第二東京弁護士会夏季ジュニアロースクール2014 その1

 2014年8月6日(水)10:30~16:00、第二東京弁護士会法教育の普及・推進に関する委員会による夏季ジュニアロースクールが弁護士会館にて開催されました。「弁護士と一緒に、法律や社会のしくみについて学ぼう!」という取組みに、申込多数のため抽選により50名の中学生が参加しました。午前の部は、架空の国を題材に権力について考え、午後の部は、ある高校の文化祭の企画を検討するというプログラムが行われました。その1では、午前の部の模様をお伝えします。
(当日のプリントより適宜引用させていただきます。)

〈プログラム〉

10:35~12:00 午前の部「大統領が止まらない!?―権力について考えよう」注1
昼休憩
13:00~13:45 午後の部「あなたは真実をどこまで伝えますか?」
        パート1「ウォームアップ問題―ウワサの真相!」
13:50~14:50 パート2「マサトシの調べた事実」
15:00~16:00 パート3 文化祭企画検討発表、講評など

1 午前の部「大統領が止まらない!?―権力について考えよう」

 まず、架空のひまわり国のルールが紹介されました。次に、ひまわり国大統領をめぐるロールプレイを弁護士が演じ、参加者はそれを見て、ワークシートの問いについて考えます。生徒は9つの班に分かれ、各班にはサポート役の弁護士が演技者も含め2名ずつ入りました。
【ひまわり国のルール】
第1 人の物を盗んだり壊したりしてはいけない。人に暴力を振るってはいけない。
第2 第1ルールに違反した人がいた場合、パトロール隊がその人を逮捕し、大統領が処罰をする。パトロール隊は、大統領が国民から選ぶ。
第3 国民はみんな収入の10%を税金として納めなくてはならない。
第4 国民みんなにとって必要な公園、学校、道路、水道などの設備については、大統領が、どこにどのような設備を作るかを判断し、国民に指示して作らせる。
【第1幕 ひまわり国の変化の始まり】(あらまし)
 国民AとBが大統領をほめています。Aは「国民思いの大統領だ。もめごとが起きても、大統領の解決法に国民が納得できる。」、Bは「大統領は公正で偉ぶらない。」と言っていました。

【第2幕 大統領への不満の高まり】
 ある日、外国から有名な芸術家のオランジュが大統領官邸に招かれてきました。オランジュは「この国は大統領が国民の利益を代表し、国民のための政治をして素晴らしい国になっている。もっと豊かな国にするには、心をより豊かにする芸術文化の発展が必要だ。」と言いました。大統領は感銘を受け、オランジュの助言のもとに音楽ホールや美術館などを次々に建設しました。
 その3年後の街中で、Bは道端でAに出会いました。道路のひびに足を取られて怪我をしてしまったAは、「この頃、道路や水道の具合が悪いままになっている。先日、税金が収入の10%から20%に上がったのは国民の生活をより良くするためだったのに、かえって悪くなった。」と言います。そのときBは貼り紙を見つけました。ひまわり国の4つのルールのうち、第3を改正し、税金を50%にする、というお触れでした。Bは「芸術の維持にお金を使っているが、芸術も日々の楽しみとして必要だ。」、Aは「直接生活に役立つものからお金を使ってほしい。税金の使い方はこれでいいのか?」と言いました。通りかかった国民Cは「大統領が何もかも決めていいのか?」と首をかしげていました。

(1)ワークシート1の問いについて
問1:大統領が行った行為のうち、国民が困ってしまうようなことは何でしょうか?
問2:4つのルールのうち、1の問題と関係がありそうなものはどれですか?
問3:そのルールのうち、どの部分が問題となるか、抜き出してみて下さい。
問4:問題を解決するために、3で挙げたルールをどのように変更すればいいでしょうか?
 各自でワークシートに記入(3分間)してから、班内で意見を交換(7分間)し、班の意見を1枚のシートに書きました。発表された意見は、次のとおりです。

問1:「増税が問題。負担が重いうえ、使いみちが国民の生活を後回しにしていること。国民に相談せずに大統領が勝手に決めるので、国民が振り回されること。」
問2:「第3と第4。」
問3:「第3は、普通に税金のことだからいいと思った。」という発表がありました。それについては、講師から「税金をどう決めるか、要件が抜けているのが問題です。」という解説がありました。
  「第4は、『大統領が、どこにどのような設備を作るかを判断し、国民に指示して作らせる。』という部分が問題点。」
問4:「大統領が1人で決めるのが問題なので、国民の代表が議会を開いたり、国民投票で決めたりすることが大事。」「国民の代表者が話し合い、意見を大統領に言うことが必要。」

【第3幕 大統領批判も封じ込めるルール】

 我慢の限界にきた国民は大統領官邸に押しかけ、大統領退陣を大声で要求したり、石を投げたりしました。大統領は、このままでは国の治安が悪化してしまうというパトロール隊員の進言を聞き、「大統領を批判してはいけない。」というルールを第1に加えることにしました。
 新しいルールを見た国民Aは、「街の中はゴミだらけ。誰も大統領に文句を言わなくなり、また税金が上がれば国民が苦労する。」と嘆いています。Cが、「誰も大統領を批判できないから、このままでは大統領が止まらない!」と言いました。

(2)ワークシート2の問いについて
問1:「大統領を批判してはいけない」というルールには、国民の立場から見てどのような問題があるでしょうか?
問2:大統領は、なぜ「大統領を批判してはいけない」というルールを定めたのでしょうか?
問3:どのようなルールを定めれば、国民と大統領の双方にとって良いでしょうか?
発表された意見
問1:「国民にとって困った事態が起こること。大統領の独裁政治になること。」
問2:「治安が悪化し、国民が不安になったり、危険だったりするから。」
問3:「目安箱のようなものを設置して、国民の意見を聞く。」「第1のルールに、『人に迷惑をかけてはいけない』という文章を加え、『大統領を批判してはいけない』という部分を削除する。」
【第4幕 ルールがどんどん厳しくなる】
 大統領は、パトロール隊に命じ、大統領を批判する国民を逮捕、処罰しました。国民はみんなひそひそ話をするようになりました。ABCの住む町に大統領が視察に来ました。「昔は立派な大統領だったのに、いったいどうしたんだ?」と話していたBが第1のルールに違反したとして逮捕されるとともに、「悪いのは大統領ではなく、大統領はオランジュに操られているだけではないか?」と言ったAも、やはり第1のルールに違反したとして、大統領の命令で、パトロール隊に逮捕されてしまいました。大統領は、「オランジュを批判することは、大統領を批判することだ。」というのです。Cは「どんどんルールが厳しくなり、言いたいことが言えない国になってしまった。」と嘆きました。

(3)ワークシート3の問いについて
問1:大統領が行った行為のうち、問題のありそうな行為をあげてください。
問2:配布された4つのルールのうち、問1と関係がありそうなものはどれですか?
問3:そのルールのうち、どの部分が問題となるか、抜き出してみて下さい。
問4:問題を解決するために、3で挙げたルールをどのように変更すればいいでしょうか?
発表された意見
問1:「大統領の友人まで批判してはいけないというのは、大統領自身がルールを破っている。それで処罰されるのはおかしい。」「大統領が法律の適用範囲を広げている。」「大統領の独断で逮捕するのも問題である。」「公表したわけではない友人との会話により逮捕するのも問題である。」
問2:「第1と第2」
問3:「第1は、大統領を批判してはいけない。」「第2は、大統領が処罰をする。大統領が国民から選ぶ。」の箇所。
問4:「第1は、『大統領を批判してはいけない。』を削除する。」「第1に、『国民の意見を聞く。』を加える。」「第2は、国民が選挙でパトロール隊を選ぶ。逮捕の後、処罰するかどうか判断する機関を設ける。」

(4)講師より解説(10分間)
 ひまわり国で一番問題なのは、権力が大統領1人に集中し、他の誰もコントロールすることができないことでした。「権力」とは、他人に対する強制力のことです。大統領が行っていた権力的行為は、
・ルールを作る・変える→「立法」
・文化施設をたくさん建てる→ルールを実行する「行政」
・国民を逮捕・処罰する→ルールにより裁定する「司法」
でした。歴史的には、近世の絶対王政時代、強い1人の王様が何でもできる時代がありました。しかし、優秀な君主もいますが、皆が皆そうではないし、ずっと善政が続けられるわけでもありませんでした。
 そこで近代は、「権力を制限し、国民の権利・自由を擁護する必要性」が高まり、人による支配ではなく、憲法によって国の統治をする「立憲主義」が生まれました。権力の暴走を防ぐためには、いろいろな方法があります。三権分立、相互チェック、権力者を辞めさせる仕組み、立憲主義を守る仕組みなどが挙げられます。現在の日本国憲法には,それらの方法が手当されています。該当する条文を挙げますので,後で確認してみてください。

〈生徒の感想発表〉
生徒1:「1人の人が権力を独占するのは国民のためにならないので、今の日本は三権分立ができていてよかったと思いました。」(拍手)
生徒2:「弁護士が本業以外のことを頑張ってやっていて、カッコイイと思いました。」(笑)

〈アンケートに寄せられた生徒の感想から〉

・みんなの意見が聞けて自分の意見にも自信が持てた。
・ひまわり国の極端な例をみることで今の日本は上手く成り立っているのだと実感した。
・最後のまとめで三権分立や絶対王政のことなど話が繋がりおもしろかった。
・憲法などは難しいものだと思っていたけど、ひとつひとつ意味があるもので、ちゃんと国民のことを思っていてすごいと思った。
・権力の使い方の怖さを感じた。今の日本はとても整っているんだなとも思った。

〈ここまでの取材を終えて〉

 「ひまわり国」の教材は、2014年3月の第二東京弁護士会法教育内部研修会のレポート(6月5日掲載)でも一部ご紹介しました。今回は、その教材による授業実践を初めてお伝えしました。弁護士によるロールプレイは、衣装や小道具が丁寧に作られていて楽しく、中学生は熱心に見て、考えていたように感じました。ワークシートの問に対する解決策として、代表者による議会という仕組みだけでなく、目安箱の設置や国民投票など、自分の知識を駆使してのびのびと意見を考えることができたようでした。
 昼食休憩では、弁護士とともに弁当を食べながら、いろいろ話が弾んだようです。中学生は弁護士の仕事について、弁護士は学校生活について情報交換する有意義なひとときでした。

〈午後の部の模様は、「その2」をご覧ください。〉

 

注1:
都合により、固有名詞を一部変更しました。
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