2017年度第一東京弁護士会夏休み子ども法律学校

 2017年8月22日(火)13:00~17:00、第一東京弁護士会のジュニアロースクールが開催され、大きな会議室一杯の児童たちが弁護士の先生方と一緒に、楽しく「法」や「裁判」について学びました。この模様について、以下のとおりお伝えします。(当日の配布資料より適宜引用させていただきます。)

〈概要〉
主 催:第一東京弁護士会 法教育委員会
日 時:2017年8月22日(火)13:00~17:00
場 所:弁護士会館3階会議室
対 象:小学5・6年生

〈進行〉
13:00 開 会
13:10 【テーマ1】「公園のルール作り」に関する話し合い
13:55 【テーマ2】 強盗致傷罪における裁判の体験
     -刑事模擬裁判の実演
     -裁判官・検察官・弁護人に分かれ、グループでの話し合い
     -各グループの発表
16:30 講 評
17:00 閉会挨拶および修了証書授与

〈実施方法〉
1.会場の設定
 参加者は、名札代わりに名前のシールを胸に貼り、児童4名+弁護士2名を1グループとして、18のグループに分かれて着席しました。保護者席を近くに設け、ディスカッションの様子を保護者の方が見学できるようにしていました。

2.進行方法
【テーマ1】公園のルール作り(民事系プログラム)
 進行役が参加者全体に質問を投げかけ、「賛成」「反対」の立場のそれぞれの児童に理由を聞き、様々な考え方や意見が存在することを知った後、「公園の新しいルール」について考えました。
【テーマ2】強盗致傷罪における裁判の体験(刑事系プログラム)
 弁護士の先生方が強盗致傷事件の裁判を熱演しました。児童たちは、事件のあらましを理解した後、グループ毎に「検察官」「弁護人」「裁判官」に分かれて話し合いを進め、結果を模擬法廷で「論告・求刑」「最終弁論」「判決」として、発表しました。

3.話し合いのルール
参加した児童に、進行役から「話し合いルール」が伝えられました。
・自分で考えて、思ったことは積極的に元気よく発言する
・できるだけ全員が発言する
・相手の意見は最後まで聞く
・相手の意見と違っていても、相手の悪口を言わない
・相手の意見と違うときは、自分がどうしてそう思うのか理由を言う

【テーマ1】公園のルール作り(民事系プログラム)
(敷地20m×30m。砂場、すべり台、ブランコ、ベンチなどがある公園の見取図を配布)

進行役:「プリントを見てください。皆さんとこの公園のルールを考えてみようと思います。この公園で、次のことをやるのはいいかな? ダメかな?」
質問1:「夜に花火をやる」
 児童1:「ふざけなければケガをしないからOK」
 児童2:「みんなで使うところだけど、片づければ迷惑にならないからOK」
 児童3:「音の大きな花火だけ禁止すればOK」
質問2:「野球の練習」
 児童1:「他の人がいない時間ならば迷惑にならないからOK。夜中とか早朝など」
 児童2:「キャッチボールくらいならばOK」
 児童3:「当たっても痛くない柔らかいボールならOK」
質問3:「自転車の練習」
 児童1:「スペースがあり、邪魔にならないのでOK」
 児童2:「練習中は、フラフラしてぶつかることがあるのでNG」
 児童3:「小さい子が飛び出したとき、避けられなくて危ないからNG」
質問4:「歌や楽器の練習」
 児童1:「昼間でもうるさいし、寝ている人がいるかもしれないからNG」
 児童2:「周りにマンションとか住宅がなければOK」
質問5:「ペットの散歩」
 児童1:「飼い主によっては、フンをそのままにするからNG」
 児童2:「アレルギーの人が遊べなくなるからNG」
 児童3:「他に散歩させる場所がないからOK」

進行役:「同じことでも迷惑と思う人、思わない人がいるということがわかりましたね。では、みんなが仲良く遊ぶために、公園の新しいルールを考えましょう。」
(グループで相談し発表)
グループ1:「危険な遊具には年齢規制をかける」
グループ2:「騒音や他人にケガをさせることはダメ、と書いておく」
グループ3:「午後は利用者が多くなるので、歌や楽器は午前にするとか時間制にする」
グループ4:「小さい子が遊んでいるときは、球技をしてはダメ」
グループ5:「遊び道具(球技や自転車、楽器等)の持込みを禁止する」

進行役:「ルールとは、みんなが仲良く遊ぶためのものです。みんなにとっていいルールを作るのは難しいですね。細かく禁止ばかりすると楽しくなくなってしまうし、逆に『迷惑かけない』では曖昧で、読み手によって迷惑かどうか考えが違ってしまうことがあります。」
進行役:「ここから先は、家で考えみてください。」
 ・ルールに違反した人に罰金を科すとしたら、ルールはどう書いたらいいでしょう?
 ・ルールをまったく無くして、自己責任で遊ぶ公園にしたらどうなるでしょう?

【テーマ2】強盗致傷罪における裁判の体験(刑事系プログラム)
(法廷を模した会場で、裁判官・検察官・弁護人・被告人・証人、それぞれに扮した弁護士の先生方が裁判の様子を演じました。裁判中の細かいやり取りは割愛させていただきます。)

〈〈模擬裁判〉〉 よねさんひったくり事件

1.事件のあらすじ
 平成29年6月30日午後8時頃。東京都小川区辻1丁目付近の路上で、歩いていた女性(杉浦よね78歳)が、突然何者かに後ろから突き飛ばされ、現金5万5000円入りの封筒が入った巾着袋を奪われた。女性は、突き飛ばされた際に転倒して2週間のケガを負った。まもなく、犯人に特徴が似ている青年(黒川広)が逮捕されたが、犯行を否認している。

2.検察側の主張
 被害者は、被害当日、家賃の支払いをしていないことを思い出し、ホッチキスで封をした封筒に一万円札4枚、五千円札3枚を入れ、巾着袋に入れて家を出た際に被害にあった。突き飛ばされた時、顔を見ていないが、走り去る犯人が白っぽい長袖Tシャツを着た若い男性であることを見ている。事件当日、現場から2kmほど離れたところで、白の長袖Tシャツを着た被告人がポケットに財布と一万円札4枚、五千円札3枚を裸で持っていたため逮捕した。持っていた一万円札1枚にはホッチキスの針の跡があり、封筒の針の跡と一致している。また、巾着と封筒は、現場と逮捕場所のほぼ中間辺りで発見された。被告人は無職で、普段、両親から小遣いをもらって遊んでいる。

3.被告人(弁護側)の主張
 事件当日、被告人は、仕事を紹介してくれるという友人宅を探していたが見つからず、付近をブラついていたところ職務質問され、所持していたお札の種類が盗まれたものと同じであることから逮捕された。過去に友人宅を訪れたことがあるが、連絡先を知らないため事前連絡はしていなかった。捨てられた封筒や巾着から指紋は出ていない。

4.証人の証言(よねさんの息子、栄一さん)
 家賃のお金は、いつも自分が準備している。以前、中身だけ落としたことがあるので、封筒に入れてホッチキスで封をするようになった。今回は、へそくりと自分の財布からお金を用意したため五千円札が3枚となった。母(被害者)は事件後、歩くのが不自由になり、ショックから口数も減ってしまった。お札の組合せは毎回違っていて、過去の組み合わせは覚えていない。

5.反対尋問の様子
検察官:「事件当日訪ねた友達の名前は?」
被告人:「ヒデ。ゲームセンターでの友達は、フルネームを知らなくても仲が良い。」
検察官:「6時間も何をしていた?」
被告人:「ヒデの家を2時間探し、その後は、公園で寝たり本屋で立ち読みしていた。」
検察官:「なぜ、お金(5万5千円)を持っていたのか?」
被告人:「ユウキに貸していた7万円が返ってきた。場所はパチンコ店だったと思う。フルネームは知らないが、ユウキは親友の友達だから信用してお金を貸した。親友の名前は、迷惑かけたくないから言わない。」
検察官:「働いていないのにどうして貸すお金を持っていたのか?」
被告人:「親からお小遣いを貰っているし、貯金もある。」
検察官:「なぜ、お札にホッチキス跡がついていたのか? 封筒のホッチキスではないのか?」
被告人:「ホッチキスの跡には気がつかなかった。どうしてついたのかわからない」

 

(ここからは2会場に分かれ、それぞれの会場で進行しました。グループ毎に「検察官」「弁護人」「裁判官」となって話し合い、主張の根拠をまとめました。)

〈グループディスカッション中の児童たちの意見〉
児童1:「態度が悪いから、犯人に違いない」
児童2:「名前のわからない友達から仕事を紹介してもらうなんておかしい」
児童3:「お札の種類が同じものを持っていたから、犯人だと思う」
児童4:「有利な証言をしてくれると思われる親友の名前を明かさないのはおかしい。」
児童5:「よねさんがかわいそう」
児童6:「暗い時間だから、犯人が本当に白いTシャツ姿だったかわからない」
児童7:「犯人ならば、直ぐに遠くに逃げるはずだし、警察にも素直にお札を見せたりしないのではないか」
児童8:「封筒を捨てたら、お札は普通、財布に入れる。盗んだお札だけを別に持っているのはおかしい(から犯人ではない)」

〈検察側の論告求刑〉
(被害者の心の傷を重大な被害と評価し、重い刑が求刑される傾向にありました。グループ内に反対の意見をもつ児童がいた場合、より一層、議論が深まったようです。

・有罪の根拠
 ・お札の種類、封筒のホッチキスの跡(穴)が一致している点
 ・被害者の目撃証言と被告人の服装が一致している点
 ・逮捕された時間・場所が事件現場の近くである点
 ・被害者の巾着が、現場と逮捕場所の中間に捨てられていた点
 ・被告人の証言は信用できない(仕事紹介してもらう友人の名前、連絡先を知らない。訪問先が見つからなかった後の滞在時間が長すぎる。親友の名前を言わない等)
 ・封筒や巾着から指紋は出ていないが、手袋をしていた可能性があり、犯人であることは否定できない
・情状
 ・お金が無いという理由で犯行に及んでいる
 ・よねさんの心身のダメージは大きい
 ・被告人は、反省していない
・求刑
  懲役7年(2グループ)・懲役10年(1グループ)

〈弁護人の最終弁論〉
(当初は、被告人の態度が悪いことで、その印象から有罪と考える児童が多かったようです。しかし、有罪と考えた理由の反対仮説を検証しながら、被告人の心理を想像するなど深く考えを巡らせることで、無罪かもしれないという意見に変わっていきました。)

・無罪の根拠
 ・ホッチキスの穴は、一般的に同じ形状であるから、同じお札であることの証明にならない
 ・ホッチキスの穴が、一万円札の1枚だけにしか開いてないのは不自然
 ・被害者は急に思い立って外出しており、犯行は突発的で、手袋などの準備はできなかった。被告人の犯行ならば、巾着や封筒には指紋が出るはずである
 ・犯行時間は暗く、犯人の特徴はよくは見えなかったはず。このため、犯人の服は白Tシャツとは限らず、白っぽいシャツまで含めると、他にも容疑者はいたはずである
 ・家賃のお札の組合せは毎回違っていて、証人は過去の組合せを覚えていない。お札の組合せの証言は信用できない
 ・親友の名前を言わないのは、親友のためを思ってのことであり不自然ではない
 ・親から就職を急かされていたため、すぐに帰宅したくなかった気持ちは理解できる。長時間ブラブラしていたのは、不自然ではない
 ・現場近くを歩いていた(タクシー等で遠くに逃げようとしていない)、お札をそのまま裸で持っていた(奪ったお札を直ぐに自分のお財布に入れていない)、抵抗したり逃げたりせず、取り調べに素直に応じている、このような点から犯人ではない

〈裁判官の判決〉

(有罪としたグループ、無罪としたグループとがありました。無罪としたグループ内では、有罪の意見、無罪の意見があり「疑わしきは無罪」としたとのことでした。)

・有罪 懲役7年
 ・お札の種類、封筒のホッチキスの穴が一致している点
 ・事件当日、現場近くにいた理由として、フルネームや連絡先を知らない友達の家を訪ねることは不自然であり、証言を信用できない
 ・お金を所持していたことについても、友人に貸した7万円のうち、5万5千円だけを別に持っていたことは不自然であり、お金を貸した友人のフルネームを知らない、友人を紹介してくれた親友の名前を言えないのは、証言として信用できない
 ・封筒や巾着から指紋は出ていないが、手袋をするなどして犯行に及ぶことは可能
 ・老人を後ろから突き飛ばす行為は悪質であり、被害者はケガをして外出もままならない
 ・被告人は、裁判中の態度が悪く、まったく反省していない。犯行には同情の余地がない
 
・無罪
 ・被告人は、被害者がお金持っていることを知らなかったので、犯行は計画的ではない。また被告人の所持品に手袋等は無く、封筒や巾着から指紋が出ていないのは不自然
 ・7枚のお札のうち、ホッチキスの穴があったのは1枚だけなのは不自然
 ・被告人は、現場近くで素直に職務質問に応じている。犯人であるならば不自然

〈検察官に対する講評〉
 実際の刑事事件では、もっと詳しく捜査しますが、今回の模擬裁判では、限定した情報からよく検討できていました。
 ホッチキスの穴とお札の種類から「お札の同一性」、現場と逮捕場所から「時間と場所の関係」を、どの班も指摘できていました。また、なぜお金を持っていたのか、なぜ現場付近に長時間留まっていたのか、住所を知らない家を訪ねる、フルネームを知らない相手にお金を貸す等、被告人の弁解が不自然である点についても、指摘できていました。
 求刑については、実際の強盗致傷事件では、凶器で重傷を負わせるような重大犯罪も発生していることを考えれば、今回の犯罪は強盗致傷事件としてはそれほど悪質ではないとも考えられますが、被害者の心の傷までも考慮した皆さんの健全な正義感から、少し重くなったという印象でした。

〈弁護人に関する講評〉
 今回の事件の真相はグレーで難しいものでした。はじめは有罪と考えていた児童にも、弁護人として「無罪」を主張するために「有罪と考える理由を潰していこう」と話しました。すると、逮捕された場所が犯行現場から近いという検察に有利な事実を、逆に「犯人ならば遠くに逃げたいはず」と考えたり「犯人ならば奪ったお札は早く財布に入れて隠すはず、職務質問の際に裸のお札を素直に出しているのは不自然」と、柔軟な発想で意見が出てきて、最終的には全員の意見が「無罪」に変わりました。
 自分の考えとは違う逆の立場で考え直すと、それまでとまったく違う景色が見えてくるという体験ができたのではないでしょうか。

〈裁判官の講評〉
 裁判官は、それぞれの意見を聞き中立に判断することが大事です。皆さん、決めつけないで、有罪か無罪か悩む姿があったのはとても良かったと思います。
 有罪判決に関しては、証拠や事実を聞いて、どれくらいの強さで犯人を疑わせる内容なのか、滅多にないことか? よくあることか? を議論し、無罪かもしれない事実(指紋が出ていないこと)にも目を向けた上で、有罪になるかどうかを判断できていました。
 また、無罪判決に関しても、有罪と確信ができない場合に無罪とする裁判所の考え方(「疑わしきは被告人の利益に」)を体感できていました。

〈閉会挨拶〉           
東京第一弁護士会 法教育委員会 吉田委員(前委員長)
 法律やルールは、誰もが快適に過ごすために必要なものです。今回、公園のルールを考えることで、いろいろな立場や意見をもった人がいること、立場の違う人がそれぞれに快適に過ごすためのルールを作ることの難しさを感じたのではないでしょうか。
 ルールは、一人では決めず、いろいろな角度から考え議論して決める。そして、トラブルが起きたときには、相手の立場で考え、お互いに議論して結論を出すことが大事なのです。

〈取材を終えて〉
 最初は、児童たちは与えられた役割に関わらず、模擬裁判での印象から「有罪」「無罪」を考えていました。しかし、裁判官の立場、検察官の立場、弁護人の立場で、もう一度考え直すよう、弁護士の先生方がファシリテートしていくと「封筒を捨てたら、普通はすぐに財布に入れるはず」「久しぶりの外出ならば、立ち読みしたくなるかも」等々、深い洞察と想像力ある意見が次々に出てきました。
 先生方の素晴らしいファシリテーションによって、児童たちは論理的な思考を展開し、役割を演じることで「裁判官」「検察官」「弁護人」としての理解を深めたのではないか思いました。

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