平成23年度 「法」に関する教育を推進するための公開授業 その1

 2011年10月28日(金)13:15~16:45、東京都教育庁指導部による「法」に関する教育を推進するための公開授業および研究協議会が、東京都立田柄高等学校において開催されました。
 東京都教育委員会が作成した『「法」に関する教育カリキュラム』所収の高等学校の授業例にもとづく3年生の政治・経済の授業、協議会、大杉昭英教授(岐阜大学教育学部)による「授業実践の効果的な進め方」についての講演が行われました。
 まず、レポートその1では授業の模様をお伝えします。
(東京都教育委員会『「法」に関する教育カリキュラム』および当日のプリントより適宜引用させていただきます。)

東京都立田柄高等学校のプロフィール

 1980(昭和55)年創立。2008(平成20)年、コース制改編により各学年普通科3学級、外国文化コース2学級となりました。光が丘団地の一角にあり、区立小・中学校、公園などと共に立地します。駅から団地へ続く歩行者専用の銀杏並木は区民の憩いの場となっています。都営地下鉄大江戸線光が丘駅より徒歩約12分。(4月14日現在 同校ホームページより) 

生徒数        

学年 男子 女子
1年 75 128 203
2年 59 118 177
3年 63 102 165
合計 197 348 545

 

1 公開授業(13:15~14:05)

ク  ラ  ス :3年1組の政治経済選択者28名
場    所 :社会科教室
教    科 :公民科(政治・経済)
単    元 :「国民の司法参加と裁判員制度」(全3時間の第3時間目)
本時の目標 :国民の司法参加をめぐる課題について考察する。
裁判員制度の意義と課題を踏まえた国民の司法参加の在り方について考察を深める。
授 業 者 :都立田柄高等学校 佐藤康史 教諭

 

〈前時までの内容〉

 1時間目では、刑事手続きの流れと刑事裁判の基本原則、裁判員制度の基本的な仕組みについて学習しました。裁判員制度のリーフレットを基にワークシートに整理し、裁判員制度に対する各自の受止めをまとめました。裁判員裁判に参加することについて、「積極的に参加したい」という生徒は全体の約2割、「あまり参加したくない」という生徒が約8割でした。
2時間目は最高裁判所制作の裁判員裁判の映画(DVD)を視聴し、自分が裁判員になったつもりで、被告人の有罪・無罪とその判断の根拠をワークシートに記入しました。裁判員として興味をもった点、大変だと思った点などについても各自記入しました。実際の裁判員裁判経験者の意識の変化も取り上げ、裁判員制度の意義や課題を考察しました。

〈本時の内容〉

(1)1・2時間目にワークシートに記入した生徒の声をプリントで紹介し、実際にその文章を書いた人に話を聞いていきました。

①「裁判員裁判に参加することについて」(1時間目のワークシートに基づく)
【積極的に参加したい】
生徒1:「テレビのニュースを見て、ひどい事件なのに刑が軽すぎると思うことが多くある。選ばれたら参加して、少しでも被害者の方の苦しみを分かってあげたい。」
先生:「こういう国民の良識、意見を司法に取り入れたいというのが裁判員制度ですね。」
生徒2:「昔は一部の頭のいい人(裁判官)しかできなかったことに、今は一般の人も参加できることになったので、与えられた機会を有効に使いたい。」
先生:「それは知識(追求)型といえるかな。」 
生徒3:「自分自身が人を裁くときにどういう心情になるのか知りたいので、興味がある。実際の裁判の流れを見てみたい。」
先生:「心理系ですね。」
生徒4:「人を有罪にするのは心苦しく、無罪にするのは被害者に申し訳ない。判決を下すのは怖くてつらいかもしれないが、誰が選ばれても同じことだと思うから引き受けたい。」
先生:「誰かがやらねばならないという義務感がありますね。」

【あまり参加したくない】
生徒5:「選ばれたら参加するし、責任をもってしっかり判決を下したい。やはり人のこれからの人生を左右するのはとても怖いし、重いことだと思うので、何も知らない人に判決を下されるのは自分も嫌だ。だからしっかり政治を学びたいと思った。自分が裁かれるとしたら、何も知らない人に感情で裁かれるのは嫌だと思うからだ。」
先生:「これも知識(重視)型というところでしょう。」
生徒6:「仮に刑事裁判に参加したら、どんなに自分の身の安全を保障してくれても、判決を下した私に被告が復讐しに来そうなので、参加したくない。復讐しに来なかったとしても、その後私は不安に思い続けなければならない。」
先生:「お前のせいでと言われそうということ?法律でそれには罰則があるし、裁判員のプライバシーは守られるから大丈夫です。でもわからないから、ということですね。心配型ですね。」
生徒7:「よくわからないから。」
先生:「何がわかりませんか?」
生徒7:「全体的によくわからないです。」
先生:「だから嫌だと。映画の中の人たちはよくわかっていましたか?そうでもないですね。自分たちの意識でやっていましたね。」

②「裁判員になったときにどういうことに興味をもち、大変だと思うかについて」(2時間目のワークシートに基づく)

生徒8:「被告人の気持ちや状況、どうしてそうなったのかを詳しく知りたい。(大変なのは)いろいろな意見を聞いて、気持ちが変わってしまいそうなこと。被告人や証人が嘘を言ったりするかもしれないし。評議の時、他の人の意見に流されてしっかりと自分の意見が言えなそう。」
生徒9:「小さい子がいたり、介護をしている人は時間をとったりするのが大変そうだと思いました。」
先生:「託児もできるし、理由があれば辞退することもできます。」
生徒10:「仕事などの間で数日かけて行われるのですべてに出席するのは大変だと感じました。人に言えないなど守秘義務の関係でストレスがたまるかもしれないと思った。」

(2)次に、ワークシートへ記入する3つの作業を通して、国民の司法参加の在り方について考察しました。

【作業1 皆さんのさまざまな言葉から、裁判員裁判に参加するにあたって、私たちはさまざまな心配を抱えていることがわかります。では、どうすれば、私たちをはじめとする国民の司法への参加が充実したものになるだろうか。あなたのアイデアを出してみよう!】
(生徒が発表をためらっていたので、先生が生徒の書いたものを読み上げました。)
生徒11の記入:「法律がわからない人はたくさんいると思うので、少しでもわかるよう本を配ったらいいと思う。」
生徒12の記入:「実際に被告人に顔を見られないよう、変装していけばいい。」

【作業2 これまでの裁判員裁判の授業を通して、私たちが将来、司法(裁判)に参加する際には、どのような視点や心構えが必要か、考えてみよう。】
生徒13の記入:「被告人と検察官、両方の視点で見ることが必要。両方の視点から考えて、しっかりと判断する。」
生徒14の記入:「法律を皆が少しでも知っておくべきだと思う。」
先生:「そうですね、最低限の法律を知っておくことが大事ですね。」

【作業3 第1回の授業で、『あなたが裁判員に選ばれたら』ということについて考えました。第2回、第3回の授業を踏まえて、改めて、今行われている「裁判員制度」は必要だと思いますか。それとも制度を見直すべきだと思いますか。その理由と合わせて論じてみよう。下から選び、その理由を書いてみよう。
  ―現在の「裁判員制度」は必要だ
  ―現在の「裁判員制度」は見直すべきだ】
生徒15の記入:「考え方や価値観は人によってさまざまである。だから現在の「裁判員制度」は必要だと思う。」
先生:「国民の意見を反映させるために必要ということですね。」
生徒16の記入:「現在の「裁判員制度」は見直すべき。なぜなら、もっと裁判員の家庭の事情を調べてからにすべきだと思うから。」
生徒17の記入:「見直すべきだ。その道のプロに任せればいい。」
先生:「高等裁判所の裁判はプロだけで行われます。皆さん、賛否両論いろいろですね。」

(3)裁判員経験者から寄せられた改善点の提言を説明

先生:「実際に裁判員を経験した人から、こう改善したらいいという提言があります。第1は、もっと裁判をわかりやすくしてほしい。投影やパワーポイント、用語も工夫されていますが、もっとわかりやすい言葉でということ。第2は、映画では2日連続して裁判をしていましたが、裁判員の心身の負担を考え、予備日を設けるなど、連日になるのを避ける。第3は、裁判員経験者の心のケアをする。第4は、裁判員裁判を傍聴する、刑務所見学をするなどの広報活動をしてほしい。第5は、守秘義務をもっと緩和して、裁判員裁判についてもっと議論していいのではないか。第6は、裁判員裁判にふさわしくないもの、たとえば性犯罪などがあるのではないか。
   皆さんは18歳です。もう少ししたら20歳になります。20歳以降、裁判員に選ばれる可能性があります。11月になると、来年度の裁判員候補者通知がみんなの家族や先生にも来るかもしれません。この授業をきっかけに、裁判について意識を高めてほしいと思います。では自由記述を書いて、終わりにします。」

ここまでの取材を終えて

 この授業は、『「法」に関する教育カリキュラム』第3章指導計画例の中の高等学校の例「公民科〔政治・経済〕国民の司法参加と裁判員制度」(p.96~97)に基くものです。全3時間の単元の第3時間目ということで、個人の考えをワークシートに記入したものをクラス全体で共有するとともに、新たに考察をまとめて記入するという作業が主になっていました。法教育というと「グループ討論」を思い浮かべがちですが、自分の考えをしっかり記述することも、主体的に考え表現するという大事な作業だと感じます。その作業に対する生徒の反応はどうだったでしょうか?授業後の協議会で明かされますので、レポートその2をお楽しみに。

ページトップへ