法教育推進協議会傍聴録(第33回)

 2013年7月10日(水)10:00~12:14、法務省において第33回法教育推進協議会が開かれました。
 主な議事は、京都大学土井真一教授による講演、中央大学法科大学院生による法教育授業実践報告などでした。以下、当日の資料より適宜引用させていただきながらお伝えします。

1 京都大学土井真一教授による講演

「道徳教育の充実と法教育」

〈講演の概要〉

(1)道徳教育の充実に関する議論の状況
 いま、道徳教育の充実が「心のノート」の全面改訂などで話題になっています。そこでまず、平成20年以降の学習指導要領の記載、各種会議・懇談会の提言などから、道徳教育をめぐる状況を概観しました。そのうえで、そもそも道徳教育と法教育の関係をどのように考えるか、という問題提起がなされ、次の(2)へと進みました。

(2)道徳と法
 まず、道徳と法は、社会秩序を維持し人々の行動を規律する社会規範である点では共通しますが、規律する領域や内容の点で共通しない部分があります。伝統的な区別では、法は外的行為を規律し、道徳は内面を規律する、とされています。ただし、道徳には、個人道徳だけでなく社会道徳があります。法にも、自然法論(法の内容が正しいかどうかを問うもの)と法実証主義(事実として妥当しているものが法であるとするもの)があります。法と道徳は、大きく括ると、①外面か内面か、②社会か個人か、という視点で考えることができます。以上を前提として、次の(3)へと進みました。

(3)道徳教育と法教育
 道徳教育と法教育は、規範教育であるという点では共通し、互いにどう補完していくか、が問題になります。道徳教育については、社会の問題を個人の心の問題にし過ぎではないか、両方をきちんと考えていく必要があるのではないか、ということが言えます。たとえば、小学校段階では「明るく優しい元気な子」といういわゆる「よい子」のイメージで教育がなされるわけですが、人間のキャラクターだけを問題にするのではなく、行為や規範をどう考えるのか、ということも含んでいく必要があります。個人の問題であるから話し合わなくてもよい、ということではありません。そういった点で、法教育とうまく連携をとっていければいいのではないかと考えられます。

〈質疑応答より〉

質問:「最近、道徳教育の必要性が強調されているわけは?」
回答:「政治状況を別とすれば、現場の先生方としては(法と道徳をそれほど分けて考えているのではなく)『規範意識』を身に付けさせたいと思っているのではないか、『人間関係がうまくいかない、規範が守られていない、では何か対策を採らないと』ということなのではないか。」

質問:「法教育のどのあたりが足りなくて道徳教育の必要性が言われだしてきているのでしょう?」
回答:「まず、法教育のほうが道徳教育より新参者で、歴史的にみて(道徳教育では)教えるほうは自分が正しいと思っていることを教育に注入してしまいがちなので、同じ規範教育として法教育が補完できることがあるのではないか。」

質問:「個人と社会という視点でみて、社会との関係で法教育は道徳教育に入っていくだろうけれど、個人との関係では法教育がタッチする部分はないのか?」
回答:「現在の立憲制を前提とすると難しい。個人における道徳教育をモニタリングするのが法の役割で、教える内容を規定するというよりは、どういう体制で教えるかということに影響する。個人の生き方としての『よき生き方』と、社会からみた『正しい社会の在り方』の、それぞれの射程を明らかにして教育すべきではないか。」

質問:「道徳教育は学習指導要領に沿ったもののままでよいか?」
回答:「教材開発などの工夫をしていくことが大事で、大枠そのものをがらりと変えるべきとは思っていません。」

 

2 中央大学法科大学院生による法教育授業実践報告

「多摩少年院における出前授業の報告」

〈発表の概要〉

 発表主体であるCLS法育教室は、2012年5月に設立した、中央大学法科大学院生等である会員で構成される団体で、「話す、聴く、考える。」をキャッチコピーとし、様々な法教育に関する活動を行っています。その一環として昨年度は少年院における授業を行いました。少年院側の要望も踏まえ、オリジナルに作成した無人島での食糧の分配を題材にした授業、契約トラブルを題材にした授業について、実際に使用した資料を見ながら説明がなされました。授業のポイントとしては、考えてもらうこと、話し合って他人の意見を聞いて、あらためて自分で考える、という作業をさせたことに、重きを置いたということでした。授業の感想としては、参加した少年たちからは概ね肯定的な感想が出されたということでしたが、会員からは少年たちの理解度の把握が難しく授業のレベルを想定しにくいといった感想が出たとの報告がなされました。最後に、団体として持続可能な活動の在り方についての考察と各関係機関への協力のお願いが述べられました。

〈質疑応答より〉

 無人島での食糧の分配を題材にした授業に関しては、「全員が長く生き残るためには」どうすればよいか、というように、問題の中ですでに価値が与えられているけれども、前提となるその価値自体を考えさせたほうがよいのではないか、契約トラブルを題材にした授業に関しても、「約束を守る」のがなぜ大事なのかを考えさせたほうがよいのではないか、という意見があり、それに対しては今後の授業の参考にしますという回答でした。

 

3 その他

 法教育懸賞論文コンクールについて、平成25年度の応募要領(案)が近日中に確定する予定との報告がなされました。
 また、小学生向け「法教育」教材の冊子化プロジェクト、「中学校における法教育の実践状況に関する調査研究」、法教育シンポジウムin札幌の、それぞれの進捗状況などが報告されました。

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