東京都北区立浮間小学校 行政書士出張授業

 2013年2月21日(火)11:35~12:20、東京都北区立浮間小学校5年1組総合的な学習の時間で、行政書士による法教育出張授業が行われました。この授業は、学校が全校を挙げて取り組む独自の自然環境教育と総合的な学習の時間のカリキュラムに沿ったもので、子ども達の日頃のサクラソウ保存活動が重要な意味をもつものとなりました。東京都行政書士会北支部の授業づくりのエピソードもあわせてお伝えします。

〈北区立浮間小学校のプロフィール〉

 1953年(昭和28年)北区立浮間小学校として独立開校。1985年に埼京線の北赤羽駅が開業し、周囲は高層住宅が密集しています。そのような地域において、北区立の小学校では一番広い校庭を有し、校地内の自然環境を「うきま里山構想」として整備しています。1987年頃、桜草圃場を造成、1994年(平成6年)桜草庭園が完成。専門家の指導のもと、全児童・保護者・地域・全職員が協働し、自然環境の整備と「環境を生かした教育プログラム」を進めています。2011年全国学校・園庭ビオトープコンクールで日本生態系協会賞を受賞しました。埼京線北赤羽駅から徒歩約5分。

児童数
学年 1年 2年 3年 4年 5年 6年 特別支援
学級
合計
男子 42 44 41 40 34 45 8 254
女子 47 36 28 40 44 33 5 233
89 80 69 80 78 78 13 487

       (2012年度5月16日現在 浮間小学校ホームページ等より)

〈東京都行政書士会北支部との連携〉

 東京都行政書士会北支部の法教育委員会は、2010年度から浮間小学校と連携し、法教育授業づくりを行ってきました。山賀良彦委員長が校長先生と打ち合わせを重ね、「環境を生かした教育プログラム」の趣旨を踏まえて、浮間地区の変遷と児童が取り組んでいるサクラソウ保存活動をテーマにして、生物多様性基本法の目的からきまりの意味について考える法教育授業を開発しました。今年度も既に4回の打ち合わせを経て、今回の出張授業が実現しました。北支部の法教育推進委員は2名ですが、授業毎に北支部会員から協力者を募り、授業に参加してもらっています。

〈授業〉

5年1組 38名   11:35~12:20   場所:教室
教科:総合的な学習の時間
(この時間までに、トラマルハナバチの教材により自然環境と人間の活動についての授業をしています。)
小単元:「きまりがあるのは何のため?~きまりの意味を考えてみよう!~」(1時間)
ねらい:
①自然の大切さを知り、地元浮間のサクラソウの減少と浮間地区の変遷について考える。
②法や身の回りのきまりに目的・理由があることに気づく。(生物多様性基本法)
授業者:井上圭子 行政書士、他10名の行政書士、担任教諭

〈導入は身のまわりのきまりについて〉

井上先生(以下、I先生):「今日は皆さんと一緒にきまりについて考えてもらうために来ました。テーマは、「きまりがあるのは何のため?」です。一番前の6人、立ってください。みんなの周りにどんなきまりがあるか、1人ずつ教えてください。」
→「きれいにするためゴミがないようにする。」「廊下を走らない。」「右側通行をする。」
「20歳まで飲酒・喫煙禁止。」「手洗い、うがいをする。」「遠隔操作禁止。」など、最初の6人以外からもたくさん出されました。
I先生:「身近なきまりも、大きな社会で考えるきまりもありますね。」

〈なぜサクラソウの保存活動をしているのか考える〉

I先生:「これから考えるのは、浮間小学校にいっぱいある自然とサクラソウのことです。ここに昔の地形の模型があります。これは、どこでしょう?」(模型を提示)
児童1:「明治13年頃の浮間の様子です。」
I先生:「よく知っていますね。今とどこが違いますか?」
→「建物が少ない。」「自然がある。」「緑だらけ。」
I先生:「ここにあるのは何ですか?」
→「花。」「サクラソウ。」
I先生:「この頃は今の荒川もなくて、サクラソウが一杯でした。皆さんは学校のサクラソウにいつも何をしていますか?」
→「草取り。」「水やり。」「根分けをすることもあります。」
I先生:「これからグループに分かれて、皆さんがなぜサクラソウの世話をしているか話し合って、あとで発表してください。」(約10分間)
 3~4名ずつ、10の班になり、各班に行政書士が一人ずつ入って、話し合いを補助しました。班ごとに、画用紙にマジックでサクラソウの世話をする理由を書いていきました。

〈サクラソウ保存活動をする理由を発表〉

・「6年生にプレゼントするため」「下の学年の人のことを考えて」「未来の子どもが学ぶため」「みんなで観察するため」「先輩の活動を受け継ぐため」
・「自然を残すため」「絶滅させないため」「人間が環境を破壊した連鎖で、蜂がいなくなってサクラソウが子孫を残せなくなってしまったから」
・「浮間小学校のシンボルだから」「学校がきれいに見えるように」
・「自然を保護していると、自分たちも気持ちがいいから」「活動で思い出ができるから」
・「僕たちしかできないから」
・「義務だから」「しかたなく」など、たくさんの理由が挙げられました。

〈なぜ自然は減ってきてしまったのか?〉

I先生:「なぜ自然は減ってきてしまったのでしょうか?」
→子ども達からは、「気温が昔と変わったから。」「埋め立てをしたから。」「人間が自然を壊しているから。」「ゴルフ場を造ろうとして土地を変えたから。」「都会はコンクリートジャングルになったから。」などの理由が挙げられました。
I先生:「何がなくなったのでしょうか?」
児童2:「土がなくなりました。」
I先生:「そうです。みんな、サクラソウの世話をしているから、わかっていますね。自然を守りたいですよね。そう考えた人が他にもいました。自然を守るきまり・法律をつくったら、こんなにたくさん、2冊の本になりました。(環境六法を見せました。)」

〈法律だけではなく、行動が大事〉

I先生:「こんなにたくさん自然を守るきまりがあるのに、つい最近また法律ができました。プリントを見てください。生物多様性基本法第7条第2項です。(プリントの前半を先生が、後半を全員で読みました。)平成20年にできた法律ですが、なぜ新しくできたのでしょう?」
児童3:「今までのきまりが守られなかったから。」
児童4:「もっと自然が減ってしまったから。」
I先生:「そうです。7条に書いてあることは、みんなはもうやっています。この1年間やってきたことは、7条に書いてある「人と自然の共生のため」ということです。きまりには目的・理由がありますが、それだけでは不十分で、そのために行動することが大事ですね。みんなはもう行動しているんです。身のまわりのきまりにも目的・理由があり、どういう理由があるか考えて行動することが大切です。では、プリントのまとめを書いてください。書けた人、発表してくれますか?」
児童5:「きまりを守らないから新しいきまりをつくるということのないようにしたい、と思います。」
児童6:「きまりには深い目的や理由があるから、守らねばならないと思います。」

〈東京都行政書士会北支部の授業づくりについて〉

 東京都行政書士会北支部の法教育授業づくりについて、山賀良彦法教育推進委員会委員長のお話を伺いました。
「行政書士は、建設業許可などの許認可に関する業務や、市民法務と言われる身近な法的な事柄に関する仕事をしています。いろいろ身近なところに法律があるという情報を提供し、「法やきまりがあるのは何のためか」考えてもらうことが、行政書士が法教育をする意味だと考えています。
 法教育授業は、平成21年から浮間地区で始めました。授業づくりに当たっては、校長先生の教育方針などをじっくりと聞いて、学校のカリキュラムに沿った内容を提案します。学習指導要領はもちろん、「東京都教育ビジョン」や区のビジョンも調べ、学校の要望に応える授業にするために、先生方とは何回も打ち合わせをします。
 「なぜきまりがあるのか」、調べていないと自分が答えられません。答えを見つけるために、教材研究にも時間がかかります。公園のきまりについての授業では、「そもそも公園とは何か」というところから調べました。生物多様性基本法に関しては、千葉県立中央博物館を訪れてお話を聞かせてもらいました。
 学校の先生との打ち合わせでは、発達段階を踏まえた内容に留意する等様々なアドバイスを頂きました。これからも、学校のニーズに合った法教育授業を、学校と協働してつくっていきたいと考えています。
(2011年9月13日(火)にインタビュー)

〈取材を終えて〉

158_01 生物多様性基本法がつくられたのはなんのためか?ということを考えるに際し、学校の教育方針に沿った日頃の活動を出発点にして、自分たちのしていることの意味を考えていくと、おのずとそこにつながっていきました。子ども達にとって身近なことを通し、きまりの意味を無理なく考えられる授業づくりの工夫を感じさせられました。
 この授業は、ルールの目的や理由を考えるという意義をもつだけでなく、子どもたちの活動を「自然を守る法を実践する行動になっている」と意義づけていることがわかります。子ども達の行動を意義づけている法教育の例として貴重ではないかと思います。学校の教育カリキュラムに沿って、子ども達の日頃の活動を組み込んだ授業を開発したことの、大きな成果ではないでしょうか。
 行政書士会が作成した指導案では、この後もっと時間があったら、身のまわりのきまりの目的に戻って、「廊下を走らないのは何のため?」などについても考えたい予定だったそうです。サクラソウの保存活動を「しかたなく」「義務だから」と考える子どもの意見が変わったかどうかも、興味深いと思いました。さらに展開したり深めたりする可能性を感じる授業だったと思います。学校のニーズに合わせた、オーダーメイドの法教育授業は、取り組む先生方の負担が大きいようですが、意義も深く、一層の発展を期待したいと思います。

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