教科書を見るシリーズ 小学校編(3) 3・4年「社会」下

 小学校3・4年「社会」の教科書下巻には、新学習指導要領で「法やきまりについて扱うものとする」とされている項目「地域社会における飲料水、電気、ガスの確保」「廃棄物の処理」「災害及び事故の防止」が取り上げられています。
 法教育教材づくりに豊富なアイデアをおもちの春田久美子先生とともに、どんな法教育の学習がつくれそうか見ていきます。

1 災害及び事故の防止について

【東京書籍『新しい社会』3・4下】

「火事からくらしを守る」

春田先生:6~7ページ「火事を防ぐしくみ」「人々の工夫や努力」「自分たちにできること」の中で、たとえば、消防法で「非常出口 の近くには、段ボール箱など逃げるのを邪魔するモノを置いておかない」などのきまりがありますね。繁華街などでよく起こる火事で、人が亡くなる事件の時によく話題になるような導入を話して、大人だけの努力だけでなく「自分たち」=子どもたち、学校現場に場所を置き換えて、火事から自分たちの身を守る、というふうにもってきます。そのために気をつけないといけない、気をつけた方がいいこと、という感じで「ルール」に気付く、編み出していく、という展開も可能だと思います。
 もしくは、自宅を場所として設定して、火災警報器の設置が数年前から義務づけられていること。いずれにしても、このあたりは、結構、当時、報道されていた記憶がありますから、ちょこっと時事知識として新聞の切り抜きなどを利用して意識をもってもらうなどすると、私がやりたかったNIEにもつながるかもしれません。
 とりわけ、次に続くのが、「警察」であり、「事故や事件からくらしを守る」なので、その前の「火事」をテーマにしたところでも、自分たちに関係すること、という意識を持たせるきっかけになると思いました。

 

 ――子どもたちに身近なテーマとするために、場所を学校や家庭に置き換えてみるのですね。18ページの本文には、「日ごろから、火事をおこさないために、地域の人たちが、どんなことをしているか、話し合いました。」と書かれています。同ページに、住宅用火災警報器が全ての住宅に取り付けられることになったという記事や、消防団や地域の取り組みについてまとめ、自分にできることを挙げてみよう、というヒントも書かれています。「日ごろから、火事をおこさない」という目標に向けて、事実をもとに考え、その過程で火災警報器の設置というきまりができたことがわかる構成になっています。自分にできることを考える態度も養われます。19ページの「消防団」の説明欄には、「自分たちの地いきは、自分たちで守るという考え方にもとづいています。」と書かれ、制度のもととなる考え方が示されている点が、社会の仕組みについての価値観やものの考え方を重視する「法教育」の趣旨にかなうと思いました。

【教育出版『小学社会』3・4下】

「火事を防ぎ、地震にそなえる」
 ――冒頭では、「火事が起きてしまったら」、「火事を防ぐためには」という2点につき、前章の交通事故についての学習と比較して、どうしたらよいか「予想」を書き込む欄があります。消防の仕事の目的を、具体的作業を通して考えられるようにした工夫を感じます。続いて、消防署の仕事が具体的に紹介され、28ページの「消防のきまり」についての話になります。先の春田先生の提案のように、身近のこととして考える仕掛けを工夫し、深めることができそうです。

【東京書籍『新しい社会』3・4下】

「事件や事故からくらしを守る」

春田先生:21ページ「あぶない乗り方」のイラスト&その下の統計を使って、私であれば、(当たり前のような授業かもしれませんが)、どうして、これらの“乗り方”(イラスト及びその下の統計にある各種危ない“乗り方”一覧)が、“あぶない”のかを子どもたちに結構議論させ、発表させると思います。さらに、他方で、どうしてこういう乗り方をするお友達が多いのか、減らないのか(結構、どれもよく見かけます。ということは、やっている人は多いということ。)、楽しいから、スリリングで面白いからなど、一応、理由を想像させます。そして21ページに女の子の疑問になるように、まさに、『事故がおきてしまったらどうなるのかな。』をゆっくりと教えることはGT(ゲストティーチャー・弁護士)等で、「中学生の自転車にはねられて、亡くなってしまったおばあさんの息子(から相談・事件を受けた、ホントウ)のお話」などをすることもでき、人の命の重みや、翻って、子どもも決して責任問題(とりわけ民事責任)とはけっして無関係ではないんだよ、という重たいお話を展開することも可能です。
 中学校では、是非にと頼まれて、実際にそういう授業をやったことありました。21ページ「自転車免許証」制度というユニークな仕組みも、自動車免許に倣ったものだと思いますが、そもそも免許制度はどうして存在するのかから遡って、ルールが、他人に迷惑をかけない、安全に乗り物に乗れるようにするための工夫の一つであることにもつながるかもしれませんね(ひいては、自分を守ることにもなる)。

 

 ――「危ない乗り方をする理由はなぜか」を考えさせるというのは、発想の転換を感じさせられ、とても新鮮です。安全を押し付けないようにするには、まず危険なことをする人の立場になってみることが必要ですね。話題がぐっと身近になり、考えを深めることができるコツを教えていただいたように思います。

春田先生:24ページ末行「きまりがある理由についてみんなで考えよう」。ここは、実際に外に出て、駅前など、自分たちの町では実際どうなっているかを知り、「守らない人はどうして守ってくれないんだろう」(面倒だからなど)と理由を想像しながら、守ってくれる人が多くなってくれるように、ポスターを作るなど、体験型の授業にしたらよいと思います。それを地域にバックして、地域ごとにある公民館だよりなどに載せてもらうと、地域も巻き込んだ法教育にもなるかも、ですね。

 

 ――ポスター作りは印象的な体験になりそうですね。25ページの言葉欄に「法やきまり」が取り上げられています。「安心して毎日を送るために大切なものの一つです。」と書かれています。「より安全な生活のために、法やきまりをみんなで考え、大切にしていく努力が欠かせません。」と続き、法やきまりの目的が安心・安全な生活であることが繰り返されています。次のページからは安全を守るためのさまざまな仕組みが紹介され、自分たちにできることについての話し合いが促されています。「安全マップ」や「安全カード」作りの具体的な方法も提案されています。この章全体に、法やきまりの目的の明示、話し合い、体験的作業で考えをまとめるといった一連の「法教育」に当てはまる学習過程が盛り込まれていると思います。

【教育出版『小学社会3・4下』】

「事故・事件のないまちをめざして」
 ――冒頭8ページに、高松市で7年間に起きた交通事故の件数が棒グラフに表され、読み取れることを教科書の空欄に書き込めるようになっています。具体的な作業が教科書でできるということは、子どもの興味を引きそうです。そして、「交通事故の件数を減らしたり、交通事故を防いだりするためにどうしたらいいか調べる」という方向性が示されています。
 春田先生の発想に従えば、ここも「なぜこんなに交通事故がおこるのだろう」と考えることが必要ではないでしょうか。考えた結果と調べた結果から、11ページのようにたくさんの施設や工夫があるのに事故が起きるのは、「きまりを守らないから」という考えにつながるのがいいと思います。このページでは「自転車のきまり」がチェックシートになっていて、記入もできます。交通事故対策という目的を示し、事実を調べ、きまりを自分たちのこととして自分の行動をチェックするという作業を通し、法的な考え方が身に付く学習になっていると思います。
 続けて警察署が交通事故だけでなく、さまざまな事件を防ぐため、地域の人と連携して仕事をしていることを調べます。16ページからセーフティーステーションなどの取り組みに関し、子ども自身が自分の安全を考え、安全マップづくりや「地域安全会議」をしてまとめる提案がされています。会議のプログラム例や会議に地域の人が参加する写真も掲載され、どのように会議をすればいいかわかりやすく紹介されています。話し合い体験を通して考えを深める「法教育」にふさわしい学習と考えられます。

2 飲料水の確保について

【東京書籍『新しい社会』3・4下】

「水はどこから」

春田先生:水=資源(37ページ)には、限りがあること。他方で、人が生きていくために必要不可欠なものであること。しかも、昔から今、そして将来にもつながる話であるし、それは日本だけでなく、世界共通であるという意味で良い素材ですね。みんなが考えないと、それが結局は自分に跳ね返ってくるということを理解するためにも、また、森林の伐採の影響(砂漠化)が無関係ではないということで、広く捉えれば、南北問題など、グローバルな視点にも授業が展開出来るので、教諭の方々の腕も見せ所です!!(ちなみに、私の福岡の高校の先輩の医師は、アフガニスタンでずっと水道を作り続けている〈ペシャワールの会〉の活動を地道に続けていて、私が、福岡の教師なら、そういう新聞記事を見せたりして、水・水道がどれだけ、人の生命に関わる必須なものなのかを意識付けをする授業をしたいな~。NIEとのコラボで。)

 

 ――「水」はまさに世界共通の「公共」を考える素材ですね!45ページの「ことば」欄では、「水質検査」について「水道の水質は、水道法という法りつで決められています。飲んでも体に害がないかというきじゅんをつくり、(以下省略)」と説明されています。法律名が登場し、「飲んでも体に害がない」水をつくるという法律の目的が読み取れます。それだけだと、法律の知識を得るにとどまってしまいそうですが、法教育は考える作業や話し合い活動を重視しています。「水質検査」を題材に話し合いができるでしょうか?

春田先生: この、教科書の構成はどういう趣旨か、教師用解説書を読んでみたいところですね。というのも、「水質検査」の箇所は、「・・・だから水道の水は安全です」という結論であり、「話し合おう」は、それ(水道の水は安全である)にも関わらず購入する人が増えている、ということで、矛盾するような気もするからです。加えて、我が家もそうですが、浄水器もつけている家庭も多いかも・・・水道の水が安全なことと、人々の意識が変化して、飲む水はやっぱり安心感からボトル入りを選ぶ人が多い、ということ?話がずれそうですが、エコとかの流行で、水筒持参の人もまあまあ多いですかね~。なので、水道水は安全だよ、という話しをする一方で、ペットボトルの多用は、資源の節約のためにも、お金さえ出せばいつでも飲み物が手に入るけど、ゴミの問題にもつながるとういう流れになってしまうような…

 

【教育出版『小学社会』3・4下】

「水はどこから」
 ――77ページの「下水処理しせつの人の話」欄に、下水処理施設はゴミや油が苦手で、台所の流しに残飯や食用油を流すと下水管が詰まったり、川や海を汚したりする原因になると書かれています。「使った水を流すときには、きまりを守っていただきたいですね。」というしめくくりの中に、「きまり」という言葉が出てきました。なぜきまりを守らねばならないか、自分のこととして考えてもらうためには工夫が必要な場面でしょう。春田先生なら、「みんなのおうちはどうしていますか?」と調べ学習を提案したり、きまりを守らないのはなぜかを考えさせたりされるでしょうか。
次のページには「伝え合う」として、「水道ゲームをつくろう」というコーナーがあります。雨の水をスタートにして学校の蛇口をゴールにする「すごろく」をつくるアイデアが書かれています。「すごろく」づくりで、使った水を流す場面にきまりを守っているかどうか問うコマを設けようというようなアイデアが出てくるかどうか、学習の成果が表れることが期待されます。

3 廃棄物の処理について

【東京書籍『新しい社会』3・4下】

「ごみのしょりと利用」
 ――この章は、「なぜごみを分けるのだろう」という問いから始まり、56ページの「ごみ置き場でたしかめよう」という欄で、「出し方のきまり」や「きまりを守らずに出されたごみをどうしているか」をつかむように促されています。「ごみを集める人のくふうや努力について考えよう」などの問いや、「横浜市のごみの量の変化グラフ」が散りばめられていて、何を考えさせるのか示されています。そして57ページの収集作業員の話によってその理由がわかり、燃やすごみの量が減ったのは「ごみ出しのきまりを守っている市民のみなさんのおかげです。」と続いています。「ごみの量を減らす」という目的に沿って、現状を把握することから始まり、「なぜ」なのかその理由を考え、きまりにつながるという一連の学習過程をとっています。この過程が、次のリサイクルの展開でも繰り返されるので、教科書に沿って学ぶときまりについて考える学習ができるように構成されていると思います。
 61ページには有料ごみ袋について「話し合おう!」という欄がありますが、「出し方のきまり」の部分から話し合いをすると、一層きまりについて深められるのではないかと思います。64ページに「家電リサイクル法」、67ページには「ペットボトルを出すときのきまり」が示され、さらに次のページからは昔のごみ処理方法との比較により、ごみの減量について考える方法が示されています。72~75ページには「意見発表会をする」、「ポスターをつくろう」というまとめのコーナーで、これからの社会のために自分たちにできることを考え、行動する学習をします。これは「法教育」の趣旨に十分かなう内容だと思います。

春田先生:66ページの「たくさん集められたペットボトルの山」の写真を素材に、ペットボトルの良いこと・便利なこと&良くないこと・困ることを班別にそれぞれ考えて発表する。しかも、身近なおうちの方、とりわけ、おじいちゃんやおばあちゃんに、この写真を見てもらって、意見をインタビューする、家族で出た意見などを発表したりすると、いいのでは。ゴミを減らす、という観点からは、マイボトル(水筒など)を励行する、という不便だけど、考え続けないといけない問題があり、それはたくさんの人達をも巻き込まないといけない問題なんだ、と気付いてもらえるだけでも将来、主権者として社会に参画していく態度を身に付ける、という意味で立派な法教育になると思います。
 73ページ~「まなび方コーナー」は花丸ですね。これを、この教科書で学ぶ子どもたちがそれぞれ住む地元の街に置き換えて学習をして、この流れのような学習をし、特に「(2)友だちの・・・理由ははっきりしているか」は根拠を持って自分の意見を確立する(判断力)を養うことにつながりますし、「(3)お互いの発表を受けて、社会に向けた新たな提案をする」のところが、自分の頭で考え(思考力・判断力)、それをお友達に伝わるような表現で伝える(表現力)、ことがまさに法教育で最終的に目指すところです。「・10年前後で自分も社会をささえる一人になることをふまえる」「・一人ですぐに・・・考える」とありますから、さきほど書いた、遠くない将来、主権者として社会に参画していく態度を身に付ける、という意味で立派な法教育になると思います。

 

 ――「水」についてもそうでしたが、ごみの問題について自分だけが行動するのでなく「たくさんの人を巻き込まないといけない問題である」ことに気付くのも、重要なことなのですね。たくさんの人がきまりを共に守るから、きまりの効果が表れることを実感してもらえるといいと思います。

【教育出版『小学社会』3・4下】

「ごみはどこへ」
 ――この章は「家から出るごみを調べる」ことから始まり、ごみの行方を追って53ページの家庭電気製品をリサイクルするきまりに到達します。「どのように」という問いで展開されてゆきますが、「なぜ」ごみを分別し、リサイクルするかという問いが出されると、きまりの必然性も出やすくなると思います。57ページの尼崎市の例まで進むと、ごみの量を減らすため、「きまり」をはじめとする新たな仕組みがつくられたことが紹介されています。ごみの量を減らすという目的が示された後には、自分たちにできることを考えるという展開になっています。そして、考えたことをノートにまとめる提案があり、まとめ方が示されています。56ページからの後半の方が、法のもととなる目的に照らして考えを深めるという、法教育らしい展開であるように思えます。

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