千葉家庭裁判所「法の日」週間広報行事 ~非行少年に対する家庭裁判所の取組

 2012年10月24日(水)13:30~15:30、千葉家庭裁判所で「法の日」週間広報行事として「万引きを繰り返さないための教育的措置」の紹介がありました。少年による万引き事件にはさまざまな態様がありますが、今回紹介する教育的措置は、初発型の、比較的教育効果が高いと思われる事例に対するものです。その内容には、法教育授業の方法と共通点があるように感じられました。(当日のプリントより適宜引用させていただきます。)

〈プログラム〉

13:35~14:05 少年審判手続、少年事件の概況の説明
14:05~14:30 調査官面接の寸劇
14:45~15:00 万引き防止教室の寸劇
15:00~15:15 家庭裁判所の教育的措置についての説明
15:15~15:30 質疑応答
(15:30~   希望者のみ審判廷見学)

1 少年審判手続、少年事件の概況の説明

                  少年訟廷管理官、次席家庭裁判所調査官

 少年審判手続の詳細については、法教育レポート2010年1月28日掲載の「千葉家庭裁判所 裁判官と一緒に考える少年審判その1」 をどうぞご覧ください。

〈教育的措置の意味〉

 万引きは、成人ならば窃盗罪として、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金という刑罰が科せられる犯罪です。刑罰は制裁に当たりますが、少年の場合は制裁を科すのではなく、少年の健全育成のために保護・教育を行います。
 教育的措置は、非行少年 の事件が家庭裁判所に受理されてから終局まで、調査・審判などの全過程を貫く「教育的働きかけ」のことです。教育的措置の目的は、再非行の防止です。少年に自らの過ちを気づかせ、非行を繰り返さないために今後どうするか、方策を自分で考えさせます。また、保護者が一緒に事件を振り返り、少年だけの問題とせず、保護者も自分の問題として考えるようにします。

〈少年事件の概況〉

 少年による刑法犯の検挙人員は、1983年頃に第3の波といわれる増加を見ました。これ以前は、経済的に恵まれない家庭の少年による非行が多かったのですが、この時期から一般少年との境界がなくなったといわれ、「遊び型非行」というネーミングも生まれました。
 家庭裁判所(全国)の2010年度の非行別(交通事件を除く)の新受人員の構成比では、窃盗が61%を占めています。凶悪犯は0.8%と、ごくわずかでした。窃盗には、万引き、自転車・バイク盗、置引き、侵入盗、ひったくり等の手口がありますが、裁判所では、手口ごとの統計は取っていません。千葉県警察の統計(2011年)では、刑法犯少年のうち万引きが37%を占めています。

〈初発型非行としての万引き―動機と対処〉

 万引きの動機は、
「どうしても欲しいけれど、お金が足りない」
「ちょっとぐらいなら店は困らないだろう」
「友達がやっているから自分もやってみよう」といったことです。
 特徴は、「動機が比較的単純で、誰でも行いやすい犯行手段であること」「非行の初期段階にあること」「万引きを犯した少年に、罪障感や規範意識が乏しいこと」が挙げられます。
 万引きをすると、法律を犯すことへの心理的抵抗感が薄れてゆき、本格的な非行に深化していく危険性があります。初期の段階できちんとした対処が必要です。初期の対処は、
① 自分の行為が犯罪であるという自覚をさせ、その責任について考えさせる。
② 被害者の存在を明確に意識させる。
ということです。家庭裁判所では、個別調査や万引き防止講習などにおいて、その働きかけを行っています。

 ちなみに、深刻な問題が背景にある万引き(過食症の少年が食品の万引きを繰り返す、家庭に落ち着けない少年が家出を繰り返して万引きをする、など)については、非行の要因となっている問題を把握し、その解消のために個別の処遇や働きかけを行います。悪質な態様の万引き(カゴダッシュ 、事後強盗 など)に対しては、事案によって、観護措置の上、審判を行います。

 

2 調査官面接の寸劇から

〈個別調査面接で行うこと〉

・非行事実の確認
・万引きに至った経緯や動機の把握
・その背景にある生活状況や家族関係の問題の把握
・個々の少年に応じた働きかけ
(1)「お店の人の話」シートを示して、万引きの被害について調査官と話し合う。
 「お店の人の話」シートの内容
 ① 小売業は、お客様の信頼を得て、安心して購入してもらうことで成り立っている。そのため、作る人・運ぶ人・売る人、様々な人が関わって、商品一つ一つを大切に扱っている。
 ② 万引きが多くの人にとれだけの迷惑をかけるのを考えてほしい。100円の商品を売って、店に入るもうけは、仕入れ費・電気代・水道代・従業員の給料などを支払ったあとの、残りの1円ほどである。100円の商品が1個万引きされたとき、その分の損害を埋め合わせるには、1円の100倍、つまり同じ商品を100個売り上げねばならない。
 ③ 万引き犯を追いかけた店長が刺されたり、車にはねられたりして死んだこともある。万引きは単なる窃盗ということだけではなく、いろいろ予期せぬ事態や危険の引き金にもなる。警備員をまいたからといってよい気分になってはいけない。
 (2)面接の振り返りを書面に書かせる。
 「振り返り」書面の質問項目
 ① 今回あなたの起こした事件は、どういう罪(罪名)で、どんな刑罰が定められているか分かりましたか?
 ② 被害者の方にどんな迷惑をかけたと思いますか?
 ③ 調査面接の結果、努力してみようと考えた具体的な目標や課題を記入してください。
 ④ もう二度と法律に触れるような行為を起こさないと約束できますか?
 (3)母親(保護者)との個別面接
 ・普段の少年の様子を聴取
 ・少年の問題点や家族関係のあり方について助言・指導
 (4)面接の終結
 ・少年・保護者同席でまとめを行う。
 ・街頭清掃活動への参加を勧める。保護者も、少年との関係改善に少しでもつながるよう、参加することができる。

 

3 万引き防止講習の内容

 対象少年は、比較的抱える問題が少なく、講話やグループワークにより、反省が深まることが期待できる人です。2011年度は8回実施し、89人の少年が保護者同伴で受講しました。1回10~15組の少年・保護者が受講します。年齢構成は15~17歳が多くなっています。

〈講習の進行〉

オリエンテーション
調査官による事実確認の調査
 ↓
シートの記入
(万引きをしたときの心境等の振り返り:
 ①なぜ万引きをしてしまったのでしょうか?万引きをしているときの気持ち。
 ②家族にどのような迷惑をかけたと思いますか?)
 ↓
外部講師の講義(お店の人の話など)
 ↓
シートの記入(講義を聞いた感想)
 ↓
グループワーク(シートに記入したことを発表し、グループで話し合う)
 ↓
感想文の作成
 ①講習を受けて、どのようなことを感じましたか?
 ②今回のあなたの事件の原因は、どんなところにあったと思いますか?
 ③このような事件を二度と繰り返さないために、これからどのようなことに気をつけていこうと思いますか?
 ④(保護者の方へ)本日の講習の感想をご記入ください。

 

4 千葉家庭裁判所の教育的措置の説明

               次席家庭裁判所調査官

 最近の少年は、生活体験や社会体験が乏しい、ネットの普及により実体験が不足しているといったことから、他者への共感性が低いといわれています。そこで、いろいろな体験をさせることが、再非行防止に効果があると考えます。
(1)NPO法人友懇塾との連携
 ・街頭清掃活動(毎月2回)
 →JR千葉駅前を親子で清掃。自分のしたことへのけじめをつける意義があります。結構ゴミが落ちているので、自分の非行を振り返るきっかけになります。清掃の結果、大変すがすがしい感じがし、叱られる立場から、褒められる立場へ変わることができ、社会に役立つ喜びも得られます。保護者の責任感の涵養も図ります。
 ・里山整備活動(年2回)、親子野外活動(年3回)
 →再生・創造の喜び、地域や社会とつながること、自然とのふれあいなどを体験します。親子関係の改善も図ります。
 (2)千葉少年友の会との連携
 ・フラワーオペレーション(年5回)、フラワーリレーション(年2回)
 →花の農場で労働奉仕をし、老人福祉施設へ寄付するなどします。(1)と同様の意義があります。
 ・保護者会(年3回)
 →ゲストスピーカーの講義と保護者同士の話し合いをします。子育てのヒントと振り返りの機会を与え、子育て意欲の回復を図ります。
 ・交通事故講習(年12回)
 (3)家庭裁判所独自
  ・万引き防止講習(年7回)、自転車盗防止講習(年6回)、無免許運転講習(年12回)、使用済み切手整理活動(随時)
 →収集した切手はNPO法人に寄付され、海外医療援助の資金となります。社会貢献の一助として、他者への思いやりや生命の尊さを考えさせます。
 ・保健指導(随時)
 →援助交際女子少年、薬物非行少年などへ医務室技官(看護師)により、心身の発達や薬物問題等への理解を深めさせます。
 ・学生ボランティアによる学習指導等(随時)
 →登録ボランティアにより、在宅試験観察時の学習指導(おもに中学生)や、社会奉仕活動支援を行います。学ぶ楽しさや学力の向上を図るとともに、利害・上下のない関係を通じ、健全な人生観や価値観を育みます。

 

5 質疑応答

質問1:「万引き講習を受けた少年の再犯は、どのぐらいありますか?」
回答:「2011年度の講習参加者89名のうち、現時点では再犯は2名でした。従来から、初発型に関しては、8割程度が再犯しないと経験的にいわれています。千葉県警察の統計(2011年)の統計では、刑法犯少年のうち、再犯者率は3割弱でした。」

質問2:「保護者の受け止め方はどうですか?」
回答:「少年同様、様々です。被害弁償に努めたり、少年に弁償をさせたり、また、かばう、軽く考える等もあります。家裁としては、保護者の態度改善を促したり、審判の場で裁判官から指導・訓戒をする場合もあります。」

質問3:「保護者の男女役割分担について、子育てに父親が協力していると感じますか?」
回答:「いろいろな場面への父親の出席が、以前より多くなった実感があります。」

質問4:「保護者が子どもに万引きさせる場合の対応はどうですか?」
回答:「14歳以上の少年の場合にそういうケースがあるのは、1~2件位で、ごく稀です。保護者には成人としての処罰があります。少年の監護環境としての問題については、保護者のもとへ戻していいかどうか調査し、帰任先の検討をすることになります。」

質問5:「家族のお金を盗むことはどうですか?万引きに移行しますか?」
回答:「家族のものを盗むのは親族相盗といい、刑罰は成人の場合、課せられません。少年の場合は、非行として扱うことはできますが、実際の例としては少ないと思います。他に非行をしていれば、審判などになることは多分にあるでしょう。」

 

〈取材を終えて〉

 京都法教育プロジェクトにおいて法教育授業を実践した小学校では、6年生の授業で「あいさつのできる学校に」という実践例 がありました。授業のねらいは、挨拶ができるようにするため、多様な立場や考え方を調整し、その上で方策を決定し、決定したことをみんなで進めていくことでした。その結果、立場を相互理解し、話し合うことを整理し、自分たちで合意を生み出す経験をすることができました。しかし、合意をみんなで守っていく姿勢を培うことは、急には難しいということでした。
 今回の「万引きを繰り返さないための教育的措置」では、商品は買わなければならないというルールを守る姿勢を培うため、なぜルールが守れないのか、まず問題の背景を少年が自分で考えることを促します。さらに、関係者の立場への理解を促し、保護者も含めた話し合いやグループ討論により、考えを深めたり、書いたりして、反省を深化させます。ここまでは、ルールという合意をつくることを追体験する取組みともいえるのではないでしょうか。小学校の「あいさつ」の授業との共通点がいろいろあります。「万引き防止教室」などで使われているワークシートの質問内容は、法教育の授業の参考にもなりそうに感じられます。
 小学校ではそこから先、方策を決めることと実際に挨拶を実践することの間に溝があったようですが、その溝を越えるヒントが、千葉家裁の教育的措置の体験活動などにあるように思えます。「街頭清掃活動」にも、実際にやってみると深い意味があることを知らされました。共感性を育み、地域や社会とのつながりを感じ、貢献する感覚を培うには、社会的な体験活動に参加することが重要であると思いました。それを通して、一人ひとりが社会のきまりを守ることにつながるのではないでしょうか。小学校の「あいさつ」の授業についても、直接的に挨拶することを目指すだけでなく、回り道なようでも、学校や家庭・地域で人とつながる体験的な活動に参加することが必要なのではないかと思いました。

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