法教育推進協議会傍聴録(第30回)

 2012年11月2日(金)14:00~16:00、第30回法教育推進協議会が法務省において開かれました。議題のうち主なものは、京都法教育推進プロジェクトの実施結果報告と、検察庁・法務局における法教育取組状況報告でした。京都法教育推進プロジェクトについては、「平成24年度 法教育シンポジウムin京都」における関係者や学校現場からの報告を当レポートでもご紹介していますので、重複しない範囲でお伝えします。検察庁の取組報告からは、授業を支援するため教師用DVDの作成・配布が好評を得ているとのことでした。(当日配布の資料より適宜引用させていただきます。)

1 「京都法教育推進プロジェクト実施結果報告」から

  報告者:金井健作 京都弁護士会法教育委員会副委員長
       青野理俊 京都弁護士会法教育委員

〈成果〉

 学校の先生と弁護士とのつながりができたことが大きな成果でした。先生方は、弁護士に対する敷居の高さを感じなくなったのではないかと思います。人と人とのつながりが、今後のプラスになると思います。

〈今後の課題〉

 今後、プロジェクトのモデルになった学校以外の一般の学校に法教育を普及していくためには、もっと現場の先生方と法律専門家との交流を深める必要があると思います。
一般の学校では法教育についての理解がそれほど進んでおらず、先生の求めることと弁護士の教えたいこととの間に齟齬がある場合もあるからです。先生方と研究・交流できる場がほしいと思います。大学がそうなって、ロースクール生や市民も参加できれば、なお良いと思うのですが。
突破口として、弁護士会にはジュニアロースクールという継続した活動があるので、そこに大学生も参加してもらい、法廷傍聴や模擬ADRなどにより、「対立と合意」などのテーマを取り上げる取組みができないかと思っています。

〈質疑応答〉

質問:「連携をまとめる核はどこがいいのでしょうか?」
→回答:「府や市の教育委員会は、そのような性質をもっていないそうです。社会科の先生方の研究会は私的・公的性質を併せもつもので、法教育だけをテーマに新たに立ち上げることは難しいとのことです。」「プロジェクトが始まるとき、全体としてこうしようという合意はありませんでした。」「法テラスは、情報提供機関としてはいいと思いますが、マン・パワーが不足すると思うので、弁護士会が最も適任かと思いました。」

質問:「プロジェクトで実施された授業リストの中には、法教育かどうかよくわからないものがあるように思われます。リストを報告書に掲載する場合、各授業の法教育的意義・身につけさせたい力といったものを明示する方がいいのではないでしょうか?」
→回答(事務局より):「授業のねらいを示すという点は、おっしゃる通りなので、参考にさせていただきたいと思います。」

質問:「プロジェクトの目標設定はありましたか?」
→回答(笠井座長より):「(自分も京都大学として連携授業を行った立場をふまえ)何ができるかやってみようという、ある種の実験だったといえます。」

意見:「作成された教材について、どういう法教育の体系があり、それがどう位置づけられ、どうなったというような、カリキュラムでできていることが見えるといいので、後付けでもいいからその説明があればいいと思います。説明を作るに際しては、教育委員会が比較優位だと思います。」
意見:「連携をつくることについては、プロジェクトに参加した大学が等距離過ぎた感があります。教員養成学部のある大学に、横のつながりをつくることをお願いすればよかったように思います。」

2 法務省における法教育取組状況報告

(1)「検察庁における法教育取組状況報告」から

  報告者:大仲土和 さいたま地方検察庁検事正(法教育推進協議会委員)

〈検察が法教育を行う意義〉

 検察庁は法教育を、「法的なものの考え方を伝え、自由で公正な社会の担い手を育成するための教育」と捉え、多様な意見を理解し、意見の調整をし、公正な結論を出す力を身につけさせることを目指しています。検察が法教育を行う意義は、次の4つです。
① 法教育を行う教員を刑事司法の専門家が支援すること
 検察庁は全国組織なので、均一的支援が可能
② より良い刑事司法の実現
 法的なものの考え方や刑事司法制度について知識を身に付けることにより、円滑で適正な裁判制度の運用に寄与
③ 犯罪の予防、再犯の防止
④ 検察官・検察事務官の研鑽

〈新学習指導要領に対応した教材の作成〉

1)検察庁による取組み

① 「模擬裁判をやってみよう」
  中学校社会科公民的分野の教科書の事例をもとに作成。2時間構成。模擬裁判授業の目的は、「自分の意見を述べ、他人の意見を聞き、多角的なものの見方があることを理解すること」「対立する意見を調整すること」「公正な結論を出す力を養うこと」です。授業は「模擬裁判・評議・まとめ」の3部構成で、ポイントは評議です。評議が、授業の目的を達成する重要な場面と位置づけています。
②「正しい行動をする意志と勇気」
  品川区の教員と協議し、「少年が犯罪や非行に及ぶことにより、被害者や家族等にさまざまな迷惑をかけることを実感させ、自らの行動を第三者的視点からみるといった工夫を加え、複眼的思考力を身に付けさせるとともに、正しい行動をする意志と勇気を養うこと」を目的に作成。4時間構成。中学校社会科公民的分野以外にも、道徳、特別活動、総合的な学習の時間等において利用でき、対象学年は問いません。
・両教材とも、指導担当者用の指導案・注意事項、台本、ワークシート、実演用の証拠資料などがセットになっています。

2)さいたま地検の取組み

① 「模擬裁判をやってみよう」の教材用DVDの制作
 上記の検察庁作成の「模擬裁判をやってみよう」という教材を、教員が1人で実施できるようにした50分のDVDを制作しました。上記教材の事例を扱っている教科書は、埼玉県内のほとんどの公立中学校(448校中422校)が使用しているため、同じ時期に実践されることが予想され、支援が不足すると思われたからです。埼玉県内の教員からアドバイスを受けながら制作しました。
②  教員研修の実施
 ①で紹介したDVDを使用し、埼玉県内の中学校教員に「先生のための夏休み法教育講座」を8月20日から30日までの間に9回実施しました。参加者は合計41名でした。研修ではDVDを見て、実際に評議を行ってもらいました。先生方が一番不安を感じるのは評議の場面でしたが、その結果、評議の重要性を認識できたなどの感想をもらいました。
③ 出前教室の実施
 現在、検事1名と事務官2名を派遣して出前授業を行っています。今のところ、5校からの授業依頼を受けています。

〈今後について〉

 今後、出前授業の依頼が増えた場合、対応が必要になると思うので、職員全員にDVDを使用して研修を行いました。このDVDを欲しいという依頼も多数寄せられています。このDVDを用いられた先生方から意見を聞き、より使い勝手の良いDVDに改訂したいと思っています。教員研修は、春休みなどいろんな機会に実施したいと思います。学校の先生方に全面的に協力したいと考えています。
(以上の検察庁の取組みは「法律のひろば」10月号 にも掲載されています。)

(2)「法務局における法教育取組状況報告」から

  報告者:藤田正人 法務省民事局付兼登記所適正配置対策室長

 全国430の法務局により、2010年4月から2012年9月までに全国で313件の法教育授業を実施しました。内容は、「約束」といった私法分野が8割、「ルールづくり」といった公法分野2割程度です。法務局の業務が紛争を扱わず、正常な取引を対象とするので、身の回りにある法律的な事象についての気付きやルール・法律といったものの役割や重要性の理解を目的とした授業です。ロールプレイ、グループ別発表方式やクイズ形式など、生徒の積極的参加が可能な方法を実施しています。
 教材は、法教育プロジェクトチーム作成のものを地域によりカスタマイズして使用しています。宮城県の高校では、「学校内の頭髪と服装のルール」をテーマに、ルールのあり方についての話し合いをしました。福岡県の小学校低学年では、「やくそくときまり」について作業をさせながら授業をしました。こうした出前授業のほか、法務局を場とした受入れ型授業も実施しました。東日本大震災の被害にあった地域でも、法務局職員が積極的に学校に赴き、「身の回りにある法律的な問題」などの法教育授業を実施しました。

〈質疑応答〉

意見:「法務省の取組みは、裁判員裁判や土地取引に関連する内容ばかりでなく、法教育の幅を広げてほしいと思います。」

質問:「教員向け研修について、広報はどのようにしましたか?」
→回答:「県と市の教育庁・教育委員会に後援に入ってもらいました。参加した先生方には、口コミで広めてもらうようお願いしました。」
意見:「それに関連し、今年度を含めて少なくとも3年間、広報を続けるといいと思います。中学校では、地理・歴史・公民を1人で学年を追って教える先生が多数いるので、今年は研修に参加しなくても、公民担当の年度に参加してもらえるかもしれません。」

質問:「再犯率の増加が問題になっています。法務省としては、刑務所等などでの再犯防止教育に法教育を取り入れることについてはどう考えていますか?」
→回答:「全省的にいろいろな観点から取り組みたいと思います。」

質問:「法務局の教材は、どういう人が作成しているのですか?」
→回答:「基本的には法教育プロジェクトチームが作成したものをベースに、実際に法教育授業を担当する全国の法務局の職員が作成しています。」

質問:「DVDは、YouTubeにアップできないのでしょうか?」
→回答:「教科書に著作権があるので、副教材を作ることについては許諾権を得ているのですが、オンエアーするとなるとそこまでの許諾はないのが実情です。評議の部分だけなら(教科書に関連しないので)、さいたま地検の了解だけでいいかなとも思います。」

3 小学校における法教育の実践状況に関する調査について

 平成23年度における法教育の実践状況等に関する調査です。10月末現在で1911校から回答があり、11月末に報告書が納品される予定です。

4 法教育に関する懸賞論文コンクールについて

 今年度の論文募集は11月末締め切りで、12月中に部会で審査する予定です。

取材を終えて

 京都法教育推進プロジェクトにおいて実践された授業を、事後的にでも法教育の視点から体系づけし直すという提案は、実践をより有意義なものにすると思いました。せっかくの実践の価値を確認する機会となるでしょう。
 検察庁の取組報告からは、品川区や埼玉県内の学校関係者と連携が進んでいることがわかりました。教材づくりに現場の意見が反映して、教材が使いやすいものに改訂されていくのは素晴らしいことです。短縮版のDVDを作成してくださった先生がいらっしゃるというエピソードも紹介されました。数多くの学校に対する授業支援を考える場合、DVDのような教材を現場で使いやすくする工夫が、これからも重要になるのではないかと感じられました。

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