法教育推進協議会傍聴録(第28回)【懸賞論文授賞式】

 2012年2月29日(水)10:00~12:15、法務省会議室において第28回法教育推進協議会が開催されました。第2回法教育懸賞論文コンクールの受賞者3名をお迎えし、初となる表彰式が行われました(第1回の表彰式は昨年3月に予定されていましたが、東日本大震災の影響により中止となりました)。受賞者には、賞状および副賞が贈られました。
 今回の論文テーマは、「学校現場において法教育を普及させるための方策について―法教育の授業例を踏まえて―」でした。式の後には、受賞者がそれぞれ「法教育の取組み」について、報告しました。(当日のプリントより適宜引用させていただきます。なお、受賞論文と座長談話等は法務省ホームページに掲載されています。)

1 表彰式から受賞者コメント

法教育推進協議会賞:春田久美子 福岡県弁護士会所属弁護士
 「第1回に続く受賞で、とても驚きました。法教育は、子どもたちに一度は受けてほしい魅力を秘めていると思うので、これからも携わっていきたいと思います。論文にも書きましたが、「レインボーシート」を使って受けた法教育の授業を子どもたちがいつの日か思い出してくれたら幸せだなと思います。」

日本司法支援センター賞:松本榮次 西宮市立上ヶ原南小学校教諭
 「法教育を始めようと思ったとき、本を求め、よい先行研究を探すところから始めました。司法書士法教育ネットワークを通じて知り合いになった司法書士の先生に授業をしていただく約束をしたり、法務局に下見に行って打ち合わせをしたりして、実生活に役立つプログラムを考えました。これからも法教育に関わっていきたいと思います。」

社団法人商事法務研究会賞:三浦清和 京都府井手町立泉ヶ丘中学校教諭
 「中学2年生の担任をしています。論文を書くきっかけは、夏休みに社会科の宿題を大量に出して生徒のブーイングを買ったので、自分も宿題として論文を書くと宣言したからです。論文をまとめるなかで、法教育は生徒の力を伸ばすだけでなく、教員の指導力を伸ばすことに役立つと感じました。裁判員制度の開始により、裁く側にもなる時代になったので、これからも法教育が普及していくことが重要だと思います。」

2 春田久美子弁護士報告

〈論文で伝えたかったこと〉
 法教育の魅力は、子どもが自分の心と頭で考え、判断し、自分の言葉で表現し、コミュニケーションして伝えることです。その魅力を伝えるのは難しいので、授業例の開発と紹介を通して、伝えたいと思いました。教材は学校現場の現状を踏まえ、使ってもらえるものというコンセプトで作りました。

〈論文を執筆するうえで悩んだこと〉

 授業は学校の先生だけでできることがいいと思いますが、外部専門家が入るからこそ伝わることもあります。悩みましたが、両方あっていいと考えました。

〈学校現場の理解を得るために〉

① 授業の「獲得目標」を明確にすること
 1単元(45~50分)でできる授業をめざすには、ねらいは1つで十分であり、論点を絞り込むことが必要だと感じました。
② 法教育の意義・目的を明らかにすること
法と司法の意義・機能に改めて着目しました。
③ 「レインボーシート」の工夫
 「レインボーシート」とは、カラフルなワークシートのことで、「言い分」形式になっています。対立する当事者の顔を漫画にして、吹き出しに言い分を書くようになっています。相手方の言い分を聞き、自分の言い分を振り返って、思考の深まりを踏まえた解決策をつくることを、見てわかるように書き込めるワークシートです。
④ 1年間に1単元を
 「やってみようか!」と思っていただけるために、カリキュラムへ無理なく組み込めるよう意識した1単元を提案します。

〈論文で提示した授業例〉

「やってみよう!裁判員裁判」
「あなたならどうする?」
「ストロー飛行機で楽しく遊ぼう!」(岐阜法教育教材コンクール受賞作を許可を得て、改変)
「“幸せな国”ってどんな国?」

〈最近気づくことなど〉

 学校から“規範意識”向上のための出前授業申込みが多くなっています。実践例としては、中学校で自転車による交通事故を素材にした授業例があります。ネットいじめを考える例では、書き込みをされた人・した人の気持ちを考えて書き、吹き出しに貼り付ける式の授業もあります。
 法教育普及のためとしては、「50分でできる模擬裁判」が好評なので、実践授業のような形でいつかできるといいと思っています。

3 松本榮次教諭報告

〈小学校における法教育の取組み例〉

 2010年1月~3月に、5年生3クラスを対象に「総合的な学習の時間」で全13時間の「法について考えてみよう」という授業を行いました。単元の展開は、次のとおりです。
①  無人島ゲームをやろう(2時間)
 『法教育実践の指導テキスト』の中の「漂流ゲーム」からアレンジ。1人で遭難して無人島で生きていかなければならない場合と、数名で遭難した場合でどう違うか考えます。数名の場合は、助け合うとともに「ルールが必要になる」ことが児童から自発的に出てきました。
② 「もしも、~がなかったら」(2時間)
 『小学校の法教育を創る』より。信号機がなかったら、時間割がなかったら、チャイムがなかったら、学校がなかったら、などについて考えます。
③ 福岡県司法書士会の特別授業「法は何のためにあるのか?」(2時間)
 『解釈のちから―紙芝居で学ぶ法教育教材―』(福岡県司法書士会法教育推進委員会著)より、紙芝居「この橋 馬は渡るべからず」を使った授業。紙芝居の内容は次のようなものです。
昔々、村人たちは村内を流れる川を渡るために、木でできた橋を渡っていました。ある日突然、橋のたもとに「この橋 馬は渡るべからず 村長」という立札が建てられたので、村人たちは困って村長を訪ねると、村長は亡くなっていました。なぜ村長はこんな立札を作ったのか、村人たちは集まって考えました。そこへ村長の遺言がもたらされました。遺言には、橋が渡れなければ、村人は山へ迂回しなければならなくなるから、村長亡き後のおかみさんが山で茶店を開けば、儲かって暮らしていけるだろうと書いてありました。あなたはこのきまりを守りますか?
この教材は、福岡県司法書士会のホームページから購入できます。
④ 大阪法務局見学(社会見学)(3時間)
 半年前から下見、メールで打ち合わせなどの準備。見学内容は法務局の仕事と、人権VTR視聴。児童は、売買契約やいじめについてよくわかったという感想でした。
⑤ 運動場の使い方のルールを考えよう(4時間)
 学校の運動場の遊び方について、ルールの必要性を考えるとともに、よりよい生活に向かおうとする態度を養うことを目標に取り組みました。児童からは、場所によって使い分けたり、曜日によって分けたりする案が出されました。

〈学校現場において法教育を普及させるために最も重要なこと〉

① 法教育の学習・思考過程そのものが、学校教育にとって必要な思考力を養うものになっていることを示すこと。
② 児童が学校生活を送るについて、法教育が必要不可欠であると教師が実感すること。

〈具体的な普及方策〉

・小学校1年生から中学3年生まで、学年1つの教材開発。
 たとえば、相隣関係、窃盗罪(万引き防止)、放火罪(火遊び防止)。必要は○○の母なので、単なる犯罪防止教育にならないよう配慮しつつ、入り口としていいのではないかと思います。情報モラルも、携帯メールいじめなどの対応として教師が取り組む必要を感じている素材です。
 数多い法律の中から、小学生・中学生・高校生に必要な法律・内容を厳選し、道徳や社会科の中で学年1つずつ位置づけるといいと思います。総合的な学習の時間では、大単元としての法教育を例示することも必要です。視聴覚教材は効果が高いので、グラフィックデザイナーの協力を得て作成されることを望みます。学年全体あるいは学校全体で取り組むこと、保護者にも法教育の良さを分かってもらうことも必要だと思います。
・教育委員会単位での法教育委員会の創設。
・司法書士法教育ネットワークの働きを活用すること、など。

〈委員より質疑応答〉

質問:「運動場の使い方の授業をして、実際にどうなりましたか?」
→回答:「5年生が6年生になったとき、校舎に一番近くて便利な場所を自発的に1年生に譲り、自分たちは遠くの端の方を使っていました。それが1年間続いたので、授業が生きたと思いました。」
意見:「都道府県教育委員会には担当指導主事がいて、取りまとめをしていると思います。市町村単位ですと、教育委員会は一人何役もしているかと思いますが、情報提供をされるといいと思います。」
意見:「日本昔話という番組などは、経験共有のためによかったと思います。いろいろな工夫がしてもらえるといいと思います。」
質問:「紙芝居の中で、橋をつくる費用の負担の設定はありましたか?」
→回答:「ありませんでした。」

4 三浦清和教諭報告

〈法教育に取り組むようになったきっかけ〉

 日本史専攻だった大学生の時に、賃貸マンションの敷金返還のことで揉めたことがありました。自分で法律の勉強をし、法律が大事なことを実感しました。裁判傍聴も趣味のようにしていました。今まで机上の勉強しかしていなかったことがわかり、子どもにも必要なことと思いました。

〈中学校社会科における法教育の取組み〉

① 模擬裁判
 ねらいは、裁判官・検察官・弁護人などの役割に理解に重きを置いています。いつも窃盗事件を素材にしており、生徒は判決を考えます。既存のシナリオは殺人事件が多く、適切なものが少ないと思います。人を殺した役を生徒にロールプレイさせることに抵抗があるからです。時間配分を教員がしたいし、用意するものも手軽だとよいのですが、アレンジするには専門家でないと難しそうです。ガイダンスの本があると嬉しいです。
② 消費者への法教育
 契約についてまず学習してから、悪徳商法のロールプレイをします。電話勧誘+ネガティブオプションで、教員が業者を演じ、生徒の反応を見ます。

〈論文に取り上げた特別活動における法教育の取組み〉

① 委員会活動でのルールづくり
 昨年度の昼休みのボール使用状況は、休み時間が終わって5分経たないと教室に戻ってこないという問題がありました。当時、ボール管理は教員がしていましたが、後追い指導の繰り返しになっていましたので、生徒にこの状況をどうしたらいいのかと投げかけ、体育委員会にボール管理のルール制定を任せました。生徒は教員に支配されるのを嫌がりますが、自分たちがつくったルールに支配されることは認めるので、教員がポイントを押さえながら、ルール作成をさせました。できたルールは、「体育委員が毎日ボールを取りに来て、昼休み終了の予鈴が鳴ったら委員が片付ける。ペナルティーは、1週間のボール使用禁止。」というものです。その結果、たちまち効果が出ました。
② 修学旅行でのルールづくり
 修学旅行実行委員会を通したルールづくりを行わせます。最初、教員からわざと厳しいルールを提示し、「自分たちでルールをつくって守れるなら、考えてもいい」と提案します。教員が生徒に歩み寄るだけにならないよう、目配りをします。生徒の実行委員は学年全体の意見を集約し、代表がルールをつくって説明をしました。生きた法教育になっていると思います。

〈今後の特別活動における法教育の案〉

① 生徒総会を通した校則の改正
 主要な校則は変えられませんが、制服のスカートの長さぐらいなら、生徒に考えさせるチャンスではないかと思っています。ただし、生徒の要望が出てくるだけでは法教育にならないので、「その長さで受験の面接に行けるのか?」と投げかけるなど、教員がどのような形でテコ入れをするかがポイントだと考えています。
② 学級活動や道徳の時間にルールの意味を考えさせる
 教職員全員が一致した考えのもとで「指導」を積み重ねた形でなければ成功しないと考えます。

〈今後の普及に向けた課題〉

 環境教育は「横断的」を追求し過ぎて嫌われた面があり、その教訓からやり過ぎないことも大事だと思います。今ある枠組みの中で、特別活動主任の会議や研修により普及できると考えます。

〈委員より質疑応答〉

質問:「模擬裁判の時間配分はどのぐらいがいいですか?」
→回答:「事前指導を別にして、裁判に25分、判決を考えさせるのに25分で、全体が50分で終わると助かります。」
質問:「校外学習のルールづくりを横浜でしたときは、自分たちが自律してできればルールは最低限でいいことになりました。貴校ではルールの意義はいかがでしたか?」
→回答:「最低限で済むにこしたことはありませんが、何か起きたときにペナルティーが決まっていると、抑止効果があります。生徒の中には、思い出に残る修学旅行にしようと考えている子どももいますから、目で見て確認できるルールの意義が重要でした。」
事務方:「法務省では模擬裁判の冊子を作っていますので、進呈したいと思います。」
質問:「教材の入手方法・アクセスはどうしたら便利だと思いますか?」
→回答:「学校の管理職に入ってくる案内を利用しています。各都道府県の教育委員会や教育センターのホームページには指導教材のコーナーがあるので、そこにアップされているとアクセスしやすいと思います。」

5 「法教育シンポジウムin高松」・「法教育フォーラムin山梨」の報告

 日本司法支援センター主催の法教育シンポジウムが2月に高松と山梨で開催されました。福井大学の橋本康弘先生による基調講演や現場の実践報告を軸とした内容です。3月には福井でも開催されることが伝えられました。

取材を終えて

 第2回の法教育懸賞論文受賞作は、こういう授業ならやってみたいと現場の先生に思ってもらえるような授業案が揃いました。法教育の普及のためには、学校の先生の立場に立った授業開発が重要です。春田弁護士が現場の理解を得るために、授業のねらいをはっきりさせることを一番に挙げられたのが、実践者の思いを表していると思います。
 また、春田弁護士は最近の傾向として、規範意識向上のために法教育授業が求められていると報告されました。松本教諭は、「必要」を法教育の入り口とすることも有効として、犯罪防止や情報モラル、いじめ防止などを法教育の素材にすることを提案されています。三浦教諭も消費者教育や学校のルールづくりを、生徒の現状をかんがみた「必要」と結び付けて授業や特別活動に取り入れられています。単なる○○防止教育にならないように配慮しながら、学校現場で求められる法教育授業が開発されると、普及に役立つのではないかと考えさせられました。
 三浦教諭は中学校で特別活動主任を担当されているそうです。特別活動におけるルールづくりは、報告にもありましたように学校における生きた法教育そのものです。法教育は社会科に偏りがちですが、この分野で一層の取組みが展開されることを期待したいと思います。

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