千葉県立千葉高等学校 模擬裁判授業後検討会

 2012年1月11日(水)18:00~18:40、千葉県立千葉高等学校が2学期に行なった模擬裁判授業の検討会が、千葉県弁護士会法教育委員会の定例会において行われました。
 検討会には千葉高校の藤井剛教諭と、授業に協力した弁護士を含む20数名の法教育委員会委員が参加し、事前指導における打ち合わせの重要性の確認、裁判劇・評議についての具体的な改善案など、充実した意見交換がされました。

〈今年度の千葉高校模擬裁判授業〉

 第2学年8クラスが、「政治・経済」の授業として模擬裁判授業を行います。学校における事前指導で、クラスごとに役者15名を決め、他の20数名は傍聴者になります。模擬裁判は千葉地方検察庁の協力のもと、1クラスずつ、千葉地方検察庁模擬裁判法廷を3時間ほど借りて行います。生徒全員による評議には、検察官・弁護士・卒業生の法科大学院生が助言者として加わります。事前指導は教諭のみで、例年4時間ほど行いますが、今年度は都合により2時間で、別の素材によるプレ模擬裁判を行っていました。
 教材は前年度と同じく、法務省作成の強盗致傷事件です。今年度の指導で工夫した点は2つあります。
① 発言しない生徒対策として、評議の班に分かれてから「有罪」「無罪」の立場表明を全員にさせました。「どちらかわからない」生徒は0でした。
② 役者と傍聴者で情報等に偏りがあったため、全員に「冒頭陳述」と「論点一覧」を配布しました。

〈千葉地方検察庁との協力体制〉

 千葉地方検察庁には模擬裁判を始めた2007年から協力を得て、もう5年になります。当時は、蘇我に模擬法廷ができたばかりで、裁判員裁判のキャンペーンが大々的に始まっていた頃でした。具体的には、模擬法廷の使用、法服や証拠品などの準備、シナリオ収集、評議体に入るアドバイザー(検察官)の確保などを行ってもらいました。
 藤井教諭は事前の打ち合わせに、数回千葉地検に行きました。事前準備用に、裁判員裁判のDVDもクラス全員分(40本以上)いただきました。模擬裁判後は、検察官と反省会ももっていました。その度に、いろいろな改善点が見えてきました。

〈千葉県弁護士会法教育委員会の協力〉

 千葉県弁護士会の法教育委員会は2004年度に設置され、千葉市立の小・中学校で模擬裁判授業、裁判傍聴の指導、夏休み・春休みのジュニアロースクールを行ってきました。2010年度からは、高校生模擬裁判選手権の協力弁護士、千葉日本大学第一中学校の文化祭模擬裁判、県立千葉高校の模擬裁判授業に協力するようになり、活動を広げています。
 昨年度の千葉高校模擬裁判授業後も教諭と反省会を行い、裁判劇のシナリオや、生徒にどういう指導をしたらいいかについて検討しました。

〈意見交換〉

(1)事前指導について
弁護士:「教諭が事前指導でどこまで何をしているのかが見えるといいと思います。「ねらい」や、有罪・無罪のバランスがとれるように、どこを力点にするかなどが知りたかったです。」
教諭:「来年は、生徒に配るレジュメを弁護士にも事前に渡します。」

弁護士:「模擬裁判の『ねらい』は何ですか?」
教諭:「人の意見を聞いて、自分の意見を述べ、自分で考えて判断することです。もう1つは、裁判員裁判の通知が来たら、嫌がらずに行ける人間を育てることです。」

弁護士:「このシナリオは、証拠等、かなりあいまいな事例で、本来は裁判に持ち込めないということを話しておいてもらえたらと思います。」
教諭:「そうします。」

弁護士:「起訴状朗読、冒頭陳述から始まって、最終弁論まで、どうしてこのような手続になっているかも話しておいてもらえたらと思います。」
教諭:「来年はそうします。」

(2)模擬裁判劇について
弁護士:「役者の声が小さいと聞こえないので、マイクを使う方がいいと思います。」
教諭:「来年から、マイクを使うようにします。」

弁護士:「与えられたシナリオをこなしているだけの印象がありました。検察官役・弁護人役が何をするか、何をしてはいけないかが頭に入っているといいと思います。尋問や質問のところで自分の意見を述べてしまうと、弁論のようになってしまい、裁判が混乱していました。『検察の立証責任を果たすこと』が司法の基本であることをおさえる必要があると思います。」
弁護士:「可能なら、事前指導から弁護士が入れるといいのではないでしょうか。法教育委員会内で話し合ってから提案すべきですが、クラスごとに指導するのは厳しいかもしれないけれど、学年全体で一斉にするなどなら考えられると思います。」

(3)傍聴者の参加意識について
弁護士:「傍聴者は全員が集中しているとは言えません。その生徒たちにどうやる気を出してもらうか。事前指導で本物の裁判を見てもらうなど、できる限りのことをするといいと思います。」

(4)評議について
【評議の時間】
弁護士:「今年度は、評議の時間が1時間以上とれたので、評議の時間が長くとれてよかった。」

【司会の役割】
弁護士:「評議の司会者の決め方は?」
教諭:「当日、グループに分かれた後、グループ内で推薦で決まります。」

弁護士:「司会の役割が明確でないので、混乱が見られました。司会者は自分の意見を言っていいのか?何から議論すればいいのか?わかるといいと思います。『論点一覧』があったので、その順に議論する方向になり、助かりました。」
弁護士:「授業のねらいがみんなで話し合うことを主眼にするなら、司会を弁護士やアドバイザーがやってしまうという方法もあると思います。そうすれば、みんなの意見を活発に引き出せると思います。」

【役者の存在感】
弁護士:「役者をした生徒が、評議でも役にこだわってしまい、役を離れた自由な立場の議論ができない様子が見られました。評議では、自由に立場を変えることができるという指導をどこかに入れておくとよかったと思います。」
弁護士:「役者が議論をリードしてしまう傾向がありました。いっそ、役者を卒業生などが演じるという手もあります。実演することの教育効果もあるので、何とも言えませんが。」

【評議の結論】
弁護士:「評議の最後に、『合理的な疑いを入れない程度に証明されたか』評価するのが難しかったようです。まとめるのがうまい司会者でも、評価をどうしたらいいか困っていました。『合理的な疑いを入れない程度』というのは数字で表せないので、弁護士にとっても説明するのは難しい。『これがこの程度なら合理的』と示しておかなくていいのでしょうか。」
教諭:「もう少し教えておくべきですか?」
弁護士:「キーワード的に聞くだけだと、それに引きずられる可能性はあるし、難しいと思います。総合評価をするということは事前に指導されているので、推定無罪の原則と総合評価がおさえられていれば、いいと思います。」

弁護士:「最後の量刑について、量刑の基準や執行猶予の話をするのに5分しかなくて、時間が足りませんでした。そこまで事前指導でしておくとよかったかもしれません。有罪・無罪の判断だけで止めておいてもいいと思います。」

【会場】
弁護士:「大部屋で評議をすると、隣のグループが白熱しているのが聞こえて、それに影響されたりしました。可能なら、グループ毎に個室が使えるといいと思います。」

〈藤井教諭のコメント〉

 本年度も多くの方のご協力を得て、模擬裁判を行うことができました。まずは、お礼を申し上げたいと思います。
 特に、千葉県弁護士会の法教育委員会の先生方には、昨年から多大なご協力をいただき、模擬裁判実施そのものに広がりを感じています。生徒達にとっては、専門家からの貴重なアドバイスという面以外にも、キャリア教育的な刺激を受けています。
 法教育の目的は、自分たちの身の回りで起こるさまざまな問題について,自ら主体的に考え,公正に判断し,行動してもらう力を身につける教育だと考えています。この模擬裁判は、そのような力を身につけることを目標としてとして行い、実施後の生徒のアンケートを見ると、その目標をほぼ達成していると考えています。
 今回も、授業実践者には気がつかない、貴重なアドバイスをいただきました。次年度以降に生かしていきたいと思います。このような反省会を経験するたびに、法教育とは法曹と教育現場とのジョイントで行うべきだと実感させられます。多くの法教育実践者にも経験していただきたいと思います。
 いろいろいただいたアドバイスをもとに、今後もよりよい模擬裁判を実践していきたいと思います。

〈取材を終えて〉

 県立千葉高校の模擬裁判授業は当レポートの中でも閲覧回数が多く、参考にされる事例だと思います。今回はその授業について、弁護士からアドバイスを受ける貴重な機会になりました。いろいろな提案がされており、現場の実践に役立つのではないでしょうか。なかでも、事前指導から法律専門家と打ち合わせをしておくことは大事だと感じました。授業のねらいを現場の先生と専門家が共有していると、何を事前に指導しておかねばならないかが見えてくるでしょう。評議の時間を十分に確保すること、論点を整理した一覧表が役に立ったこと、司会の役割を明確にしておく必要、傍聴者の参加意識を高める工夫など、様々なことを考慮しなければならないことがわかりました。
 現場の教員と法律専門機関の組織的な連携が継続・拡大しているという点も、意義ある取組みだと思います。

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