CLS法育教室(中央大学法科大学院の法教育団体)活動報告

 2014年9月13日・27日、中央大学附属中学校の3年生181人を対象に、中央大学法科大学院の法教育団体「CLS法育教室」の授業を実施しました。その結果を報告します。
*CLS法育教室の活動実績等については末尾をご参照ください。

【実施概要】
 当日は、中学校側に中央大学法科大学院まで来てもらい実施しました。生徒たちに2つの大教室に半分ずつ分かれてもらい、生徒5~6人に院生1人がつくグループになってもらいました。
刑事系の、具体的な事案をもとに考えてもらう方が生徒たちに興味を持ってもらえると考えたので、正当防衛の成否をテーマにしました。
 教材作りには、我がCLS法育教室の顧問でもある第二東京弁護士会法教育の普及・推進に関する委員会委員長の額田みさ子先生に協力をしてもらいました。

【授業内容】
司会の団体挨拶、自己紹介
 私たちCLS法育教室は、「話す・聞く・考える」ことの大切さを、授業を通して学んでもらうことを目的として活動しています。
 「話す・聞く・考える」とは、単なる答えの暗記ではなく、いろんな考えを持つ人同士、自分の意見を伝えつつ相手の意見に耳を傾け、話し合いによってバランスのよい答えを導き出すその過程のことをいいます。

各グループごとの自己紹介とアイスブレイク
 これから一緒に議論する前に、グループ内の院生と生徒たちが打ち解けるために、5分程度自己紹介とアイスブレイクの時間を設けました。進路の質問や、今、中学生に流行しているものについてなど、どのグループも様々な話題で盛り上がっていました。

まずは簡単な事例で
事例1
 院生と生徒たちが仲良くなったところで、スライドを表示しました。スライドには、2人の男性が映っています。1人はちょっと乱暴そうな男性、もう1人は優しそうな雰囲気の男性です。
司会:「1人はランボー君といいます。乱暴そうですね。もう1人はカズ君といいます。優しそうですね。」
スライドがかわると、カズ君がランボー君を殴っている写真がでました。
司会:「まず最初に、カズ君がランボー君を殴り、ケガをさせてしまった事例です。この場合、カズ君は罰せられた方がいいと思う人!」ほぼ全員の生徒が挙手しました。
ここで、司会が全体に対し傷害罪について説明をしました。

刑法第204条(傷害罪)
人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金若しくは科料に処する。

事例2
 続いて、次のスライドでは、まずランボー君がカズ君に殴りかかり、それに対して怖くなったカズ君がランボー君を殴っている写真がでました。
司会:「今度は、ランボー君がカズ君に殴りかかってきたから、カズ君はランボー君を殴り、ケガをさせてしまったという事例です。この場合でも、カズ君はさっきと同じように罰せられるのでしょうか?」
各グループごとに議論をしてもらい、何人かの生徒に意見を聞きました。罰せられないという生徒が多数でした。

事例3
 次のスライドでは、同じくランボー君がカズ君に殴りかかったのに対して、カズ君は今度は殴るのではなく、そばで落ちていたナイフでランボー君を刺す写真がでました。
司会:「先ほどは素手で殴った事例でしたが、今回はナイフで刺すという事例です。この場合はカズ君は罰せられるのでしょうか?」
各グループごとに議論をしてもらい、何人かの生徒に意見を全体に発表してもらいました。
生徒1:「やりすぎのような気がしますので、カズ君は罰せられると思います。」
生徒2:「私は、ランボー君は強そうだし、カズ君が小さいナイフくらい使うのもしょうがない気がしました。」
 今回は、カズ君が罰せられるという生徒と、罰せられないという生徒が分かれました。グループ内の院生がリードしてはいるものの、生徒たちからは鋭い意見が飛び交いました。
 ここで、司会が全体に対し正当防衛について説明をしました。

刑法第36条1項
急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。

 同じ反撃であっても、正当防衛の要件である「やむを得ずにした」にあてはまるかは、素手か武器か、自分と相手の体格など、具体的な状況を抽出して考える必要があることを説明しました。

休憩 5分程度
前半の復習
休憩のあとは、まずは前半の復習をしました。
より複雑な事例へ
 今度の事例では、いろいろな具体的状況に照らして、「やむを得ずにした」にあてはまるか考えてもらうために、スライドだけではなく、映像を上映しました。出演者の院生の迫真の演技に生徒たちは大興奮でした。
映像での登場人物は、ランボー君、カズ君に加え、マリアさんという女性が加わり、3人による愛憎劇が繰り広げられました。 以下、内容を簡単に説明をします。
 カズ君とマリアさんは交際3ヶ月で、今日もデートをしていました。その道中、3ヶ月前までマリアさんと交際していたランボー君が2人に因縁をつけてきました。2人は車に乗って逃げようとしますが、ランボー君は走行中の車にしがみつき、少し開いた運転手側の車窓から運転中のカズ君の顔面めがけてナイフを向けてきました。カズ君は車のスピードを上げ、左ハンドルをきることでしがみついていたランボー君を振り落としました。振り落とされたランボー君はケガをしてしまいました。

司会:「この事例では、カズ君に正当防衛は成立するでしょうか。前半の授業でやったように、「やむを得ずにした」といえるかどうか、つまり相手の攻撃から身を守るために仕方なくした必要最小限の行為であったかどうか、各グループごとに議論してみましょう。」
 まず最初に、各グループで生徒たちに、映像の中から正当防衛の成立に影響を与えそうな具体的な事情を挙げていってもらいました。

生徒3:「顔面にナイフは相当危ないのでやむを得ないといえると思う。」
生徒4:「でも、カズ君は車の中にいたのだし、事例2や事例3よりも安全だったんじゃないかな。車の速度もかなり出していたし、カズ君のした反撃は相当危ないと思う。」
生徒5:「ランボー君が振り落とされた地面はコンクリートだったのかな。もしそうならカズ君はそのことを知っていてやったのかな。だとしたら、カズ君も悪いし、過剰防衛が成立すると思う。」
生徒6:「先に仕掛けたのはランボー君だし、ランボー君の方が悪い。」
生徒7:「マリアが一番悪い。」

 映像について生徒達から疑問が出てきたら、映像を補完するレジュメを院生が配布します。
 レジュメには、事例の出来事が起こった日の人通り、地面の状況、車の走行速度、車高、ランボー君のケガの重さなど考慮すべき事情や考慮すべきでないダミーの事情を織り交ぜ詳しい状況が書かれています。
 議論が煮詰まってきたら、グループ内の院生が「こんな事情があった場合は結論はどうなりますか?」と手助けをしつつも、どのグループも意見の分かれた生徒たちの間で白熱した議論が展開されていました。

発表
 30分ほど各グループで議論をしてもらい、その後で各グループの結論とそのように考えた理由を全体で発表してもらいました。どのグループも結論は分かれており、中にはグループ内でもどちらかの結論にまとまらず半々だったというグループもありました。

生徒8:「私たちのグループでは、近くに交番があったんだし、カズ君は助けを求めることができたこと、一緒に乗っていたマリアさんが警察を呼ぶとかできたこと、スピードをあげてランボー君を振り落とす前に車の窓を閉めることができたこと、など振り落とす以外にできたことがあったのだから、カズ君の行為はやりすぎで、「やむを得ずにした」とはいえないと思いました。なので、私たちは正当防衛は成立しないと思いました。」
生徒9:「ナイフを顔の前で振り回されたら怖くて、他の手段を採れなかったと思うし、ランボー君は力が強く、速度を緩めたらまた攻撃してくる可能性があるから、振り落とす以外方法がないと思います。よって、僕たちのグループは、正当防衛は成立すると考えます。」
生徒10:「前のグループが発表してたように、カズ君にもランボー君にも何かしら落ち度があって、私たちのグループはそのどちらかを重視するかで、最後まで意見が分かれました。」

講評
 みなさんお疲れ様でした。これが実際の事件であれば、裁判官が判断をします。それでは、裁判官が判断した場合、どうなるか? 実は、プロの裁判官が判断した場合でも、その結論が分かれることが多いのです。みなさんに議論してもらったときも、同じ事件でも結論が分かれましたし、自分と反対の立場からいろいろな意見が出ましたよね。いろいろな意見に触れて、みんなが納得するバランスのよい答えを出すにはどうすればいいのか? どう理由をつければみんなが納得するだろう? そのような判断をする知識と技術を求められるのは、なにも法学部や法科大学院だけではありません。また、みなさんは将来、裁判員に選ばれる可能性があります。そのときに、誰かの人生を背負う重大な判断を誤らないためにも、このような知識と技術が大いに役立つと思います。今回の授業がそれを身につけるスタートラインになることができれば、私たちとしてもこんなにうれしいことはありません。
 長い時間、ありがとうございました!

生徒たちのアンケート
 授業後に、アンケートに協力していただきました。
「法律難しい!」という感想もあった中で、大変ありがたいことに「楽しかった。」という感想が多かったです。
具体的には、「動画とか本物のドラマみたいでした!」「普段の公民の授業ではほとんど先生がしゃべるだけで生徒たちが話すというのはなかったので新鮮でした。」「24歳くらいの人と話す機会というのはなかなかないので楽しかった。」と様々な点で好感触をいただきました。
 感想にもあるように、生徒たちで議論させるというのも目的の重要な部分ですが、普段あまり接する機会のない20代の人と話す機会を設けるというのもまた、法教育の魅力の1つでもあると思いました。

授業を終えての感想
 院生にとって、普段法律を学んでいる教授や同じ院生と会話してばかりである中、今まで法律を学んだことのない中学生たちの議論に触れることは、新しい視点からの疑問をぶつけられたりと、学びを深める良い機会となりました。また、実務に出てからは、依頼人や裁判員など、法律知識のない人に説明をする機会があることを考えると、いかに専門用語を出さずにわかりやすく説明するか試行錯誤した授業の題材作りや台本作りは、貴重な体験となりました。
 最初は意見を言うのを躊躇していた生徒も中にはいましたが、院生がヒントを示したり、他の生徒たちと意見を交わすうちに、徐々に意見を言うようになったことが印象的でした。一方で、反対の意見にすぐ流されてしまうという場面もありました。私たちの活動理念である「話す・聞く・考える」とは、自分とは違う意見をもつ相手の意見に耳を傾けることも大事としますが、それは決して相手の意見に流されることではなく、自分の意見も相手の意見もよくよく吟味した上で、最善の結論を出すことを目標としています。今回の授業が、生徒たちにとって、その実践の第一歩になれば、幸いです。

当日生徒スケジュール
 8:50       集合
 9:00~9:10  開講式
 9:10~10:00 稲葉現新潟地検検事正による講義*1
10:00~10:10 休憩
10:10~11:10 CLS法育教室による授業
11:10~11:20 休憩
11:20~12:20 CLS法育教室による授業
12:20~12:30 模擬法廷にて閉講式*2

 *1:特任教授の検事の先生には、刑事裁判がどのようなものか、授業に入るとっかかりとして、生徒たちにわかりやすく教えていただきました。授業後にとったアンケートにも、「検事の先生のお話と、授業の内容につながりがあってよかった」との声もいただきました。
 *2:中央大学法科大学院には、実際の裁判所を再現した模擬法廷があります。そこに生徒たちを案内し、閉講式と記念撮影をしました。

【中央大学附属中学校プロフィール】
沿革
平成21年 中央大学附属中学校設立認可
平成22年 中央大学附属中学校開校

交通アクセス
【JR中央線】
「武蔵小金井駅」(北口)6番バス停から京王バス「中大循環」にて約6分「中大附属高校」下車
【西武新宿線】
「小平駅」(南口)から銀河鉄道バス「小平国分寺線」にて約12分「中央大学附属中学・高等学校」下車
「花小金井駅」から西武バス「武蔵小金井駅」行きにて「小金井橋」下車20m先右折(看板有)徒歩約13分

生徒数(2014年5月1日現在)
学年 1年 2年 3年
男子 78 84 89 251
女子 92 97 91 280
合計 170 181 180 531
クラス数 5 6 6 17

【CLS法育教室活動実績】
2014年度
2014年9月    中央大学附属中学校にて法教育実施
2015年3月    少年院2カ所において法教育実施
主に授業のない長期休暇中に法教育を実施します。
それ以外の期間は、法教育実施先を探したり、教材の作成を行います。
過去には、中学校だけでなく、高校でも法教育を実施したことがあります。

【CLS法育教室プロフィール】
2012年設立
現メンバー数 18人

【法教育実施先の募集】
CLS法育教室は、法教育を実施できる中学校・高校を募集しています。
(生徒の数、メンバーの数、他の法教育実施との日程調整によってはお断りすることもあります。)
お問合せ希望の方は、法教育フォーラム事務局へご連絡ください。CLS法育教室にお取り次ぎいたします。
中央大学法科大学院への直接の問い合わせはお控えください。

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