教科書を見るシリーズ 小学校編「国語」(3)第4学年 その2

 「小学校編「国語」(3)第4学年 その1」の続きです。

〈『小学国語 4上 ひろがる言葉』教育出版(2013年)より〉

【見学したことを報告しよう】(p.50~57)
 社会科見学で市のごみ処理施設を調べることになったという設定で、どんなことについて調べたいかクラスで意見を出し合い、自分の課題を考えます。課題に沿ってメモを作り、見学した後に報告文にまとめるという内容です。

――第3・4学年の社会科教科書の下巻(4年生相当)には、「ごみのしょりと利用」「ごみはどこへ」などの単元が設けられているものがあります。第3学年の国語でも、スーパーマーケット見学について社会科と連携する可能性を取り上げましたが、今回も実施時期を考えて連携する機会になると思います。「自分の課題」を考える際に、法教育につながるような視点はあるでしょうか。たとえば、「ごみ処理施設で困っていることは何か?」を調べたら、ごみを出す側と処理する側の立場を考えることにつながったりしないでしょうか?

塩川先生: まず、調べたことを整理して発表する訓練自体が、法教育の観点からも意味があります。これは、【だれもが関わり合えるように】の教材などでお話したことと一緒ですね。
 その上で、課題を考える視点の設定を法教育的観点から考えてみようということですよね。ご提案のように「ごみ処理施設で困っていることは何か?」を課題としたら、いい授業ができそうです。「ごみを減らしましょう」と言われて、「メンドー!」って思う気持ちはだれもが想像できます。でも、ごみを減らさないとごみ処理施設がどれほど大変なのかということは、考えたり調べたりしないとわかりません。立場が違うと見えるものが違うということは、大人の世界でも問題の原因になったりしがちですが、立場を変えて考えると、今まで意識しなかったことが見えてくるようになるという体験をすることは、大人になってからも活きてくると思います。
 また、教科書にあるとおり、「どのようにごみを処理するのか」「どんな機械を使っているのか」等を調べることにした場合でも、先生の導きで、同じような効果が得られるはずです。たとえば、機械の話をする中で「3百億円以上もかかったそうです」というようにお金の話が出てきたら、ごみを処理する側の苦労やごみを処理するのもタダじゃないんだという発想の転換が生まれます。お金の話というのは、生々しいですが、とても大切で、ごみ処理の場合、究極的には、税金が使われるわけですから、自分たちの負担にもつながるということがわかりやすくなりますよね。
 この授業で、ごみを処理する側の人の立場にたって「うわ、大変」とか、「そんな
税金かかっちゃうんだ」とか、そういうリアクションがあったら、「ね?そう思うでしょ?普段、面倒だって思う方向ばかりに目がいっちゃうかもしれないけど、視点を変えてみるとごみ減らす努力しなきゃいけないって思うでしょ?」とダメ押しできたら、いいんじゃないかな、と思います。

 

【学級で話し合おう】(p.72~75)
 学級会で、校内テレビ放送で流す3分間の「学級紹介番組」の内容を話し合うことになりました。学級会係による進行計画の例が挙げられ、実際の話し合いの様子が提示されています。「意見が少なかったら、はんごとの話し合いの時間を5分間ぐらいとる」「それぞれの意見の、にているところとちがうところを整理する」などの注意点も示されています。

――光村図書の【よりよい学級会をしよう】とよく似た内容になっていますね。

塩川先生: そうですね、光村図書は話し合いのポイントを(1)~(4)にまとめていたのに対して、教育出版はア~クにまとめていますが、本質的には一緒です。

 

【谷間にかかったにじの橋】(p.118~125)
 今も阿蘇山の南部にある通潤橋を造ったのは、江戸時代の布田保之助でした。辺り七十六か村の総庄屋であった保之助が、村人たちの暮らしが少しでも楽になるようにとの気持ちから、水道を引く橋を造ることを考えます。1人ではできない工事を石工たちに相談し、1年8か月かけ、のべ2万7千人を超える人々の協力のもとに完成させるという内容です。

――ここは教科書の付録の部分ですが、この話は「公共のために行動する」という内容なので、法教育の視点から小学生にお勧めしたい読書になるのではないかと思いました。いかがですか?

塩川先生: 「公共のために行動する」ということと法教育の関係は、奥深いテーマですねぇ。法教育には、国民一人一人が保障されるべき権利を正しく守れるように、という思いが込められています。ですから、いかに権利を実現するかという文脈で法教育が語られることも少なくありません。
 が、権利と責任は表裏の関係にあるわけでして、明日の社会の担い手に成長してもらうためには、「公共のために行動する」ということもまた、非常に重要なわけです。「社会がよくなるということは、ひいては、その社会のメンバーである一人一人がよりよく生きることができることにつながるんだ」「社会をよくするのは、どこかの誰かではなくて、自分たちなんだ」ということを、この物語を通じて、感じてもらえたら、とても自然な形で法教育を実現できると思います。

 

【とんぼの楽園づくり】(p.126~130)
 「近年、とんぼの成長や生活にてきした水辺が少なくなってきて」おり、国の調査によれば41種が絶滅するおそれがあるとされました。身近にとんぼの住みやすい環境をつくろうという活動を紹介し、「さまざまな生物がともに生きていくことのできるかんきょう全体をたもつこと」が課題だと指摘します。

――これも「生態系の保存」という大きなテーマにつながる話です。小学校では、理科や学級活動などで、動植物の栽培飼育をしたり自然保護活動をしたりしている学校もあると思います。国語と他の教科・時間との連携をしつつ、環境について自分がどう行動したらいいかを考え、ひいては社会参加につながる学習ができるのではないでしょうか?

塩川先生: そうですね、生態系の保存のように現代社会の課題にふれるのは、社会参加につながると思います。簡単に感想を言うだけの授業だとしても、「これからみんなが大人になるまで、この問題はずっと続くと思います。正解はないけれども、みんなも少しでも住みよい社会にするために、一緒に考えようね」と先生が語り掛けてくれるだけで、社会とのつながりを感じられるのではないでしょうか。
 もっと深めるなら、【見学したことを報告しよう】の授業のように、自然保護活動に関して何か課題を決めて、調べて発表するという授業をしてもいいかもしれませんね。

 

〈『小学国語 4下 ひろがる言葉』教育出版(2013年)より〉

【ごんぎつね】(p.28~43)
 場面の様子を想像して読み、自分の感想をもつことが求められています。

――自分の感想としてどういうことを考えるかには幅がありますから、光村図書の同教材についてのご提案が活かせると思います。

【「便利」ということ】(p.72~79)
 耳の不自由な人のために光で使うチャイム、利き手に合わせた道具、エレベーターなどがついた歩道橋の例を挙げ、「便利」とは誰にとってのどういうことかを説く内容です。「学習のてびき」のページには、「ここが大事」というコラムがあり、「引用」の説明があります。

――ここは、「事実と意見をとらえて」というテーマが示されており、学習の目的の自由度はありそうです。「社会では、たくさんの人が、それぞれちがった立場で、いっしょにくらしている」から、道具や設備が「誰にとってどのような時に便利なのかをよく考えていくことが大事」という主張は、様々な人の権利の平等や、公共性ということを考えることにつながると思います。「少し前の時代と今では、考え方が変わってきた」ことも書かれているので、なぜ変わってきたのかを考えることも意味があると思います。
  また、「引用」についての注意は、著作権に関する大事な事柄です。なぜこのような引用の約束が必要なのか、少しでも時間を割いて深めた方がいいと思いますが、いかがですか?

塩川先生: 確かに、重要なポイントがたくさんある教材ですね。
テーマが「事実と意見をとらえて」ということなので、教科書が予定しているのは、事実と意見を区別する訓練をする時間というわけですか。事実は人によって変わりませんが、意見は人によって変わります。これをごっちゃにして、「あーでもない、こーでもない」と話していては、建設的な話し合いができませんが、大人でも感情的になったりするとやってしまいがちな失敗ですね。事実と意見を区別するというのは、何もこの教材だけでなく、日常の様々なことでできるわけですけれども、学校教育で訓練する時間を意識的に設けるというのは、大人になってからも役立つことでしょう。
 そういった訳で、この教材の後半では「社会では、たくさんの人が、それぞれちがった立場で、いっしょにくらしている」という話が出てくるわけですね。それぞれちがった立場で一緒に暮らしているというのは、繰り返し強調しても強調しすぎることのない重要なことだと思います。
 そして、「引用」の話も出てくるわけですね。小学校では著作権そのものを扱う時間はなかなかとれないと思いますが、もしそのような授業をする機会がありましたら、文化庁のウェブサイトでこども向けの解説マンガを公開( http://www.bunka.go.jp/chosakuken/hakase/hajimete_1/index.html )していますから、こういうものを利用するのも一つの手かもしれません。
 ただ、残念ながら、このマンガは、「引用」の話自体は扱っていません。この教材にあわせて授業をするなら、「引用すると引用する側はベンリだよねー」「新聞とか、有名な本に書いてあることとか、上手に引用してくれてたら、読む側にとってもベンリかもしれないよねー」という話をした上で、「引用される側はどうかな?」と話をふってみるのも一案です。引用される側は、引用だとわかる形で書いてくれなかったら「なんだよ、せっかく頑張って書いたのに、自分で考えたかのように書いちゃって、ズルイ」と思うかもしれませんし、丸々引用された場合は、「だったら、私が書いた本を買ってよ」と思うかもしれません。「そういうことが起きないように、引用にはルールがあるんだよ」という程度でも、著作権の一端を知ることができるのではないでしょうか。
 ついでに「そういうことが起きないように、書いた人には著作権っていう権利が認められてるんだよ。どこからどこまで権利なのかはすごく難しいから、もっと大きくなってから詳しく勉強してね」というふうに付け加えてもいいかもしれません。

 

【ポスターセッションで発表しよう】(p.80~87)
 【「便利」ということ】の学習を受け、身のまわりにある道具や設備が誰にとって便利なのか、不便なのかをグループで調べて、発表し合うという内容です。町の公共設備である駅のエスカレーター、エレベーター、点字ブロック、手すりや券売機の点字や工夫などの例が挙げられています。

――この教材は前の教材の続きとして、自分たちの身のまわりの公共性を考えることができそうです。

塩川先生: そうですね、繰り返しになりますが、調べて発表するという訓練自体、建設的な話し合いをする上で必要不可欠なものなので、法教育の観点からも重要です。
 その上で、公共性の話ですが、この教材では、「いろんな人の立場での便利」が実に様々だということを学ぶことになります。それを実現するには、「いろんな人がいろんな形で工夫する必要があるんだなー」ということを感じてもらって、それから「自分もいろんな人のいろんな工夫に助けられてるんだな」とか、「自分も大きくなったら助ける側に回るんだな」ということを、なんとなく考えてもらえたら、素敵だと思います。

 

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