葉司法書士会の法教育活動についてお聞きしましたので、併せてお伝えします。

千葉県立白井高等学校のプロフィール

 1983(昭和58)年、開校。田園地帯に鉄道が開通して白井団地が造成されるに伴い、創立されました。卒業生の進路は、大学進学が約3割、専門学校が3割強、就職が2割強などとなっています。
 周囲は低層の団地と一戸建ての住宅街で、落ち着いた環境です。北総公団線白井駅より徒歩15分。

学級数・生徒数(平成23年度学校要覧より)

学年 学級数 男子 女子
1 5 84 117 201
2 6 107 124 231
3 7 119 141 260
合計 18 310 382 692

 

〈白井高等学校の消費者教育講座について〉

 白井高校では、近年、秋から冬にかけて消費者センターの相談員や司法書士を招いて消費者教育講座を実施しています。第3学年の生徒の中には、卒業して就職すると、仕事上すぐに自動車を運転しなければならない場合があるので、冬休みから自動車教習所に通う生徒がいます。学校では申請者に対し、条件をみたした生徒に教習所通所を許可しています。運転免許をとって就職すれば、車を買うことも現実的になります。今回の消費者教育講座で視聴されたDVDの冒頭は、車購入のローンの話から始まります。生徒にとって身近な消費者問題を卒業する前に学習してもらいたいという先生方の思いが、毎年の講座開催につながっています。

講座

13:35~14:40
第3学年 260名  場所:体育館
講師:稲葉浩運(ひろゆき) 司法書士

〈DVDの内容〉

DVD:「多重債務に陥らないために~安易な借り入れ、重い返済~」
    (企画:日本司法書士会連合会)
 多重債務に陥った若い会社員が、司法書士事務所を訪ねて、多重債務に至ったいきさつを語り、一緒に解決に向けて考えてもらうというストーリーです。若い会社員鈴木さんは、3年ほど前に中古車をローンで買い、その支払いは月々約1万円でした。それだけなら問題はなかったのですが、飲み会で知り合った女性にメールでデートに誘われ、ブログプロデューサー養成講座80万円を受講するよう勧められました。断ったのですが、泣かれてしまうとかわいそうになり、月2万5千円のローンを組んで契約してしまいました。その後も、知り合いの結婚祝いやブログ講習の追加を断りきれません。会社の先輩に勧められるまま、キャッシングや消費者金融から次々と借入をし、ついには闇金融からも借金をしました。そして、返済督促の電話に脅えるようになり、会社を休んでしまいました。会社の人が心配して、司法書士に相談するよう勧められたのでした。
 DVDでは続けて、「むやみにサインをしたり印鑑を押さない。その場の雰囲気に流されず、冷静に対処する必要がある。」「消費者金融の金利は、銀行に比べて割高である。」と解説されます。債務整理には、任意整理、特定調停、民事再生、破産という4つの方法があります。ローンの支払いが滞ったときには、1人で悩まずにまず両親などに相談すること。消費者センター、司法書士、弁護士などにも相談できること。いざというときのために貯蓄して備えておくことが大切とされていました。

〈講師の話〉

(1)「契約」について考えてみよう
講師:「「80万円で買う」という約束を契約と言います。契約とは、約束のことです。コンビニでペットボトルを買うのも契約。買った後で何もなければ問題ないですが、買ったノートが汚れていることに後から気づいたりすると、どうしますか?プリントを見てください。クイズ形式で、問題を考えてみましょう。」
(以下、講師が作成した当日のプリントより適宜引用させていただきます。)
問題1「口約束も契約か?」
 電器屋さんに電球を買いに行きましたが、財布を忘れたので、「後でまた買いに来るから、そのときに20Wの電球をください。」「ええ、いいですよ。」と話して帰ってきました。家に帰ると、母が電球を買ってきていて、もう必要ありません。あとで電球を買いに行かなければいけないでしょうか?
① もう電球は買わないのだから、行く必要もない。
② 電器屋さんに「ごめんなさい、もう要らなくなりました。」と言いに行かなければならないが、そうすれば買わなくてもいい。
③ 電器屋さんから、「約束したんだから、買って下さい。」と言われたら、買わなければならない。
④ 20ワットの電球と同じ値段かそれよりも高いものを、代わりに買えば問題ない。

 生徒に挙手してもらった結果は、①=4~5名。②=約20名。③=6~7名。④=0名でした。
講師:「法律の通りなら、正解は③ですが、普通はお店の評判を考えて、②となるでしょう。電器屋さんが『買わなくていいですよ。』と言ってくれなければ、③が正解なことを忘れないでください。どんな約束でも守らないといけない、というわけではありません。脅迫されてした約束は無効です。大事なことは、その約束が守れるか、よく考えて約束しないといけないということです。」

(2)クーリングオフについて
(プリントにありましたが、時間の都合上、講師が省略しました。)

(3)借金について
 借りたお金を返すことについて、特に相手が金融業者の場合、利息を付けて返さねばならないことを、具体的金額で考えました。「消費者金融から72万円借りた人が、毎月2万円ずつ返していった場合、返し終わるのにどのくらいかかる?」という問題を、問題1と同様に4つの選択肢から選ぶクイズ形式で実施しました。正解は、4年4か月、返済総額104万円でした。

講師:「では、毎月1万円ずつ返していくとしたら、何年かかるでしょう?答えは、一生かかっても返せません。なぜなら、返済は利息分からしていくので、返す1万円より毎月の利息の方が多いからです。払いきれない利息分が毎月増えていくので、元金が全く減らないのです。借金を返済するときのポイントは、なるべく早くたくさん返すことです。」

(4)困ったら相談しよう
 病気になったらお医者さんに行きます。同じように、契約でトラブルに気をつけることは大切ですが、困ったらすぐに相談するよう、相談相手をクイズ形式で考えました。例えば、身に覚えのない借金返済を要求するはがきが来た場合、絶対にしてはいけないのは、「とりあえず相手に電話して確認してみる。」です。友達に相談するのは悪くないけれど、専門家ではないから、司法書士や消費者センターに相談することを勧められました。

〈講座の後はアンケートに記入〉

 生徒は講座の後、ホームルームの時間に司法書士会作成のアンケートに回答し、講座の振り返りをしました。

千葉司法書士会の法教育活動

 千葉司法書士会法教育推進委員会の露崎とも子先生と、講師を務めた稲葉浩運先生にお話を伺いました。

【活動の始まり】
 千葉司法書士会は1999年から消費者教育講座を始めました。はじめは独立した委員会ではなく、広報部が運営していましたが、昨年度から法教育推進委員会として独立しました。6人の委員が、千葉市で毎月1回月例会議を開き、講座の案内・応募受付や講師派遣、アンケート集計などをしています。講座は無料です。

【消費者教育講座の普及方法】
 毎年、新年早々に県内各高等学校に案内を郵送します。同封するアンケート用紙が出前講座の申込書を兼ねており、郵送やファックスで申し込めるようになっています。毎年20校ぐらい応募があります。
もっと活動を広げるため、昨年からA4判1枚の「かわら版」を季刊で出すことにしました。「デート商法とは」などのテーマを取り上げています。3か月に1回この「かわら版」を郵送するときに、講座の申込書も同封します。その結果、年間を通して申し込みがぽつぽつ来るようになりました。
また、新人司法書士のために、消費者教育講座の講師養成の勉強会も開いています。出前講座を担当する講師に「同行」する新人をつけて、報告書を提出してもらい、スキルを身につけられるようにしています。

【学校との打ち合わせ方法】
 基本的には、講座をする予定日の1か月ぐらい前に学校から連絡をいただきたいと思います。講師をしてくれる司法書士の中から都合がつく人を委員会が募り、学校と講師が直接メールやファックスで連絡を取り合います。教材や指導方法は講師の判断に任されています。今回の講座では、事前にDVDとプリントの原稿を学校へ送付し、映写やプリントの準備を学校にしてもらいました。アンケートは郵送で返送されて来たら、委員会で集計し、結果を学校へお返しします。

【今後の取組みについて】
 広報のためのパンフレットやオリジナル教材を作りたいと思っています。千葉司法書士会事務局では、日本司法書士会連合会が作成したDVDやパワーポイントの貸し出しを行っていますが、それを使用するかどうかを含め、これまでは教材や指導方法について、講師の力量に頼っていました。学校との事前打ち合わせの経過報告を委員会にするといった、マニュアルもありません。法教育のマニュアルを整備し、新人でもこれを使えばすぐできるというような教材があるといいと考えています。
 消費者教育講座は、千葉県内では都市から遠い地域の学校において求められる傾向があります。ところが、そういった地域では司法書士の数が限られています。交通機関や講師の体調など、不測の事態に備えて講師を確保することも課題です。そのような場合のためにも、代わりの講師が困らない教材が必要だと考えています。
稲葉先生:「「法教育」は、法的なものの見方・考え方を育成することを目標とし、生徒同士の話し合いが大事にされます。今回のように1時間で260名一斉の講座の場合は、グループ討論はかなり難しいと思いますが、講師としては実践してみたいと思っています。そのための教材があるといいと思っています。」

取材を終えて

 司法書士会の消費者教育は以前から全国で実践されていました。近年は各地における「法教育」の普及に伴い、千葉司法書士会でも法教育推進委員会として独立した委員会を設け、消費者教育から「法教育」へと活動を展開していることがわかりました。
 都市部から遠い高校や定時制、通信制の高校から講座を希望されることが比較的多いという実情には、興味深いものを感じます。学校や生徒の実情に合わせたきめ細かい「法教育」が、今後も検討される必要があると思います。講師の不足を補うという面では、司法書士会と弁護士会や消費者センターなど他の機関との連携も求められると思いました。

ページトップへ