先生のための「冬の経済教室」  ―経済教育の風を主権者教育に

 2017年12月27日(水)13:00~17:00、経済教育ネットワーク、全国公民科・社会科教育研究会授業研究委員会、株式会社東京証券取引所/株式会社日本取引所グループ主催の「先生のための『冬の経済教室』(テーマ:経済教育の風を主権者教育に―決め方を考える―)」が慶応義塾大学三田キャンパス東館ホールを会場に開催されました。主権者教育の重要な課題の1つである「決め方」に関して著書をおもちの坂井豊貴慶応義塾大学教授の基調講演と、3つの授業実践報告がありました。120名ほど収容できるホールは満席でした。(当日の資料より適宜引用させていただきます)

〈プログラム〉

13:00~13:20 主催者挨拶および趣旨説明
13:20~14:20 基調講演「経済学から主権者教育に何ができるか―多数決を疑う」
14:20~14:40 質疑応答
14:55~15:25 授業実践報告Ⅰ「持続可能な社会づくりと主権者教育」
15:25~15:55 授業実践報告Ⅱ「政策選択ができる生徒の育て方―社会保障での試み」
15:55~16:25 授業実践報告Ⅲ「中学校における主権者教育―多数決を考える」
16:25~16:55 質疑応答とディスカッション

 

1 主催者挨拶および趣旨説明

落合 隆 全国公民科・社会科教育研究会「授業研究委員会」事務局
神奈川県立相模原青陵高等学校教諭

 

 授業研究委員会は2008年に「生徒が主体となる授業の推進」を目的として発足しました。最近は主権者教育をテーマに研究集会注1を開催しています。主権者教育が直面する民主主義が抱える難問は、社会の様々な局面における二極化・分断といった「私たちの中のまとまりの問題」、グローバル化による「私たちと私たちの外との関係の問題」、「決め方の問題」の3つだと考えています。今日はこの3つ目の問題をテーマとしました。

新井 明 経済教育ネットワーク理事、上智大学非常勤講師
 経済教育ネットワークは2006年以来、エコノミスト、現場教員、関係各団体の協働により経済教育に関する授業研究や教材開発などを行ってきました。2016年3月の年次大会からは、主権者教育へ経済教育からの提言ができないかと取組みを始めました。本日の報告3つは、いずれもネットワークの部会活動の中から出てきた授業実践と提案であり、坂井豊貴先生の著作を手掛かりにしています。

2 基調講演「経済学から主権者教育に何ができるか―多数決を疑う」

坂井豊貴 慶応義塾大学経済学部教授

 

 1人の人間が意思決定をする場合、「決め方」は用意しなくていいのですが、集団(選挙、会議、裁判、自治会、株主総会など)は人工物なのでそうはいきません。集団をあたかも生き物であるかのように動かすためには、「決め方」が必要になります。一番よく使われるのは多数決です。投票権を1人1票持ち、相対的に一番多くの票を集めたものを選ぶ方法です。けれど、他にも決め方はいろいろあり、どれで決めるかで結果は変わります。多数決は、決め方として性能が悪いとが言えます。これについては私の著書『多数決を疑う』という岩波新書(2015年)もご覧いただければと思います。新聞記事もグーグルで検索すると結構出てきますので、お使いいただけます。

(1)多数決の致命的な欠陥「票の割れ」
 2000年のアメリカ大統領選挙では、当初、民主党のゴアが共和党のブッシュに優勢でした。そこへ第3の候補ネーダーが参戦したために、ブッシュが逆転勝利しました。もし選挙に決選投票がついていたら、ゴアが勝ったと思われます。多数決は、その名の割には多数派の意見を尊重しないといえます。「少数意見を尊重せよ」とはよく言われますが、三択以上のとき、多数決は多数意見さえ反映するとは限らないのです。2001年1月にブッシュが大統領に就任し、2003年のイラク戦争を主導しました。イラク戦争の影響は今日の「イスラム国」による世界の大混迷にまで至りますが、もしこのときネーダーが立候補していなければ、イラク戦争は起こらなかったかもしれません。票の割れがその後の世界の歴史を変えた一例といえます。歴史に「もし」を考えることは重要です。ありえたはずの現在を考えることは、今の選択に関し大きなヒントを与えてくれるからです。
 日本での票の割れの例としては、2014年の衆院選東京1区で、当時民主党の代表だった海江田氏が落選したケースが挙げられます。もし民主党と共産党が選挙協力をしていれば自民党候補に勝てたと考えられます。このことが2016年参院選での野党の選挙協力を促すきっかけとなりました。

(2)多数決ではない決め方
 泡沫候補が出るか出ないかが結果をガラリと変える選挙制度は、正しいのでしょうか? もう少し優れた選挙制度はないのでしょうか? 一番簡単な改善案は、決選投票を付けることです。フランス大統領選、自民党の党首選のように。じつは日本の国会の首相指名でも付いているのですが、使われていないだけです。しかし決選投票が付いていても、票が割れること自体は防げません。極端なことを言う政党が、結構票を集めてしまうということがあります。ヨーロッパでは、既成政党が大体同じような現実的な主張をするなかで、極右政党が票を集めるというようなことがあるのです。
 もっと本格的な代替案は、ボルダルールとその仲間といえます。ボルダルールは、1位に3点、2位に2点、3位に1点を与える投票です。スロヴェニアで国政選挙の一部に活用されています。ダウダールルールは、1位に1点、2位に1/2点、3位に1/3点を与えます。これらを含めてスコアリングルール(ズ)は、1位にA点、2位にB点、3位にC点(A>B>C)のようにスコア式です。
 決め方次第で結果が変わることを見てみましょう。まず、「マルケヴィッチの反例」は、5種類の決め方により5通りの結果が出るという例です。55人の有権者がいて、V・W・X・Y・Zという5名の候補者がいたとします。18人・12人・10人・9人・6人の有権者は、下の表の通りに各候補者を順位付けているとします。

18人 12人 10人 9人 4人 2人
1位 X Y Z W V V
2位 W V Y Z Y Z
3位 V W V V W W
4位 Z Z W Y Z Y
5位 Y X X X X X

1)多数決では、Xが当選。
2)決選投票付き多数決なら、Yが当選。
3)ボルダルールなら、Wが191点で当選。
4)コンドルセ方式(候補者のペアをすべてつくって比較し、他のどの選択肢に対してもペアごとの多数決で勝っている者を選出)ならVが当選。
5)繰り返し最下位消去法は、最下位を投票ごとに落としていって、Zが当選。Xが18人以外からは嫌われているからです。どの決め方で決めるかで、結果が全部異なります。このように決め方で民意が変わるなら、選挙でわかるのはあくまで選挙結果であり、民意は明らかになりません。あるのは民意というより、決め方のほうです。
 次に、二択の多数決であっても、何について多数決を行うかで結果が変わることを見てみましょう。「オストロゴルスキーのパラドックス」といわれるものです。A党とB党について、5人の有権者の投票行動を例にします。選挙の争点は、財政・外交・環境の3つの政策です。有権者がどの政党を選択するか、下の表に示します。これを見ると、

有権者 財政 外交 環境 支持政党
1 A A B A
2 A B A A
3 B A A A
4 B B B B
5 B B B B
多数決の結果 B B B A

1)個別の政策に対して選挙をした場合、B党が勝ちます。
2)政党に対しての選挙ならA党が勝ちます。このように、結果はまったく異なってきます。だから、ふつうよく行われている政党を選ぶ選挙は、政策の抱き合わせ販売といえます。この選挙結果は多数派の意思を尊重したといえるのでしょうか? このような逆転劇は、確率的に結構起こると考えられます。

(3)多数決の「正しい」使い方
 多数決は非暴力的な決め方だからと正当化されることが多いですが、多数決と暴力の違いを見つけるのは、案外難しいといえます。たとえば安部公房の短編『闖入者』では、1人暮らしの男のアパートに、大勢の侵入者が来襲します。侵入者たちは「いまから多数決でこの部屋が誰のものか決める」といい、侵入者たちの賛成多数でこの部屋は侵入者たちのものとされます。多数決を暴力的なことに使うこともできるのです。教室のいじめなどはその例かもしれません。
 侵略や侵攻にも多数決は使われます。2002年の国連安全保障理事会決議1414では、大量破壊兵器を持つと疑われたイラクに「無条件かつ無制限の、査察協力を求める」とされ、日本を含む15か国の満場一致で可決されました。これが2003年の米英によるイラク侵攻の根拠の一つになりました。
 多数決で正しい判断をする確率を上げるには、どうしたらよいのでしょうか。現代のコンピュータの父の1人といわれる天才科学者フォン・ノイマンは「電気回路の多数決」を考えました。信頼性の低い電気回路から信頼性の高い計算マシンを作るには、2つの電気回路が同時にエラーを起こす確率はとても低いことを利用すればよいのです。たとえば3つの電気回路のうち2つがAで残り1つがnotAならば、マシンはAを採用します。
 人間社会の多数決が、電気回路の多数決のようにあるためには、2つの条件が必要です。第1の条件は、ボスがいない、空気に流されないことです。3つの電気回路を有権者に見立てましょう。電気回路1にはボスがなく、電気回路2は電気回路3をボスに持つとします。電気回路1がAを支持し、電気回路3はnotAを支持するとき、電気回路2はnotA支持に同調します 。電気回路3の判断が多数決の結果になってしまうのです。こうならないために、有権者は自律して熟慮することが必要です。
 第2の条件は、多数決に共通の目標があることが必要です。電気回路には、マシンを正しく動作させるという共通の目標があります。「この法案なり政策なりが、私たちの社会のとって必要か」は共通の問いかけになります。「私にとって必要か」という私的判断のぶつけ合いは、共通の目標になりません。「私たちの社会にとって必要か」という問いかけが難しいなら、多数決で決めてよい対象を制限するのが賢明であるといえます。たとえば、憲法違反の立法はできないなど、国会の多数決を縛るという具合に。
 最後に、アメリカの国民的作家アイン・ランドの戯曲『1月16日の夜に』のなかの多数決を紹介します。これは法廷劇です。被告のカレン・アンドレは殺人罪に問われています。舞台の上では検察側と被告側が激しい攻防を繰り広げ、真実は誰にも、作者自身にさえわかりません。劇の終盤、観客のなかから陪審員が選ばれ、舞台の上に呼ばれます。そして陪審員たちが多数決で有罪・無罪を決定して幕を降ろします。作者アイン・ランドは別な所で言っています。「この劇で、審理(トライアル)を受けているのは、断じてカレン・アンドレではない。陪審するあなたがた1人1人の魂なのだ。」多数決で最終的に明るみにさらされるのは、民意ではなく民度なのです。

【質疑応答】
Q1:経済学では「効用は足せない」と言われますが、本来なら計れないはずの人の価値観に対し、ボルダルールのように点数を付けられるのですか?
A:経済学では効用は計れませんし、個人間の幸福に関する共通のメジャーがあるとは考えません。ボルダルールの得点は、効用とはまったく関係ありません。それでは、ボルダルールでなくとも、投票者にたとえば持ち点10点を与えて、候補にそれぞれ点数を自由に割り当てるようにしたらどうかと言われます。でも、ともすると、自分の押したい候補を10点に、他を0点としたいインセンティブが働きます。それは1点と0点という現状の選挙と同じになります。ボルダルールの3、2、1点という点数付けならば、ペア敗者(二択ごとの多数決では全てに負けてしまう候補)は選ばれないことが証明されています。この点で、ボルダルールは優れていると言えます。
Q2:日本カー・オブ・ザ・イヤーの決め方は、審査員一人の持ち点が25点で、10点を1番気に入った車に、残りの15点を4つの車に自由に振り分ける方法です。これについてはいかがですか?
A:非多数決的で悪くないと思います。ただ自由割当制同様、投票者は足し算ができる人です。国や地方の選挙では、足し算が使えない人のことを考えねばなりません。
Q3:多数決をどう位置付ければよいでしょうか?
A:民主主義においては、説明責任が重要になります。集団レベルの決定は、反対であった人も従わされるので、どう決めてもよいとはなりません。個人レベルの意思決定のような自己責任論は成り立ちようがないのです。だからこそ集団レベルの決定には、皆が納得できる理屈が求められます。「皆」は難しいとしても、できるだけ多くの人が納得できるように、理屈を丁寧に説明せねばなりません。民主主義において説明責任が重要であるとは、そういうことです。
  そのうえで、理屈Aと理屈Bが対立し、かつ一定期間内にどちらかに決めねばならないときには、残念ながら多数決をします。理屈で決着を付けられないから、やむなく多数決をするということを認識していることが重要です。ただし、多数派が「カラスは白い」と言おうと、カラスが実際に白くなるわけではありません。「やむなく多数決」のはずが、「理屈は無視して、とにかく多数決」は、説明責任の放棄、多数決の誤用です。
Q4:決め方をどう決めればよいのでしょうか?
A:どの決め方がいいかは、理屈で相当決着がつきます。基本的な条件を満たす決め方は、理屈で相当絞り込んでいくと、ボルダルールとコンドルセ方式になります。証拠を挙げて絞る作業を惜しんではいけません。その上でどうしても最後に決着がつかないとき、多数決を採るならばみんな納得できるのではないでしょうか

3 授業実践報告

 質疑応答を含めたより詳しい授業実践報告については、経済教育ネットワークのHPをご覧下さい。   
(1)「持続可能な社会づくりと主権者教育」
塙 枝理子 東京都立府中東高等学校教諭

 

 本校は、創立40年になる中堅校です。坂井先生の『多数決を疑う』に出会い、多数決が人々の意思を集約することに適しているかを疑うことの必要性という問題意識を共有しました。今回開発した授業は次のような目的と構成になっています。
【目的】政治・経済で「多数決を疑う」授業実践を行うことで、既存の制度への見方を養い、国や社会の問題を自分の問題として捉え、自ら考え、自ら判断し、行動していく主権者を育てる。その際、「持続可能な社会づくり」「経済教育で培った見方・考え方の活用」を視点とする。
【構成】必修政治・経済(第3学年)全4時間
 第1時…民主主義の成立過程と意義、選挙の原則と選挙制度の理解
 第2時…民主主義の原則である多数決の理解(ケーススタディから単純多数決、決選投票付き多数決、ボルダルールにより結果が変わること、構成員の違いにより結果が変わること)、現行の代議制民主主義の問題点を考察
 第3時…投票参加について考察(ライカー・オードシュックモデル注2を紹介し、行く人と行かない人の理由を考察。人間は必ずしも合理的経済人のように行動しないことについて、「最後通牒ゲーム」注3から理解)
 第4時…世代を超えた持続可能な社会における意思決定の在り方はどうあるべきか、考察。レポートは期末考査内で実施。(資料の持ち込み不可)
【成果】事前の調査および事後アンケートからは、選挙へ行くインセンティブは20%強高まり、シルバー民主主義についての問題意識を醸成できたと推察されます。生徒のレポートからは、全ての生徒が現在の選挙制度への要望や改善案について考察することができたと言えます。最後に、学習の感想を自由に記述させたところ、多くの生徒が多数決や決め方について問題意識を持ったり、社会参画への意識が向上したりするなどの変容がありました。

(2)「政策選択ができる生徒の育て方―社会保障での試み
大塚雅之 大阪府立三国丘高等学校教諭

 

 本校は大阪府の南部にある進学校です。第2学年の必修現代社会、第3学年の倫理・政経(選択)で、坂井先生のご著書を参考に授業を開発し実践しました。
<実践1:「決め方」について>
 生徒たちに公共政策について選択させ、多数決とボルダ投票を行いました。地元堺市や大阪市に関する5つの政策について、A~Dの4党が賛成・反対を表明した表を用い、生徒が投票しました。生徒の感想は次のようなものでした。
【ボルダルールに肯定的な意見】
・多数決よりも民意を反映している気がする。(生徒の8~9割)
・多数決よりも少数派の意見や個人の意見を反映しやすい決め方でよいと思った。
【どの決め方にも欠点があるのではないかという意見】
・どの決め方にせよ不都合が多いので、少数派の意見の尊重が必要かなと思った。
・その時、その時に応じたやり方をとる必要があると思った。
【ボルダ投票に否定的な意見】
・ボルダ投票は普通より良いと思ったが、今回の例だけで言うと、順位の点数を単純に自然数で決めてよいのかなと思った。(意訳)
・時間的なことを考えると、普通の投票がよいのではないか。
・自分が支持する政党を1位にするために、2位以下を負けそうな政党に投票する人が出て来ないか。

<実践2:社会保障について>
 社会保障の単元を教えるときの難しさの一つが、現在の財政状況や少子高齢化などを伝えれば伝えるほど、世代間の対立を煽ってしまいかねない点です。これを克服するためには、立場を超えて理念に基づき、今後どのような社会をつくっていきたいかを生徒に熟慮させることが必要だと考えました。
第1次…「社会保障の意義と歴史」:なぜ国家が保険を運営する必要があるのかについて、資本主義経済の変容について復習を行いました。自由と格差、政府の介入と非効率について解説し、社会保障の歴史について説明しました。社会権について、事例を提示し、どのような配慮注4が必要かについて考えました。
第2次…「日本の社会保障」
第3次…「年金問題について考える」:日本が今後行うべき政策について、まず個人で4つの政策(消費税引き上げ、年金支給年齢引き上げ、子育て手当支給、国民年金保険料引き上げ)への賛否を考えました。そして、それらの政策についてA~Dの4党の賛否の組み合わせの表を見せて、どの政党がよいか、単純多数決とボルダ投票を実施しました。次に、グループごとに予め配布した資料を1つずつ担当し、困る人の立場を想像してどの政策がいいか、どう困るかをグループ内で情報共有しました。最後に、30年後にどのような社会であってほしいかという視点で、政策を2つに絞り込み、重視する観点(弱者にやさしい、子育てのしやすさ、財政の安定など)ごとに議論注5させ、発表させました。
 生徒の感想は、「あるところを補おうとするとどこかに不満が出るので、制度を1つ変えるにしても、多方面への影響を考えないといけないので悩ましい。」「世代間の平等は難しい。」など、トレード・オフの関係を理解し、多面的視点を培うことができたと感じるものでした。

(3)「中学校における主権者教育―多数決を考える
竹内大輔 北海道日高町立日高中学校教諭

 

 主権者教育とは、自分で考える力を育むことであり、中学校段階では根拠を持って公正に判断する力を養う必要があると考えました。「これからの消費税を考えよう」という経済教育の題材を通し、主権者としての目(芽)を育てることをねらいとした授業実践を行いました。授業構成は次の通りです。
1)公正な税とは?
教科書で既習事項の確認。「間接税、特に消費税の割合を増やすことでどんなメリット、デメリットがあるのか?」を問い、公正な税とは何かを確認しました。
2)税金の負担と保障の関係
保障の高低を縦軸、負担の高低を横軸としてクロスさせた座標軸(マトリックス)を使うことで、次のような3つの事例を可視化してみました。例1「学校にエアコンをつけたい」、例2「私立高校の授業料無償化」、例3「少子化対策(待機児童問題)」いずれの例でも、資料を使いながら検討した結果、保障を高くすれば負担も高くなることがグラフのなかで理解されました。
3)まとめ
 社会保障を充実させるために、税金を国民が負担していくことが必要なことを生徒たちは理解することができました。その負担を直接税にするか、間接税にするかについて議論したところ、いろいろな意見が出てきたことは評価できます。生徒たちは、みんなが納得する公正な制度で税金が徴収される必要があることに気づくことができました。

〈取材を終えて〉

 坂井豊貴教授の『多数決を疑う』に触発された現場の先生方が、それぞれ「持続可能な社会」「社会保障」「消費税」という経済の題材で、主権者としての選択ができる力を育てようと取り組まれました。選挙制度の学習は小学校6年から始まりますが、子どもたちにとって多数決はその前から学級会などでお馴染みになっています。実践者からは、高校生になって初めて「決め方を考える」授業に出会った生徒の新鮮な驚きが報告されていました。ボルダルールなどは、大人でも知らない人が多いのではないかと思います。小学生から大人まで多くの人にボルダルールの存在を知ってもらえたら、と感じられ、「決め方を考える」授業は民主主義の本質を考える意義深い取組みだと感銘を受けました。

 

注1:
注2:
投票参加を合理的な個人の便益計算に基づいて次のように考える。R=P×B-C+D。 Rは有権者個人が投票から得られる利益、Pを投票によってBが得られる確率、Bを自分が投票した候補が当選したことによって得られる利益、Cを投票に際し生じるコスト、Dを民主主義が維持されることによる長期的な利益及び国民の義務とし、R>0であれば投票に行く、R≦0であれば投票に行かないとなる。
注3:
報酬を2人でどのように分け合うかというゲーム。一方が「提案者」、他方が「回答者」となり、「提案者」の提示する金額に「回答者」がYesと答えれば2人とも報酬を受け取り、Noと答えれば2人とも報酬が受け取れない。人間は自分が損をしてでも公平性を重視するために、協力行動をとることがあるという行動経済学の考え方を習得することで、自らの自利性・他利性に気づかせる。
注4:
人々が「無知のベール」を被った状態で社会のルールを決めたらどうなるかを考えさせる。無知のベールとは、自分が属する階級、性別、人種、民族、政治的意見、宗教もわからない状況。
注5:
次のような政策の比較表を作成させた。(アジア政策銀行資料を参考)
政策 政策1(消費税10%) 政策4(子育て世代重視)
分類基準 ウェイト スコア スコア合計 スコア スコア合計
弱者に優しい 4 32 8 64
子育てしやすさ 10× 3 30 10 100
財政の安定 8 40 4 20
合計 102 184
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