法教育推進協議会傍聴録(第34回)

 2014年3月3日(月)14:00~16:00、第34回法教育推進協議会が東京高等検察庁会議室において開催されました。議事は、「法教育懸賞論文コンクール受賞作品の決定について」「今後の法教育普及検討部会の在り方等について」「小学生向け法教育教材等の作成報告について」「中学校における法教育の実践状況に関する調査研究のとりまとめ報告について」「「道徳教育と法教育」に関する動向等について」などでした。これらのうち、法教育懸賞論文コンクールの審査に関わる部分は規定により非公開となりますので、それ以外の議事についてお伝えします。

1 今後の法教育普及検討部会の在り方等について

 法教育懸賞論文の応募総数は2010年度の開始当時から、年々減少していることが報告されました。この状況を鑑み、法教育普及検討部会による協議の結果、懸賞論文コンクールは今年度をもって終了すること、論文コンクールを柱としてきた部会は、他の普及方法として法教育教材の作成など積極的な広報の在り方を検討することとし、部会そのものを広報部会にリニューアルすることが提案されたとのことでした。
質問:「広報の具体的イメージはどのようなものになりますか?」
事務局:「全国の状況を聞き取りながら、検討中です。今年度は小学生向けリーフレット、来年度は中学生向けを作成しようと考えています。試案ができましたら広報部会で検討していただき、協議会に提案します。」
協議会委員からは反対の声はなく、提案通りになりました。

2 小学生向け法教育教材等の作成報告について

 法務省は、小学生向け補助教材として小学3~6年生向けに4つの教材で構成された冊子『ルールは誰のもの?~みんなで考える法教育~』及びリーフレット『やってみよう!考えてみよう 法教育』を作成中とのことです。これについて、法教育研究会以来の教材作成の経緯や現場への普及という観点から、制作者は法教育推進協議会であることがふさわしいのではないかという意見が出されました。また、法廷図などについても改善点が指摘されました。新年度における上記教材発行に向け、これらの意見が至急、再度検討されることになりました。

3 中学校における法教育の実践状況に関する調査研究

 本調査は、全国の国立、公立、私立の中学校から5000校を対象として実施されました。調査期間は2013年7月30日から実質9月末までで、分析は株式会社浜銀総合研究所が担当し、担当者から報告がありました。
 国立・私立中学校は全数抽出、公立は各都道府県での抽出率がほぼ一定になるように選定されました。回収率は21.4%でした。回答者は、約半数の学校において主任教諭、次に管理職、その他の教諭と続きました。結果のまとめから、おおむね次のことが報告されました。(資料より適宜引用させていただきました。)
 教科別の法教育実施状況
 社会科での取組みが最も多く、領域別では「私たちと政治―人間の尊重と日本国憲法の基本的原則」が多くなっていました。社会科以外では特別活動が多く、総合的な学習の時間などが続き、道徳や技術家庭科でも比較的多く取り組まれていました。
内容や方法は領域ごとに異なりますが、社会科全体では、身近な生活の中での具体例や特定の議題について生徒同士での話し合い、教科書に即した副教材・新聞記事・視聴覚教材の活用、疑似裁判やロールプレイングなどとなっています。道徳では「ルールやきまりを守ること」「集団生活における規範」に関する内容について、主に副読本による授業が多くみられました。特別活動では、学校やクラスにおけるルール・きまりを話し合いにより考えさせる活動や生徒会活動を通じた取組み。総合的な学習の時間などでは、修学旅行や職業体験、学校外活動等に関する事前・事後学習を法教育に関連する内容として実施しているとの回答が見られました。

 法律家や関係各機関との連携状況
 約半数は関係機関等との連携はとっていないとの回答でした。連携先としても、税務署や警察署の割合が比較的高くなっていました。連携状況の特徴は、連携していないのは公立の学校において特に高く、また、裁判官や検察官・弁護士などとの連携は国立・私立において比較的高くなっていました。連携方法は「法律家等による出前授業」が多く、税務署や警察署との結び付きが見られました。裁判官や検察官・弁護士との連携に関しては、「裁判傍聴や関連施設の見学」「法教育の理解を深めるための教員研修」における場合が多いことが把握されました。
 現在連携をしておらず、また、今後も連携を予定していない学校については、理由は「学校として余裕がない」「予算が十分に確保できない」ことが主でした。

 教材使用の状況と課題・意見・希望について
 法務省が作成した教材については、「裁判員制度」に関するものの使用割合が比較的高く、次いで「私法と消費者保護」でした。使用した結果は、学習指導が「とても充実した」・「まあ充実した」との回答が8割を超えましたが、一部、「授業で扱うには多い・長い」「生徒により理解度に差がある」との課題意識が把握されました。このほか、法律家や関係各機関等が作成した教材を使用したことがあるのは約2割でした。
 意見・希望は、「どのような教材があるのかもっと知りたい」「他の学校での実践事例などをもっと知りたい」「手軽に教材が入手できるようにしてほしい」という回答割合が比較的高くなっていました。さらに自由記述からは、「紙媒体以外で提供されるもの」「1時間で扱える内容」が必要とのことでした。社会科教材に関する希望は、個別のテーマについて多岐にわたっていました。道徳に関しては情報モラルやネットトラブル等。特別活動に関しては学校生活での規範やルール・きまり等についての希望が多くみられました。総合的な学習の時間などについては特定の内容に集中してはいませんでした。

 教職員向け研修会の状況
 校外研修会等への教職員派遣は2割弱、校内での研修会等を開催したことがある学校は1割弱でした。特に人口規模が小さい市区町村の公立学校ほど派遣したことがない割合が高くなりました。研修会等を実施していない理由は、校内・校外ともに「時間的余裕がないから」が最も多くなっていました。
 研修会等に関する意見・要望についての自由記述回答では、「開催時期や場所の考慮をしてほしい」が多くみられました。

 今後の方策等に関する考察
・法教育に関する情報発信・情報提供の充実
・各教科の状況に合わせた教材の作成・提供
・法律家や関係各機関等と学校との連携推進方策の検討

質問:「教材はインターネットで提供するのがいいのではないかという提言は、分析者の提言ですか?」
担当者:「自由記述の意見を受けての提言となります。紙媒体以外で提供される教材がよいという枠組みで、データ化してあると教員が加工しやすい、手軽に手に入るものがいいという要望を受けたものです。」

座長より質問:「回収率が高くない中、おそらくそれなりにやっている学校が回答していると考えたとしても連携の割合が低い点について、感想はありますか?」
弁護士:「この報告書は現場の状況がよくわかると思いました。無償での連携希望が多いようですが、そこが普及のカギということがあると思います。」
司法書士:「司法書士会の消費者教育では、中学生対象にはあまり踏み込んでいません。」

意見:「体育に関する質問項目がなかったようですが、体育でも教材はたくさん作られています。」
  「現場への普及が不十分のようですが、学習指導要領に書き込まれ、教材に書かれていることを法教育と捉えれば、普及していると言える面もあります。消費者教育推進法をつくると消費者教育が普及する、という動きは事実ですので、そういう方法をとれば動きは早いと思います。」

4 道徳教育の改善・充実方策について報告(概要)

 協議会委員を務める文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官から、上記について「道徳教育の充実に関する懇談会」における議論の大まかな報告がありました。その中から、法教育に関する内容を抜粋してお伝えします。(報告概要の資料から適宜引用させていただきました。)
 「道徳教育の現状においては、理念の共有や教員の指導力などさまざまな課題が指摘されてきたところで、道徳教育が教育活動全体の真の中核としての役割を果たすよう改善・充実が必要とされます。
道徳教育の目標については、道徳教育を学校の教育活動全体を通じて行うとの考え方は今後とも重要としつつ、道徳教育の目標と、その要である「道徳の時間」の目標とをわかりやすい記述に改め、両者の関係を明確化することが求められます。
道徳教育の内容については、発達段階ごとに特に重視すべき内容や、共通に指導すべき内容を明確化することが必要です。いじめの防止や生命の尊重、自律心、家族や集団の一員としての自覚、ルールやマナー、法の意義を理解して守ること、社会の一員としての主体的な生き方、アイデンティティなどに特に留意が必要とされます。
 指導方法については、児童生徒の発達の段階をより重視した指導方法の確立・普及が必要とされ、多角的・批判的に考えさせたり、議論・討論させたりする授業、いわゆるシティズンシップ教育の視点に立った指導の重視に言及されています。その際、他教科の指導との関連も図りながら、法やルールの意義を理解して互いの人格や権利を尊重し合い、自らの義務や責任を果たし、安定した社会関係を形成することの重要性や、そのための具体的方策について考えを深めさせるなどの視点も重視する必要があるとされています。従前から法教育で幅広く取り入れられてきたロールプレイや問題解決的学習などの学習活動も例示されています。
 改善・充実のための条件整備としては、教材・教科書について、「心のノート」を全面改定した「私たちの道徳」の使用が始まります。学校・家庭・地域の連携強化も求められます。」

質問:「今日の資料の文書の中には「子どもの多様性」という言葉は出ていませんが、他者と共に生きる前提として多様性についてはどうでしたか?」
回答:「今日の資料の基となった文書の中には「多様性」という言葉は出ています。」
質問:「中央教育審議会に諮問している段階で、シティズンシップ教育や法教育を参考にするという方向の議論になっていますか?「多様性」については、中教審の諮問の中で何らかの方向付けがされているのですか?」
回答:「中教審の諮問を受けた会議はこれから開催されますが、「明確化する」という言葉に表されるように、従前より相当踏み込まれていると考えます。」
質問:「法教育との関係は報告書に具体的に記述されているのですか?」
回答:「「私たちの道徳」作成作業の方針として、法教育という文言が記述されています。」

意見:「方向性として、従前は「きまりは守らなければいけない」という方向だったのが「共生のための相互尊重ルール」と変わるので、期待しています。「多様性」などを尊重しながら議論を進めていただけたらと思います。」
座長:「道徳と法教育の関係はこれからの検討課題にしていくということだと思います。」

5 その他

 群馬県において群馬県法教育推進協議会が立ち上がることになったことが伝えられました。発起人は2010年の懸賞論文コンクールの佳作受賞者で、論文中で都道府県単位の法教育推進協議会の必要性を指摘していたそうです。
 2014年度5月17日(土)には、日本弁護士連合会による教員のための法教育セミナーが開かれることが案内されました。

〈取材を終えて〉

 法教育懸賞論文コンクールはその使命を終えましたが、さらなる普及のために広報の方法を広く考えるという方向になったと理解しました。これまで応募した多くの方の熱意を無駄にしないように、一層の普及が進むといいと感じます。
 中学校の法教育実践状況調査からは、社会科の他の教科や時間でも徐々に法教育が実施されていることがわかり、明るいものを感じました。本文中には取り上げませんでしたが、美術科や音楽科についての調査項目もあり、それらの授業の中では著作権などの説明がされているとのことでした。「単元として法教育を実施しているわけではなく、作品の鑑賞や演奏・制作の際に、著作権や肖像権等に関する注意点を説明したり話題に出したりすることが多いのではないか。」という考察がされていました。たとえ短時間でも、そういった知的財産権に話が及ぶことが、法教育が根付くために必要と感じます。「他の中学校の実践事例」が求められていることについて、「法教育フォーラム」もより利用しやすいレポート掲載を考えなければいけないと考えさせられました。

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